動き出す王と家臣達。
とうとう閑話を含めて100話目。
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ドンドン!ドンドン!
激しく扉を叩き続ける男がいる。
「お、王よ!起きて下され!緊急事態にございます!王よ!」
ドンドンドン!
ドアを必死にノックする男はこの国の宰相であるマリック・アブリック。
ドンドンドンドン!
「王よ!緊急事態ゆえ開けて下され!」
ドンドンドンドンドン!
ガチャリ
扉のロックがようやく解除される。
そしてゆっくりと扉が開く。
「なんじゃ、こんな朝から。儂は昨夜忙しくてなかなか寝れなかったんじゃぞ。」
宰相は扉の隙間から見える女性の裸体が複数見えることを咎めたい気になるが今はそれ所ではない。
「またこんなにも女を連れ込んであなたは。でも今は緊急事態にございます!急ぎお着物を羽織り会議場へ!」
「緊急事態じゃと?私の睡眠よりも大事なことなどあるのか?」
王は再び眠りに戻ろうとするので必死に宰相は引き止める。
「ドゥメルク侯爵・ファイヨル伯爵・ピエトリ男爵・デコス男爵の4家が何やらやらかしたらしく商業の女神マリオンの神託により4家の領地より神殿は撤退。さらに国内全ての特許に関する業務が全停止してしまったので商業ギルドより宮殿に苦情が多数寄せられています!」
流石に女神マリオンからの神託については無視する事が出来ないので足を止める。
「何じゃ。面倒事では無いか。仕方ない。準備したら向かうから先に話し合いをしておれ。」
「それだけでは御座いませんのでお急ぎでお願いします。この件にはエチゴヤも絡んでおりますので……」
エチゴヤの名前に驚く王。
「エチゴヤじゃと!思っていた以上の面倒事か!誰か、儂の着替えを持ってまいれ!」
のんびり休んでから会議場へと向かうつもりだったがエチゴヤが絡んでいるとなるとそういう訳には行かなくなった。
宰相は一足先に会議場へと戻る。
「お待たせしました。もう間もなく王は参ります。」
息を切らせながら宰相は急いでこの部屋に戻ってきた。
会議場にはすでに大臣達が皆、揃っていた。
「王は?」
がっしりとした筋肉を纏う男は軍務大臣のマルク・ラヴァン。
「先ほどようやく起床しましたのでもう間もなくかと。」
「そうか、ならいい。」
軍務大臣は目を閉じると瞑想を始める。
この男は空き時間がある時は常に身体を鍛えている。
「それにしても面倒なことをしてくれましたな、ドゥメルク侯爵閣下は。おかげで早朝より各国からの非難声明が届いておりますよ。」
そう愚痴る男は外務大臣のニコラ・プイユ。
「来ましたな。」
王の魔力を察知して会議場へと来たことを告げたのは戦略魔法大臣のビリー・アブリック。
宰相の弟である。
そして扉が開かれる。
皆椅子から降りて膝をつき頭を下げる。
王は自らの席に座る。
「皆、揃っているようじゃな、頭をあげよ。」
大臣達は王が来てくれたことにホッとする。
普段であれば会議終了間際まで来ないことなど日常茶飯事。
そして会議で決まったことのみを確認し、認められればそのまま行動に。
気に入らなければ再び会議のやり直しをしていた。
王はただ最終決定を行うのみ。
何故この様な王に従うのか。
ひとつは守護の女神サイオンによって導かれた勇者の末裔であること。
勇者の血が成し得る技なのか。
勇者の血が流れる人間は強力な魔力を持って産まれてくる。
そして魔力・武力に優れた王の子息が王に就任している。
次代の王を選ぶ際に行われるのが闘技場で唯一王族同士の殺し合いが認められる試合。
その名も『次期勇者王決定祭』
王の子息達の中で次代の王を望む者のみが参加出来る祭り。
勝敗は降参または参加者の死で決まる。
次期勇者王決定祭以外での王族同士での殺し合いは一切認められていない。
暗殺などをおこないそれが露呈した場合は公衆の
面前で拷問の上、息絶えるまで一般街の城壁に吊され続ける。
死ぬときは王族ではなく犯罪者として見せしめにされる。
過去に数回その刑は執行された。
今代の勝ち残った最強の王族が今目の前にいる現王『ギリアン・ヒノ』
「それで?余をこのような朝から呼ぶとは何が起きた。宰相からはさらっとしか聞いておらぬ。」
外務大臣であるニコラは立ち上がると現状わかっていることを説明する。
「4家の愚息共が平民にやらかしたのは理解した。だが何故それごときであの神殿が動くのじゃ。しかもエチゴヤじゃと!ヤツらが動いた理由はなんじゃ。」
「教皇である私が説明しましょう。」
そう言って立ち上がるのは守護の女神神殿教皇ニコラス・フィニョンだった。
「少し前にとある噂が神殿内にありまして。その噂とは商業の女神マリオンの神託により選ばれた子供が現れた。新たなる使徒が誕生したと。」
「なんじゃと?!儂は何も聞いておらぬぞ!」
「所詮まだ噂話程度でした。商業ギルドの神殿に問い合わせをしても存在しないの一点張りでして。まぁ他国の女神の事ですのでその噂はすぐに消えて無くなったのですが……」
「じゃあ何故あの神殿が今動いた?」
「どうやら実在した様なのです。あの女神の使徒が。」
「だから何故神殿が動いたのだと聞いておろう!」
徐々にイライラしてきた王は魔力を身体に纏わせながら教皇に怒鳴る。
「お、王よ。さ、先ほどの4家の愚息共が関係しておるのです!恐喝及び暴力行為を加えた平民の中に女神マリオンに選ばれた使徒が居たようなのです!」
「なんじゃと?女神マリオンの使徒が我が国の魔法学園の入学試験を受けるとでも言うのか?ふむ……」
国王は一つ気がつく。
「つまりは女神マリオンの使徒は我が国の平民だったのか。笑えるではないか。使徒に選ばれた子供が他国の人間だったとは。それならば奴らが秘匿したのも頷けるわ。それで?その子供は?」
「それが……その子供の正体が未だに掴めておらず……」
「なぜじゃ?奴らがやらかした子供を探せば良いだけであろう?」
「それがですね……その4人が行ってきた悪事の被害者の人数が膨大でして……中には書類を提出せずに諦めてそのまま帰った子供もおりまして。正直な所どう探せば良いのか見当もつかなく。」
「面白いことになると思ったが面倒なことばかりしよって……それで4家の連中はどこにおる?」
「……侯爵家以外は別室にて待機させております。」
「……侯爵は何故来ていないのだ?」
「手放せない用件があると言われまして。」
王が力を込めて机を殴ると、いとも簡単に机が破壊された。
「この儂に迷惑を掛けておきながら来ないだと?許せん!許さんぞ!今すぐ反逆者として連れてこい!」
「御意。」
軍務大臣のマルクは席を立つと退出していった。
「それで何故エチゴヤまで動いたのだ!」
「そ、それは私から説明します。」
そして立ち上がったのは財務大臣のサボー・クレントン。
「どうやら侯爵家・伯爵家は領内で商いをしたければ賄賂を寄越せとたびたびエチゴヤ商会に請求していたらしく……」
「侯爵家と伯爵家はバカなのか?あのエチゴヤ相手だぞ?」
「それが……エチゴヤ商会は領民が困るようなことは絶対にしないからと賄賂を請求していたようなのです……多少荒く扱っても撤退はしないだろうと……撤退すると困るのは領民ですから。」
「舐めるなよ。腐ってもエチゴヤだぞ?初代勇者と共に歩いた一族の末裔だぞ。」
「……言いにくいのですが貴族の中には平民だからとエチゴヤを甘く見る人間も一定数いるようでして……」
王は再び怒りを露わにする。
「甘く見ているだと?お前等はエチゴヤを甘く見るなよ!あの一族に対してだけは甘くみることは許さん。何度甘く見た王族が痛い目を見てきたか、お前たちは理解しているだろう!」
「はい……我々は理解しているのです。しかし理解出来ぬ貴族も一定数いるのは確かなのです。」
「……仕方ない。伯爵家と男爵家の2家は城にいるんだな?」
「はい、待機しております。」
「ならば貴族達に見せしめだ。」
「……見せしめですか?」
「あぁ、当主と愚息は直ぐに処刑。領地は縮小させ長男が引き継ぐようにさせよ。後、伯爵家は男爵家に降格だ。」
「……それは。」
「なんだ?俺が決めたんだぞ?」
王の機嫌がさらに悪化する前に法務大臣のギー・ロンゴは立ち上がる。
「では伯爵家以下3家は反逆の疑いにより当主と件の愚息を処刑と致します。侯爵家は如何なさいますか?」
「侯爵家は一族郎党子供を含めて全て処刑だ!そして侯爵家は取り潰す。領地は一旦王家の預かりとする。いいな!」
「これをもって商業の女神の神殿と商業ギルドへの謝罪とせよ。エチゴヤは後で私が動く!」
王は会議場の皆を見渡す。
「「王のお心のままに。」」
『えぇい、忌々しい。エチゴヤの為に儂が動かなければならないとは。』
そして王は立ち上がり会議場より立ち去ると大臣達は動き出す。
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