従妹じゃなきゃ彼女に見えてしまうほどのゲーム脳美少女は残念ながらただの従妹でした。
簡単日記
佳奈姐の悪ふざけに付き合ったラファに起こされました
ラファが衝動的にスマホを壊してしまいました
いつもとは違う可愛らしい服装のラファに驚きながらも一緒に遊びに出かけました。
「それで、どこか行きたいところはあるのか?」
「腹が減っては戦が出来ぬと言うからの、まずは腹ごしらえが出来るところじゃな」
「俺も腹減ってきたしそうするか、じゃあファミレスでいいか?」
「ファミレスではダメじゃ、う~んと、なんて言ったかの、たしか……きっちゃ店じゃったか?」
「ん? 喫茶店か?」
「そ、そうじゃ、喫茶店じゃ、そこに行きたい」
「まぁ、別にいいけど」
あれ? そもそもラファはファミレスに行きたいから昨日怒ってたんじゃ? まぁ、俺としてはどっちでもいいけど。
てっきり今の流れはファミレスに行くものだと思っていた俺は少し腑に落ちないまま、言われた通り喫茶店へと向かい、店に入る。
なんてこともないどこの町にもある普通の喫茶店、まぁ、田舎にある喫茶店何てどこも似たようなものだし、ほとんど全国展開しているチェーン店だからとくに目新しいと言う訳でもないが、普段から喫茶店に行き慣れていない俺にとっては少し緊張してしまう。
入り口近くの席が空いていたので俺たちは向かい合って席に着く。
「まだ空いていて、よかったな」
「なんじゃ、この店はそんなに込むほどの有名店なのか!?」
「いや、そういうわけじゃないよ、単純にここら辺は飲食店が少ないから昼になると大抵の飲食店は込むんだよ」
「なんじゃ、そういうことか」
有名店に来られたと思ったのか目を輝かせていたラファは少し落ち込みながらも置いてあったメニュー表に目を落とす。
「ほぉー、この喫茶店にはこんなにたくさんのメニューがあるんじゃな」
「別にこれくらい普通だぞ、喫茶店に来たいって言った割には喫茶店の知識はほとんど無いんだな?」
「むぅ、わちの知っとる喫茶店は大体メニューの選択肢が3~4じゃったんじゃ」
「(3~4? あ~、なるほど、ギャルゲーで喫茶店を知ったのか)つーか、フランスにも喫茶店ぐらいあるだろ?」
「何を言っておるんじゃ? 喫茶店なんぞ、フランスにあるわけなかろうが」
「いや、たしかに喫茶店って言い方はしないだろうけど、カフェはあるだろ?」
「む? 喫茶店とカフェは一緒なのか?」
「厳密に一緒って言う自信は無いけど、まぁ一緒みたいなもんだ」
「なんじゃ、そうなのか、ま、まぁ、なんとなく、そうじゃないかとは思っておったがやはりそうじゃったか」
「(絶対気づいてなかったな)よくそんなんで喫茶店に行きたいと思ったな?」
「それは……、定番じゃからの」
「定番? なんのだ?」
「わ、わちはナポリタンにするのじゃ、は、早く宏直も選ばぬか」
俺がそう聞くとラファは顔を赤くして「う~」っと唸り、広げたメニュー表で自分の顔を隠しながら、俺の質問を完全にスルーして注文するメニューを宣言してくる。
「(喫茶店でナポリタンを注文するのが定番ってことか?)分かったよ、じゃあ……」
俺たちはそのあとも何気ない会話をしながら注文したメニューを食べきり、満足げに喫茶店を出ていた。
「おいしかったな」
「うむ、わちは大満足じゃ」
なんてこともない普通の昼食、特別こだわって作っているとも思えない物ばかりだったが、それでも満足げに相も変わらず反則級のかわいい笑顔を向けてくるラファを見てついつい俺も顔が緩んでしまう。
「さぁ、これからどうするかな、ラファはどこか行きたいところとかあるのか?」
「バッチリ予習済みじゃ」
ラファは親指を立てて得意げな顔でそう言うので元々ノープランだった俺はラファに任せることにする。
「でっ、どこに行きたいんだ?」
「うむ、図書館じゃ」
「図書館? なんで図書館なんかに?」
「なっ、なんでと言われても……、い、いいから早く図書館に行くのじゃ」
「はいはい、分かったよ」
あまり気乗りはしないが行きたいと言うなら仕方ないので、俺は言われるまま近くの図書館にラファを連れて行った。
「う~む、なんと言うか……」
ラファは図書館に入るなり明らかに気落ちしている様子で立ち止まる。
「思っていたのと違ったか?」
「うむ、もっとこう、広い部屋に本がズラーっと並んでおるのを想像しておったのじゃ」
ラファがそう思うのも無理はない、この図書館は決して広いわけでもないし、本の種類も多いわけでもない、はっきり言って設備の整っている学校の図書室よりレベルが低い。
ラファの事だろうからファンタジー物のアニメや漫画によく出て来るような、魔術師たちが使う書庫や貴族たちが使う王立図書館的な物を想像していたんだろうが流石にそんな物はこの辺には存在しない。
「この近くじゃ、ここぐらいしか図書館はないからな、我慢してくれ」
歩いて行ける距離にはこの図書館しかないためそう言うと、俺は適当にミステリー小説を手にとって席に座る。
ミステリーが特に好きと言う訳でもないが春休みにわざわざ図書館に来てマンガを読むなんて格好の付かないことをする勇気が無いだけで、簡単に言えば格好をつけているだけなんだけど。
期待もせずにパラパラとページをめくっているとラファも本を選んできて俺の隣の席に座る、横目でラファが何の本を持ってきたのか見てみると、なにやら小難しい文章がズラーっと並んでいた。どうやら日本史の本のようだったが、わざわざ図書館に来てまで見るような本なのかとも思ったが、何か理由があるのかもしれないと思い、何も言わずに自分の小説に目を移した。
何だかんだ適当に取った小説にしては導入が面白く読み進めていたが、元々小説をそれ程読まないからか小一時間ぐらい経ったところで集中力は途切れてしまう。
あれから一言も喋って来ないのでそんなに面白いのかと思い、ラファの様子を見てみるとわかりやすい異変に気づいた。
あきらかに揺れていた。
残念ながら胸ではない、そもそも揺れる胸はラファには無い(脱衣所で一瞬見えただけだから断言するのは……いや、無いな)
そうではなく、揺れているのは頭だった。コックリ、コックリといかにも寝る直前のように揺れていたので俺は小声で声を掛ける。
「おい、ラファ」
「え~、もう食べられないよ~、むにゃむにゃ」
「(また、ずいぶんお決まりな寝言を、つーか、寝言のときは語尾が普通なんだな)」
本当は起きているんじゃないかと思い、頬を軽く引っ張ってみたりしたが全然起きる気配がなかった。
一度寝てしまえば起こすのに苦労するのはすでに知っているが、さすがに図書館で大声を出して起こすのは気が引ける。周りには春休みだというのに勉強をしにきている勤勉な学生たちに迷惑をかけるわけにもいかないので、俺はラファをここで起こすのを諦めて本を本棚へと返したあと、ラファをおんぶして図書館を出て近くにあったベンチにラファを座らせて起こすことにした。
「ラファ、起きろラファ」
周りに人もいないのでそれなりに大きい声で呼びかけながら体揺するがラファは起きない、もともと寝起きが悪いし眠りが深いのでこれくらいで起きないのは想定済みだ。
「やっぱり起きないか、仕方ないアレを使うか」
俺はスマホを取り出して耳元でラファの好きな烈拳のOPを流した。
この前、居間で居眠りしていたラファに気を使うことなく佳奈姐が居間で烈拳をやり始めたら、スッとラファが起きたのを見て、これは使えると思い、一度試してみたら思いのほか上手くいったのでそれからはラファを起こす秘策として使っている。
徐々に音量を上げていくとそれと連動するようにラファの瞼が動き始め、スッと目を開けると「こ、コントローラー」と寝ぼけながらも手探りでコントローラーを探し始める。
いくら美少女だからと言ってもゲームのOPを聞いたら咄嗟に体がコントローラーを探すというのはどうなんだろうと、従妹とはいえさすがに擁護できないラファの姿を見て俺は呆れるように音楽を止める。
「ったく、コントローラーを探す前に自分の睡魔をコントロールしたらどうだ?」
「――フッ、今のはいまいちじゃったぞ」
鼻で笑いながら妙に冷静にそう言ってきたので俺はイラッとして、ラファの頬を強く引っ張り上下に揺らした。
「い、いひゃい! いひゃいぞ、ひひょひゃら!」
「起きたか? 起きてないなら、もっと強くするけど?」
「おひておる、おひておるひゃら」
ギブアップを宣言しているかのように頬をつまんでいる手をタップしてくるラファを見て、これくらいにしておいてやろうと思い俺はラファの頬から手を離す。
「う~、痛いぞ宏直」
「ラファがなかなか起きないからだろ、そもそも、なんで寝ていたんだよ?」
「そ、それは退屈で……」
「退屈って、ラファが行きたいって言ったんだろ?」
「それは、そうじゃが……」
意図が読めずに歯切れの悪いラファに思わず俺は一つため息を吐いた。
「だったら何で、図書館に行きたいなんて言ったんだよ?」
「仕方ないじゃろ、ギャルゲーでは定番のスポットだったんじゃったから」
「なんでそこでギャルゲーが出て来るんだよ?」
「わ、笑うでないぞ?」
「笑わないよ」
「……わちは、こうして家族以外と外に遊びに行くのは久しぶりじゃったんじゃ」
「久しぶりって、どれぐらい?」
「10年ぶりくらいじゃ」
「10年!? それって――」
「そうじゃ、わちが最後に遊んだ家族以外の他人は宏直が最後じゃ」
「それって、フランスでは友達とかと外で遊んだりしなかったってこと?」
「……そうじゃ」
「(なんだ、今の一瞬の間は?)」
濁すような誤魔化すようなそんな間に思えてしまい深く聞くべきか迷っている間に、恥ずかしかったのか顔が赤くなったラファが再び話し出す。
「とにかく、わちは他人と遊んだ経験が最近に関してはまったくと言ってもいいほどにないのじゃ、じゃからどこに行けば宏直が喜ぶかわからなかったんじゃ、じゃからギャルゲーの知識に頼って――」
「だからなんで、そこでギャルゲーが出てくるんだよ!?」
「なにを言っておる、ギャルゲーは基本的には男子の欲望を叶えるためのゲームじゃろうが、だったら逆にギャルゲーのシチュエーションというのは男子が好きなシチュエーションということじゃと、わちは気づいたのじゃ」
「まぁ、そう言われると否定は出来ないけど(雑誌とかネットとか他にもっと頼れるものがありそうだけど、この辺がラファらしいと言えばらしいのかな)」
「じゃが、わちの考えは間違っていたようじゃ……、宏直は楽しくなかったか?」
「……楽しくないよ」
不安そうなラファを見て一瞬取り繕うかとも思ったけど、それでもちゃんと言うべきだと思って素直にそう言った。
「そうか、やはり、そうじゃったか」
そう言ってラファは少し俯いてしまう。
無理もないよな、俺が同じ立場でも凹む。だけど、ここはちゃんと言わないといけない、俺のために、俺のことを思って、気遣ってくれたというなら間違っていることを伝えないといけない。
「つまらなそうにしているラファを見ていて、楽しいわけ無いだろ?」
「えっ?」
「俺がどこに行きたいのか分からないんなら、ラファの行きたいところに行けばいいんだよ、ラファが楽しんでいないと俺だって楽しくないんだから」
「わちの行きたいところ? 宏直はそれでよいのか?」
「それでいいというか、そっちのほうがいいよ。俺のことを気遣ってくれるのはありがたいけど、それでラファが退屈になっていたら意味が無いだろ?」
「そうか……それもそうじゃの。じゃったら、わちが行きたいのは――」
俯いていた顔が上がり吹っ切れた笑顔を見せるラファ。
『そうそう、そういう笑顔が見たかったんだよ』とでも言えればギャルゲー主人公のようにモテるのかわからないけど、俺には少しキザ過ぎると言うかハードルが高くてとてもじゃないが言えないわけで、そもそも従妹相手に言うセリフでもない……よな?
こうして謎のギャルゲー縛りは終わり、気を取り直してラファの行きたい場所へとついていくのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
少し遅いですが明けましておめでとうございます。
年末年始は皆さま何かと色々あると思いましたので投稿を控えていましたが
またいつも通りに投稿をして行きたいと思いますので今年もよろしくお願いいたします。
面白ければブクマや高評価、感想頂けると年末年始で怠けきっている作者に気合が入ります。




