旅の準備と告白と。
こんなにも忙しいのに更にエアコンが3台中2台逝くなんて……
はやく修理に来てくれ!
「それで……わざわざ危険を冒してまでナルタに来たのは、どうしてかな?」
ラグナはブリットからそう質問されると、若干恥ずかしそうに頬をかきながら答える。
「正直に言うと、地図が欲しくて……なんとなくエチゴヤに向かえば手にはいるんじゃないかと。」
ブリットは地図という言葉で、すぐに気が付く。
「地図……地図か……つまり、この国を出るんだね……まぁ、仕方ないか。誰でもあんな扱いされてしまってはね。」
ブリットは深いため息を吐く。
『この国はいったいどうしたと言うのだ。大臣を全て入れ替えたり、守護の女神の神殿の暴挙を許したりと。我々も真剣に考えねばならんな。』
ブリットは急激に動き出した流れに危機感を感じていた。
それも嫌な方向に。
「それで、どの国を目指すのかな?言いたくないなら言わなくてもいいよ。」
「エーミルダかシーカリオンで悩んだのですが……シーカリオンに向かおうと思います。」
「シーカリオンか……ふむ。ちょっと待っててくれ。」
ブリットは部屋の入り口にて警備していたリビオにメモ紙を渡す。
そして再び部屋に戻ると何かを書き始めた。
そして封をするとラグナへと手渡す。
「地図は手配するよ。そしてこの手紙をシーカリオンの王都『マリンルー』にあるエチゴヤの支店の店長に渡して欲しい。向こうでも君の力になりたいんだ。」
ブリットはラグナとの繋がりが切れるのを恐れ、シーカリオンにある支店を頼って欲しいとラグナに願い出た。
「本当に何から何までありがとうございます。ここまでいろいろしていただいているのに、何もお返しする事が出来なくて……」
ブリットは首を振る。
「君の父君には息子の命を救って貰えた。その恩を返しているだけだよ。後は少しの打算だ。君はいずれ大きな事を成し遂げる気がするからね。気にすることはないよ。」
トントン
部屋の扉がノックされる。
「リビオです。入室してもよろしいでしょうか?」
「構わん。」
リビオの両手にはかなり大きな巻物が握られていた。
「わが国とその周囲の国々の地図ですと、簡易的な物でもこの位のサイズが一番小さい物なのですが……」
「うーむ……」
周辺国の国々まで載っている地図となると、ここまでのサイズになってしまうことをブリットは失念していた。
「流石にこのサイズの地図をラグナ君が持って移動するっていうのは、現実的ではないな……我が国からシーカリオンまでの地図だけならばもう少し小さい物に出来るが……」
ラグナはブリットがテーブルに広げていた地図をのぞき込む。
『凄い。この国以外の国と街の大まかな位置が書かれている地図が見れるとは思ってもいなかった!いいなぁ……これが欲しい。』
ブリットはラグナが真剣に地図を見ている事であることに気が付く。
「もしかしてラグナ君は地図がきちんと読めるのかい?」
「へっ?地図ですか?読めますよ?簡単じゃないですか。」
ラグナの返答にブリットは驚いてしまう。
「その歳で地図を読めて重要性を理解してしているなんてね……本当に惜しい人材を我が国は失ったよ。もう少し小さい地図を用意させるからもう少し待って貰えるかい?」
「えっと……頂けるならこの地図が欲しいのですが……」
その返答にブリットとリビオは驚く。
こんなにも大きいサイズの地図をどうやって持ったまま移動すると言うのだろうか。
2人のそんな視線に気が付いたラグナは一つの決心をする。
「大きさについては大丈夫です。えっと、実は僕これが使えるので。」
そう言ってラグナが地図に手をかざすと一瞬にして地図が消えた。
「消えた!?」
リビオは目の前で地図が消えた事に驚いていたが、ブリットは目の前で消えた現象に聞き覚えがあった。
「今のはまさか収納のスキル……」
「はい。ずっと隠していてごめんなさい。」
「では君は初代勇者様と同じ、新たにこの世界に誕生した勇者様なのか……?」
「いえ?勇者ではありませんよ?収納のスキルは初代勇者様と同じですが、その様な神託もありません。マリオン様からはその様な事を言われたことも無いですし……」
「そ、そうなのか?だ、だが勇者様と同じスキルを持っているのならば……」
ブリットはラグナから勇者では無いと否定されて驚く。
初めて会った時から不思議な子供だった。
だが、勇者だったとしたならばその知識も戦闘力も納得がいく。
しかしラグナは勇者では無いと言う。
「でもそうか……初代勇者様は別の世界からこの世界に女神様によって選ばれ転移してきたが、ラグナ君は元々この国で生まれた子供だ。そう考えると勇者様とは違うのか。」
ラグナは一瞬ドキッとするものの、ブリットが勇者では無いと納得してくれたので一安心する。
「ではその地図はラグナ君にプレゼントしよう。あとはあれだな。今日はもう遅い。この宿に泊まっていきなさい。収納スキルの容量に制限などはあるかい?」
「今のところ生きている生き物以外ならば収納出来なかった事はありませんし、時間が止まっているのか暖かい物は暖かいままですが……でも明るくなるとこの街から出るのが……」
「その辺は私に任せたまえ。旅に必要な食料などは明日の朝までに準備させる。この国を離れるならばせめて最後はゆっくり休んでから旅に出た方がいいだろう。ラグナ君はこの宿の風呂が気に入っていると支配人から聞いたが?」
エチゴヤの宿。
つまりはラグナの大好きな露天風呂が存在している。
ブリットからのその提案は断ることが出来なく、ラグナは甘える事にした。
「では……1泊だけお世話になります。本当にいろいろとありがとうございます。」
そうしてラグナはエチゴヤの宿で、ゆっくりとくつろぐ事になった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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