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犬猿の仲じゃなきゃ嫉妬されてしまうほどの美少女たちは残念ながら犬猿の仲でした。

簡単日記

鈴蘭子と映画を見ました

駄作でしたがお互いに思いのほか楽しめました

バカップルのようにくっついてくる鈴蘭子の視線の先には上市がいました。


「上市!?」

「あんたたち、こんな人目の多いところでいったい何してるのかしら?」

 驚いている俺の反応とは真逆と言っていいほど冷静な言葉遣いではあるが、実際の上市はこちらを睨みつけて怒りを押し殺しているような口調のまま、一歩一歩こちらとの距離を詰めてきている。

「(しまった、また怒らせたか)」

 またと言うのも俺たち三人は中学からの仲で、その当時から今のように鈴蘭子がベタベタくっついてくるし、それを見つけた上市が鈴蘭子に注意すると言う流れが、いつからかお決まりのパターンになってしまっている。

 上市の言い分は『いくら部活の先輩後輩で仲がいいからってベタベタしすぎ、節度を守りなさい』という至極真っ当な言い分だった。

 俺は気恥ずかしいと言う一点を除けば別に嫌なわけでもなかったしあんまり気にしていなかったが上市の言い分を聞いて納得した俺はある程度距離を取るように鈴蘭子に言ったのだが、何故かそれ以降は逆によりベタベタとくっつくようになってしまった。

 まぁ、俺からしてもこんなカワイイ後輩女子にベタベタされて嫌なはずもないし俺が言っても聞かなかったので、それ以降もからかわれている自覚はある物のある程度は黙認していたのだが、それ以降も上市は断固としてそれを許さなかった。

 それからと言うもの俺と鈴蘭子がくっついているところを見ると、上市は必ず怒りながら離れるように言ってくるようになり、それに対して何故か鈴蘭子も反抗するものだから二人の仲はぶっちゃけ良くはない。

「あれ~、上市先輩じゃないっすか? どうしたんすか? こんなところを『一人』で歩いて、あ~、わかった『一人』で映画でも見に来たんすね?」

 怒っている上市に対して鈴蘭子は相変わらず怖気づくどころか嫌味っぽい口調でそう言うと、上市は鈴蘭子の鼻先10センチほどまで近づいていた。

 上市と鈴蘭子の身長差は10センチ以上あるのだが、鈴蘭子が少し屈んで俺の腕にしがみついているので目線はほとんど同じぐらいになっている。

「別になんでもいいでしょ! それより宏から早く離れなさい!」

「嫌っすよ、私と宏先輩がなにしてようと、それこそ上市先輩には関係ないじゃないっすか?」

 怒っている上市に対して鈴蘭子は俺の腕を握る手により力を入れて言い返す、このお決まりのやりとりを聞いて(また、始まった)そう思い、いつものように心の中でため息をついてみる。

「関係あるわよ! あたしは宏の友人として、こんな人目の多いところでベタベタくっついて平気な顔している馬鹿と宏が同じように見られないように注意する義務が――」

「馬鹿って、私に向かって言ってるんすか!? 学年で学力トップクラスの私に向かって!?」

「そうよ、大体、学力が高ければ馬鹿じゃないって考え方が馬鹿なのよ」

「なっ!」

「テストでいくら良い点を取ろうが常識がなければ、周りから馬鹿に見えるのは当然じゃない、もっとも、あんたの場合は学力があって常識もあるのにそんな馬鹿みたいことをしてるから救いようもないけど」

 そういい終わると鈴蘭子を残念な子を見るような目で上市は見るんだが、見た目からして意外に見えるかもしれないが気の強い鈴蘭子は怯むことなく反撃に出る。

「だったら聞きますけど、私たちのどこが常識外れって言うんっすか?」

「どこって、どう見たってあんたが宏の腕に抱きついているところが、常識外れに決まってるじゃない」

「今どき、これくらい普通っすよ。これぐらいで常識外れって上市先輩っていつの時代の人間なんっすか? もしかして、さば読んでて実は昭和生まれとか?」

「誰が昭和生まれよ! あたしは普通に平成生まれの16歳よ!」

「ですよね~、そんな幼児体型で昭和生まれなんて笑えないっすもんね~」

「きぃぃぃ、あんたホント、ムカツク!」

「それはこっちの台詞っすよ! いつも、いつも私と宏先輩との時間を邪魔して、宏先輩もそう思うっすよね?」

 鈴蘭子は潤ませた瞳で上目遣いをしながら自分の胸を俺の腕に押し付けてくる。

「お、おい!」

「どうしたんっすか? 宏先輩、顔が赤いっすよ?」

 ただ大きいだけではなく柔らかでいて弾力のある未知なる感触に動揺する俺を嬉しそうにニヤけながらわざとらしい口調を見せる鈴蘭子。

 さすがにこれ以上はマズイと思い、そんな俺らを見てイラついた様子の上市に助けを求めて視線を投げかけると、さすがは腐れ縁すぐに上市は今の状況に気づき近づいて来る。

「あ、あんた、宏の腕に胸当ててるでしょ!」

「当たってませんよね~、宏先輩」

「宏! 早くその馬鹿から離れなさい!」

「離れませんよね~、宏先輩」

 俺は二人の強い視線を受けながら判断を迫られる。

 いつもならこのまま強制的に上市が鈴蘭子を剥がす形で離れることになるんだろうが、そうなると気の強い鈴蘭子のことだ、反撃に出ないとも限らない。助けを求めておいてなんだが、殴り合いになる前に俺が決断を下したほうがこの場的には良さそうだ。

 そうして考え出した答えは鈴蘭子と離れることだった。そもそも俺からしてみれば無理にベタベタくっつきたいわけじゃないし、俺が鈴蘭子と離れることでこの二人のケンカが最低限の被害で終わると言うのならこの柔らかな感触を遠ざける価値はある。

「ふん、そうよね、さすがはあたしが認める数少ない友人」

「そんなぁ、宏先輩ぃ」

 勝ち誇ったかのようにドヤ顔している上市とは対照的に、うなだれながら力ない様子の鈴蘭子に対して少しくらいはフォローしてやろうと声をかけてみる。

「そんな落ち込むことでもないだろ、どうせこれからファミレス行くんだから無理にくっつかなくても――」

「ちょ、ちょっと宏、今、あんたファミレスに行くとか言わなかった?」

 さっきまでドヤ顔をしていた上市だが何故か急に焦った様子で不安そうな顔に変わってしまっている。

この一瞬での上市の心情の変化についてはいけずに軽く首を傾げながらも「言ったけど?」と、とりあえず返してみる。

「ま、まさかとは思うけど、その馬鹿と行くわけじゃないわよね?」

 全くもってどんな心情なのか読み取れないが上市は顔を引きつらせながら鈴蘭子のほうを指差す。

「ん? 鈴蘭子と行くけど?」

「はいぃ!?」

 急な大声に俺は驚きながらも、上市のその大袈裟すぎるリアクションを聞いて、さっきまでうなだれていた鈴蘭子の顔が少し上がり口元がニヤッと動いたのが見えてしまう。

「そうでした、そうでした。これから私たちは二人でファミレス『デート』をする予定でした。さすがは宏先輩っすね、今は離れていてもファミレスでイチャイチャすればいいってことっすね」

「いや、そういうわけじゃ――」

「もぉ、照れなくていいっすよ。さっ、そうと決まればこんなツンツンババア、じゃなくて上市先輩なんてほっといて早く行きましょう」

「あんた、今あたしのことツンツンババアって言ったわね!?」

「なに言ってるんすか? 清楚で可憐でお淑やかな美少女である私がそんな汚い言葉を使うわけないじゃないっすか、嫌っすね上市先輩ったら」

 まるで数億円の掛かっていたマネーゲームに勝ったかのような満面の笑顔をしたまま、わざとぶりっこのような口調の所謂『黒鈴蘭子』を見て(絶対、わざとツンツンババアって言ったな)俺はそう思い、確実にキレているであろう上市のほうを見ると予想通り上市は歯を軋ませ拳を震わせて表情は怒りに満ちていてすごくわかりやすくキレている。

「ムカツク! あんたホント、ムカツク!」

「ふふっ、上市先輩になんて思われようが構わないっすよ。さて、それじゃあ早くファミレスに行きましょう、宏先輩!」

 怒りの表情を見せる上市を見て満足したのか鈴蘭子は小さく鼻で笑うと俺の腕を引き歩き出そうとする。

「ま、待ちなさい!」

「まだ何かあるんすか? 私は早く――」

「――あたしの用があるのは宏だからあんたは少し黙って」

 上市が怒りを込めながらも冷たい口調でそう言うと鈴蘭子は小さく舌打ちをしながらも仕方なくといった様子で顔を逸らし黙り込む。

 それを確認した上市は俺のほうに視線を移して用とやらを話し始める。

「この前たしか、あたしに41のアイス奢るって約束したわよね?」

「あぁ、したな」

「それ、無しにしてあげる」

「本当か!?」

 なぜこんな話を今するのかと疑問を抱きつつも財布の中身が寂しい俺にとってはラッキーだと思い意識せずとも声が弾んでしまう。そもそも完全な免罪に対する贖罪みたいなものだったので、出来れば上市がこの春休み中に忘れてくれれば、なんて思っていたぐらいだからな。

「ホントよ、でも、その代わり――今から私もファミレスに連れて行きなさい」

「ちょっ、なに言ってるんすか!? そんなこと――」

「あたしは宏に聞いてるんだけど?」

 あんたには聞いてないと言わんばかりに威圧的な目を向ける上市に対して一瞬だけたじろぐ鈴蘭子だったがすぐに「ふっふ」と不気味に笑い出す。

「どうあっても私の邪魔をしたいみたいっすね、でも無駄っすよ、なぜなら宏先輩がそんな要求を呑むはず――」

「ん? 俺は別にいいけど、じゃあ、三人で行くとするかファミレスに」

「えっ? あれっ? 宏先輩?」

 俺の反応が予想外だったらしく目をパチクリしながら鈴蘭子は動揺した様子で見つめてくる。

「二人で行くより三人で行ったほうが楽しいだろうし(なんて言うのは建前で、ついでに上市をファミレスに連れて行けば、またあらためて41に出かける必要もないし、なにより上市は平気でアイスケーキをホールで頼んでくるし、なんならお土産としてもう1ホールとか言い出すからな。ファミレスで奢ったほうが幾分かは安いはず、つまり俺にとって無駄な外出を減らし財布へのダメージを減らせるまたとないチャンス)」

 腹の内ではそう思っていたが、当然こんなことは言えやしない。なぜなら俺にも小さいながらも男としてのプライドがあるのだから。

「いやいや、なに言ってるんすか!? 二人きりのほうが楽しいっすよ!」

「そ、そうか? 三人のほうが楽しいと思うぞ?(鈴蘭子、頼む! このチャンスを失うわけには――)」

「そんなことないっすよ! 絶対、絶対、ぜーーーたいに、私と二人のほうが楽しいっすよ! それに私は上市先輩と三人でファミレスなんて絶対に嫌っすよ」

「(なんてことを言うんだ! 今ので上市が機嫌悪くして、ファミレスに行かないとか言い出したら……、いやっ、そうはさせない、財布のためにもなんとか鈴蘭子を説得してみせる)あのな、俺だってお前らが馬の合わない相手だって知っているさ、だけどお前らと仲のいい俺からしてみれば、少しは仲良く――」

「無理だから」

「無理っすね」

 打ち合わせでもしていたかのようにコンマ一秒のずれもなく綺麗に揃った二人はお互いに火花を散らせるように睨み合う。そんな姿を見て(実はお前ら仲がいいんじゃ――)と一瞬思い口に出かけるが、二人の表情から殺気を感じて思い直す。

 明らかに状況は悪い、それでも諦めるわけにはいかない、なにか説得できるいい手を……そうだ! 俺の立場を二人にわかってもらえるような、例え話でもすれば少しは共感してくれるはず……自信はないけどやってみる価値はある。

 自分の考えに少々の不安を抱きながらも再度、鈴蘭子の説得を始めてみる。

「そう言うなって。考えてもみろ、自分の好きな人たちが毎回会うたびに目の前でケンカばかりしていたら嫌だろ? それと一緒で――」

「――そそそ、それってどういう意味っすか!?」

「く、詳しく言いなさい!」

 鈴蘭子を説得していたんだが、なぜか上市まで例え話に過剰な反応を見せて、二人して俺に迫ってくる。

「え、え~と?(あっ、あれっ? 思ったより食いつきがいいけど、上手くいったのか? つーか、なんで上市まで食いついて来てるんだ?)」 

 自信がなかった俺にとって二人の反応は意外なもので、少し戸惑っていると、二人の顔が何故か徐々に赤く染まり始める。

「す、好きって、その――」

「ライクのほうっすか!? そそそ、それとも、ラ、ラブのほうっすか!?」

 どうやら俺の伝えたいことは一切伝わってなかったようだ。

 手応えはあったが引いている最中に魚に逃げられる気持ちと言うのはこんな感じなのだろう(釣りやったことないけど)もし俺が言いたいことが伝わっていたのならライクがどうとかいう話にはならないはずだからな。

「……いや、状況的に考えてライクに決まってるだろ? ここで俺がラブなんて言うような最低な二股野郎だとでも?」

 よく考えてみろ、二人の異性に対して「私の愛する二人がケンカするなんて見たくない」なんて、今時、少女マンガの主人公でも言えないだろう。こんなこと言って許されるのはハーレムエンドを目指している、ラノベやギャルゲーの主人公くらいだろう、まぁ、実際許されているかどうかは知らないが……、許されていると仮定してもせいぜい二次元までだ。三次元の女子に向かってそんなこと言う奴はただの最低野郎に違いない。

「……まぁ、今の宏も、ある意味では最低だけど」

「そうっすね、最低っすね」

 そっぽを向くとは正しくこう言う状況なのだろうと言わんばかりに二人は呆れたように俺から顔を背ける。

 この調子だとどうやらラブだろうがライクだろうが、どっちを選んでも最低と言う評価は変わらなかったらしい、少なくとも俺は仲のいい友達だと思っていた美少女二人にライクの意味で好きと言って、最低呼ばわりされるとは思っていなかったので、予想外のダメージを心に負いつつも、なんとしても鈴蘭子を説得しなくてはいけないと思い、気力を振り絞り説得を再開する。

「頼む!」

「嫌っすよ、絶対に無理っす、上市先輩と三人で行くくらいなら行きたくないっす」

 結果から見れば色よい返事は貰えなかった。頑ななまでの上市の態度に俺の方が折れかけていると(ちなみに『俺』と『折れ』は掛けてない)説得している間ほとんど喋らなかった上市が、その言葉を待っていたかのように口を開く。

「あっそ、じゃあ、あんたは来なくていいわ、そう言うことだから宏、行くわよ、ほら早く」

「あ、ちょっ上市、さすがに鈴蘭子を置いて行くわけには――」

「いいから、あんなのほっといて行くわよ」

 上市は俺の上着を引っ張り半ば強引に歩き始めた。最初の数歩は鈴蘭子に動きはなかったが10メートルほど離れるとなにか思いついたようにニヤッと笑う。

「待ってくださいよ~、私も行きますから~」

 さっきまでの不機嫌顔はどこへやら、慕う先輩を追いかける純粋な後輩のような笑顔で俺たちに追いついてきた。

「なによ、結局あんたも行くの?」

「はい! もちろんっすよ、元々は私と宏先輩で行く予定だったものっすから」

 俺はそのやけに明るい口調と笑顔を見て、なぜか背筋に寒気が走る、そう俺は知っているのだこういう時の鈴蘭子の恐ろしさを。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

先週は一本しか投稿出来ず申し訳ありません。

不甲斐ない自分を挽回するためにも今週はあと二本投稿する予定ですので

引き続きご愛読のほどよろしくお願いします。

ブクマや高評価、感想待ってます。

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