回収者じゃなきゃ悩殺されてしまうほどのグラマラス美女は残念ながらフランスからの回収者でした。
簡単日記
ラファとの思い出の場所で思い出話をしました。
ラファに眼鏡を買ってあげました。
何故か自宅でシャワーを浴びている美女が居ました。
私事で大変申し訳ないんだが――以下略。
もはやテンプレ化しようとしているこの状況だが、端的言うとスタイル抜群な金髪碧眼の美女がシャワーを浴びているんだが、勿論ラファではない、いや、別にラファがスタイル抜群じゃないからと言う訳じゃなく、居間で一緒に美女がシャワーを終えるのを待っているからだ。
美女とお風呂場で会ってから何があったかというと少しだけ時を遡る。
「ボンジュール、ヒッロ、久しぶりですねー」
そんな典型的な外国人なまりの日本語で挨拶してくる全裸の美女は、俺に裸を見られているというのにまったく気にする様子もなく手を振ってくる。
「えっ、いや、えぇぇぇぇ!?」
さすがにこの状況だとそんな平凡なリアクションしか出来ない、そろそろ慣れてもいいかもしれないがこればかりは慣れないわけで俺は状況が理解できずにそう叫ぶしかなかった。
「い、いつまで見ているんじゃ、この変態が!」
御もっともなんだが、言い訳させてもらうと別に美女の全裸が見たいわけじゃなく(いや、正確には見ていたいけど)色欲的な物よりも驚きのほうが強くて硬直しているだけ……とは言ってみたが、いざ後ろからラファに目を隠されると……いえ、何でもありません。
「えっと、ラファ?」
「いいから宏直はそうしておれ、ママンも早く戸を閉めるのじゃ!」
「お~、それは残念ですね~、もっとヒッロのおもしろい反応を見たかったのに」
ラファにママンと呼ばれた美女は残念そうにそう言うと戸を閉める音が聞こえ、それと同時に視界が回復した。
「ラファ、いったい――」
「説明はするがここではなんじゃ、居間に行くぞ」
「……わかったよ、ん? 居間に行くんじゃないのか?」
俺は立ち上がり居間に向かって歩き出そうといたが、ラファは立ち上がろうとしない。
「それがの、あまりに驚いてしまったせいか、腰が抜けて……」
そう言えばこっちが心配になるほど驚いていたな。仕方ないと俺は一つため息を吐いて、ラファに近寄り腰を下ろした。
「おぶってやるから」
「うむ」
ラファはそう言うと俺の背中に乗ったので、俺は立ち上がるとそのままラファをおぶって居間まで歩いた。
そうして現在に至るという訳なんだが……なんて切り出そうか考えている内に数分が経ってしまい余計に話を切り出しにくくなっている、何せ従妹の母の裸を従妹と一緒に見たわけで、それが気まずくないわけがないわけで……それでもさすがにこのままラファから話してくれるのを待つわけにもいかないと思い、思い切って確実にわかることから聞いてみる。
「あの人って、まさかとは思うけどフルール叔母さん?」
フルール叔母さんというのはラファのお母さんのことなんだけど、それまでは少し神妙な顔つきだったのにフルール叔母さんの名前を出した瞬間からムス~っと不機嫌になる。
「……そうじゃ、よくわかったのぉ、わちのことは一目ではわからなかったのにのぉ」
「いや、だってラファがママンって言っていたし、ラファと違ってフルール叔母さんは昔と全然変わってなかったからな」
フルール叔母さんはもうアラフォーのはずなのに、俺の記憶に残っていた昔のフルール叔母さんとほとんど変わらずに美人なまま(まぁ、さすがに若干の小じわはあったけど)だった。
「なに鼻の下を伸ばしておるんじゃ!」
「べ、別に伸びてないって、それよりなんでフルール叔母さんが俺の家に居て、しかもシャワーを勝手に浴びているんだよ!」
「なぜシャワーを浴びていたのは知らんが、ママンがここに来たのは――」
ラファの言葉を遮るように居間の戸が勢いよく開き、開いた先にはシャワーを終えて髪をタオルで拭きながら立っているフルールさんが居た。
当然のことだがちゃんと服は着ていた(ちょっと残念とか思ってない)。
「そこから先はワタシが説明するよー」
フルール叔母さんはテンション高くそう言った。昔からラファと違ってテンションが高いというか、何をするにも前向きというか陽気と言うか、そう言うところも変わってないようだ。
「フルールおば――」
「ヒッロ、ワタシはオバサンじゃ、ないよね」
あからさまに俺の言葉を遮り、それまでの笑顔は何処に行ったのか鋭い目つきと圧力のこもった声に俺は怯みながらもこれ以上機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。
「で、ですよねー、フルール……さん?」
「ですよー、よくできましたね、さすがはヒッロでぇす」
怒らせちゃいけない部活の先輩を相手取るかのように慎重に探り探り答えを絞り出すと正解だったのかフルールさんは笑顔になる。
「な、なぁラファ、昔はフルール叔母さんって言っても怒ってなかったよな?」
「年齢も年齢じゃから余裕がなくなってきておるのじゃ」
俺は少し苦笑いをしながらラファに耳打ちをするとラファも小さな声でそう返してくる。
「なにをコソコソ、二人で話をしているのですか? ワタシの年齢のことだったら、お仕置きしますよ」
「い、いえ、そんなことは……、それよりフルールさんが家に来た理由って?」
「あー、そうですね、まだ言ってなかったですね、簡単に言うとラファを回収するために来たんです」
「えっ! 回収って……それってラファを連れて行くってことですか!?」
「おー、そういうことでぇす」
「そんな急に……ラファもなにか言って……ラファ?」
急な別れの宣告に動揺する俺とは違い、ラファは俯きながら何も言わなかった。まるでこうなることを知っていたかのように。
「ヒッロ、勘違いしないでください、ワタシはラファを無理やり連れて帰る悪役と言うわけじゃないんですよ」
「それって、どういうことですか?」
「ワタシはラファが家出したことを怒っていません、むしろ協力したのです」
「協力?」
「……ラファがフランスでどういう生活を送っていたか聞きましたか?」
「いえ、ほとんど何も」
「そうですか、ラファはフランスでは日本でいうところの高校に馴染めずにずっと家に引きこもっていたのです」
それは衝撃の事実のはずだった。普通ならもっと驚くところだろう、それでも想像よりも驚かなかったのはきっと心のどこかでわかっていたからかもしれない。
「(心当たりがないわけじゃない、友達と遊んだことがないと言っていたし、もしかしてとは思ってはいたが)そうでしたか」
俺は隣にいるラファを見る。
一応本人の口から聞きたいかったのだが、ラファは何も反論しようとしなかった。不登校であることを誇らしく胸を張ることもなければ嘘をつくこともなく、否定することもない、少し情けないと言った様子で昔のラファに戻ったかのように俯いていた。
「そんな生活を見てワタシは何か出来ないかと考え、少し息抜きのつもりで『どこか行きたいところはない』と、ラファに聞いたところ、『日本、宏直の家!』と、あまりに目を輝かせて言うものですから、これはラファにとって薬になる。そう思って色々準備したんです、飛行機のチケットやヒッロの家までの道のりを書いた地図とか、こちらでの宿泊許可とか色々大変でしたけど、一番大変だったのは新次さんの説得です」
「(あの雑な地図、フルールさんが書いてたのかよ)新次って、叔父さんの説得ですよね?」
「はい、そうです。新次さんは何日もラファが家を空けるのを認めてくれそうになかったです。親として娘を手の届かないところに行かせたくない、心配だと思うのは当然です、ワタシだってその気持ちはあります。それが例え、信用できる親せきの家とはいえ……。それでもワタシはラファにとってこれは必要なことになると思って説得を続けましたが……」
「ダメだったんですか?」
「そうです、結局話は平行線のまま、仕方なくラファは近所の友達の家に泊まっていることにして家出を手伝ったのですけど、遂にバレちゃいまして、仕方なくラファを回収しに来たのですよ、元々騙せるのは一週間ぐらいだと思っていましたから、最初からそれぐらいに迎えに行くとラファには言っておきました」
「そうなのかラファ?」
ラファは小さく頷いた。
本当は帰りたくないと、連れて行かれるのは嫌だと言ってほしかったのかもしれない、それでも力なく仕方がないと言った様子のラファを見て、俺はなにも言えなかった。
今になって思えば、タイムリミットを知っていたから今度じゃなく今日遊びに行きたいと言ったんだ。だから大好きなアニメやゲームショップじゃなく、思い出の場所に行きたいなんて言ったのか。
「さて、そう言うことです、ラファ、早く荷物をまとめて来なさい」
フルールさんがそう言うと、ラファは無言で立ち上がり自分の部屋へと向かっていく。
その際の階段を上がる音が心なしか小さく聞こえたのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
物語的にも正念場となっていきます、気合入れて書いていきますので
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