ヒロインじゃなきゃ妥当なほど放置されていた従妹は残念ながら久々登場のヒロインでした。
簡単日記
鈴蘭子の復讐が始まりました。
佳奈姐がやって来たことにより復讐は失敗に終わりました。
ラファに夕飯を食べさせるために急いで家に帰ってきました。
「ただいま」
俺はいつものようにそう言って家に帰ってきた。帰るたびに『ただいま』と言うのがいつものことになってきていること、慣れてきていることに気づくが同時に悪くないと思っている自分にも気づく。
自分でも少し顔がほころんでしまっているんじゃないかと思っていると何故か正面には恐らく真逆であろう顔つきで仁王立ちのまま、こちらを睨んでいるラファがいた。
「どうした、そんな怖い顔して? ああ、お腹空いたのか、心配しなくても夕飯ならちゃんと買って来てあるぞ」
いつもは俺がちゃんと作るのだが、もう七時近くになりお腹も空いているだろうと思って、すぐに食べられるコンビニ弁当を買ってきてある。
今から料理を作るとなれば当然待たされるラファの機嫌は悪くなるだろうと思っての対抗策だったので俺はこれ見よがしに弁当が入っているコンビニのロゴが書かれていた袋をラファに見せつけるがラファの表情は晴れない。
「夕飯? わちが怒っているのはそんなことじゃないのじゃ!」
「じゃあ、何に怒っているんだよ?」
「ほぉ~、心当たりがないと言うんじゃな?」
「少なくとも玄関で問い詰められるぐらい、ラファに怒られるようなことをした覚えは全くないな」
「あくまで知らぬと言うのか、こっちには証拠もあるんじゃぞ?」
「証拠?」
「このスマホが目に入らぬか!」
ラファは物語のクライマックスかのように自分のスマホを懐から偉そうに取り出して俺に見せつけてきた。
「どこのご隠居様だよ、つーか、よくそんな古いネタ知っていたな?」
「ふんっ、わちを舐めてもらっては困るのぉ。この程度の知識は……、って、そんなことはどうでもいいのじゃ、それよりちゃんと画面をみるのじゃ!」
まさかラファがノリツッコミを出来るとは思わず、意外とキレあるツッコミに称賛の拍手をしそうになったのだが、余計なことをしてラファの機嫌を損ねると面倒だと思い、言われた通りに俺は画面に顔を近づけて見てみると、そこには俺と上市と鈴蘭子の三人が写っていた。
その写真の背景に見覚えがあり、そもそもこのスリーショット自体珍しいのですぐについさっき撮られた物だとわかった。
「これ……、今日ファミレスで佳奈姐が撮ったやつか?」
「そうじゃ、少し前に師匠から送られてきたのじゃ、どうじゃ言い逃れはできまい」
「えっ? なにが?」
「なっ、これを見てもなお、しらを切るきか!?」
「いや、しらを切るも何もラファを怒らせるようなことはしてないだろ?」
「しておろうが! わちに内緒で女を二人も連れてファミレスに行きよって!」
「あぁ、そういうこと、あ~なるほどなるほど、やっと分かったよラファの気持ちが」
「わ、わちの気持ち!? ほ、本当にわちの気持ちに気づいてくれたのか?」
「あぁ、悪かったよ。……ファミレスに一緒に行きたかったんだろ? そうだよな、こっちに来てから外食とかしたことなかったもんな、今度連れて行ってやるからな」
「違う、違うぞ! そうではなくて、わちが怒っているのは……、いや、違わない、違わないぞ、わちも遊びに連れて行くのじゃ」
「ん? (今否定していたけど、まぁいいか)わかったよ、また今度な」
「今度ではない、わちは曖昧な約束は嫌いなのじゃ、よって明日じゃ明日、よいな!?」
「えっ明日? さすがに明日は……」
「なんじゃ、不満か?」
「いや、最近出費が重なってもう財布に余裕が……」
「……そうか、あの二人にはお金を使えても、わちにはお金をかけられぬと言うのか……」
さっきまでの威勢のよさはどこへ行ったのか、肩を落としてうつむきシュンとしたまま俺に背を向けトボトボと階段を上りだした。
「はぁ、わかったよ、明日ファミレスに連れて行けばいいんだろ」
さすがにそこまで露骨に落ち込まれると俺としては負けを認めるしかないと言うか折れざるを得ないと言うか、家出と言う言わば自分勝手な理由でこっちに来ているとは言え、せっかく久しぶりに会えたわけだし、いずれは帰る事になるだろうし、その時のために少しでも思い出と言うのは大げさだけど、いい思いをして笑顔で帰ってほしいと思いながらも財布事情と言う名の現実は非情なわけで、ついついため息が出てしまう。
「それでこそ! わちの好きな……」
素直というか現金と言うか俺の言葉を聞いた途端にラファは軽快にクルッと反転し駆け足で近づいて来てそう言うと、何故かフリーズしてしまい冷や汗のようなものをかいていた。
「わちの好きな、なんだよ?」
「わちの好きな……、えーと、その、それ! わちの好きな天ぷら弁当を買ってきてくれる宏直じゃな、と言いたかったんじゃ!」
まるで探していた物を見つけた時のようなテンションで顔を赤くしたラファはコンビニ袋の中に入っている天ぷら弁当を指差していた。
「それって俺がラファのことをよくわかっていることに対しての褒め言葉?」
「ま、まぁ、そういうことじゃな」
「なんて言うか褒めてもらえるのは普通に嬉しいけど、褒め言葉が変化球すぎてわかりづらいんだけど」
「もう、そのことは気にするでない! とにかく、明日はわちと遊びに行くのじゃ!」
「はいはい、分かったよ」
「絶対じゃぞ、約束じゃからな」
「あぁ、約束だ」
何度も『約束』という言葉を強調してくるラファを見てそんなに信用が無いのかと思い、大した考えもなく俺は小指を向ける。
「ん? なんじゃ、それは?」
「え? 指切り知らないのか?」
「し、知っておるわ、指切りくらい、あ、あれじゃろ? 大事な戦いを前に『絶対に帰ってくる』とか守れそうもない約束に対して指切りをして、結果的に指切りが死亡フラグになるやつじゃろ?」
「……なんだろう、この否定したいけど、出来ない感じ」
「わちだって指切りくらいアニメで何度も見ているからの、大抵序盤の指きりは最終話のフラグになったり後半の指きりは死亡フラグだったり――」
「もういいから、はぁ……、アニメじゃそういう展開が多いかもしれないけど、現実じゃそんなことないから」
俺はため息を混じりにそう言うがまだ疑っているようで俺の小指を細めた目で見ている。
「本当か? 指切りしたあとに『このときはまだ知らなかった、この約束が永遠に叶わなくなってしまうとは』みたいな語りが入ったり――」
「しないから、どんな壮大な物語が始まるのさ、ったく、そこまで言うなら指切りはもういいよ、とにかく約束は守るから機嫌を直してそこをどいてくれないか」
「……う~」
ラファはなにやら不機嫌そうに頬を膨らませたが、とりあえずは信じてくれたのか道を開けてくれたので俺は家に上がり夕飯の準備を始めた……と言っても弁当をレンジで温めるだけなんだけど。
そして温まってシナシナになってしまった天ぷら弁当を食べて『美味いのじゃ、さすが本場の天ぷらじゃ』と喜ぶラファを見て誤魔化すような苦笑いを浮かべならその日を終えた。
次の日の朝、俺はなんとも言いがたい朝の目覚めを体験した。
「宏ちゃん、朝だよ、早く起きないと遅刻しちゃうよ」
最初は佳奈姐がふざけているのかとも思ったが、こんな朝早くに家に来るはずもないし、よくよく聞けばその声はラファの声に似ていたが喋り方がまったくと言っていいほど違い混乱する。
最終的に何かの気まぐれで朝早く起きた佳奈姐が暇つぶしにやって来てラファのモノマネでもして俺を驚かせようとか、下らないことをしているんだろうと思い無視することにした。
「もう、宏ちゃんったら早く起きないと、もう起こしに来てあげないぞ」
「……とりあえず俺はまだ寝たいから、静かにしてくれない?」
「だ~め、宏ちゃんが遅刻しないようにちゃんと朝起こすのが、可愛い幼馴染である私の役目なんだから」
さすがに無視する限界を感じやんわりと静かにするように頼んでみたが想定外の返しをされる。
可愛い幼馴染? 心当たりがないと言うかラファの真似だとしたらラファは従妹だから幼馴染とはまた違うと言うか、あぁ、なるほど、完全に理解した。これラファの真似じゃなくて、たぶん可愛い幼馴染キャラが主人公を起こしに来る二次元特有のイベントをやりたいんだろうな、それで今佳奈姐は流れるように自分でキャラ設定を説明したってところだろう、朝から相手にするのは面倒だな、ここは無視に徹しよう。
朝早くからそんな茶番に付き合うほどお人好しじゃないので俺は徹底的に無視を決め込むことにした。
「……宏ちゃん? まだ寝てるの? 起きてないんだったら……、って、それは無理じゃ師匠」
師匠? もしかして、さっきから喋っていたのは佳奈姐じゃなくて、ラファなのか?
急に小声でラファの口調になったのを聞いて俺は声の聞こえたほうに寝返りをうち、薄目を開けて状況を確認してみるとそこにはスマホを耳に当てて、なにかを話しているラファの姿があった。
佳奈姐は居ないか……、ってことは今までのは全部ラファが一人でやっていたってことか、あいつ、いったい何がしたんだ?
ラファの意図が読めず更に混乱してしまう俺は真相を確かめるため寝た振りをし続けて少しの間ラファを観察してみることにした。
「だから、無理じゃと言っておろう……いや、師匠の言いたいこともわかるが……まぁ、たしかにこの流れじゃったら、普通はキスじゃろうが――」
キス!? ラファの奴なに言っているんだ!? いや、ラファが、と言うよりは電話の相手か、ラファの口ぶりからして佳奈姐と電話しているのは間違いない、つまりラファは佳奈姐の指示に従ってこんなことをしてるのか?
つまりまとめてみると、何らかの理由でラファは佳奈姐と電話をしていて、現在面白がって佳奈姐にラファが無茶振りをさせられているってところか?
「口は無理じゃから、頬で――」
そんなことを考えている内にすでにラファの吐息を感じられるほどに顔が迫って来てしまっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
少し遅くなりましたが出来れば今週中にもう一本投稿したいと思っています。
(現状思っているだけなので出来なかったらすみません、来週の自分が頑張ります)
寒くなってきましたが皆さま体調にお気を付けください。
引き続きブクマや高評価、感想よろしくお願いします。