三人じゃなきゃ妬まれてしまうほどのイチャイチャイベントは残念ながらギャグイベントの始まりでした。
簡単日記
三人でファミレスに来ました。
鈴蘭子がドリンクバーで怪しげなジュースを作って持ってきました。
そのジュースを覚悟を決めて口にしました。
引き続き*以降は視点変更しています。
*
「(こ、これは!?)メロンの甘みとコーラの甘みがうまく交わりながら口の中に広がって、後から来るさわやかな酸味がメロンとコーラの味を残しつつ後味をさっぱりに……、って、これすごく美味いな!」
「よかったっす! 宏先輩にそう言ってもらえて、それは私がつい最近開発したんすよ! 作り方はメロンソーダとコーラ半々で混ぜて最後にアセロラジュースを少し入れるとできるんっすよ」
「へ~、そうなのか、よく考えついたな」
「てへへ」
「ちなみになんで『メラソーラ』なんだ?」
「合成してある飲み物からもじってるんっすよ。メロンソーダを軸にコーラの『ラ』とアセロラの『ラ』をうまい具合にくっつけただけっす」
「……あーなるほど」
射水宏直は一瞬迷った。『コーラもアセロラも取ってくる文字が同じラで被っているのはどうなんだ』と突っ込むべきか迷ったのだが、これ以上話を広げるとあの超有名RPGの話は避けて通れなくなりそうだと、そうなると長くなるが容易に想像できたのでこれ以上話を広げないためにツッコミを放棄する決断に至るまでわずか一秒。
そんな射水宏直と黒辺鈴蘭子の楽し気なやり取りを聞いて、上市英梨はますます面白くない表情を浮かべながら片頬を少し膨らませる。
「これが本当においしいの? 宏の味覚壊れてるんじゃない?」
上市英梨の前にも射水宏直の飲んだ『メラソーラ』と同じ色をした液体がコップに注がれていた。それを上市英梨は汚物を見るような目でマジマジと見つめる。
「そう思うなら、試しに飲んでみろって」
射水宏直にそう促されて上市英梨は半信半疑のままストローに口をつけ、その液体を飲み込む。
「(ん? なっ!? お、おいしい)」
上市英梨はそう思ったが素直に褒めると黒辺鈴蘭子に負けたような気がしたのでリアクションを我慢しながら少し黙り込む。
「どうっすか? おいしいっすよね?」
「……ま、まぁ、普通ね」
「相変わらず、上市先輩は素直じゃないっすね」
「これがあたしの本音だから、それより、なんで作った本人は普通にアイスティーなのよ」
上市英梨は怪しむような目をしながら黒辺鈴蘭子の前に置いてあるコップを指差す。
「いやぁ、私も飲みたいっすけど、それは魔性の飲み物っすから」
「魔性? どういうことだ?」
「自分で作っておいて言うのもアレっすけど『メラソーラ』はおいしすぎてつい何度も飲んでしまうんっすよ」
「はぁ? それが何よ? ドリンクバーなんだから何回飲んだって、別にいいじゃない?」
上市英梨が眉間にしわを寄せると黒辺鈴蘭子はわかって無いなぁと言わんばかりに人差し指を立てて左右に振る。
「ちっちっち、わかってないっすね『メラソーラ』の真の怖さは女子の大敵カロリーっすよ」
「カロリーか、確かにメロンソーダもコーラも結構甘いからカロリーも高いのかもな、そういえば鈴蘭子、もしかして最近ふと――」
「宏先輩、その先の言葉には気をつけてくださいね」
黒辺鈴蘭子は笑顔でそう言うと、テーブルの上に置いてあるナイフなどが入っているカトラリーケースに何故か視線を向ける。
「なんでもありません」
「そうっすか、それならいいんっすよ」
あからさまに不穏な空気を醸し出す黒辺鈴蘭子だったが射水宏直の素直な答えを聞いて満足そうな笑顔になる。
「なぁんだ? そんなこと?」
上市英梨は拍子抜けしたようにそう言うと、カロリーが高いと聞いたにもかかわらず何のためらいもなく『メラソーラ』を一口飲む。
「そんなこと? 今そんなことって、言ったっすか!?」
「言ったわよ、だって、あたしはカロリーとか気にしてないから」
「カロリーを気にしてない!? マジっすか?」
「マジで気にしてないわよ、よくわからないけどあたしって太らない体質みたいだから」
「ま、まさか、その言葉を同姓から言われるとは……」
上市英梨の悪意ゼロの何気なく言った言葉を聞き、黒辺鈴蘭子の周りに黒いオーラのようなものが出てくるのが射水宏直には見えた。
「(あぁ、完全にキレてるな)」
射水宏直はそう思いどうやってこの後を上手く宥めようか考えていると店員がトレーいっぱいに料理を運んでくるのが見える。
「鈴蘭子落ち着け、ほら料理が来たみたいだぞ」
「お待たせしました、照り焼きチキンステーキとミートスパゲティとミックスピザになります」
店員が弾むような声でそう言うと上市が「あたしです」と言って手を挙げる。それに少し戸惑っている様子からおそらくこの店員はこの三つの皿を三人で食べるものだと思っていたのだろう。その気持ちはわかると言わんばかりに射水宏直も頷きアイコンタクトを店員に向けると店員は全ての料理を上市の前に並べて一礼すると去っていった。
「それにしても上市の料理ばかり来たな(どう見ても時間のかかりそうな物ばかりだが)」
「ふっふ~ん、これが日頃の行いの差ってことよ」
ほぼ平らな胸を張りながらドヤ顔でそう言うと、少し収まっていた黒辺鈴蘭子の怒りがまた強まってきたのに射水宏直は気づく。
「(ヤバイな、このまま上市を喋らせるのは危険だな)俺らのことは気にしないで、冷めない内に食べたほうがいいぞ」
「そうね、それじゃあ、いただきます」
「(これで少しは安心だな)」
上市英梨が美味しそうに料理を食べ始めたのを見て射水宏直は安心する、それと言うのも上市英梨は美味しい物を食べているとご機嫌になるだけではなく食事に集中して余計なことを言わなくなることを知っていたからだ。
「(あとは俺たちの注文が来れば――)」
そう思っていると願いが通じたのか店員が残りの山盛りポテトを持ってくる。
「ご注文は以上でよろしかったですね」
「はい、大丈夫です」
料理をテーブルに置き終えたウエイトレスは注文漏れが無いか確認すると射水宏直の言葉に応えるように笑顔で一礼して去って行く。
「ふふっ、それじゃあ、私たちは仲良くこのポテトを二人で食べさせ合うっすよ宏先輩?」
ミックスピザを美味しそうに食べていた上市英梨はその提案を聞いて驚いたせいか「ごほっ、ごほっ」とむせる。
さっきまで不機嫌だったのが嘘のように上機嫌になっていた黒辺鈴蘭子に対して、射水宏直は軽くあしらうように「あぁ、そうだな」と言ってポテトを一つ取ってそのまま自分の口に運ぶ。
「もう、宏先輩は照れ屋さんっすねっ……そう言って諦めたかと見せかけてシュート!」
「ぬぉ――ったく、不意を突くな」
素っ気ない態度を取る射水宏直を見て、黒辺鈴蘭子は食べさせ合いを諦め自分の口にポテトを運んでいると見せかけて、中腰になりながらも正面にいる射水宏直の口に半ば強引にポテトをねじ込む。
「へへぇ、そう言いながらも食べてくれてるじゃないっすか」
「いや、さすがに鈴蘭子から無理やり食べさせられたからって吐き出すほど俺は潔癖じゃないからな」
若干の迷惑そうな視線を黒辺鈴蘭子に向けながらモリョモリョと食べていく。
「あ~、宏先輩が私のあげたポテト食べてるっす、しかも食べ方可愛いくて癒されるっすね~」
「別に可愛く食べてるつもりないんだが、それにお前はポテトを揚げてないだろ?」
「えっ、なに言ってるんすか? 今目の前であげたじゃないっすか?」
「はぁ? 卓上フライヤーもないここでどうやってポテトを揚げるんだよ?」
話が噛み合っていないのはどうやら二人ともわかったらしく数秒の沈黙の後、黒辺鈴蘭子がポンっと手を叩く。
「あ~、そう言うことっすか『あげる』ってのをお互い勘違いしてるパターンすね。私は宏先輩にポテトを『あげた』と宏先輩は私がポテトを『揚げた』って勘違いしてるんっすよ」
「あ~、なるほど、それじゃあ俺が悪いな。てっきり鈴蘭子のことだからボケでポテトを自分で揚げたことにしてるんじゃないかって思ってな。すまん」
わかりやすく表現しようと身振り手振りで二つの『あげる』を表現する黒辺鈴蘭子を見て、ようやく状況を理解した射水宏直は納得した様子で謝罪する。
「いいんっすよ、謝らなくても――それよりポテトを分け合いながら下らない会話をファミレスでするって傍から見たらカップルに――」
「見えるわけないでしょ、バカなの?」
聞いてられないと言わんばかりに冷めた目をしながら被せ気味に上市英梨が呟くとそれまで幸せそうだった鈴蘭子の表情は一変し、笑顔ではあるのだが睨むような表情で隣の上市英梨にその表情を見せる。
「……ああ、居たんっすね。存在感無さ過ぎてたまたま相席してるフードファイターだと思ってたっすよ」
「誰がフードファイターよ!」
「(いや『実はフードファイターなのよ』と言われても素直に信じるぐらいの量は食べてるけどな)」
軽く三人前の量をおやつ感覚であっという間に食べきってしまっている上市英梨を見て相変わらずの食事量に若干引きながらも射水宏直はそう思う。
「あ~、バッカみたいポテトぐらいで――」
「そう言いながらも羨ましいんすよね? 羨ましいなら素直にそう言えばいいじゃないっすか?」
「バッ――羨ましいわけないでしょ、だいたいあたしは――」
「ホイッ、ポテトを食べたのが羨ましいなら上市も食べればいいだろ? そんな怒るような事じゃないって」
……状況を説明しよう、射水宏直は喋っている最中の上市英梨にポテトを咥えさせている。意図せずポテトが入って来たことにより上市英梨は物理的に黙らされてしまい、精神的にも不意を突かれ状況が理解できず黙り込んでしまう、それを横で見ていた黒辺鈴蘭子は未確認生命体を見つけてしまったかのような表情でその行為を見ていた。
「えっ……あれ? 俺なんか悪いことした?」
明らかに空気がおかしくなっていることに気づいた射水宏直は良かれと思ってやったことが裏目に出たのではないかと不安そうに二人に尋ねるのだが、そんな言葉は二人には届いていない。
何故なら二人にとって今最優先でするべきことは上市英梨が咥えている細長いポテトをどうするのかだけだった。
上市英梨はこのポテトをこのまま食べていいのかどうか考え、黒辺鈴蘭子はどうしたら射水宏直が自分では無く上市英梨にポテトを食べさせた事実が消えるのか考える。
「(えっ? これって、いいのよね? 食べてもいいのよね!? 大丈夫? ここで食べることによって、なんかあたしが宏に食べさせてもらいたかったみたいに見えないわよね?)」
「(嘘……宏先輩がそんな大胆なことするなんて、違う、あり得ない、無くさなきゃ、修正しなきゃ、だってこんなことアリエナイんだから……)」
お互いにそんな思考を巡らした一秒後に出た答えは……『素直に食べる』と『力づくで引っこ抜く』だった。
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