従妹じゃなきゃ惚れてしまうほどの可愛い従妹は残念ながらガチのオタクでした。
簡単日記(前回のあらすじ)
フランスから従妹のラファが家出をしてきました。
色々ハプニングはありましたが仕方がないので泊めることにしました。
不安だらけですが挨拶も兼ねて握手をしました。
なんて言うかお互い勢い余って流れのまま握手したのはいいけど、この後どうするのが正解なんだろう?
いや、だってさ、正直言って俺が生きて来た16年間で初めて握手したんだよ。俺の経験則で語ってしまって申し訳ないけど、普通に日本に生まれて育ってきた俺にとってみれば握手をする機会なんて一度としてないわけで(もしかしたら社交的な人とかは日本関係なく握手なんて日常茶飯事なのかもしれないけど)しかもその相手が同年代女子と言う状況。
仮にこれがただの友達とかならまだ難易度は低いんだと思う、だけどラファは幼馴染でもあり従妹と言う微妙な距離間、しかも美少女。
「(き、気まずい)」
握手したところまでは大したことなかったけど、握る時間が長くなればなるほどラファの暖かな体温と柔らかな手の感触がはっきりと伝わって来て徐々に気まずい感じになってくる。
……仕方ない、男として少々情けないけど、ここは握手とか慣れているであろうラファに主導権を任せよう――そう思ってラファの顔を伺ってみたんだけど、白く透き通っていた頬は赤くなっていて冷や汗を流しながら完全に目が泳いでしまい硬直してしまっている。
ははっ、握手ぐらいでそんなわかりやすいくらい緊張するなんて可愛い奴め、……俺もだけど。
傍から見れば、2人そろって随分と情けない様子だろうな。
「(ええい、こうなったらとにかく話題を――)そ、そうだ! 色々ゲーム持ってきたんだよな? どんなのを持ってきたのか見せてくれないか?」
ラファの興味があることを話題として振ってみれば何とかなるだろうという追い込まれた状態にしてはよく考え出たと一瞬自分を自分で褒めてやりたい気持ちになった一秒後に、なんて安直な考えなんだろうとこう言う状況に対する自分の引き出しの少なさに落胆する。
「お! 宏直も興味あるんじゃな!? よしよし、待っておれ!」
心の中で落ち込んでいた俺には全く気付かない様子のラファは安直な考えにあっさりと乗せられて何事もなかったのようにすんなり手を放すと、そのままスーツケースの中から一本のゲームソフトを取り出して見せてくる。
「ふふふ、まずは挨拶ついでに、これなんかどうじゃ」
何故か自信満々に掲げてきたのは烈拳3だった。
烈拳シリーズは3D格闘ゲームで日本でも人気のあるゲーム、最近だとプロプレーヤーがいるらしいのでその人気はまだまだ健在らしい……けど。
「(また古いゲームを)」
記憶が正しければ発売されたのは10数年前だったはず、当時は僕も結構やったと言うか半ば強制的にやらされていたって言ったほうが正しいけど……、それはともかくとして、そんな若干の苦い思い出と共に懐かしさを感じながらも俺はそのソフトを見てある事に気づいた。
「あれ? これって、日本語版じゃないか?」
パッケージの裏なんて完全に日本語でゲームの説明やら紹介が書いてある。
「当たり前じゃろ? 烈拳は日本のゲームなんじゃから」
当前のように首を傾げるラファを見て、まさかと思いスーツケースの中をよく見てみると、その中にあるゲームやDVDは全部日本語版の物ばかりだった。
「えっと、この中に入ってるゲームって、フランス版は売ってないの?」
「そんなことはないぞ、ちゃんと売ってあるのもあるが、わちは日本のゲームは日本語版でしかやらないのじゃ」
洋画は吹替見ない派的なこだわりなんだろうか? 俺にはそれがどれぐらいすごいことなのかは分からないけど、ラファがソフト片手に腰に手を当てながら渾身のドヤ顔をしてるので、どうやらフランスのオタクにはマウントを取れるぐらいすごいことなんだろうと思いながらも、重大なことに気がついた。
「あのさラファ、この中に入っているのってゲームとかアニメのDVDばっかりで、着替えとか生活必需品みたいな物が一切入ってないんだけど?」
「うむ、日本に持っていく物を厳選した結果、着替えなどは早々と落選したのぉ」
「いや、優先順位のつけかた間違えてるだろ!」
ツッコミをいれてはみたけど、何故か素の表情のまま首を傾げるラファの様子を見る限りボケているつもりはないんだろう。
ため息をつきながらも気持ちを入れ替えて何かここで生活するうえで使える物がないか願う様にスーツケースの中を物色していると、唯一ゲームやDVDじゃないものがあった。それは分厚い本でALBUMと書かれていた。
「これはアルバムだよな?」
俺がそう言ってアルバムらしきものに手を伸ばそうとするとラファは「だ、ダメじゃぁぁ」と叫びながらドタドタと走りすごい勢いでスーツケースに覆いかぶさった。
「……あの、ラファ? なにしてんの?」
「ひ、宏直よ、あ、あまり女子の持ち物を、せ、詮索、するものではないぞ」
声は震えて目が泳いでいる。典型的と言うか何と言うか、見事にわかりやすいぐらいラファは動揺している。
「いや、ラファが見ていいって言ったんだろ?」
「そ、それは、その、これがあるのを忘れて……、とにかく! もう見てはならん、よいな!」
「はいはい、分かったよ」
理不尽だと思いながらも言い合ったところで負けるのは目に見えているし、そこまでしてアルバムの中が見たいわけでもないので早めに白旗をあげる。
いやいや、そんなことよりも今の俺には何よりも優先すべきことがある。
それはラファの着替えや生活必需品をすぐ買いに行くことだ。
現在ラファは着替えを一着も持っていない、その証拠に現在着ている服もシャワーを浴びる前とまったく同じものだ。ラファが漫画とかアニメのキャラなら同じ服を何枚も持っている可能性もあるが、リアルでそんな奴はまずいない。
当然、俺の家には女物の服は一着もない、ジャージならを貸してあげることはできても下着に関してはどうしようもない、むしろ俺が女物の下着を持っていたら、ただの変態野郎なわけで……。
ああ、彼女の忘れていった奴しか家にないわ~とか、一度でいいから言ってみたいなぁ。
おっと、失礼ついつい心の声が漏れてしまった。少し話が逸れたけど、とにかくラファが何日ここに泊まるつもりなのかは分からないけど着替えは絶対に必要だ。
「とりあえず、着替えを買いに行くぞ」
日が落ちない内に買い物を済ませた方が何かといいと思ったので、有無を言わさずラファの腕を掴み部屋を出ようとする。
「ま、待たぬか、烈拳! 烈拳はやらんのか!?」
「やらない」
俺がはっきり言い切るとラファは引っ張られながらゲームのほうに掴まれていないほうの手を伸ばし、このまま無理やり連れて行くのが可哀想になるくらい『あぁ~』と名残惜しそうな声を漏らす。
どうやらラファにとって自分の着替えを買いに行くことよりもゲームをする方が大事らしい、まぁ、着替えよりもゲームやアニメDVDを優先して持って来てる時点でそうなんだろうけど。
「(どうしてガチのオタクって奴はこうなのかねぇ)――わかった、わかった、帰ってきてからやるから、それでいいだろ?」
何故か俺が折れる形で提案するとラファは『うむ……、よいぞ』と渋々了承してくれたので、これから一緒に服を買いに行くことになりました。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回は少し短めでしたが、今週中にまた投稿できると思いますので
どうかまた見に来てください、よろしくお願いします。
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