表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

残念オタクじゃなきゃ惚れてしまうほどの綺麗なお姉さんは残念ながら近所の残念オタクでした。

簡単日記

生活必需品を持って来なかったラファと買い物に行きました。

ラファが服屋で子供扱いされるなど色々ありましたが無事買い物を終えました。

ようやく家で休めると思っていたところ家の中から聞き慣れた悲鳴が聞こえてきました。


 俺は家の中から聞こえてくる悲鳴にうんざりしながら、またかと思っていると、隣にいたラファはまるでホラーゲームをやっているかのように青ざめた表情になっていた。

「ひ、宏直、い、今、家から、ひっ、悲鳴が」

 ラファの声が震えているところからもかなり怖がっている様子だ。

「(まぁ、そりゃあそうだよな、留守のはずの家の中から悲鳴が聞こえてきたら事情を知らない人からすれば怖いよな)大丈夫、あれは俺の知り合いだから」

 とりあえずラファを落ち着かせてから戸を開いて中に入り元凶である居間へ向かうと、そこには親の顔ほど見慣れた光景があった。

 身長は俺より少し低い(170センチない)ぐらいで腰まで伸びたボサボサの長い黒髪でいつもの上下グレーのゆるゆるなスウェット姿、仰向けに寝転がり携帯用ゲーム機「スイット」をプレイしている佳奈姐かなねぇの姿があった。

 ちなみに佳奈姐は近所に住んでいるただのお姉さん、昔からの顔なじみで血の繋がりとかは無いけど年上なので子供の頃から佳奈「姐」と呼んでいる。

「あっ、おかえりっ、宏君」

 いつもの通り自分の家にいるかのようにくつろいだ様子でゲームをしつつ画面から一切目を離さずに当たり前のようにそう言ってきたので、俺は小さくため息を吐いて無駄と思いながらも聞いてみる。

「鍵、掛けてあったはずだけど?」

「今さら何を言ってるの? 鍵なんて私の異能力ちからの前では無力よ」

 急に佳奈姐の中の変なスイッチが入ったらしく中二病っぽいノリでそんなことを言ってくる。正直疲れているし面倒なので無視したいところだが、無視したほうがより面倒なことになるので不本意ながら乗ってあげることにした。

「……どんな異能力だっけ?」

 その問いかけに佳奈姐は待っていましたと言わんばかりにそれまで熱中していたゲームを床に置き、俺に向かって立ち上がる。

「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた。私の右腕にはどんな鍵の能力でも触れるだけで打ち消す、異能の力が宿っているのだ――」

「(鍵の能力ってなんだよ)」

 ガバガバな説明を聞き流しながら俺は心の中でツッコミつつも最後まで一応聞いてみる。

「――その名も、施錠殺しと書いてロックブレイカー」

「パクリじゃねぇか!」

「そのふざけた鍵をぶち壊す」

「ふざけてんのは佳奈姐でしょ、それに鍵が壊れたら修理しないといけなくなるから、ぶち壊すのは佳奈姐の妄想だけにしといて」

「鍵とじょうが交差する時、物語が始まる」

「始まらないよ、始まるどころか普通に住居不法侵入罪で人生終わるよ」

「もぉぉ、宏君は相変わらず、冷たいな~、佳奈お姉ちゃん悲しいよぉ」

 一応言っておくけど佳奈姐は異能も超能力も魔術も使えない、どこにでもいるただの大学生だ。

 暇さえあれば俺の都合なんかは一切無視して予備の鍵を使って家に入り込み、こうやってゲームをしたりアニメを見たりと充実としたオタクライフを楽しんでいる。

 ただ楽しむだけならまだマシだが俺にもゲームやアニメを強要してくる。そのおかげと言うか、何と言うか、アニメのパロディネタにも対応できるぐらい俺も傍から見れば十分なオタクになってしまった。

「宏直ぁ」

 一連の佳奈姐とのやり取りの間ずっと俺の後ろに隠れていたラファが不安そうに背中を引っ張りながら見上げてくる。

「あぁ、この人は――」

 置いてけぼりにしてしまったラファに佳奈姐のことを説明しようとしたんだけど、それよりも先に佳奈姐がラファの存在に気づき俺に迫ってきた。

「ちょ、宏君、何……、その子」

 少し驚いていると言うか困惑してるような様子でフラフラと近づいて来るとまるで研究者が宇宙人を見るような目でラファの全身を舐めるように見始める。

「ひ、宏直ぁ」

 まるで肉食獣に接近されているかのような涙声でラファは怯えながら、俺の背中をより強く引っ張る。

「ほら、怖がってるだろ」

 怯えるラファを守るために間に入ると何故か佳奈姐の体が震え始める。

「か……、可愛すぎるぅぅぅぅ!!」

 いったい何を言うかと思えば、とんでもないテンションでそう叫び出した。佳奈姐のこの異常なテンションは自分のお気に入りの美少女(二次元)を見つけたとき並みのハイテンションだった。

「ちょ、宏君なにこの美少女、どこの二次元から連れてきたの!? って言うか、いつの間に次元の壁を超えられるようになったの!? 私も早く二次元に連れて行きなさい!!」

「おっ、落ち着けって、この子は射水 ラファって言って俺の従妹で色々あってこの家に泊まりに来たんだよ」

 興奮状態の佳奈姐に肩を揺すられながらそう説明したんだが佳奈姐は首を横に振る。

「うそうそ、そんな嘘に騙される程お姉さんは青くないの、こんな色白で金髪碧眼の天使みたいな女の子が従妹で、しかも家に泊まりに来るなんてイベントどんな一級フラグ建築士でもリアルで起こせるはずないもの、だから私は二次元を好きになったのだから!」

「(そんな力説されても)いや、たしかに相当なレアケースだとは思ってるけど、だからって俺が次元を超えてラファを連れてくる方がありえないだろ」

「ありえないことはありえない!」

 強欲な男もビックリするぐらいのドヤ顔である。

「できないことはできない」

 あしらった俺に対して佳奈姐は少し悩むと「うっ、うん」と声を作り始める。

「……私を二次元に連れてって」

 佳奈姐は自分の全力であろう可愛い声で、私を甲子園に連れてって風に少し屈んで上目遣いをしてくる。

「可愛く頼めば連れて行くとか、そう言うレベルの話じゃないから」

 ここまでくると呆れながらたしなめるしかない。

 ここまでのやり取りを見てもらえばこの佳奈姐がどれほどダメ人間なのかはわかると思うけど、俺の容姿を寸評するぐらいには悔しいが顔やスタイルは整っている。

 あんなズボラな服装でファッションや容姿には全く興味がないどころかそんな物にお金を使うぐらいなら二次元に使うと言い切る佳奈姐なんだけど、そんな状態の佳奈姐でさえ容姿だけで言えば少なくとも俺が今まで会った女子の中でも指五本には確実に入る。

 つまり何が言いたいかと言えばあんなあざとらしい仕草や声でも少し――いや、ほんの少しぐらいは可愛いと思ってしまうぐらいには無駄に容姿がいい。

「ま、まさか、言葉じゃなくって、か、体で、って言うこと!? いつの間にそんな三下が言うような台詞を言うように……、くっ、仕方ない仲間(二次元)のためなら――」

「脱ごうとするな!」

 顔を赤らめながら言った言葉とは裏腹に躊躇なくスウェットを脱ごうとしたので、全力で止める。

「そっか、そっか、宏君は脱がせるほうが好きだったね~」

 そんな意味深なセリフを意味ありげな笑顔で佳奈姐が言ったせいでラファが本気にしたのか若干引きながら『そ、そうなのか?』と俺に聞いてくる。

「そんなわけないだろ、ったく、佳奈姐が変なこと言うからラファが本気にしただろ」

困っている俺を見て佳奈姐は笑いながら「ごめん、ごめん」と言って謝って来た様子から、どうやら一通り満足したらしい。

 とりあえず俺はラファのことや今の状況などを説明する。

「なるほどね~、前々から宏君に従妹がいることは聞いていたけど、この子がその従妹ってことね、その従妹のラファちゃんがはるばる日本のこんな田舎まで家出をしに来たと」

 俺と向かい合い座って話し終えた佳奈姐が腕を組みながら納得するように顎を上下に振る。

 そんな佳奈姐を見ていたラファは相変わらず警戒しているようで俺の後ろに隠れたまま顔だけ出して「家出ではなく、国出じゃ」と言った。

「くにで?」

 当然僕たちのやり取りを知らない佳奈姐には何のことか分からないからそう聞き返すよな。

「わちの場合は家どころか国を出て来ておるから国出じゃと宏直が言ったんじゃ」

 何故かドヤ顔のラファを見て佳奈姐はニヤッと笑いながら俺に視線を向ける。

「ふ~ん、うまいこと言うんだね~」

「絶対、小馬鹿にしてるだろ?」

「全然シテナイヨ~」

 ニタニタとした笑みを浮かべる佳奈姐はわざとらしい棒読みで返してきたので(馬鹿にしてんじゃねぇか)なんて思っていると、佳奈姐からまともな質問が飛んでくる。

「それじゃあラファちゃんはいつまでここに泊まるつもり? わざわざここまで来たんだから一日二日じゃないんでしょ?」

「それは……」

 ラファは俺のほうをチラッと見るだけでそれ以上は何も言わない、どうやら家主である俺に何の許可も取っていないから変に気を遣っているようだった。

「(急に押しかけて来たわりにこう言うところはなんて言うか常識的なんだな、いや、俺が聞かされてなかっただけで本来ラファは事前に許可を取って来ているわけだから意外と常識的なのか)……泊まりたいだけ泊まっていけよ、俺は追い出したりしないから」

 そういう訳なら俺が無理やり追い返すってのも違うだろうし、そもそも頼れる人も近くにいないこの状況のラファを追い出す勇気を持ち合わせてないだけなんだけど。

「フゥー、宏君、かっこいいこと言うね~」

「茶化すな」

「いやいや、今のセリフを二次元のイケメン君に言ってもらえたら、私は悶絶死するぐらいのかっこよさだよ」

「全然、褒められてる気がしないんだけど」

「私の中では結構な賛辞のつもりなんだけどな~、ラファちゃんはどう思った?」

「わ、わちは、なんとも……」

 突然フラれて驚いたのか少し顔を赤くしたラファの言葉を聞いて、佳奈姐はまた楽しそうにニヤニヤし始める。

「ふ~ん、なるほど、なるほど、ラファちゃんのことは大体、わかってきたよ~」

 佳奈姐の言葉にラファは何も言い返さずに顔を逸らしたままだったので、俺が代わりに聞いてみる。

「今のやり取りで、何がわかったって言うんだよ?」

「ああ、そゆこと……なるほどねぇ、まぁ、宏君にはわからないでしょうね~」

「――あっそ」

 完全に理解したと言わんばかりの顔の佳奈姐は皮肉っぽくそう言ってきたので俺は不満そうに素っ気なく返す。

 こういう時に意地になって無理に聞き出そうとしても余計に小馬鹿にされるか徒労に終わるかのどちらかしかないのは経験則でわかっている。

「そう言えば私は宏君からラファちゃんのこと教えてもらったけど、私のことはラファちゃんに話したりしたの~?」

「いや、してないけど」

「それじゃあ、自己紹介でもしようかな~、私の名前は蛍衣 佳奈(ほたるい、かな)今年で大学四年生22歳のピチピチなお姉さんで趣味はゲームやアニメなどの二次元全般、よろしくね~、ラファちゃん」

 佳奈姐は笑顔で手を差し出したのでラファは怖がりながらも握手をすると、まるで罠に掛かった獲物を狩るように佳奈姐がニヤッと笑った瞬間グッとそのまま手を引っ張ってラファを引き寄せて抱きしめる。

「はぁ~、ラファちゃんは可愛いね~、うわっ、めっちゃいい匂いするぅ、ああマジ天使だわぁ」

 幸せそうなデレ~とした顔でラファの頭を撫ぜ始めると、すぐにされるがままのラファが「う~」と言いながら俺のほうへ明らかに助けを求めている顔を向けてくる。

「はいはい佳奈姐、ラファが嫌がってるだろ、ほら離してあげなって」

「いや~、ラファちゃんは私の嫁~」

 全くもって離そうとしなかったので、困った俺は説得を諦めて仕方なく最終兵器として佳奈姐のおでこに軽くデコピンする。

「あうっ」

 佳奈姐はおでこを押さえその場でしゃがみ込みラファを離したので、拘束から解き放たれたラファはすぐさま俺の後ろに隠れた。

 佳奈姐は膝から四つん這いに倒れ、「うっう」とバレバレの嘘泣きを始めている。

「ヒドイ、暴力を振るうなんて、宏君のことを弟のように可愛がってきたのに~」

「ははっ、まさか必殺技の練習として俺になんとか~キックとか、ゴムゴムの~とか言って、ふざけて殴る蹴るをするだけならまだしも、しまいには腕ひしぎ十字固めとか、ガチの関節技の練習台に俺を使っていた近所のお姉さんにデコピン程度を暴力と言われるとは思わなかったなぁ」

 なんとも思い出したくもない過去の話だ、そりゃあ乾いた笑いも自然と出る。

「ま、まぁ、昔のことは置いておこうよ、あ、そうだ、そろそろ宏君、買い物に行かないとヤバイ時間じゃないの~?」

「まだ、そんな時間じゃ……、あっ」

 苦し紛れに話を逸らしただけだと思ったが、時計を見るともうすぐ午後五時を回ろうとしていた。

「もうこんな時間だったのか、夕食の買い物に行かないと」

「烈拳、烈拳はどうするのじゃ、帰って来たら、わちと烈拳3をすると言っておったじゃろ?」

「そうだけど……」

 約束を守りたいのは山々だけど時間的に烈拳をしている余裕は無い、なぜなら急がないとスーパーのタイムセールが始まってしまうからだ。

 ウチは経済的に余裕があるわけじゃない、生活費は振り込んで貰っているけどいつもギリギリなので出来るだけ食費は抑えたい。

 約束を優先すべきか家計を優先すべきか困っていると佳奈姐がスッと立ち上がる。

「烈拳!? 烈拳ってあの格ゲーの? ラファちゃんって烈拳出来るの!?」

「……当然じゃ」

 ラファは佳奈姐を警戒しながらもオタクのプライドが勝ったのか、そう答えると佳奈姐のテンションが上がる。

「ホント!? だったら私とやろ~よ、私は強いよ~、宏君なんて私の足元にも及ばないんだから!」

 本来このオタク二人が出会うと面倒なことになると思っていたけど今だけはこの流れはチャンス、……まぁ、人見知りのラファは嫌そうだけど。

「それじゃあ佳奈姐、ラファのことは頼むよ、俺は買い物に行ってくるから」

 自然に流れるように居間を出ようとしたがやはり「待つんじゃ、宏直ぁ」ラファがそんな不安そうな声で俺を止めてくる。

 まぁ、たしかにラファと佳奈姐を二人きりにすると佳奈姐が暴走してラファに何をするかわかったもんじゃないからな、とりあえず釘は刺しておこう。

「佳奈姐、ラファに変なことするなよ」

「わかってるよ~、お姉ちゃんにまっかせなさぁい」

 妙に姉ぶりながら自信満々な様子だったので、とりあえず信じることにした俺はラファの説得を試みる。

「佳奈姐は見た通りかなり変人かもしれないけど、悪い人じゃないことだけは確かだから」

「……うむ」

「帰ってきたら、ちゃんとゲームの相手をするから、な?」

「……絶対じゃぞ?」

「あぁ、絶対だ」

 俺の言葉に小さく頷いたのでラファの相手を佳奈姐に任せて、俺はスーパーへ出かけた。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

今回は少し長くなってしまいました(平均3500字狙い)

二つに分けようかとも思いましたが内容的にまとめた方がいいと思いこの形に。

今週も二話分投稿する予定でしたが今回長めだったので厳しいかもしれません。

出来るだけ頑張りますので応援のほどよろしくお願いします。

ブクマや高評価、感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ