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廃墟一歩手前の我が家。

「フィリスさん……?」


「フィリスでいいと言っているだろう。どうかしたか?」


「どうかしたかじゃないでしょ!これは何さ!」


パスカリーノ男爵家に到着した俺は目の前に広がる光景に絶句していた。


なんということでしょう。


目の前には大量の蔦に絡まれて開かなくなった立派な門が。


蔦を強引に引きちぎり、無理矢理門を開くとなんと目の前には……


雑草が見事に生え揃い、なんとも立派に荒れ果てた庭が広がっているではありませんか。


そして正面に見えるのは二階建ての大きな建物。


まるで家を守護するように蔦が複雑に絡み合い、一見すると幽霊屋敷のような豪華な仕上がりに。


不法侵入者から家を守るべく複雑に玄関扉に絡みあう蔦。


玄関に絡み合う蔦に今まで守ってくれた事に感謝を伝えて切り裂く。


そしていよいよ室内へ。


ギィーっと異音を立てながら開く扉。


しかし、外見とは違い意外にも室内はそこまで荒れていない様子。


照明にはなんとも立派な魔道具があちらこちらに設置されているではありませんか。 


そして、いよいよ部屋の奥へと進んでいきます。


立派なキッキンには何も置かれていなく、椅子やテーブルといった家具が何一つ無いお部屋が広がっています。


そして奥に進むと立派な寝室が。


広い寝室には小さなシングルベッドが1つちょこんと置かれており、なんとも贅沢な部屋の使い方になっております。


うん。


生活していた形跡が全く無い。


「先生、これは?」


「……だって屋敷なんてほとんど使って無かったし。ほら、私はずっと軍と共に行動していたから。」


軍と行動していたからってコレはないでしょう。


「休日は……?」


「酒場が併設されてる近くの宿で……」


「この屋敷は?」


「この屋敷で生活したのは師匠から受け継いでから数日だけ。もともと屋敷にあったものは師匠が結構処分していたから。」


思わず顔をムギュッとしてしまう。


「な、何をする!」


「もう!何をするじゃないでしょ!これからは2人の家になるんですから。とりあえず軽く掃除しなきゃ。それが終わったら必要な家具の買い出しも行かなきゃいけないし。」


2人の家と言われて燃えるように赤くなるフィリスの顔色。


「ふ、2人の家……」


「何照れているんですか……さっき散々人に対して婚約を迫っていた人が。」


「う、うるさい!」


うーん……


照れている先生を放置して冷静に屋敷を見回す。


よく考えると俺も学園で生活するからこの家は使わないんだよな。


「ねぇ、先生。よく考えたんだけどさ。学園を卒業するまでこの屋敷って使うこと無いよね?」


「確かに……使うとしたら長期休暇の時くらいだろう。」


「なら今すぐどうこうしなきゃいけないって訳じゃないよね?」


そうだなと頷く先生。


「なら庭のお手入れとかだけ定期的に業者に頼めばいいのか?」


「だが頼むとしても一応男爵家だぞ?ある程度のランクの業者に頼む必要があるが……宛てはあるのか?」


うーん……


あては無いけどどうにかしてくれそうな商家なら。


屋敷の戸締まりをすると目的地へと向かう。


「いざエチゴヤへ!!」


流石のフィリスもエチゴヤと言う名前を聞いて慌てる。


「た、確かにエチゴヤならどうにかなるだろうが……ミレーヌとは所詮クラスメイトなだけだぞ!?ただそれだけで頼むのは無理だろう!?エチゴヤだぞ!!」


慌てる先生の手を握り貴族街から一般街へ。


一瞬どうやって貴族街から一般街へ出ればいいのか悩んだけど、先生が何かの紋章を見せるとすんなりと出ることが出来た。


「お前に渡すのを忘れてた。はいよ。」


手渡された紋章は激しい爆炎に包まれた背景の中に杖が一本。


「これがパスカリーノ男爵家の紋章だ。絶対に無くすなよ!」


「もしも無くしたら……?」


「もしも無くしただけでも懲罰ものだが……悪用されたら最悪……お家断絶が待っているからな。」


まじかよ。まぁ確かにこれがあればすんなりと貴族街に入れちゃうから仕方ないのか……


怖くなったので収納スキルでこっそりと収納。


『いつか先生にも収納スキルやらなんやらを話しをする日が来るんだろうか……』


一般街を真っ直ぐ突き進むと目的地であるエチゴヤ商店へと到着した。


賑わう店内には入らずに店舗を店の外から警護している人物の元へ。


「おっ、いたいた~!!」


「おっ、おい!!」


ラグナの突拍子な行動にフィリスも慌てる。


『急にこいつは何をしているんだ!?天下のエチゴヤだぞ!!』


子供が手を振りながら近寄ってくることに一瞬警戒するが、知り合いと判るとすぐに剣から手を離す。


「おぅ、ラグナじゃねぇか。久々だな。元気か?」


『えっ……?知り合いなのか?』


砕けた口調で話しを始めた2人に驚きを隠せないフィリス。


「元気だよ!リビオさんも元気そうだね。」


「元気だけど忙しいぞ。何せこの前発表されただろ?魔族やらなんやらが。おかげで警備が厳重になってな。それよりも今日はどうしたんだ?お嬢様じゃなくて違う女の子連れで。デートかぁぁ?」


リビオにデートと言われて恥ずかしくなったフィリスは手をつないでいたラグナの手を離そうとするが、逆にギュッと手を握られてしまった。


『お、おい!!』


キッとラグナを睨むけどラグナはそんな視線も気にせずに手を握り続ける。


「デートでは無いんだけど、ちょっとお願いがあってね。今日は2人ともいるかな?」


「大旦那様は王城に呼ばれてそっちに向かってるな。若旦那なら奥にいるぞ。」


あらま。


ブリットさんも王城に居たのか。


すれ違いかな?


「急で悪いんだけど会えるかな?」


「一応聞いてはみるが……隣にいる子は?」


そっか。


俺だけだと安心だけど先生の事は知らないだろうしね。


うーん、なんて説明しよう。


「わ、私はここで待つよ。」


先生でもエチゴヤだと緊張するんだ。


「うん?大丈夫だと思うよ。リビオさん、この人は俺の大事な女の子ってサイさんに伝えておいて。」


ラグナに大事な女の子と言われ頭が真っ白になるフィリス。


「ラグナもやるねぇ!その歳で女連れとは。大旦那様はご機嫌斜めになるかも知れねぇけどな。んじゃちと聞いてくるわ。」


リビオさんは店内の奥へと向かっていった。


「お、おい。ラグナ、大人をからかうのは良くないぞ!」


ビシッと指を指してくる先生。


「うん?だって大事な人だよ?」


そう言うと真っ赤になったまま固まる。


本当に自分から言う分には平気で攻めてくる癖に。


言われると本当に初なんだから。


それにしても先生と婚約かぁ……


あのままOKしていたらどうなっていたんだろうか?


でもやっぱりよく考えたいし……


貴族になるって重みが俺にはまだ理解出来ないし。


そんな状態で婚約をするのは不義理だと思う。


きちんと先生の人生を受け止める覚悟が出来るまでは待ってもらおう。


『そっか。おれはもう先生と婚約するつもりではあるのか。』


「待たせたな。若旦那がお呼びだぜ。2人とも中へどうぞ。」


ぎこちない先生の手を握りながら奥へ進む。


部屋へと案内されるとそこはサイさんの執務室だった。


サイさんがリビオさんをチラッと見ると部屋から退出していく。


そして部屋には3人だけになった。


「ラグナ君久し振りだね。いろいろあったみたいだけど元気そうで良かったよ。」


うん?


サイさんは知っているのか?


「不思議そうな顔をしてるね?大体の事は把握してるよ。ラグナ・パスカリーノ男爵と元女男爵のフィオナ・パスカリーノさん。いや、今はフィリス・アブリックだっけ?」


その言葉に俺達は驚いて目を見開く。


「さ、流石ですね。サイさんはもう知っていたのですか。」


ニヤリと笑うサイさん。


「まぁね。商家は情報が命だからね。でも実際に目で見ると驚きを隠せないよ。以前、私も彼女の姿を拝見したことはあるんだけどね。ここまで子供の姿に戻っているとは……文章で読むのと実際に目で見るのではやはり違うね。確かに……これは戦争になるな。」


先生に服をクイクイと引っ張られる。


「……この方は?」


ん?サイさん?


「あぁ。失礼したね。私はサイ・エチゴヤ。ミレーヌの兄であり、一応エチゴヤの次期代表かな?」


エチゴヤの次期代表と聞いた先生はビシッと姿勢を正す。


「フィ、フィオナ・パスカリーノです。よろし、アイタ!」


思わずチョップしてしまった。


先生もすぐに何故チョップされたのか気がついたみたい。


「……フィリス・アブリックです。よろしくお願いします。」


「あはは、あの爆炎の特攻魔女と恐れられた貴女もラグナ君の前ではそうなってしまうのですね。」


笑うサイさんのリアクションに再び顔を真っ赤にして照れる先生。


うむ。


可愛い。


「それで?今日はどうしたのかな?さっきまで王城にいたんでしょ?」


そこまで把握してるのか。


「パスカリーノ男爵家を受け継いだのは良いのですが……今お隣にいる方が全く屋敷のお手入れをしていなくてですね。定期的に屋敷のお手入れをしてくれる業者を紹介してもらえないかなぁと……」


先生の頭をポンポンしながらサイさんに聞いてみる。


先生はプルプル震えているが実際に屋敷の手入れを怠ったのは事実だし、エチゴヤの次期代表の前では大人しくするしか無いので我慢している様子。


「屋敷の手入れか。ふむ。うちで受け持とうか?」


「えっ?確かに聞いたのは僕ですけど……良いのですか?」


「うん。構わないよ。うちの下請けにはそういうのを専門に行っている部署もあるから頼んでおくよ。」


「ありがとうございます!良かったぁ。」


すると先生が立ち直ったのかほっぺを掴まれた。


「何が良かっただ!たかが男爵家の家の手入れを天下のエチゴヤに頼むバカがどこに居るんだ!!」


ぐいぐいとほっぺを引っ張られる。


「フィリスさん、うちはラグナ君の為なら何だろうと動くよ。」


サイの言葉に驚き振り向くフィリス。


「こいつにはエチゴヤが動く価値があるということでしょうか?使徒だから?」


「確かに使徒っていうのも関係は無い訳じゃないけどね。私はとある事件に巻き込まれて死にかけた事があるんだ。その時に彼の両親に助けられてね。あれが無ければ私はもうここに居なかったよ。その恩返しって意味もあるけど。それが全てではないよ。父と私の人を見る目利きがね。彼を全力で支えなきゃと訴えて来るんだよ。それこそ初代勇者様を支えた初代エチゴヤの様にね。」


「「えっ!?」」


サイさんの思わぬ告白に驚く俺と先生。


「フィリスさんなら判るんじゃない?ラグナ君を見ていて。」


じっと俺を見てくる先生。


「……確かにラグナはこの年齢では考えられないほど強くなってきている。入学したての頃ならば簡単に倒せただろうが、たった1年で私を遙かに超える実力を付けた。それに初代勇者様と同じ黒目、黒髪……」


う、うん?


おかしい流れに……


「そう。初代勇者様とラグナ君は似ているんだよ。勇者様ではないかも知れないけどそれに近い何かなんじゃないかなって。」


2人の視線がこっちに向いてくる。


「ぼ、僕が勇者!?な、無い、無いですよ、そんなの。」


勇者だなんて一言も言われていないのでブンブンと否定する。


「まぁ違うなら違うでもいいよ。私達は自分の目利きを信じるだけだからね。」


その後の話し合いの結果、かなりの格安な値段で引き受けて貰える事になった。




今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

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