転移した先には……
暑くて溶ける……
視界が一気に切り替わる。
「ここは……!?」
驚いて思わず声をあげそうになる。
転移球を使い転移したら、目の前にはベッドが……
そしてその目の前のベッドには女性がすやすやと寝ていた。
『なんで……なんでタチアナさん自分の部屋に転移柱を設置しているんだ!』
ラグナは動揺してしまい、思わず後ろに下がってしまう……
ガタン
『しまっ!?』
ラグナの背後の壁に立てかけられていた杖に触れてしまい、杖が倒れて音が鳴ってしまった。
「うーん……」
タチアナは物音に気が付くと、目をゆっくりとあける。
『やばい、やばい!?』
動揺して挙動不審になるラグナ。
タチアナはベッドのすぐ側に少年がいることに気が付く。
そして……
「そんな所にいないで、どうぞこちらに。」
自分のベッドをポンポンしながらラグナを呼ぶ。
「さ、流石にそれは……」
動揺しっぱなしのラグナ。
「ここで私が声をあげてもいいのですよ……?」
「ぐっ……」
タチアナさんに叫ばれたらきっと護衛の人がすぐに部屋に突入してくる……
「ほら。遠慮せずに……子供はまだ寝る時間ですよ?」
『拒否権が無い……』
ラグナはしぶしぶベッドへと腰掛ける。
「それで……公爵はどうなりましたか?抹殺ですか?」
タチアナはラグナが素直にベッドへと腰掛けて来たので起き上がると頭を撫でながら、公爵をヤったかと問う。
「ま、抹殺なんてしてませんよ!?」
「では公爵家の王城モドキを破壊ですか?」
「そんな事もしてませんよ!?どうしたんですか、さっきから。」
タチアナさんの目つきが怖い。
「あの公爵のせいで、シーカリオンに向かうたびにかなりお金が掛かるのですよ。信者の皆様より寄付して頂いた貴重なお金を……」
そこからタチアナさんの愚痴が続いていく。
魔導具を仕入れても関税でだいぶ持っていかれるのでどうしても高額になってしまい売れないと商人から陳情が来たり……
珍しい商品を仕入れると公爵に献上せよと言われ、ほぼ強制的に没収されたり……
いろいろ溜まっている様子だった。
「それで……ラグナ様はどの様に?」
「最初はあの王城モドキの爆破も検討したんですけどね……そんな事をすると街に住む住民のみんなが更に苦しくなるってのがわかったので……」
「そうですね……確かにあの街の税は他の街に比べると、とてつもなく高額ですからね……シーカリオンとの取引があるからなんとかやっていけるだけですし。」
「なので城の壁と外の通路をちょっとだけ燃やして焦がしたくらいで我慢しました。」
「では宝石は?」
「無事に取り返す事が出来ました。教えていただいて本当に助かりました。ありがとうございます。」
「ラグナ様のお力になれたようで良かったです。それで……他には?」
「他にはとは?」
「まさか本当に宝石を取り返して終わったのですか?」
思っていた以上にタチアナさんは過激だった。
「一応公爵の執務室にあった机ごと持ってきましたけど。」
「机ごと??」
「机ごとですよ。」
そういうとラグナは収納スキルから机を取り出す。
「えっ……」
「どうしたんですか?そんな……あ……」
ラグナはタチアナの前でも気にすることなく収納スキルを使用してしまった。
結果……
「マリオン様……ラグナ様は勇者様だったのですね……それを使徒として隠してこられたと……」
涙を流しながらぶつぶつと祈り始めるタチアナ。
「勇者じゃないですから!本当に。僕はそういうのじゃ無いので!」
コンコン。
「タチアナ様、どうかなさいましたか?」
室内の騒ぎに気が付いたのか部屋を護衛していた人がノックしてきた。
慌ててラグナは黙るが既に遅かったらしい。
「失礼!」
部屋の扉が勢いよく開かれる。
「タチアナ様!ご無事で……!?」
神殿騎士がタチアナの部屋へと突入すると、思っていた状況とは違う状況が広がっていた。
タチアナ様のベッドに腰掛ける美少年。
そしてその美少年に向けて涙を流しながら拝むタチアナの姿。
神殿騎士は思わず困惑してしまうが……
「あぁ……ラグナ様が転移してこられたのか。」
美少年がラグナだということに納得した神殿騎士は『失礼しました。』と一言いうと何もなかったのように部屋から退出していった。
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