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第8話:準備は入念に

 ――装備屋は既に多くの客で賑わっていた。


「よぉいらっしゃい! お前さんが噂の異世界人ってやつか」

「……どうも」

「がっはっは! まぁ不思議に思うわな。何せ店番やってるのが人間じゃないんだから――オレは確かにこんな(ナリ)だが、これでも一応商売人してたんだぜ? おっと紹介が遅れたな、オレの名前はモーガン。昔は魔王軍相手に商売してたしがないモンスターだ」

「……アキラだ。よろしく」

「おうよ! で、早速どうする?」

「それは商品を見てからだな」


 今は金がないから何も買えないがな、と告げるとあからさまに落ち込まれた。モーガンと名乗る(モンスター)は身に付けているエプロンがとてつもなく似合わない巨漢である。

 紫色の肌色に、黄金のように輝いている瞳が、彼が人外であることを強く協調こそしているものの、言動そのものはとても人間を襲う、モンスターとしての凶暴性を一切感じさせない。

 接客態度がいい店員は好感が持てる。そこには人間も、モンスターも関係ない。

 モーガンの客に対する態度は、自然と購入意欲を駆り立たせる魅力があった。

 もし、これがあの男の持つ異能(ちから)による作用なのだとしたら、それはそれで末恐ろしい、正しく天職であると認めざるを得ない。


「――弾薬が欲しんだ。9mmはここにあるか?」

「あぁ、その手の銃の弾薬ならこっちだな」


 ……人生で初めてとなる、ツケ、という単語を使った。

 手持ちがないのだから、アキラが物を買うにはこの手段しかない。これから大きな仕事を共にするかもしれない相手に対してたかるのは、彼の良心が引っ掛かった。

 関係のない人間は絶対に迷惑を掛けないこと――死の言葉を胸に、アキラは請求先を国王にしてもらうよう頼んだ。

 当然彼は文字が書けないので、口頭で使えるしかなく。請求先を伝えられた方は目を丸くしてアキラを見やる。


「おいおい、今までツケにしてくれって頼んだ奴は多々いたが、まさか請求先を国王にするなんて奴はお前さんがはじめてだぞ」

「こんな状況下でも一国一城の主をやってるんだ。金の貯えなら誰よりもあるだろうし、それにこの程度の金額を支払えないようなケチ臭い性格じゃないだろう」

「……気に入った!」

「それじゃあ。また世話になると思うから、その時はよろしく頼む」

「おうよ! そのためには生きて帰ってこいよ!」

「あぁ」


 ――買った物を手に、早速自室に戻る。


「あ……」

「…………」


 いるはずのない来訪者を前に、彼は一瞬だけ目を丸くすると、


「……どうしてここにいるんだ?」

「アキラさんに用があってここにやってきました」

「そうか――ならなんで、ベッドで横になってたんだ?」

「……わかりません。ただ、なんとなく、こうしたかっただけです」


 実に意味不明なカルナーザの回答に、アキラはむぅっと唸った。


 ――敵の勢力は未知数、あの犬型の怪物よりももっとヤバい存在がいることは、確か。


 だからこそ、準備は入念に行わねばならない。

 自らの能力、技術を過信し、装備を怠って呆気なく散っていった愚者をアキラは何度も目にしてきた。今から戦争を始めようとしている相手は人間ではないので、特に準備は必要だ。


「…………」

「…………」

「……なぁ」

「はい。如何なさいましたか?」

「お前、いつまでそこで寝てるつもりなんだ?」

「……アキラさんの準備が終われば、すぐにでも」


 ……降りようという選択肢は最初(ハナ)から彼女の中には用意されていないらしい。相変わらず、カルナーザは表情一つ変えない。それに反比例して、身体ではしっかりと感情を表現していることがわかった。

 何がそんなに嬉しいのか、その真意まではアキラは読み取れない。だが、ベッドの上を意味もなくゴロゴロと転がっている姿は、間違いなく彼女は喜んでいた。


(まぁ、いいか……)


 危ないことをされるわけでも、ちょっかいをかけて作業を邪魔されないのであれば、それ以上アキラは言及しなかった。


「よしっ」

「準備は終わりましたか?」

「あぁ――その様子だと、これから何をするかはわかってるな?」

「先程、お父様から連絡がありました。これよりカルナーザはアキラさんの指揮下に入ります。なんなりとご命令してください。どんな命令であろうとも、完璧に遂行してみせます」

「おいおい、お前はどうかは知らないが、俺は軍人じゃないしましてやお前の上官でもない。堅苦しいのはごめんだぞ」

「ですが……」

「……じゃあ今は二つだけ、俺からお前に命令してやる」

「はい」

「――生きろ、そして死ぬな。この二つだけを守っていればそれでいい」

「…………」

「……不服か?」

「いえ、そういうわけでは……了解しました」


 もう少し感情を表に出せ、と危うく言い掛けたところ寸で口を閉じる。この命令は、今この場においては相応しくない。

 どこまでも機械的な娘だ。ようやくベッドから降りた少女を横目に、アキラは思った。

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