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当人たちじゃなきゃ引いてしまうほどの下らないやり取りは残念ながら復讐劇の序章でした。

簡単日記

注文をした料理を各々美味しく楽しく食べていました

宏直と鈴蘭子のやり取りを聞いて上市は不機嫌になりました。

宏直は機嫌を良くするために良かれと思ってポテトを上市に直接食べさせました。


                    *


 勝負は一瞬だった。

 カエルが獲物を捕食するかのようにポテトを引っこ抜くために伸ばしたその手は……惜しくも空を切ってしまう。

 コンマ数秒上市英梨がポテトを口に入れ切るのが早かった。

 勝ち誇る表情の上市英梨に対して黒辺鈴蘭子は悔しそうに小さな舌打ちをしたがまだその目は敗北を受け入れてはいなかった。

「(っち、でも、大丈夫。まだ飲み込んだだけ、消化はされてない、喉を突いて吐かせる? いや、もう間に合わない、だったら腹を――)」

 まるでバトルマンガの読み合いのような真剣勝負がこの刹那の中繰り広げられている、至ってこの二人は真剣なのだ。二人にとっては……。

 ただ傍から見てみれば『たかがポテト一本』を奪い合っているようにしか見えない、例えその『たかがポテト一本』が彼女たちにとってみれば『特別な一本』だとしても。

 そしてその傍から見ている一人が目の前にいる射水宏直である。射水宏直の目線で見てみれば、目の前のテーブルにはまだ半分以上残っているポテトの山があるというのに、目の前の女子二人が一本のポテトを取り合っているような光景なわけだ。

「ちょ、何やってるんだ鈴蘭子、ポテトならまだあるだろ? そんな上市から奪おうとしなくてもいいだろ?」

 その言葉を聞いて黒辺鈴蘭子はあまりにも真剣になり過ぎて視野が狭くなり射水宏直の存在を忘れていたことに気が付き、上市英梨の腹部を殴ろうとした手を止める。

「(危なかった、さすがにちょっと我を見失い過ぎった……っすね。いきなり上市先輩を殴ったりしたら宏先輩に嫌われるところだったっす)」

「あら? 止めるの? あたしは全然よかったのに、まぁ、勿論やり返すけどね」

「(っく、ダメダメ、挑発に乗ったらダメっす。いつも暴力を簡単に振るっている上市先輩ならまだしも私が暴力を振るうなんてナシ、イメージとのギャップでより宏先輩への印象が悪くなるっす。しかもこの馬鹿力相手じゃイメージ的にも身体的にもダメージが大きいのは私の方、宏先輩にポテト食べさせてもらった事実は受け入れたくないけど、ここは我慢のしどころっすね)ははっ、なに言ってるんすか上市先輩変なこと言わないでくださいよ。私はただ上市先輩の近くを飛んでた虫を後輩として追い払おうとしただけっすよ」

「あら、そう? それはどうもありがとう、健気な後輩で嬉しいわ」

「いえいえ、後輩として当然のことをしただけっすよ」

 お互いに愛想笑いと取り繕った笑顔を浮かべて合う二人、誰がどう見てもこの二人の仲の悪さが垣間見られる状況にさすがの射水宏直もその会話と笑顔を聞いて仲直りしてよかったなどとは思わず(あの二人ってそんなにポテト好きだったっけ?)そう思うのだった。

 その後も三人は決して仲良くとは言えないものの、それなりに楽しく会話をしていた。

注文した料理をほとんど食べ切り大皿に山のようにあったポテトが数える程度にまで減ったところで、射水宏直は見知った人物が手を振りながらこっちに向かってくるのに気がついた。

「お~い、宏く~ん」

「佳奈姐!? 今日は大学のサークルに行ってたんじゃ?」

「そのサークルの友達と来たんだよ~、それにしてもこんな偶然ってあるもんだね~、あっ、エリーちゃんとズラちゃん、ハロハロ~」

 それに対して上市英梨は軽く会釈をしただけだったが、黒辺鈴蘭子は不満そうな口調で抗議する。

「私を呼ぶとき『ズラ』って、言わないでくださいって、いつも言ってるじゃないっすか!」

「いやいや、私もいつも言ってるでしょ~、そこは『ズラじゃない鈴蘭子だ』って言ってくれないと、って」

「それを言ったら余計に面白がって、ズラって言ってくるっすよね?」

「さすが! ズラちゃん、よくわかってる~」

「やっぱ、そうなるんっすね」

 黒辺鈴蘭子は諦め気味にそう呟く、さすがの黒辺鈴蘭子とは言え蛍衣佳奈の相手は苦手のようで、上市英梨や射水宏直の時のように無理に噛みついたりゴネたりしない。何故ならその行為が無駄だと言うことをこれまでの付き合いで嫌という程、味わって来ているからだ。

「つーか、佳奈姐はサークルの人達と来ているんだろ? 俺らと話していていいのかよ?」

「あ~、そうだった、じゃあ、みんなのとこに戻る前に偶然の出会いを祝して三人の写真撮るよ」

「えっ、ちょっ」

 戸惑う上市英梨のことなどおかまいなしに蛍衣佳奈は写真を取るためにスマホを構えて有無を言わさず三人を画角収まる位置に寄らせる。

「はい、ガルパン」

 そう言うとシャッターのきれる音がした。一般的に『はい、チーズ』などが写真を取る時の合図なのだが、どうやらあれがシャッターをきる合図のようだった。

「そのわかりづらいパロデイネタ、まだやっていたのか?」

「わかりづらくないよ~、ほらぁ、アニメのOPの最初で――」

「わかった、わかった。もうそれ以上は説明しなくていいから、ほらサークルの友達のところに戻った、戻った」

「ぶ~、そんな邪魔者扱いしてると後で後悔するよ~」

 まるで小物の悪党のようなセリフを言い残して蛍衣佳奈は去って行ったのだが、一瞬だけ見えた笑顔が射水宏直は気になってしまう、何故ならあの笑顔は悪だくみをしている時の蛍衣佳奈の表情のように見えたからだ。

「あの人は本当に嵐のような人ね」

「そうっすね」

 お互いに苦手としている人物ということで珍しく上市英梨と黒辺鈴蘭子の意見が一致しただけでなく同じタイミングでため息を吐くと、上市英梨は疲れを紛らわすようにメラソーラをゴクゴクと飲む。

 それからさらに15分ほど経った頃、密かに上市英梨にピンチが迫って来ていた。

「(うっ、トイレに行きたくなってきちゃった)」

 すでにファミレスに来て一時間を過ぎたところ、これまで四度ほどおかわりして飲んだメラソーラのせいか、上市英梨は尿意に襲われていた。

 気心知れた仲とは言え『トイレに行ってくる』と言うのはさすがに少し気恥ずかしく上市英梨は言い出すタイミングを見計らないながら尿意を我慢しモゾモゾしていると、その姿を待っていましたと言わんばかりの眼光で黒辺鈴蘭子は見逃さなかった。

「(ははっ、どうやら、やっと来たみたいっすね、ドリンクバーを取りに行った際に上市先輩のメラソーラにはドラックストアで買った利尿作用のある、無味無臭の漢方薬を入れておいたんっすよ。じゃなきゃこの私が上市先輩のパシリなんてやるわけないじゃないっすか? 何回も言われるままおかわり取りに行ったのもこのためっすよ)」

 表情には出さないようにしているが待ちに待ったゲームが発売されたと言わんばかりに目を輝かせている黒辺鈴蘭子はワクワクを抑えきれないようで、意識せずとも顔がニヤけてしまっている。

「(ふふっ、さて、私と宏先輩の二人きりのデートを邪魔したんっすから、その報い受けてもらうっすよ)」

 そう、すべてはこのためだったのだ。

 あれだけ三人でファミレスに行きたくないとゴネたにもかかわらず、あっさりついてきたのも、ドラックストアに立ち寄ったのも、射水宏直の隣ではなく上市英梨の隣に座ったのも、率先してパシリをやったのも、全てこのため、自分のデート邪魔した上市英梨に恥をかかせてやりたいという一心だけ。

 ここから黒辺鈴蘭子の復讐が始まる。

 軽い流れでトイレに行きたかったのだが思ったほどそのタイミングがなく、徐々に強くなっていく尿意に根負けする形で上市英梨は気恥ずかしさを隠しながらトイレに行こうとした。

「あたし、ちょっと、ト――」

 恥ずかしさを紛らわせるために言い捨てるかのようにそそくさと席を離れようと上市英梨は立ち上がろうとした瞬間。

「上市先輩これ、見てくださいよ、カワイイっすよ(そう簡単にトイレには行かせないっすよ)」

 隣に座る黒辺鈴蘭子はトイレへの道を開けることは無く、おもむろに取り出したスマホを上市英梨に見せる。

「(なんなのよ、あたしは今緊急事態で――)」

 そう思いながらも黒辺鈴蘭子が退いてくれないと上市英梨は奥に座っていたので席を離れることが難しい、仕方なくチラッとスマホに目をやると、そこに書かれていた文章を読んだ上市英梨の足が完全に止まってしまうのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

いつも通り今週はもう一本投稿します。

今回は少し短いですが、ちょうど良く切れるところがなかったので仕方なく。

(決して、昨日投稿しようとしたのに諸事情あって間に合わず

 予定が遅れているからとかそう言う訳ではありませんよ)

こんなダメ作者ですがこれからも変わらずに応援のほどよろしくお願いします。

いつも通りブクマや高評価、感想お待ちしています。

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