宏直じゃなきゃ修羅場に見えてしまうほどのファミレスデートは残念ながら宏直のせいでした。
簡単日記
たまたま上市に会いました。
いつものように喧嘩する二人を宥めました。
ファミレスに鈴蘭子と行く予定でしたが上市もついてくることになりました。
*以降は視点変更されています。
*
映画館から歩いて五分ほどのファミレスに入った射水宏直たちは四人用の席に座り射水宏直の正面に上市英梨が座っている。
「鈴蘭子の奴、遅いな」
黒辺鈴蘭子は『このファミレスの近くのドラックストアに用事があるので先にファミレスに入っていてくださいっす』そう言ったので射水宏直たちは先にファミレスに入って待つことにした。
「別にいいんじゃない、このまま来なくてもあたしは――」
「残念でしたっすね、上市先輩」
声と共に入り口のほうから黒辺鈴蘭子が近づいて来るのを見た上市英梨はその声を聞いて「ちっ」と舌打ちをすると、不機嫌そうに頬杖を突く。
「『宏先輩』お待たせして、すみませんっす」
黒辺鈴蘭子はわざとらしく射水宏直だけを強調して謝罪をすると何事もなかったかのように上市英梨の隣に座る。
「いや、それはいいけど、なに買ってきたんだ? 見たところ何も買ってないように見えるけど」
「えーっと、ほしいものが売り切れてて買えなかったんっすよ」
「ふ~ん、そうか、それじゃあ三人揃ったし注文を決めるか、とりあえずドリンクバーと時間も中途半端だしみんなでとり分けられるサイドメニューでいいか?」
「私は宏先輩にお任せするっす」
「あたしはそれだけじゃ足りないから、自分で注文するわ」
「それじゃあ、店員呼ぶからな」
射水宏直は呼び出しボタンを押すとすぐにテーブルに向かって王道モノトーンの制服姿の店員がやってくる。
「お待たせしました、ご注文はお決まりですか?」
注文を取りに来た店員は20代前半ぐらいの若くて綺麗な女性で、射水宏直が店員に少し見惚れていると突然、射水宏直の両足のすねに激痛が走り「いったぁぁぁ」と声を出してしまう。
「大丈夫ですか、お客様!?」
「だ、大丈夫です」
射水宏直は激痛に耐えながらも心配してくれる心優しい店員に笑顔でそう答える。
激痛の原因は上市英梨と黒辺鈴蘭子が同時に片足ずつ射水宏直のすねを蹴ったのが原因だった。射水宏直もそれを分かっているようで、二人のほうを睨むと二人は一斉にフンッと顔を逸らす。
「(くっそ、こいつらぁ)」
なぜ蹴られたか分からない射水宏直は二人に対して怒りながらもここで客同士が言い合いを始めれば店員のお姉さんに迷惑になってしまうと思い、先に注文を済ませることにした。
「注文していいですか?」
「あ、はい、お願いします」
「ドリンクバー3つと、山盛りポテトを一つと、あとは――」
射水宏直は注文を終えあとはお前の分だけだぞと言わんばかりにチラッと視線を向けるとその視線を感じ取った上市英梨は自分の注文を始める。
「それに照り焼きチキンステーキとミートスパゲッティとミックスピザのSサイズで」
「(相変わらず上市の奴、奢りでも容赦なく食べるなぁ)」
前々から上市英梨が大食漢なことを射水宏直は知っていたが、中途半端な時間でお腹も空いてないだろうから、もしかすると……なんて淡い思いもあったのだが、容赦のない注文を聞いて心の中で項垂れる。
「以上でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました、ではご注文のほうを確認させていただきます」
スラスラと慣れたように注文の確認が終わると店員は伝票を席に置き笑顔を残し去って行った。
「なによ! デレデレしちゃって、あんたって、ああいう清楚なお姉さんが好みなの!?」
「なに怒ってんだよ?」
「別に、怒ってなんかっ……でっ、どうなの、好みなの?」
「いや、別に――」
「ですよね~、宏先輩が熟女好きなわけないじゃないっすか、宏先輩は若い子のほうが好きっすよね~」
「(熟女って、どう見ても20代だったんだが)」
結局何故蹴られたのかわからないまま射水宏直は心の中でそう思いながらも、これ以上この話を続けるのは自分にとって都合が悪いと判断し話を終わらせようとして席を立つ。
「ったく、どうでもいいだろそんなこと」
「どこ行くのよ宏」
「飲み物、取りに行くんだよ」
「あっ、待ってください、それなら私が二人の分も取ってきますよ、だから先輩達は座っててくださいっす」
「いや、さすがに一人で三人分持つのは大変だろ? 手伝うって」
「いえいえ大丈夫っすよ、それにこういうのは後輩の仕事ですから、任せてくださいっす」
黒辺鈴蘭子は奉仕精神溢れる健気な後輩のように押し切ると一人でドリンクバーのほうへ歩いて行った。
「大丈夫かな?」
「宏は黒辺のことを心配しすぎ、自分でやりたいって言っているんだから大丈夫なんでしょ」
「(いや、俺が心配しているのはそういうことじゃないんだが)」
黒辺鈴蘭子と出会いすでに二年が経っており、仲良くなってからも一年以上経っている射水宏直にとってみれば黒辺鈴蘭子の黒い部分を知っている。
あれだけ上市英梨と一緒に来るのを嫌がっていたのに無理やり三人で来ることにされてしまって、あの黒辺鈴蘭子が大人しくしているはずがない。
射水宏直にはそれが分かっていたが、どうやら上市英梨には分かっていないらしく、さっきから二人っきりになったことでここぞとばかりにずっと楽しそうに射水宏直に話しかけている。
黒辺鈴蘭子が何か企んでなければいいのだがと憂慮しながらも上市英梨を放って追いかけるほどでもないかと思い直し、射水宏直は上市英梨との会話を続けた。
「(……鈴蘭子の奴、遅いな、もう10分は経ってるのに)」
「ちょっ、どこ行くのよ?」
「鈴蘭子の様子見てくる」
「心配しなくても、もう戻ってくるわよ、ほら」
ドリンクバーに行ったはずの黒辺鈴蘭子がなかなか帰ってこないので射水宏直はさすがに様子を見に行こうとしたのだが上市英梨が指さした先にはトレーにジュースの入ったグラスを3つ乗せて零さないようにと少し慎重な足取りでこっちに歩いてくる黒辺鈴蘭子の姿があった。
「あれ? 立ち上がって、どうしたんっすか宏先輩?」
黒辺鈴蘭子は戻ってくるとテーブルにトレーをゆっくりと置いて、一仕事したと言わんばかりに一息つくや否や持ってきた飲み物を配りながらそう言って、席に座る。
「いや、遅いから手伝いに行こうかと思っていたんだけど」
射水宏直はひとまずは安心といった表情で席に座る。
「それって、私のこと心配してくれたってことっすか!?」
「ま、まぁな(ある意味でな)」
「てへへ」
「どうせ、なにを飲もうか迷ってただけでしょ?」
なぜか上機嫌で照れている黒辺鈴蘭子を見て、上市英梨は面白くないといった表情で頬杖をついたまま目の前に置かれたグラスに刺さっているストローを手に取って意味もなくかき混ぜる。
「違うっすよ」
「じゃあ、なんであんなに遅いのよ?」
「ドリンクバーに行くついでにお手洗いへ行ってたんっすよ」
「(なんだ、それで遅かったのか)」
射水宏直は遅かった理由に納得して安心しながらも、ふと自分の目の前に置かれた毒々しい色のコップに目を奪われる。
「……鈴蘭子。なんだ? この深緑色の液体は?」
「ええ、あたしも気になってたわ」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。それは私のオススメ『メラソーラ』っすよ」
「いや、そんな火炎系最強呪文みたいな名前を急に言われても困るんだが」
「まぁまぁ、見た目はちょっとアレっすけど、とりあえず飲んでみればわかるっすよ」
「(これ飲んでも大丈夫なのか?)」
そう思ってしまうほど、目の前に置かれている液体は毒々しい色だ。例えるなら写生に使った絵の具を洗ったバケツの水のような色合いだ。さすがに一口も飲まないのもどうかと思い射水宏直は恐る恐る、挿さっていたストローに口をつける。
「(と、とりあえずは変な臭いはしないな。それどころか爽やかな感じだし、よ、よし、いこう)」
香り自体は思ったほど悪くなかったようで思い切ってストローから液体を吸い上げ口に含むと、口いっぱいに『メラソーラ』の風味が広がっていくのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回はちょっと少なめでしたがもう一本今週中に投稿できるのでお許しを。
前にも言いましたが*はサイドストーリー要素なので読まなくとも本筋は……。
それでも、もし読んで頂けるのなら嬉しいです(本心を言えば是非読んで頂きたいです)
もしよろしければブクマや高評価、感想お待ちしています。