新たなる命。
「あなた、ごめんなさい。」
「お前が気にすることはない……」
「でも…赤ちゃんダメだった…せめて産婆様が来てくれれば…」
ここはとある地域の辺境にある村。
今日、この村に住む夫婦の出産があった。
予定では同じ村に住む産婆様が立ち会ってくれる予定になっていた。
「もうそろそろ産まれてくる子が居るのじゃ!せめて数日だけでも!」
「煩い!領主様の御命令だ!逆らうならばその命無いと思え!」
そう言い争いながら、領主の部下によって産婆様が連れて行かれてしまった。
夫婦はその光景を呆然と見ながら立ち尽くしてしまった。
すると直後に陣痛が始まった。
「急げ!せめて子供を生んだことがある女を手伝いに!」
村の中の女性達が慌ただしく動き始めた。
「あのくそ領主が!また好き勝手しやがって!」
村に住む男達は領主の好き勝手に苛立ち声を荒げていた。
「男達!騒ぐんじゃないよ!すぐに湯を沸かしな!はやく動く!」
女性達にまくし立てられて男達も急いで行動を開始した。
そして………
村人達の努力虚しく新たなる命は生を育むことなく天へと旅立って行った…
「本当に……ごめんね……元気に産んであげられなくて……」
夫婦2人。
産まれたばかりの我が子の亡骸を自分達の手で村の墓地へと収めた。
悲しみに寄り添う夫婦を囲む村人達。
「すまねぇ……俺達がもっと早く気がついていれば産婆様が連れて行かれる前に抵抗出来たのに……」
「いや……気持ちだけで嬉しい。今回は残念だったが…こいつの命が繋がっただけ神様に感謝だ……みんな。世話になった。ありがとう。」
「私からも。みんな、ありがとう。」
2人は悲しみに暮れながらも精一杯手助けをしてくれた仲間に感謝を伝えた。
そして。
村人達は悲しみを胸にそれぞれの家へ。
「うっ……私の赤ちゃんっ……」
深い悲しみを抱えて泣きじゃくる女性。
涙を流しながら妻を抱きしめ続ける夫。
どれぐらい時間が経っただろうか。
お互いに泣き疲れて倒れ込むように寝ようとした時だった。
ガタガタガタガタ……
突然、家の扉が揺れ始めた。
寝ようとした夫婦はその光景に驚き、警戒するように見つめていた。
すぐに扉の揺れは収まった。
「なんだったんだ……」
「わからないわ……」
……っ……っ……
「……ん?何か声がきこえないか……?」
「確かに何か……」
そう言うと男は火種を持って明かりで足もとを照らしながら恐る恐る扉に向かった…
「誰か居るのか?」
何も音がしない。
ゆっくりと扉を開けていく。
目の前には何もない。
足下に目を向ける。
「嘘だろう!?何でこんな所に!?」
「どうしたの!?」
「家の前に…赤子が……」
「えっ!?」
扉をあけるとそこには……
布に包まれた赤子が置かれていた……
「何でこんな所に赤子が……」
「あなた……どうします……?」
「とりあえず家に入れるしかあるまい……」
妻が優しい手付きで赤子を抱えた……
夫婦は自分達の赤子を失ったばかり。
その心は傷ついたまま。
そして何故か誰の子かもわからない赤子が家の前にいた……
「明日の朝に村長に話をしてみる。」
「わかりました。この子は何故うちの家の前に…しかも何でこんなにも安心した寝顔で……」
そう言いながら恐る恐るほっぺをツツいてみた。
するとどうだろうか。
小さい、小さい手がほっぺをツツいていた指を掴んだ。
急に指を掴まれてびっくりしたが寝顔を確認すると、先ほどよりも少し笑顔になっている寝顔だった。
「可愛い……」
そんな妻の光景をみて考え込む夫がいた。
さて。この赤子は一体誰の子なのだろうか……
何故突然家の前に置かれていたのか。
先ほどのドアの揺れはいったい…
これが赤子との出会い。運命の始まりであった。