青い髪の女の子。
いつもより長文になりました。
区切りが見つからなくて……
王様との謁見後は、大臣2人と再び最初に待機していた部屋へ。
「全く王様には困ったねぇ。いきなりアレはキツいんだよ。」
「あぁ。久々に当てられたが、やはりまだ耐えるだけで精一杯だった。」
王はたまに人を試すように、普段は抑えている莫大な魔力を急に解放するのだ。
何人倒れずに耐えたか楽しんでいるらしい。
結構しんどいので戯れは控えて欲しいくらいだ。
「ラグナ君は平気だったの?あれ?ラグナ君?」
ビリーがラグナに話し掛けるも、どこかぼーっとしたまま、ラグナは椅子に座り込んでいた。
「聞いていたかい?ラグナ君。」
もう一度話し掛けると身体がビクッと反応した。
「は、はい?何でしょう?すみません。頭がまだ真っ白で……」
いろいろ濃厚なことが有りすぎてぼーっとしてしまった……
「まぁ、仕方あるまい。いきなり貴族になれと言われたらこうなるのも当然だろう。」
「それもそうかぁ。その件に関しては本当にごめんねぇ。このまま君のような実力者を放置しておけなくてね。面倒な貴族に目をつけられると君の身が危ないから仕方なかったんだよ。」
もしかして俺を守るために2人は動いてくれていたのか?
「強大な力を持つ平民など、貴族からしたら脅威でしかないからな。ならば貴族にしてしまえばいい。幸い丁度悩んでいた案件もあったしな。」
「でも新たに貴族家を作るとなるといろいろ大変なんだよ。本来なら今回の功績を以って作ることも可能なんだけど……今回の事件の真実を広める訳にはいかないからね。2人で対応に悩んでいたらフィオナから提案があったんだ。『私を死んだことにして家名をラグナに継がせればいい。』ってね。確かにそうすれば新たに貴族家を作る必要が無くなるし、悩んでいた案件も片付くから私達はフィオナの話に乗ることにしたんだよ。」
やっぱりパスカリーノ家を名乗ることになったのはフィオナ先生のせいだったのか。
コンコン。
扉がノックされ開かれる。
「失礼する。」
あっ、王様の横にいた人だ。
あれ?
この人の顔をよく見たら……
思わず隣にいる人の顔と見比べてしまう。
「あぁ。ラグナ君は知らないよね。彼は私の双子の兄であるマリック・アブリックだよ。」
「この国では宰相の地位についているマリックだ。魔族襲撃の際はこの国を救ってくれて感謝する。」
「あれは本当にたまたまでして……初めまして。ラグナです。」
ペチンとビリー様に頭を叩かれる。
「あいたっ!」
「こらっ。もう君はただのラグナではないんだよ?王から拝命された直後から君はもうラグナ・パスカリーノなんだ。忘れてはダメだよ?もう一回やり直し。」
うぅ……
いきなり名前が増えたと言われても慣れない……
「宰相様、初めまして。ラグナ・パスカリーノです。若輩者ですがよろしくお願いします。」
頭を深々と下げる。
「うむ。こちらこそよろしく頼む。君には紹介したい娘が居るんだ。」
パンパンと手を鳴らすと部屋の扉が開かれる。
「お呼びでしょうか?」
俺と同じくらいの年齢の『青い髪』の女の子が現れた。
前髪で目が隠れていてはっきりと顔を見ることは出来ない。
パタパタと足音を立てながら部屋に入ってくる。
「パスカリーノ男爵様、初めまして。フィリス・アブリックです。以後お見知り置きを。」
スカートの両端をちょこんとつまみ可憐な挨拶をしてくれた。
「こちらこそ、初めまして。ラグナ・パスカリーノです。よろしくお願いします。」
お淑やかそうな女の子だな。
ん?
ジーッと見られている気がする。
「……ビリーお父様。私、決めました。宜しければこの方と共に歩んでいきたいんですの……」
「えっ!?」
いきなりそんな事を言われても!?
しかもビリー様の娘さん!?
「ふむ。ラグナ君さえよければ構わないよ。まぁ年齢が年齢だから、まずは成人となる15歳までは婚約という形になるけどね。どうかな?」
どうかな?
俺が婚約!?
「えっと……どうかなと言われましても……僕はフィリスさんのことは何も知らないですし……それにまだ、いきなり貴族と言われたばかりで頭が真っ白で……」
いきなり婚約と言われても、まだそこまで頭が回らない。
「まだそこまで考えられませんか?私ではあなたを支えられませんか?」
フィリスさんが俺の両手を握ってくる。
そう言われてもな……
「すみません。まずはちょっと頭の中を整理したくて……」
「そうですか……なんて言うとでも思ったか?」
へっ!?
口調がいきなり変わってフィリスさんに肩を組まれる。
「えっ?ちょっと!?」
いきなり馴れ馴れしくされて焦る俺。
「おい、まだ気がつかねぇのかよ!」
フィリスさんが自分の髪の毛をおもむろに引っ張ると投げ捨てる。
そして目の前に現れたのは綺麗な赤い髪を持ち、気の強そうな目つきをしている女の子。
って……
「フィオナ先生!?」
雰囲気が全く違うから気がつかなかった……
「流石にもっとはやく気がつくと思ったぞ!全く……それで?私と婚約しとくよな?」
えっ?
先生と婚約?
「いや、ごめんなさい?」
反射的に断ってしまった。
すると先生は、俺に対してヘッドロックを掛けてくる。
「なんだ?私じゃ不満なのか?あん?ミレーヌか?セシルか?ルーなのか?ミーシャがいいのか!?」
クラスメイトやメイドさんの名前を次々とあげていく先生。
「ふむ。それもありだねぇ。うちからはフィリスとルーを嫁に出すよ。」
「ではうちからはセシルを出そう。」
「ウチはもう全員婚約してしまっているしな……破棄させるのもいろいろ面倒だが……」
いやいやいや、変な話になってきた。
クラスメイトの親である2人がノリノリになってきている。
宰相様も婚約破棄させてまでは止めて!
「い、いきなりその様な話をされても困るといいますか……誰か選べと言われても……」
誰か選ぶ勇気など俺には無い!
「うん?何を言っているんだい?この国では貴族や一定以上の税金を納めている平民は一夫多妻も多夫一妻も法で認められているよ?」
ぐっ……
異世界め……
「け、検討します……」
「まぁ、仕方ない。今日の所は引き下がってやろう。」
「そうだね。今日の所は私も引き下がるよ。」
ふぅ。
なんとか婚約は回避出来たのかな?
「まぁでもフィオナ改めてフィリスは受け取って貰うよ?君の教育係としてね。」
えっ!!
先生は俺についてくるのか!?
「なんだ、その態度は?あん?」
めっちゃメンチを切ってくる。
「不満などありません……先生と一緒に居られるなら嬉しい限りです。」
だからその指から出てる炎を消しては貰えませんかね?
「ほぅ。そんなに私と一緒にいたいのか。」
指先から出ていた炎が消えた。
ヨカッタ……
「ならば婚約してもいいだろう?」
再び爆弾を投下してくる先生。
うっ……
咄嗟に断ろうとしたことを悟ったのか、さっきよりも大きな炎が……
「誠心誠意検討させて頂きます……」
俺の受け答えにニッコリと笑う先生。
「ふむ。検討か。ならばよし。」
これはいよいよ断ったら髪の毛が終わるパターンだな……
まぁ先生の事は好きなんだと思うけど。
お付き合いもなく、いきなり婚約と言われてもねぇ?
そんな覚悟なんて簡単に出来ないわけで。
そもそもあれだ。
「僕はまだ魔法学園に通っていてもいいんですよね?」
貴族のあれこれを学ぶ為に貴族学園に行けと言われても困る。
「とりあえずは魔法学園に通って貰って構わないよ。それにパスカリーノ男爵家と言っても本当に特にあれしろ、これしろって事は特に無いから。領地も無いしね。あるとすれば有事の際には力を振るってもらいたいくらいかな。後は国からは給金が貰えるけど、そのお金の扱いはフィオナと相談してね。」
戦争に駆り出されるかも知れないって事か……
それに死んだことになっているとはいえ、もともとは先生が貰うべき給金だから全額先生で良いんだけど。
「ビリー様。私はもうフィオナではありません。フィリスです。フィオナはあの時死にました。それにラグナもだぞ。もう先生とは呼ぶな。これからはフィリスと呼べ。」
一時的な偽名じゃなかったって事?
それに先生を呼び捨てで呼べと言われても。。
「ごめん、ごめん。そうだったね。あっ、そうそう。フィリスも4月から魔法学園に通うから、仲良くしてあげてね?」
えっ?
先生が学園に通う?
「でも特級組はもう10人居ますし……誰か落とすのですか?」
流石にクラスメイトの誰かが居なくなるのはちょっと嫌だな。
「それは大丈夫。フィリスは編入生として学園に通うからさ。長年病弱で部屋から出られなかったけど、新薬のおかげで回復して学園の編入試験にトップ合格したって事にしてあるんだ。だから学園には特例を認めさせて2学年の特級組は11人って事になってるよ。学園側からもラグナ君の実力が他の生徒に比べてずば抜けているから、ラグナ君を抜きに考えれば実質10人だから構わないって連絡が来てるんだよね。」
さっきから驚く内容ばかりだけど……
えっ?
俺が特級組からハブかれるの??
「不満なら騎士学園に来てもいいぞ?お前なら俺が推薦してやる。お前の実力ならすぐにトップになれるだろう。」
騎士学園か……
そういえばマルク様……
平気そうな顔をしているけど、息子さん2人が魔族に連れて行かれてるんだよな……
「うん?どうかしたか?騎士学園に本気で来るか?」
ジーッと見過ぎちゃったか。
とりあえず謝罪しよう。
頑張れば息子さん達を助けられたかもしれないし……
「息子さん2人の件は謝って済む問題ではありませんが、助けられずに申し訳ありませんでした。」
マルク様に謝罪をすると、キョトンとした目でこちらを見てくる。
そして俺の頭にトンと手を乗せる。
「その事に関してはお前が気に病む必要は全く無い。むしろ俺が謝罪せねばいけないのだ。愚息達が迷惑を掛けた。」
大臣でもあるマルク様が急に頭を下げてくるので慌てて頭を上げてもらう。
「マ、マルク様。頭を上げて下さい。僕には謝罪されるような事が全く思い付かないのですが。」
マルク様の息子さん2人とは特に何かあった訳じゃないし……
ラグナは最後の交流戦の戦闘を思い出す。
『あれ?やっぱり謝罪するべきは俺じゃないのか!?ちょっとセシルの事をバカにされてムカついて、いろいろやってしまった気がするんだが……』
頭から血の気が下がっていく。
「……調査の結果が先日届いたのだ。君たちを脅すような内容の手紙を送りつけたのは私の子供達の仕業だった。本当にすまなかった。そしてあの2人が連れ去られたのは自業自得だろう。もしも無事に帰ってこれたとしても厳罰は確実だ。今回の件だけでなく、他にも違法魔法薬や違法麻薬が部屋から発見されている。むしろ連れ去られていなければ、私は大臣の職を辞する必要があったかもしれん。」
連れ去られたおかげで有耶無耶に出来たって事なんだろうか。
それにあの手紙を送りつけた犯人と……
だからセシルはあの手紙を見たときに変な感じになったのか。
「僕は全く気にしていないので大丈夫です。」
「そうか。改めてすまなかった。そしてセシルをこれからもよろしく頼む。」
「はい、わかりました!」
勢いで返事したけど、よろしく頼むってどっちの意味だ!?
「それじゃあとりあえず今日は解散としようか。フィリスにはこれを渡しておくよ。」
ビリー様が先生に髪留めを手渡す。
「使い方はわかるね?」
「はい。ラグナつけて。」
髪留めを手渡されたので先生の髪につける。
ちょっと髪の毛がサラサラでドキドキしたのは内緒だ。
そして先生が魔力を流すと髪の毛の色が変化していく。
「あっ。」
髪の毛の色が綺麗な赤から青へと変化していく。
「これならバレないだろう。」
確かに髪の毛の色がガラッと変わるだけで印象は変わるからね。
「それじゃあ面倒事はこっちに任せて。ラグナ君の事は頼むよ。」
「はい。お任せ下さい。」
3人の大臣と別れた後は兵士に案内されながら王城の外へ。
すでに学園長の姿は無かった。
『それもそうか。学園長だって忙しいだろうからね。』
待機していた馬車に乗り込む。
そして先生に手を差し伸べる。
「どうぞ、お嬢様。」
「う、うむ。」
顔を真っ赤にしながら俺の手を取り馬車へと乗り込むと御者へと目的地を伝える。
「パスカリーノ男爵家へ。」
馬車が動き出す。
いよいよ先生の元自宅へと向かうのだった。
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