姉貴分じゃなきゃ相手にしないほどの美人なウザ系お姉さんは残念ながら俺の姉貴分でした。
簡単日記
鈴蘭子に手伝ってもらいゲームを選びました
売り切れだったので予約していた鈴蘭子に譲ってもらいました
代わり映画を奢る約束をした鈴蘭子と別れゲームを手に自宅へ帰ってきました。
「ただいまー」
家に入り居間の襖を開けると当たり前のように何食わぬ顔でテレビゲームをしている佳奈姐が居た。ゲームショップに置き去りにした俺のことを全く気に留めてない様子にため息交じりで落胆しながらどうしてここに居るのか聞いてみる。
「……なにしてんの?」
「あっ、おかえり~、宏君」
「おかえり~、じゃないよ! 俺をゲームショップに置き去りにしておいて」
「いや~、探していたゲームが見つかったって聞いたら居ても立っても居られなくなっちゃって、ごめん、ごめん」
「ったく、せめて電話ぐらい出てくれればあんなに苦労しなくてよかったのに」
「まぁ、まぁ、そう怒らずに。それよりゲーム買ってきたんだ~ 見せて、見せて」
俺のボヤキを全く気にもしない様子で佳奈姐は俺が持っていた袋に気づき、有無を言わさずに袋を奪うと中を覗き込んで「あ~」と少し残念そうな声を上げる。
「なんだよ?」
「いや~、そうか~、これも今日発売だったね~」
この様子だと、どうやら佳奈姐がラファに買ってこようとしたものは『太鼓の怪人』ではなく『風のクロロア5』だったらしい、今までの苦労はいったいなんだったのか、後輩に足元を見られ恥ずかしいことを言わされ、更には後輩に貸しを作ってまで手に入れたゲームだと言うのに。
肩の力が抜け自然とため息が出てしまう。
「通してくれぬか、わちは喉が渇いておるのじゃ」
そんな俺の心情など知る由もないラファが後ろから不機嫌そうに声を掛けてくる。
「ご、ごめん」
「ごめんね~、私の愛しのラファちゃん」
俺と佳奈姐が居間の入り口でさっきのやり取りをしていたのでラファが居間に入れないようになっていたことに今気づいた俺と佳奈姐はそう言うとサッと道を開ける。
ラファは少しムスーっとしながら居間に入っていき台所にある冷蔵庫へと向かっていく。
「いや~、ラファちゃんまだ怒っているみたいだね~」
佳奈姐がラファに聞こえないように小声でそう言ってきたので俺も小声になる。
「そうだな、佳奈姐のふざけた謝罪をスルーするのはともかく俺の誠意のこもった謝罪すらスルーするなんて、まだ怒っている証拠だな」
「……宏君」
「なんだよ?」
「『スルー』『する』なんてしょうもないこと言ってる宏君のほうがふざけてると思うんだけど?」
「いや、狙って言ったわけじゃないから、あとそういうことを真顔で言うなよ、狙ってなくてもちょっと傷つくだろ」
「もう宏君、ふざけてないで早くゲーム渡してきなよ~」
「(なんで俺がふざけてることになってるんだよ!)」――はいはい、わかったよ」
心の中で理不尽に抗議してみたがそれを声に出せばまた話が進まなくなることはわかりきっているので納得できないながらも話を進めようとする。
「でもこのゲームじゃ、ラファは喜ばないんだろ?」
「ちょ、宏君なに勝手に話進めようとしてるの~、そこは『なんで俺がふざけてることになってるんだよ!』って、ツッコミを入れるところでしょ~、数少ない宏君が輝けるところでもあり、数少ない長所なんだからツッコミの仕事忘れちゃだめだよ、宏君」
「それはもう俺の中で処理したからいいんだよ! いちいち佳奈姐のボケにツッコミをいれていたら話が全然進まなくなるだろ! それと数少ないを強調するなよ! 事実でも凹むだろ」
「ご、ごめん」
割と本気でへこんでいるのか、いつもはふざけた感じで謝るのに今回はちゃんと謝ったのを見て俺は少し言いすぎたかと思い反省しながらも話を元に戻そうとする。
「……じゃあもう一回さっきのところから言うから」
佳奈姐は気合十分といった感じで大きく頷く。
「このゲームじゃラファは喜ばないんだろ?」
「ちょ、宏君なに勝手――」
「なんで繰り返してるんだよ!?」
「だってもう一回って宏君が言うから~」
「もう一回繰り返すって意味じゃねぇよ! 同じところから話を戻すってことだよ! 前に進んでくれないと困るだろ!」
「そうならそうと言ってくれないと、え~と今日はまだ三月だからエンドレス・スリー編にでも入るのかと思ったんだけどな~」
「入るか! そもそもこんなくだらない会話をエンドレスにしても誰も得しねぇよ!」
少しでも佳奈姐に言いすぎたかもと反省した俺が馬鹿でした。
俺はもう何度幸せを逃がしたかわからないと言うか数えるのも馬鹿らしいし、ここまで来たら逆に幸せになってくれてもいいんじゃないかと思いながら少しの後悔を込めてため息を吐く。
「(だが、このパターンはさすがに読めている。佳奈姐のことだからエンドレス・スリーに掛けて三回繰り返すに決まっている。いつもなら黙認するが今の俺はそんなことに付き合う気はない)それじゃあ、もう一回話を戻すから」
俺は佳奈姐に対してカウンターを用意しつつ話を戻す。
「とにかくこのゲームじゃラファは喜ばないんだろ?」
「ち――」
「言っとくけど、三回目はいらないから」
「や、やだな~、心配しなくてもエンドレス・スリーに掛けて三回繰り返そうなんて思ってないよ~、ははは、はぁ~」
狙い通りきっちりとボケを潰せて俺としては少しだけ気が晴れつつも佳奈姐はボケを潰されて少し落ち込んでいるようだが、さっきのように同情してはいけないと自分に言い聞かせる。
こういう時の佳奈姐に俺は弱い。
普段ふざけてる人が急に落ち込むとギャップの所為かすごい罪悪感を感じてしまう、更にはお世辞抜きで容姿が良いところがその罪悪感を倍増させている、この辺がいつも敗北するポイントだったりする。
ホント、容姿が良いってすごい長所だよ。生まれ変わって一つだけ願いが叶うのなら絶対に容姿だけは良く生まれ変わりたいものだ。
「……で、どうなんだよ?」
「その辺は任せて~、私がちゃんとアシストしてあげるよ」
凄く葛藤しながら心を鬼にしていつものように負けを認めずになんとか話を戻したと言うのに、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように復活してしまう。こうなる事ぐらい毎回わかっているのに俺はいつも負けを認め折れてしまっていた。
それほど佳奈姐の性格は明るくていつも笑顔で、認めたくないが……美人(黙っていれば)だと思う。
佳奈姐の軽い返事を聞いて果てしなく不安だったが俺にはどうしようもないので「わかった」と言うしかなく、ぶっつけ本番によるラファへのプレゼント作戦が始まる。
「なんじゃ、また二人でわちの悪口でも言っておるのか?」
台所から帰ってきたラファは俺と佳奈姐がこそこそと話しているのを見てまた一段と機嫌が悪くなってしまう。幸先の悪いスタートだ。
「いやだな~、そんなわけないよ~、私たちはただラファちゃんに対してサプライズを用意していただけだよ~」
「サプライズ?」
佳奈姐の言葉にラファは不思議そうに首を傾げる。
「ちょっ、佳奈姐?」
俺は打ち合わせには無い突然の展開に不安が増幅しながらも小声で確認を取ると佳奈姐は親指を立ててキメ顔でこっちを向いた。たぶん『まかせておけ』的な感じだと思うんだが、このポーズでこれだけ頼りないと思うのも珍しい。
「えっとね~、なんと! ラファちゃんにサプライズとしてゲームを買ってきたんだけど――」
「(おいぃ! それネタバレだろ! サプライズの意味分かってるのか!)」
「そこまで言ったらサプライズにならんじゃろ」
何を言ってるんだと言わんばかりの馬鹿を見るようなジト目でこっちを見てくるラファのその言葉に三人の間に気まずい沈黙が流れる。
「(どうすんだ、この気まずい状況、つーか、ラファも普段ボケてばかりの癖にこんなときに限って冷静にツッコミ入れてきやがって、少しは空気を読め)」
そうは思ったものの全面的悪いのは佳奈姐なわけで俺は佳奈姐に『どうすんだ』というような視線を向けると、あきらかに動揺し目が泳いでいたが「ハッ」となにか思いついたような仕草を見せる。
「い、いやだな~、サプライズって言うのはゲームの中身、つまりソフトがサプライズってことだよ」
「(いやぁ、かなり苦し紛れな感じもするがこれならまだ立て直せるか?)」
厳しいこの状況を覆せるとは思えないながらも期待を込めてラファの反応を待つ。
「そうなのか? それじゃあ相当すごいものということじゃな、ま、まぁ、わちは別に興味ないんじゃが」
「(セーフ! 奇跡的にセーフ! ラファが単純で助かった)」
「すごいってもんじゃないよ~、なにせ超人気ゲームで超入手困難なゲームだからね~」
「ほ、ほぉ~、そ、そんなにすごいのか?」
興味が薄そうに振る舞っているつもりだろうがあきらかに俺の持っている袋をチラチラ見ているところからもゲームのことが気になっているのはバレバレだった。
今の状態を例えるなら、ラファが犬なら顔は背けていても尻尾をすごく振っているような感じだろう。
「そうだよ~、どれくらいすごいか言えないぐらいすごいよ~」
「ほ、ほんとうか?」
すでに演技をするのを忘れたのかラファの目が段々とキラキラしてきたのでホッとしたのだがそれはほんの一瞬だけの話、すぐにこの流れがヤバイことに俺は気づき始める。
「ほんとだよ~、宏君が選び抜いて買ってきたゲームなんだからすごくないわけないよ、ね~、宏君」
「(ハードル、上げすぎだ!)ま、まぁな」
流れ的に同意せざるを得ないので脂汗をかきながら同意してしまったが俺はすでにこのゲームがラファのほしいゲームではないことを知っている。
つまり、今となってはこれでもかと上がりきっているこのハードルをこのゲームが見事な大ジャンプを見せて越えることはまずありえないわけだ。それなのになぜ佳奈姐はまだハードルを上げ続けているのかと言えば、おそらくだが当初の目的を忘れてしまい、いつもの悪ノリをしているのだろう。
やっぱり佳奈姐に任せるべきじゃなかった。
「早く見せてほしいのじゃ!」
「それじゃあ宏君、ラファちゃんに渡して上げなよ」
期待に胸膨らませるラファの眼差しとニヤついている佳奈姐のムカツク顔に見られながら、俺は心の中で幸せを逃がしつつゲームの入った袋をラファに手渡す。
「『太鼓の怪人?』これをわちにくれるのか?」
「まぁ……、な(さて、なんて言われるのやら)」
「そ、そうか、宏直がわちに……、ふふっ」
「ラファ?」
「宏直よ、わちはとても嬉しいぞ! ありがとうなのじゃ!」
ラファは取り出したゲームを両手で抱えながら満面の笑みでそう言うと運動音痴で踊れもしないのに何故だかクルクルとその場で回りだす。
その笑顔とこの反応は半ば諦めていた俺にとって予想外だった。きっとがっかりするんだろうなと思っていたので俺は面を食らってしまい「お、おう」としか返すことができなかった。
「ふっふっふっ、それじゃあ、わちはさっそくこのゲームをやってくるのじゃ」
上機嫌だということだけはわかる謎のテンションでラファは走って居間から出て行き勢いよく階段を駆け上っていった。それこそ躓いて階段落ちになるんじゃないかと心配するぐらいに。
「あれ? 宏君、ぼーっとしてどうしたの?」
俺は目の前の出来事が信じられず、理解が追いつかないまま突っ立っていると全く驚いてもない佳奈姐に声を掛けられる。
「いや、予想以上に喜んでいたから少し驚いて……」
「そう? 私は予想通りだったよ~」
「は、はぁ? 予想通り? いや、だって佳奈姐が買ってこようとしたのは『風のクロロア5』の方だったんだろ?」
「そうだよ~、ついでに言うとラファちゃんは音ゲーを一切しないよ~」
「はぁ!? なんだそれ、いや、だったらなおさらあんなに喜ぶのはおかしいんじゃないか? もしかして俺に気を使って――」
「ふぅ~、やれやれ宏君は相変わらず何もわかってないね~」
「なにがだよ?」
「宏君はこんな言葉を聞いたことがない? 『大事なのは何を食べるのかではなく、誰と食べるのかである』って言葉なんだけど~」
「まぁ、聞いたことがあるような、ないような?」
「つまりそういうことだよ~」
「いや、どういうことだよ。どうせ後出しだろ? いつもみたいにわかった風なだけだろ」
「いいや、違うね。何故なら私は何でも知ってるお姉さんだからね」
そのパクリ丸出しの台詞を自分の物にしようとしている佳奈姐に呆れてしまいそれ以上このことを話すのも馬鹿らしくなってしまう。
ともあれ当初の目的であるラファの機嫌を直すことは達成できたみたいだしとりあえずはよかったかな。
まぁ、その後ゲームに熱中しすぎて部屋に引きこもってしまったラファが夕食を食べに降りて来ず、一緒に夕ご飯を食べられなかったことはせめてもの笑い話にでもなれば幸いだ。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
先週は週三投稿でしたがあまり好評ではないようなので元通り週二に戻します
(やはり慣れないことはするべきではないようです)
週三投稿を評価して頂いた方々にはすごく感謝しています。ありがとうございます。
これからも少しでも面白いと思ってもらえるように頑張りますので
引き続きご愛読のほどよろしくお願いします。
モチベになりますのでよろしければブクマや高評価、感想お待ちしております。