従妹じゃなきゃ無視したいほどの謎な珍妙生物は残念ながら俺の従妹でした。
簡単日記
スーパーから帰ってくるとラファがギャルゲーをしていました。
ギャルゲーのイベントを見てラファが裸を見られたことを思い出しました。
怒ったラファは金属バットを佳奈姐から受け取り大きく振りかぶってきました。
注意事項
*以降はサブストーリー(おまけ)になっていますので読まなくても本筋には影響ありません
お時間に余裕があれば読んで頂けるとより楽しめる・・・かも?
「ご馳走様」
俺は居間で夕食を食べ終わると少し赤くなったデコを押さえている。
あのあと何があったかというと、金属バットを振りかぶるところまではよかったんだが、思ったより金属バットが重かったようでラファはフラフラし始めて最終的尻餅をついてしまったのだ。
ラファは結局金属バットを使うのをあきらめて佳奈姐の薦めで輪ゴムを俺のデコに向けて打つことになり、それが夕食を食べる前に実行されたと言うわけだ。
「(まぁ、金属バットで殴られるよりはマシか)」
そう思いながらテーブルの上に置いてある俺と佳奈姐が食べ終わった食器を片付け始めた。佳奈姐は夕食を早々と食べ終わると『いや~、今日もおいしかったよ、宏君、じゃあ私は家に帰って、録り貯めてあるアニメを見なきゃいけないから、じゃあね~』満足そうな笑顔を残して少し前に自分の家に帰って行った。
「ちょっと待っておれ、宏直、今食べ終わるから」
ラファは俺が食器を片付け始めたのを見てそう言ったがどう見てもすぐに食べ終わりそうになかった。食べるスピードも最初に比べて随分ゆっくりだし、最初のほうは『うまいのじゃ』と笑顔で言っていたが今は気持ち悪そうだった。
「どうした? 気分が悪いのか?」
「心配はいらぬ、これしきの量食べきってみせるのじゃ」
「量が多いなら残せばいいだろ?」
「それはダメじゃ、せっかく宏直が作ってくれた料理を残すなど……、うっ」
どうやらラファにとってこの夕食の量は多かったらしく話している途中にも吐き気が来たようでラファは口を両手で押さえる。
「おい! ラファ大丈夫か!?」
「だ、大丈夫じゃ、これしき」
なんとか大事にはならずに俺はホッとしながらも、このままだとマズイと思いラファの説得を開始する。
「あのな、ラファがそうやって全部食べようとしてくれるのは嬉しいけど、俺はラファのそんな苦しそうな顔が見たくて料理を作ったわけじゃないだからな」
「そ、そうじゃな、もっと笑顔で食べないと――」
「そうじゃなくて、俺が言いたいのは無理に食べなくてほしくないってことだよ」
「じゃが……」
それでも残すのを躊躇してまだ食べ続けようとしてくれているラファの姿がなんて言うか嬉しくて、ついラファの頭に手を置いてしまう。
「いいんだよ、ありがとな」
「う、うむ、宏直がそこまで言うなら」
ラファは頬を少し赤らめ俯きながらようやく手を止めてくれた。
俺がラファの食べかけの食器も片付けようと手を伸ばすと、ラファは慌てて顔を上げる。
「捨ててはならんぞ、残った分は明日ちゃんと食べるんじゃからな」
それを聞いて嬉しくもあきれながら「分かったよ」と言って食器を下げた。
食器の片付けも終わり一息吐こうと思っているとラファが烈拳3を片手に持ち台所まで来て「約束したじゃろ?」と言って烈拳3を見せてきた瞬間『正直言って色々あって疲れたから休みたい』という思いに別れを告げた。
「そうだな、それじゃあ対戦するか」
「う、うむ」
休めないことを残念がっていたことを吹き飛ばすぐらいに、ラファは嬉しそうな笑顔みせて早足で居間に向かって行き、追いかけるように居間に入るとすでにゲームの準備は整えられていた。俺はラファに進められてコントローラーを受け取るとラファがゲームを起動させる。
お互いにキャラを選び対戦が始まる。「それ、それ」と楽しそうに声を出しながらプレイしているラファに対して俺は久しぶりの烈拳に苦戦し防戦一方だった。
「これで、とどめじゃ」
隙を見逃さずに見事なコマンド入力で放たれた大技が見事に決まりゲームの画面には【K・O】の文字が虚しくも刻まれる。
「ふむ、どうじゃ宏直、わちの強さは?」
ラファは得意気に腕を組みながら満面のドヤ顔だった。
「いや、普通に強かったよ」
「そうじゃろ、そうじゃろ、もっと褒めてもいいんじゃぞ、正直、師匠と対戦したときは、もしかしてわちは弱いのではないかと思ったんじゃが、師匠が強すぎただけで宏直ぐらいなら、いくらでも勝てそうじゃ」
『宏直ぐらいなら、いくらでも勝てそう』その言葉を聞いて自分の眉がピクッと上がったのが分かる。
最近こそオタク関係のものは控えていたけど、一時期はこのゲームも佳奈姐にずいぶん相手させられて半ば強制的に鍛えられた。それはもう見るのが嫌になるぐらい毎日毎日相手させられたものだ。そうしているうちにいつの間にか強くなっていた。どれくらいかと言えば地元で少し有名になるぐらい。つまり何が言いたいのかと言えば、元ゲーマー魂に火がついたのだ。
「ラファ、もう一回対戦するぞ」
「よいじゃろ、かかってくるのじゃ」
俺の提案をラファは受け入れて再戦が始まる。
序盤は前と同じように押され気味だったが徐々に感覚を取り戻していき後半は善戦した。
「やったのじゃ、また勝ったのじゃ」
嬉しそうに右手に持ったコントローラーを高々と掲げる無邪気なラファは普通に可愛いけど普通に悔しい。
「(くぅ~、いいところまでいったのに)」
対戦ゲームに限った話ではないけど勝負事は惨敗するより、あと少しで勝てないほうがよっぽど悔しいわけで。
「ラファ、もう一回だ、次は勝つ」
「受けて立つのじゃ」
三度目の対戦。もう負けられない俺にもこのゲームに関してはちょっとばかしプライドがある。
序盤の展開はほぼ互角、中盤押され始めるが最後の最後でなんとか俺の攻撃がヒットしラファから初勝利を掴み取った。
「よしっ!」
「さ、最後のは、ちゃんと避けたんじゃ」
思わずガッツポーズが出てしまう俺に対してラファは画面を指差しながら対戦ゲームでよくありがちな言い訳していたので、俺はさっきまでの仕返しを込めて「言い訳は見苦しいぞ」そう決め顔で言ってやると悔しそうに顔をしかめる。
「うぅ~、ならば次じゃ、次勝ってそのムカつく顔を泣き顔に変えてやるのじゃ」
威勢よく宣戦布告してきたので当然それを受けて立ち対戦がはじまる。
その後もお互いに勝ち負けを繰り返しながら何度か対戦している内に、もう何度目の対戦だったか分からないが俺はその対戦に負けると横でラファの喜ぶ声を聞きながら疲れてバタッと仰向けに倒れた。
ラファはそんな俺を見て何か察したように俺と同じように仰向けになると少し息切れしたような口調で喋り出す。
「宏直は、強いん、じゃな」
「ラファもな……、ってなんで男子高校生が殴り合った末、友情深めたみたいなノリになってるんだよ!」
慣れてないノリツッコミのようなツッコミをいれると、ラファは上体を起こしてキョトンとした顔を向けてくる。
「違うのか? わちはてっきりその流れだと思ったぞ、日本の男子高校生は殴り合って友情を深めるんじゃろ?」
「たしかに漫画とかだとよくあるけどな」
「ならばリアルで殴り合うと、どうなるんじゃ?」
「そうだなー、殴り合ったりしたことないから想像だけど。たぶんリアルで殴り合いのケンカなんかしたら普通に仲が悪くなるだけだと思う」
「そうなのか!?」
「そんな驚くほどのことでもないと思うけど、仮にもし仲良くなったとしたら、それはケンカした二人が不良漫画とかを読み過ぎているか青春と言う言葉に酔ってるかのどっちかだろうな」
「ふむ、そういうものなのじゃな、日本の知識はアニメやゲームやネットで得て完璧じゃと思っておったが、わちもまだまだじゃな」
「(日本に詳しいのはラファの父さんの影響だと思っていたけど、アニメとかの知識だったんだな、まぁ、変な喋り方とか知識が偏っているのを考えると妥当といえば妥当か)」
正直に言うとずっと違和感があった俺としては変に納得してしまった。
日本語が昔より流暢になってはいるが二次元キャラのような独特の喋り方もきっとそれが原因だろう。
疲れの所為か眠気が襲って来て欠伸をしてしまう、ふと、時計を見てみるともう午前0時をとっくに過ぎていた。
「もうこんな時間か、そろそろゲーム片付けるぞ」
「待つんじゃ!」
俺はゲームの電源ボタンを押すために手を伸ばしたがその言葉に手を止める。
「なんだ? このゲームはセーブとかしなくてもいいやつだろ?」
「そうじゃが……、も、もう一回だけ、やって……、ほしいんじゃが?」
何故かはわからないけど少しモジモジしながらラファは上目遣いでそう頼んでくる。
「(今のは、従妹じゃなきゃ惚れているな)」
従兄の俺にそう思わせるほど可愛く、照れを隠すために頬をかいて誤魔化す。
「……一回だけだからな」
不覚にも従妹にときめいてしまったことを感づかれないようにそっけなくそう言うとラファは『うむ!』と満面の笑みを返してくる。
ラファの要望に答えてもう一度だけ対戦した。序盤は前と同じように二人とも真剣になってやっていたが、途中でラファが俺に話しかけてくる。
「な、なぁ、宏直は昔のことどれぐらい覚えておるかの?」
俺は何かの作戦かとも考えたが、声のトーンが冗談のように聞こえない。
「それって、ラファが遊びに来ていた時のこと?」
素直にそう聞き返すと「うむ」と小さい返事が返ってくる。
「う~ん、前にも言ったけど、正直そんなに覚えてないな」
俺は素直にそう言うとラファの声が少し不安そうな声色に変わる。
「そうか、じゃが、あのことは覚えているじゃろ?」
「あのこと?」
「わちがこの家にもう来られないかもしれないと言った時に、宏直がみんなの前で言ってくれた言葉じゃ」
真面目なトーンのラファの言葉を聞いて俺は必死に記憶の引出しをあっちこっち開けたがまったく思い出せない。
「ごめん、覚えてないや、いったいなんて言ってたんだ?」
「……そうか」
ラファはたった一言呟くとコントローラーを置いて立ち上がる。
「どうしたんだ? ラファ、まだ勝負は――」
ラファはスルーして居間を出て行ってしまう。階段を上る音も聞こえてきたので二階の自分の部屋に戻ったんだろうけど。
「なんだ? 急に」
俺はラファの行動を理解できずに不満気な、ため息を吐いてゲームの後片付けを始める。
それでも急変したラファの態度が気になって鉄拳のソフトを返しに行くと言う理由でラファの部屋へやって来た。
「ラファ、居るんだろ? 鉄拳3持ってきたぞ」
ドア越しに話しかけたけど、一切返事がないので体調でも悪くなったのかと思いとりあえず中の様子を確認するためにドアを開けることにした。
「ラファ? 入るぞ?」
何も返事がなかったから倒れているんじゃないかとか最悪のケースを想像しながらゆっくりとドアを開けるとそこには珍妙な生き物がいた。
「な、何を勝手に入って来ておるのじゃ!」
「いや、返事がなかったから、それより何してんの?」
ラファの頭の二倍はあるであろう大きめの白い枕を顔に当てたまま立ち上がってこっちを向きながらモゴモゴと話して来る珍妙な生物を見て、何がどうなったらそんな状況になるのかわからず頭の中は?マークだらけになる。
「な、なんでもよいじゃろ、それよりゲームを返しに来たんじゃろ?」
有無を言わさないような様子でそう言って右手を伸ばしてきたので色々と疑問はあるけど、とりあえず俺はソフトをラファに渡す。
これ以上追及していいのか迷ったけど、触れないほうがいいんじゃないかと思って俺はそれ以上追及せず「じゃあな」とだけ言って階段を下りる。
「(なんだったんだ?)」
そうは言っても気になるわけで、珍妙な生物と化したラファの姿を思い出しては首を傾げながら俺とラファの共同生活一日目が終了した。
*
「(宏直の大馬鹿者め)」
射水ラファはそう思い階段を上がると、自分の部屋に入った。
「宏直は馬鹿者じゃ、大馬鹿者じゃ、わちはこっちに遊びに来た時のことをちゃんと覚えておるというのに、久しぶり再会したときも宏直はわちのことを忘れておった」
そう独り言を呟くとベッドに仰向けで倒れる。
「ほかのことならまだ許せるが、あの言葉を忘れるとは……、わちがどれだけあの言葉を聞いて……」
涙で滲む天井を見ながら小さく呟くと、そっと目を閉じてそのときのことを思い出していた。
それは十年前、射水 宏直の家の前での二人の会話だった。
「あの、ラファね、もう、あそび、これないかも、しれない、だって」
色白、金髪、碧眼でメガネをかけた小さな少女が一人の少年に向かって、たどたどしい日本語で悲しそうな表情のままそう言った。
「なんで!?」
「おしごと、たいへん、なるから、って」
「……そうなんだ、でも、また会えるよ」
少年の言葉に少女は弱々しく首を横に振り、涙を目に浮かべる。
「もう、あえない、よ」
言い終えると遂に少女は泣き出してしまう。幼いながらも自分の無力さを思い知り何よりも目の前の大好きな少年にもう会えなくなってしまうのが悔しくて悲しくて少女は涙を流すしかなかった。
それを見た少年は少女の腕を掴んで家に入ると、居間で少年の両親と話をしている少女の両親の隣に立った。
「お願いだからラファを連れて行かないでよ!! ラファをずっとここに居させてあげてよ!!」
大声で四人の大人相手に少年はそう叫んだ。
なんて事の無い子供の我儘だろう。目の前で泣かれた少女に何かしてあげたいと考え無しに言った言葉だろう。現に少年の言葉で何かが変わることもなく、それから二人が会うことはなかった。それでも少女の目には幼いながらに大人たちに向かっていく少年の雄々しさに憧れ、そして――。
射水 ラファはそのときの記憶を思い出し嬉し恥ずかしさに赤く染まる顔を枕に埋めて足をバタつかせていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ラファ、居るんだろ? 烈拳3持って来たぞ」
どうやら射水 宏直が、射水 ラファのゲームソフトをわざわざ持ってきたようだ。
「(な、なんでわざわざ持ってくるんじゃ、ゲーム機の中に入れておけばいいものを)」
射水 ラファはかなり焦りながらそう思った。なにせ今のラファは思い出に浸り真っ赤な顔で現実に直面し涙目になっている、そんな顔を見られるわけにはいかないと思ったからだ。
「ラファ? 入るぞ」
返事が無いので射水 宏直はドアを開ける。
「(やばいのじゃ)」
無慈悲にもゆっくりと開くドアを見ながら射水 ラファはなんとか誤魔化さなければいけないと思い、とっさにとった行動はそのまま立ち上がることだった。
「な、何を勝手に入って来とるんじゃ」
「いや、返事無かったから……それよりなにしてんの?」
射水 宏直は珍妙な生物を見るかのようなテンションになっているのは射水 ラファが顔を見られないように枕で顔を隠しながら立ち上がって喋っているからだ。
「な、なんでもよいじゃろ、それよりゲームを返しに来たんじゃろ?」
射水 ラファはバレない内に早く帰ってもらおうと右手を差し出す。
有無を言わさないと言ってくるような圧に射水 宏直はソフトを置くと不思議そうな顔をしながらも「じゃあな」と言って部屋の外へと出て行った。
「ふ~、危ないところじゃった」
射水 ラファは枕をベッドに戻し仰向けに倒れこみ自分の顔を触る。まだ熱を持っているのを確認して少し落ち着こうとフランスから持ってきていたアルバムを開く。
それはいつものルーティン、辛いことや悲しいことがあれば必ずアルバムを開き幼き射水 宏直の写真を見ては思い出に浸り癒される。
例え何を手放そうと二次元物の数を減らしてでもこのアルバムだけは何よりも先にスーツケースに入れてきたのだ。
しばらく眺めている内に何とも言えない情けない顔もいつの間にやらニコニコと穏やかな表情に変わり始める。
十分に堪能してスーツケースへアルバムをしまい、再びベッドにバタッと勢いよく仰向けに倒れる。
「……昔はあんなにかっこよかった宏直はもう居らんのかの?」
誰でもない天井にそう語り掛けるのだった。
*
ここまで読んで頂きありがとうございます。
初の試みとして視点の違うサブストーリーを書いてみましたので読んで頂けると嬉しいです。
サブストーリーに関してはカットしようかと思った個所なのですが
あった方が本筋がわかりやすいのかな? 面白くなるかも?
そう思いカットせずに乗せてみました。(お陰で少し長くなってしまってすみません)
今後もサブストーリーの出番があると思いますので見かけましたら
読んで頂けるとより嬉しいです。
ブクマや高評価、感想お待ちしています。新野が喜びます。