変装という名の……
久々に……たき火の火起こしをしている最中に突然の豪雨に見舞われて絶望したのはこの私です……
焼きマシュマロが……オワタ……
せっかくの1日休みがオワタ……
降水確率0とは一体……
「さぁ遠慮せずに!さぁさぁ!」
俺は今……
馬車の中で変態に襲われている。
まさか彼女にこんな性癖があるなんて!
「さすがにこれは……」
「これも街へ安全に入るために必要な事ですよ!だから恥ずかしがらずに!是非お着替えを!ハァハァハァ……」
タチアナさんの眼が怖い。
瞳孔が開いているように見える。
目の前で広げられている服は女性用の子供服だった。
タチアナさん達の作戦はこうだ。
『ラグナ様を女装させて私の付き人として付き添えば安全に街に入れるはず。』
俺は必死に抵抗した。
付き人なら男でもいいじゃないかと。
タチアナさん曰くそれは困ると。
「私が可愛らしい少年を付き人になんて選んだら変な噂が意図的に広められ、私を引きずり落とそうとしている人間に餌を与えてしまいますので。」
瞳孔が開いたまま、真顔でそう言われてしまった。
「さぁ、ラグナ様。覚悟をお決めになって下さい。」
ぐぬぬ……
安全に街に入るにはこれしか無いのか……
「……わかりました。着替えますので出来れば一旦馬車から降りていただけると……」
「わかりました。では、外でお待ちしてます。」
タチアナさんが馬車から降りたのを確認し、覚悟を決める。
『まさか異世界に来て女装する日が来るとは……』
馬車の中に用意された服と黒髪のウィッグを見つめるラグナ。
そして……
「お待たせしました。」
タチアナ達は女装したラグナの姿を見て衝撃を受ける。
元々女性のような顔つきだから似合うだろうなとは思っていた。
だがここまで似合うとは思わなかった。
目の前に現れたのは絶世の美少女。
少し恥ずかしそうにモジモジしているのが、さらに感情を揺さぶってくる。
「……いい。」
「タ、タチアナさん?」
「ラグナ様……いえ……そうですね……もう見た目は女の子ですから名前を替えなければいけませんね。ラーナちゃん。ラーナちゃんでいきましょう。」
こうしてラグナことラーナは馬車に乗り込み街へと向かうのだった。
『ん?』
てっきり一般の人が入場している列に並ぶと思っていたけど、馬車は違う方向へと向かっているようだ。
「ラーナちゃん、何か?」
「いえ、てっきりあちらの方に並ぶと思っていたのですが……」
「一般の方々には大変申し訳ありませんが、神殿には急に急ぎの移動が必要な場合が多々あるので貴族と同じ入場門が使用できるのですよ。特にうちは商業に関する事が多いので、何よりも速度が必要なのです。」
「あぁ、なるほど。だからですか。」
入り口には身なりがピシッとしている衛兵が2人並んでいた。
『本当に大丈夫なのだろうか……』
神殿騎士が衛兵2人に対して何かを手渡している。
「商業の女神の神殿か。よし、通れ。」
外で神殿騎士と衛兵がやり取りするだけで中を見られたりは特にしなかった。
「あっさり通れましたね……」
「先ほどの衛兵の2人はいろいろとありますので。」
つまりは賄賂を定期的に渡していると……
そんなんでこの街は大丈夫なのかと思ったが、そうだった。
この街を治めているのはヨハム公爵。
普通な訳無いか。
「ん?って事はこの格好は意味が無かったのでは……?」
タチアナさんは真剣な顔で首を振る。
「万が一に備えてです。」
今日のタチアナさんは瞳孔が開きっぱなしで正直怖い。
「このまま我々は商業ギルドの神殿に向かいますがラグナ様は如何しますか?」
「うーん……とりあえず街中をみようと思ってはいます。でも、その前に商業ギルドの神殿でマリオン様と話を出来たらなと思うのですが……」
「その件ですが、残念ながらマリオン様からは当分連絡を取ることが出来ないと伺っております。」
「そうなんですか?出来ればお声を聞きたかったのですが……」
「商業ギルドの方でも特許申請が不可能になっており、マリオン様への申請すら出来なくなっております。」
『出来ればマリオン様と会いたかったし、サリオラの事も聞きたかったんだけど……神界で何かあったのかな……?』
少し不安になるラグナだったが、神界の事については自分ではどうにもならない。
「では僕は街中をぶらりとしてみようと思います。」
「宿などの手配は如何しましょう?こちらの方で手配いたしましょうか?」
「いえ……神殿が手配して下さるのはとても嬉しいのですが、神殿との繋がりがあると思われたらご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんので自分で探そうと思います。」
そうですかと残念がるタチアナさん。
「この街は特段治安が良いと言われない街なので宿を取る際は本当にお気をつけ下さい。」
ラグナの姿のまま街中をぶらつく訳にもいかないので、結局女装したまま街を歩く事になったのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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今日はたき火すら天に見放されて涙が止まりません……