非力じゃなきゃ折れてしまうほどの恐ろしい一撃は非力ながら従妹の報復でした。
簡単日記
タイムセールで安売りになる豚肉を買いに行きました。
結局買えずに同級生の上市 英梨に会いました。
上市から豚肉を分けてもらい家に向かっています。
家に着くと俺は戸を開けて居間に向かった。
「ただいま」
俺はなんて事の無い気の抜けた調子で居間に入ると「おかえり~、ひっろ君~」佳奈姐が上機嫌な様子で俺に抱きつこうとしてきたのを軽くかわす。
「も~相変わらず、ノリが悪いな~宏君は」
佳奈姐は不満そうに頬を膨らませるが俺はスルーし「今から夕飯作るから」と言って居間と繋がっている台所に行こうとしたとき、ラファが一人で真剣にテレビゲームをしている姿が目に入る。
「(烈拳でもしているのか?)」
そう思いテレビに目をやるとゲームが映し出されている画面を軽く見た後、……二度見した。
テレビの画面に映っていたのは、いかつい男達によるバトルではなく、明らかにテイストの違うフワフワとした可愛い女の子たちだった。
「佳奈姐、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
俺は佳奈姐を小声で呼ぶと「なになに?」と言って近寄って来たのでラファに聞こえないように小声で確認してみる。
「俺の見間違えじゃなければ、ラファがやってるのってギャルゲーだよね?」
「そうだよ、見たまんま、誰がどう見ても正真正銘ギャルゲーだよ?」
佳奈姐も俺と同じように小声でそう返してくる。
「……俺の知る限りラファの持ち物にギャルゲーなんて、無かったはずだけど?」
「そりゃあ、あれは私のだからね~」
俺はそれを聞いてため息を吐くと、ジト目で佳奈姐を睨む。
「なんでラファが佳奈姐のギャルゲーをしているのか、説明してくれるよね?」
「そんな目しないでよ、ちゃんと説明するから、宏君が買い物に出て行った後、ラファちゃんと烈拳で対戦したんだけど私が圧勝しちゃって――」
「(まぁ、そうなるだろうな、佳奈姐も一時期、烈拳をかなりやりこんでいたからな)」
「そしたら私がラファちゃんに『これが真のオタクの力さ』って言ったら『どうやったら、わちも真のオタクになれるんじゃ?』って聞いてきたんだよ」
「(無駄にラファのモノマネをしてるし、しかも上手いから、よりムカツク)」
「それなら私がラファちゃんを真のオタクにしてあげようと思って、まずはギャルゲーをやらしているという訳」
「どういう訳だよ!? 一番聞きたいところが省略されすぎてるんだけど!?」
「わかった、わかった、ちゃんと説明するって、なんでギャルゲーを勧めたかって言うとね~、私の中でギャルゲーは真のオタクへの第一歩だと思うんだよね~、ほらっ、最近のラノベとか深夜アニメとかでもギャルゲーって、パロディネタとかにされているし、ストーリー自体も薄……、じゃなくて、わかりやすいものが多いし、操作も簡単だから初心者でもやりやすいし、二次元のキャラ達の恋愛法則とか属性とかもわかるし――」
佳奈姐はその後も自分の持論をどんどん語り始めた。自分で聞いといてなんだがこれは長くなるとだろうと思い、止めてみる。
「わかった、もうわかったから、ただ、あんまりラファに変なこと教えるなよ」
「え~、ギャルゲーにしたのを褒めてほしいぐらいなのに~」
「……一応聞くけど、何で?」
「我慢して、エロゲーをやらせなかったから」
その言葉を聞いて心底ギャルゲーでよかったと思いました。
まぁ、ラファがギャルゲーをすること自体別に悪いわけじゃないし、悪影響も……たぶんないだろうし、すぐに飽きるだろうと思った俺は佳奈姐に厳重注意をすると、夕食を作り始めた。
夕食の準備が終わり、ラファと佳奈姐に伝えようと居間に向かうと何やら盛り上がっている様子。
「すごいよラファちゃん! そのイベントはなかなか一週目じゃ、たどり着けないんだよ!」
佳奈姐がテンション高めでそう言ったのが聞こえてくる。
「なにをそんなに……」
少し呆れながら居間に入った俺はテレビ画面を見ると、そこには二次元の可愛い女の子が脱衣所で裸を主人公に見られるシーンだった。
「ラファちゃんは才能があるね、主人公が幼馴染のヒロインの裸を見てしまうそのイベントはかなりの難易度でさっきの選択肢を――」
佳奈姐がそのイベントの発生方法を語っているが、俺にはそんな事どうでもよかった。
俺が一番気にしていたのはラファのコントローラーを持つ手が怒りに震えているように見えることだ。
「(これはやばい)」
俺は自身に降りかかるであろう危機を察知して静かに居間から出ようとしたが、ラファはそんな俺を逃がさなかった。
「宏直よ、わちはどうやら大切なことを忘れていたようじゃ」
いつもの可愛い声ではあるが怒りの籠った威圧的なラファの声に俺の足は止まってしまい、金縛りにでもあったようにただ冷や汗が滲み出る。
「な、なにか家に忘れ物でもしてきたか?」
「ほぉ~、とぼけるつもりじゃな、お主はこの主人公と同じようにわちの……」
そう言ってラファはコントローラーを手放しスッと立った。
「なになに、まさか、宏君すでにラファちゃんにラッキースケベ決め込んだの~? さすが宏君だね~」
怒っているラファの様子を見て面白がっている佳奈姐は茶化してくるが俺にはそんな佳奈姐の相手をしている余裕なんてものは無く、なんとかこの状況を打破しようと頭をフル回転させていた。
「ま、待て、ラファ落ち着こう、俺がその主人公と同じことをしたと言うなら、その主人公と同じように裁かれるべきだ」
なんとか助かろうと機転を利かせたつもりだったが結果的に訳の分からないことを言ってしまうと、佳奈姐が「それはやめといたほうが……」そう呟いたのをラファは聞き逃さずに床に置いてあるコントローラーのボタンを――そっと押した。
「『この変態ぃぃぃぃ』」
画面の中の女の子はそう叫び、主人公の腹を思いっきり殴り、主人公は意識を失ってしまう。
「(しまった、この手の展開はこうなるのがお約束だった)」
追い込まれていたとは言えこの手のお約束を忘れているなんて、やってしまったと思っていると案の定ラファはニィッと笑う。
「なるほど、そうすればいいんじゃな」
再び俺に近づくと拳を握り大きく振りかぶる。
「ちょ、まっ――」
「このへんたいぃぃぃぃ」
ヤバイ! さっき上市から受けた鳩尾へのダメージが残っているこの状況で追撃をくらうのは危険だと思い、なんとか止めようとしたが俺の言葉はスルーされて裁きの鉄拳が執行された。
「がはっ――あ?」
拳をしっかりと腹に受けたにもかかわらず、なぜ疑問形なのか、それはほとんど痛みを感じなかったからだ。
確かにラファの鉄拳は俺の鳩尾を捉えていた。あの勢いからいって漫画風に言えばアバラの2,3本はもっていかれる勢いだった。それなのに痛みをほとんど感じなかった。
「(手を抜いてくれた?)」
そう思ってラファの顔を見るが、ラファは俺のリアクションが思っていたもの違ったのか不思議そうな顔をしていた。
見る限りどうやら手を抜いたつもりは無さそうだが一応確認を取ってみる。
「えっと、手加減してくれたんだよね?」
俺の言葉にラファの顔が一気に沸点に達したかのように赤くなる。
「ひ、宏直のくせに生意気じゃ」
そう言って俺のことをポカポカと殴り始めるがどれも全然痛くない、どうやらラファは本気で殴っているようだけど、単純にものすごく非力なようだ。
それを『手を抜いた』なんて言われれば煽られているようになもので、それが恥ずかしかったのか悔しかったのかはわからないがムキになってポカポカと殴り続けてくる。
「はぁー、はぁー、今日は、これくらいに、して、やるのじゃ」
ほんの数十秒後には殴り疲れてしまったようで、しまいには肩で息をするラファを見て佳奈姐が笑い出す。
「あははっ、どっかのコントみたいだね」
まぁ、傍から見ればそう見えるだろうけど、俺からしてみれば助かった。もしラファが空手で全国優勝していて電柱とかに拳の跡をつけられるぐらいの人間離れしている女子高校生とか、そうゆう設定だったらかなりやばかった。
「ラファが非力でよかった」
ホッとしたせいか思わず心の声が漏れると、ラファは涙目になりながら「わ~ん、師匠」と言って佳奈姐に抱きつく。
どうやら佳奈姐のことを師匠と呼ぶことにしたらしい。
「どうしたんだい、ラファ太くん、またヒロタダにいじめられたのかい?」
某猫型ロボット風に佳奈姐がそう言ったのを聞いて、またいつもの悪ノリが始まってしまったと俺は落胆する。
「そうなんだよ、助けてよ~カナえもん、ヒロタダをやっつける道具出してよ~」
想像を超える展開になってきた。まさか、ラファが佳奈姐の悪乗りに乗ってくるとは。
「カナえもんってなんだよ、さっき師匠って呼んでただろ」
佳奈姐にツッコミを入れようと待機していたが思わずラファにツッコミを入れてしまう。
「(それにしてもラファの奴、よく佳奈姐の悪ノリについていったな、つーか、少し前まであんなに佳奈姐のことを警戒してたのにいつの間に仲良くなったんだ?)」
二人の仲が急に良くなっていることに驚きを隠せずにどんな魔法を使ったのかと思って佳奈姐のほうを見る。
「ふふふ、それならいいものがあるよ、ラファ太くん」
はいはい、俺のツッコミはスルーですか、そうですか。
何を考えているのかわからないけど居間を出て行った佳奈姐は数分程度ですぐに戻ってくる。
「ぱっぱかぱ~、きんぞくばっと~」
やはりろくでもないことを考えていた。
自分で効果音まで真似て右手に持ったどこにでもあるような金属バットをラファに差し出してくる。
「これで、ヒロタダのアタマをなぐれば、キブン、ソウカイだよ~」
「やった~、ありがとうカナえもん」
「いや、ありがとうじゃないって! というか、そんな物どこから取ってきたんだよ!」
「そりゃあ、三次元物置だよ」
「それ、ただの物置だろ! つーか、何普通に喋ってるんだよ! やるなら最後までキャラを通せよ!」
いつもの地声&テンションに急に戻る佳奈姐に駄目出しをしていると、ラファは佳奈姐から手渡された金属バットを床に引きずりながら近づいてくる。
「ちょ、ちょっと、ラファ、落ち着こう、それで頭殴られたら――」
「問答無用じゃ」
ラファは金属バットを大きく振りかぶる。
「いや、マジで死ぬからぁぁぁ」
ご近所さんに聞こえるんじゃないかと思うぐらいの断末魔のような叫びが虚しく射水家に響いたのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今週もなんとかもう一本投稿出来そうです。
週二本と言わず三本、四本になるように頑張っていきます。
(それより週一本にならないように頑張ります)
ブクマや高評価、感想頂けると嬉しいです。
変わらずお待ちしております。