退院と帰宅と。
そろそろバレンタインの季節。
あれ?涙が……
あれから2週間。
「まだ急な動きはキツいですけど、普通に生活する分には支障ないですね。」
「本当に信じられんよ。医者としても研究者としても出来ることなら徹底的に君を調べ上げたいくらいだ。」
最初は完治まで2ヶ月~半年は掛かるだろうとお医者さんに言われていたけど……
調べ上げたいと言われるほどの回復力の速さで今日退院することになった。
いつの間にか俺は人間辞めていたのだろうか?
「まぁ、なんだ……この2週間は楽しかったぞ。退院しても無理はするなよ。」
「先生……」
この2週間はほぼずっと一緒に先生と生活していた。
「元気でな。」
先生の処遇は未だ話し合いが行われているらしい。
それが決まるまでは入院したままだと話をしていた。
「僕も2週間本当に楽しかったです。本当にありがとうございました。」
先生の処遇次第ではもう会うことは出来ないかもしれない。
そう思うと、思わず目がうるうるしてきてしまう。
そして身体が反射的に動いてしまい先生をギュッと抱きしめてしまう。
「おいっ!」
先生は一瞬慌てたもののすぐさま抱きしめ返してくれた。
「お前なら何があっても大丈夫だ。頑張れよ。きっとまた会えるからもう泣くな。」
「絶対ですよ?これでお別れなんて嫌ですからね?」
「あぁ、約束だ。だからまたな。」
「僕、待ってますから。」
抱きしめていた先生と離れると握手して一時の別れを告げる。
そして用意された窓が無い馬車へと乗り込む。
馬車が動き出すと先生との別れが寂しくなってしまったとは言え、思わず抱きしめてしまった事に対して急に恥ずかしくなる。
『俺は勢いで何てことを仕出かしてしまったんだ!』
思い出すだけでも恥ずかしさに悶えてしまう。
『あれではどう見ても俺が先生の事を好きだって言っている様なものじゃないか!』
ん?
俺は先生の事が好きなのか?
そう思うとストンと気持ちが落ち着く。
そうか、同級生の女の子に対しては可愛いなぁ位にしか思ってなかったけど……
大人だった先生には憧れていたのか?
いや、違うか。
俺も転生前と今の年齢を合わせれば29歳。
先生よりも精神的な年齢は1つ上。
同年代と思えばおかしくないのか。
まぁ今では2人そろって見た目は子供、頭脳は大人の某有名なキャラクターと全く同じ状況になってしまったけどな。
全く外が見えない状況のまま馬車に揺られる。
密室だと、どれだけ時間が経過したのかは全くわからない。
突然馬車が止まり扉が開かれる。
「目的地へ到着しました。」
馬車を降りるとそこは学園だった。
「連絡が来るまでは今まで通り学園で生活するようにとの事です。」
とりあえず何が何だかよくわからないけど言われた通りに寮へと向かう。
「ただいまぁ。」
みんなは授業中かな?
バタバタとこっちに誰かが走ってくる音がする。
すぐに走ってきた人物が誰だか判明する。
「ミーシャさん、ただい、ぐむぅ!」
ミーシャさんは俺を発見するといきなりギュッと抱きしめてきた。
く、苦しい。
「本当に……本当に心配しました。このままラグナ様が戻らなかったらどうしようかと……」
熱烈なハグをミーシャさんから受けていると突如後ろから衝撃が来る。
「ぐふっ!」
今の身体の俺にはかなり厳しい衝撃だ。
「無事で良かったぁ!」
衝撃に驚いて後ろを振り向くと、後ろから抱きついてきたのはセシルだった。
そして更に後方には感情を読み取ることが出来ないほど無表情なミレーヌさんが、目を見開いてただこちらをじっーっと見つめていた。
『あれはあれで怖いわ!』
「ほぅ、帰ってきて早々に見せつけてくれるな。」
声の主はウィリアムだ。
「ラグナ君、お帰り!」
テオはこの状況下でも平然と挨拶をしてくる。
「みんな、ただいま。あれ?学校は?」
通常ならまだ授業の時間では?
あれ?
フィオナ先生が帰ってこないと俺達の教師はどうなるんだ??
顔は笑顔に戻ったが、目が見開かれたままのミレーヌさんが説明してくれた。
「学園は一時的に休校状態になってます。私達生徒は自主学習をするようにと学園より通達がありました。」
「休校かぁ。まぁあんなことがあったばかりだし仕方ないか。」
学園もバタバタしてるのか……
「あの事件の後みんなはどうしてたの?」
「私達は魔族が立ち去った後に倒れたラグナ君と重傷だったフィオナ先生の元へとすぐに向かいました。その時に信じられない現象を目にしたのですが……この件については詳しく話すことが出来なくて……そのあとすぐに私達特級組は集められると、魔法師団の方々に守られながら闘技場の外にいる他の生徒達と合流。その後は魔法学園の訓練所へと移動しました。そして『今回の件に関しては箝口令を発動する。破った者に対しては家族諸共極刑に処す。』と大臣より通達がありました。そしてその場で学園より休校と自主学習をするようにとの発表と、更に指示があるまでは学園からの外出と外部との手紙のやり取りも規制するとの発表も行われました。」
外部に情報漏洩しないようにか……
「そして事件から一週間後です。魔法師団の方々がぞろぞろと学園に入って来たので、みんなで寮から覗いていたのですが……しばらくして再び魔法師団の方々が見えたと思ったら、学園の教師の方々がロープで繋がれてどこかへと連行されていきました……」
ルーとテオの父親である大臣が激怒していたって先生は言っていたし……
本当に学園はどうなるんだろ?
「それよりも、ラグナはもう大丈夫なのか?数日後に寮に聞き取りに来た軍の方に聞いてもラグナと先生は軍の病院に運ばれている。命に別状はないとしか教えてもらえなかったんだ。」
「普通に動く分には問題ないよ。走ったり激しく動いたりはまだ身体が痛くて無理だけど……1ヶ月間は魔力も使うなって厳命されてる。1ヶ月後の診断次第で解除って感じみたい。」
「やっぱりあの時の戦いは無理していたのか。」
「今まで見たことが無いくらいラグナ君の動き早かったよね~!」
「……ばびゅーんって感じ。」
「それにあれだよ。『フィオナから離れろぉぉぉー!!』ってやつ。あれは格好良かった!」
クララからの爆弾が投下された。
「ごふっ!」
まさかあの場にいた全員に聞かれていたのか!!
「……生徒と教師。禁断の愛。」
ミレーヌさん以外の女の子が盛り上がってキャッキャしている。
「あ、あれは違うから!先生って付け忘れただけだから!それに先生とは何もない!本当に何もないから!」
慌てて弁明していると、のそーっとミレーヌさんが目が見開いた状態で近寄ってくる。
「本当に?本当に先生とは何もないと?言い間違えただけだと?」
いったいミレーヌさんはどうしたんだ!?
俺がいない間に何があったんだ……
恐怖に包まれながらも先生とは何もないとコクリと頷く。
「何もないのならば良かったです。ラグナ君はどうしていたのですか?」
笑顔に戻るミレーヌさん。
「俺が目を覚ましたのは事件から3日後なんだ。それまではずっと意識が無かったんだよ。それに起きた時は焦った。身体が一切動かないんだ。手も足も首も。唯一動くのは目と口だけ。本当に焦ったよ。」
ラグナがそんな状況になっていた事に同級生達は驚いていた。
今まで怪我らしい怪我をしなかったラグナがそんな状況になるとは考えられなかった。
「それは……大変でしたね……その様な状況で食事などはどうしていたのですか?」
「ご飯食べるのも、水を飲むのも先生が手伝っ……」
はっ!!
誘導尋問か!?
時既に遅し。
目の前には無表情に戻ったミレーヌさんが……
すると来訪者が寮へとやってきた。
「邪魔するぞー。ってラグナ、戻ってきたのか!」
ソリダス先輩やエマ先輩、それに代表戦で共に戦った先輩達が寮へと遊びに?来ていた。
「さっき病院から戻った所です。」
「先輩方いらっしゃいませ。それでは本日も始めましょうか。」
いつの間にか笑顔に戻っていたミレーヌさんに連れられて寮の庭へと移動するのだった。
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