従妹じゃなきゃただのショッピングデートだと言われるほどの相手は残念ながら俺の従妹です。
簡単日記
ラファがガチゲーマーと確定しました。
ラファが着替えなどの生活必需品を持っていないので
買い物に行くことになりました。
そんなこんなで、まずは着替えを買いに近くのファッションセンター『しまうら』に来たのはいいが、大事なことに気づく。
「聞くのを忘れていたけど、ラファってお金持ってるよね?」
「当然じゃ、持ってなければどうやって、ここまで来たと言うのじゃ?」
「そっか、それもそうだよな」
フランスから日本に来るには飛行機で来ているだろうし、こんな田舎まで来るには電車かバスを使っているだろう、当然ご飯も食べているだろうからお金を持っていないはずがなかった。
「それじゃあ、俺はラファが服を買い終わるまでここで待っているから」
「……一緒に来てくれんのか?」
「いや、俺が一緒にいると、その……、買いづらいものとかあるだろ? し、下着とか」
「そ、それは……、そうじゃが――」
「えっ? 最後の方聞こえなかったんだけど?」
そのあとはボソボソと喋ったので聞き取れずにそう聞き返すと俯いていたラファは勢いよく顔を上げる。
「寂しいと言ったんじゃ!! わちがここまで来るのにどれだけ一人ぼっちで寂しかったと思っておるんじゃ……、少しぐらい一緒に来てくれてもよかろう……」
最初の勢いは何処へやら、今にもグスグスと泣き出してしまいそうな様子になっている。
どうやって宥めればいいのかわからずにアタフタしていると複数の視線を感じる。どうやらラファの声に周りにいたオバ様たちが反応したようで俺たちの方を見てこそこそと話をしていた。もしこの状況でラファが泣き出そうものならあらぬ疑いをかけられかねない。
「わかった、わかったから、一緒に行くから泣くなって」
「な、泣いてなどおらぬわ!」
零れそうなほど目に涙を貯めたラファは背を向けて涙を拭う、その様子を見て俺はやれやれと思いながらもなんとか窮地は脱したようだ。
「――そうだな、ラファは泣いてなかったな、許してくれ」
「……許す」
ラファは少しむくれながらも歩き出したので俺はそれについて行こうと歩き出す。
「ありがとう――」
「えっ? ラファ?」
「な、なんでもないのじゃ、ほれ、早く行くぞ」
聞き間違えじゃなければ感謝されたらしい、見た目通り子供っぽいところもあるけど、そう言うところはちゃんと年相応らしい。
早歩きになったラファを追いかけて、しばらく店内を歩いていると、ラファは一着のワンピースを無造作に手に取った。
「これを試着するから、前を見張っておれ」
ラファはそう言って近くの試着室に入っていった。
「(前を見張る? それって、試着室の前を見張るってことだよな? 心配しなくても誰も覗かないって)」
そんなことを思いながらも忠実な犬のように言われた通り試着室の前で飼い主様を待っていると試着室のカーテンが開き、そこには薄い水色のワンピースに着替えたラファがチラチラとこっちを見ていた。
「どうか・・・の?」
その恥じらう仕草も含めて正直言って可愛い、さながら少し儚げなお嬢様と言った感じだ。
「――え、えっと、服のことはよく分からないけど、似合っていると思う」
ラファのその姿に一瞬見惚れてしまった俺は取り繕ったかのようにありきたりな感想を返すとラファはヒマワリの花が咲いたかのような笑顔になる。
「そうか! 似合っておるか、うむ、それならこれを買うとしよう」
「ちょ、そんな簡単に決めていいのか?」
「いいんじゃ、わちは別にこういうのはこだわらんのじゃ、さてもう一着ぐらい選んでくるかの」
元の服に着替えて出てきたラファは、鼻歌交じりにスキップをしながら残り一着を五分も掛からずあっさりと選んで試着したが、こっちも驚くほど似合っていたのでさっきと同じような流れを繰り返し、あっという間に服選びは終わった。
彼女いない歴=年齢の俺にだって女子の買い物は長いということぐらいは知っていたのである程度覚悟していたけど、拍子抜けするぐらい即断即決だった。
さてさて、次は最大の関門だ。下着を選びに女性用下着コーナーに来ていた。
「(……居づらい)」
正直な感想だった。男の俺にとっては完全アウェーだし、なにより従妹とは言っても女子の下着を一緒に見て回るなんて俺にはハードルが高すぎる。
「(つーか、この状況周りにはどう見えてるんだ? 140センチぐらいの小さい少女と高校生ぐらいの青年が二人で女性用の下着売り場に居るんだよな? 良く見えて二人は仲の良い兄妹で兄が妹の下着選びを手伝っているってとこだな、悪いほうは……、考えたくもないな)」
良くて妹の下着選びを手伝う兄と言う時点で結構アウトな気がするところから見ても今の俺の状況はかなり危機的なのだと理解した。
「(とりあえず、ラファを刺激しないように少しずつ距離をとらなければ)」
「ん? 宏直よ、なに勝手に離れておるんじゃ」
「(気づかれた、なんとか、うまく言い逃れないと)あ、あのさ、俺が近くにいると、やっぱり選びにくいだろうから少し離れていたほうがお互いにとっていいと思うんだけど?」
「――そ、そうじゃな、それなら10メートルぐらい離れておれ」
白の下着を手に取っているラファを指差した俺に対してラファは頬を赤らめ手に取っていた下着をすぐに元の場所へ戻してそう言ったので、一安心しつつラファから離れ始める。
「よいか、わちが見えるところにおるんじゃぞ、絶対じゃぞ」
お笑いで言うところのフリにしか聞こえないほど念押ししてくるので少し笑ってしまいそうになりながらも「わかってるよ」と返して言われた通り10メートルほど離れたところにお互いの位置が見える休憩用のベンチがちょうどあったのでそこに座っていると、ラファがチラチラとこっちを見ているのに気づいた。
「(どれだけ心細いんだよ……とは言っても俺がラファと逆の立場だったら……そう考えるといくら日本語がそれなりに話せるとは言っても俺以外知り合いがいないというこの状況じゃ、たしかに心細くもなるか)」
俺の場合はフランス語も話せない状態で町のお店に一人っきりって考えると人のこと笑えないよな。
そんな恐ろしいことを想像していると、一人の女性店員がラファに近づいてきていた。
「おいおい、大丈夫か?」
俺がそう心配になったのはラファが人見知りだからだ。
昔は初めて会う人とはまったく話せなくて、ずっと俺の後ろに隠れていたこともあった。
それでも10年前の話だしもしかすると克服してるのでは? と言う儚い期待は一瞬で砕け散ったようで、30代前半ぐらいの女性店員に話しかけられたラファは俯いたまま話している様子もない。
「やっぱり駄目そうだなラファの奴、――それにしてもすごいな、ラファに声をかけるなんて」
ラファはハーフで日本語もそれなりに話せるとはいえ、傍から見れば外国人にしか見えない、そんなラファに話しかける人なんて英語が話せる人か、春休みに浮かれていたバカな男子高校生ぐらいしかいないだろう。
なんて自虐的なことを思っていると店員の声が辛うじて聞こえてきた。
「――えっと、お譲ちゃんにはまだ早いと思うなー」
俺はその声を聞いて思わず吹き出してしまった。
どうやらラファは子供と勘違いされているらしい、まぁ、あの身長だしラファの顔って少し童顔だから小学生ぐらいに思われても仕方ないんだが、
ラファは俺が吹き出して笑ったことに気づいたようで『う~』と俺を睨みつけていた。俺は何とか笑いを堪えながら、ラファの手元を見るとブラジャーを持っているのが見えてしまいさっきの言葉がどう言う意味かを完全に理解してしまい、込み上げてくる笑いを我慢するのに必死だった。
「お譲ちゃんだと、この子供用の――」
それ以上聞くと絶対笑ってしまうと思い、耳を塞ぎ、目を伏せて、必死に笑うのを堪え続ける。
「イタッ」
数分経ったあと、いきなり髪が引っ張られた痛みに襲われ顔を上げると俺の目の前には静かな怒りに満ちた様子のラファがいた。どうやらあの店員をなんとかして下着を選び終えたらしい。
「さっき、笑っておったな?」
ラファは数本引っこ抜いた俺の髪をパラパラと床に落とした。
目が一切笑っていないラファの表情を見て(ああ、これ、ガチギレだな)と恐怖を感じ思わず目を逸らす。
「い、いや、そんなことは……」
「わちの目を見て言ってみよ」
恐怖に怯えながらなんとかラファの顔を見るとジト目で俺を睨んでいた。
「うっ、すいません」
これ以上言い逃れをするのは危険だと判断した俺は観念して謝ると『んっ』と言ってラファは持っていたカゴを俺に向かって突き出す。
「罰としてこれを買ってくるのじゃ」
俺はその言葉に対して肩を落としながら「はい」と力なく答えカゴを受け取りレジに向かった。
服を買い終わり左手には荷物を持ち、右手に持っているレシートを見返して俺は大きいため息を吐いた。
「(女子の服がこんなに高いとは知らなかった)」
昨日たまたま春休みを満喫するために少し多くお金を下ろしていたからギリギリ払えたけど、これで俺の春休みは……。
あまりに高すぎる勉強代に肩を落としているとレジの近くで待っていたラファが近寄ってきた。
「終わったのか?」
「あぁ、終わったよ、俺の春休みも」
気を落としながらそう言ってみたがラファには俺の財布事情など知る由もないのでただ首を捻る。
「ん? 新一郎に電話したときは、たしか今日から宏直の春休みが始まるから今日を狙って行けばいいと言っておったんじゃが? もう終わったのか?」
「いや、いいんだ、とにかく帰ろう」
「う、うむ、そうじゃな、早く帰って烈拳をやらねば」
ラファは少し不思議そうにしていたが烈拳のことを思い出してすぐに笑顔になる。
「それじゃあ、帰るぞ」
「うむ」
そうして俺たちは店を後にした。
何事もなくラファと一緒に家の前に着き、俺は家の鍵を開けるため鍵を取り出すと家の中から『ぎゃぁぁぁ!!』と言う女の叫び声が聞こえてきた。
今日一日色々あって正直疲れているこの状況で、ようやく我が家でゆっくり休めると思ったのに、どうやらまだまだ休ませては貰えないようです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
これからの投稿ペース的にもこれぐらいを想定しています。
文字数もこれぐらいがベストじゃないかと思っています。
基本的に(文字数もペースも)上がることはあっても下がらないようには
したいとは思っていますので少しでも面白いと思っていただけた方は
ブクマや高評価、感想お待ちしています。
して頂いた方いつも思っていますがありがとうございます。