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混沌の中で

今年の投稿2本目!ナメてやがる!申し訳ありません!((。 ・ω・)。´_ _))ペコリン

ー???ー


「……汝がなぜこの世、存在しておる」


 黒よりも深く染まった闇夜に閉ざされた漆黒の空間にとてつもない圧力と時空を歪めかねないほどの原初の力が渦巻き、全てを睥睨(へいげい)する声が響く。

 だが、単なる生命ならば卒倒どころが存在が消滅しかねないそんな空間に立つ存在が、普通であるわけもなく……。


「なんだい、久々の再会だというのに」


 相対する存在は芝居くさい台詞を吐き捨てる金髪の少年――最高神エルメス。


 神々を統べる絶対的な王は、渦巻く力の濁流をそよ風をいなすかのように霧散させる。


「……ふむ、余の洗礼を受け消失しなかった存在……うふふっ、久々に見ましたね」


 先程の厳格な雰囲気とは打って変わり、随分とフランクな声が響く。声が発せられる度に力の濁流は発生しているが、最高神はまるで気にしていないように、ため息を洩らす。


「……君たち、毎回最初のその茶番やる必要あるの? いちいち打ち消すの面倒なんだけど」


「……本来、打ち消せるものではないんですがねぇ。それに、貴方がここにいることを疑問に思ったのは事実ですしぃ」


 そう零すや否や、常闇の中からこの空間にそぐわない鮮やかな翠色の髪をウルフカットのように遊ばせ、にこやかな笑顔を浮かべた少女が姿を顕した。


「うふふ、お久しぶりです。天王神様?」


 何も知らぬ者が見たら、さながらこの漆黒の闇に舞い降りた天使のように感じるだろうが、それはほんの一瞬の出来事。

 次の瞬間に感じるのは紛れもない死であり、心臓を握り締められたかのような錯覚を覚えるほどの恐怖と絶対的な存在感に、膝を屈することになるはずだ。


 そんな『死』を具現化したかのような少女は履いていた短いスカートを抑えながら、胡座をかき、地面とも形容し難い闇に座り込む。


「あぁ、久しぶりだね。ーーーちゃん?」


「あはっ、そんな堅苦しい呼び方しなくても貴方たちが呼んでいる名前――セーラスとでもお呼びください」


 神の言葉で神名を呼ばれるが、そんなこと気にしてないとでも言いたげな少女はにんまりと笑みを浮かべ、片腕を振り上げた。


 瞬間、空間が捻れ、圧縮されたことが見て分かるほど時空が振動する。


 空間に微量ながらも存在していた光子すらも飲み込み、完全なる闇が無数に顕現した。


「おや、これはまたいきなりだねぇ。時空を捻じ曲げるのはいいけど、戻すの面倒なんだからね、それ?」


 セーラスは答えず、振り上げた腕を静かに振り下ろす。


「――神霊術式・第三機構《常闇之魔王(タルタロス)》」


 無数に出現した闇は意志を持ったかのようにセーラスの腕の動きに合わせ、飛び交う。


そして、やがて標的を定めたように球の形をした闇はエルメスの方に向かってくる。


 明らかな殺意を持った攻撃だと認識していながらもエルメスは飄々と笑みをうかべる。

 時空が歪められているため、時間軸や空間軸に干渉する魔法は打てず、かと言ってまともに受け切れる量の闇ではない。


 ――全く、なんでまぁ、君たちはそうせっかちなのかねぇ。


 喉の先まで出かかったその言葉を飲み込み、エルメスは両掌を合掌をするかのように合わせ、一言呟いた。


「《閉刻》」


 その瞬間、無数に存在していた漆黒の闇が元あった形に戻るかのようにその穴を閉じていく。やがて、顕現した闇は捻れた空間を元に戻し、完全に消滅した。


「……はい?」


 今、目の前で起きた光景が即座には理解出来ず思わず素っ頓狂な声をあげるセーラス。


「何を驚いているんだい、ただ生じた歪みを修正しただけじゃないか。それにこの世界にワザと影響を及ぼして他の子たちを起こそうとしたのかもしれないけど――」


 次の瞬間にはグチャリとなんとも生々しい音が響く。


「――君の考えてることが僕に分からないとでも思ったのかい?」


「……っ」


 気づいた瞬間にはすでにセーラスの腹からエルメスの右腕が生えていた。

 そして、その貫かれた腹からは本来垂れるはずのない赤黒い液体が滴っていく。


「……ごはっ、あはは。いやはや、流石は天王神様、いつから気づいてらっしゃったんですかぁ?」


 喉の奥から迫り上がった血反吐を盛大に吐き出し、声を出して笑うが、その翠の瞳は酷く落ち着いており、エルメスの顔を忌々しく睨む。


「ふむ、精神分離体を適当に創った肉体に受肉させたか」


 用が済んだとでも言いたげにエルメスはセーラスの腹から、ずるりと腕を引き抜く。


 土手っ腹に風穴を開けられたセーラスは糸の切れた操り人形(マリオネット)のように地に伏した。が――


「……ふ、うふふ。これは自信あったんですけどねぇ。こうも簡単に見破られると傷つくと言いますか、なんかつまらないですねぇ」


 痛みなんてものは感じるまでもなく、時間が逆向するかの如く腹に空いた穴はみるみるうちに塞がっていき、やがて元の綺麗な状態に戻っていた。


「さて、君の本体はどこにいるんだい?」


「貴方が一番分かっているでしょうに、未だ動けませんよ。誰かさんのせいでね」


「そうかい、なら安心だ」


 ニコニコとした笑顔を向ける最高神に対して、壮絶な怒りが湧き上がるが先ほどの攻撃を無力化されたように何をしても歯が立たないのは明白だ。


 やがて諦めたようにセーラスはため息をつく。


「……それで、こんな狭苦しいとこにわざわざ脚を運んでなんの用なんです、まさか暇つぶしとか言いませんよね? 言ったら今度こそぶっ殺しますから」


「うーん、まぁ、暇つぶしもあるんだけど、ここの監視をしてた子を下界に送り込んじゃったから仕方なく僕が来たって言えば分かるかい?」


 この場に来た理由に納得しつつも、一部には暇つぶしも含まれていると言う事実にさらなる怒りを覚え、拳を振るわせるセーラスだが――


「……尤も、異変が起こってることは君たちの方が分かってるんじゃないのかい?僕の方にも一部的に君達の眷属が流れて来てて駆除するの面倒なんだけど……?」


「言い方がいちいち腹立ちますねぇ。駆除って私たちは害虫か何かですか!?」


「似たようなものだろ、テリトリーに土足で上り込んでるんだからさ」


「本当に貴方はイラつくことばかり言いますねぇ!? ですが、残念ながらそれは私たちでは対処出来ないのですよね。誰かさんのせいで今は私たちの制御が外れてますもん」


 その『誰かさん』に向かって大声を出すセーラス。


「……なら言っておいてよ。『暴れるのは勝手だが、目をつけられてることを忘れるな』ってね」


 未だ睨みつけていた眼をスッと逸らし、盛大になんともめんどくさそうにため息を洩らす。


「はぁ〜……分かりましたよ。ただ、制御下にない今、何をしても無駄だと思いますが……あー、めんど」


 最後に盛大な愚痴を最後に洩らし、セーラスは漆黒の闇に消えていった。



「全く、彼女はなんであんな素直じゃないんだか。ところで――」


 やれやれとでも言いたげにエルメスはセーラスが消えた方向とは別の闇を見つめる。

 そこには周りと変わることのない闇が広がっているだけだが、エルメスがその眼を細くし、睨むと空間に徐々にヒビが広がっていき、やがて硝子が割れたようにパリンッという音をたて、空間が割れた。


 その奥からは、先程のセーラスのような翠ではなく一本一本が光っているかのように綺麗なストレートの銀髪を持った少女が姿を顕した。


「――そんなとこで、こそこそしてて気づかないとでも思ってるのかい?――セナちゃん?」


 セナと呼ばれた銀髪の少女は観念したようにゆっくりと立ち上がり、その重い口を開いた。


「いつから気づいておられたのですか、最高神様?」


「いつから、と聞かれたら最初からと答えるかな? この世界は構造としては僕たちの世界より単純でね、この閉ざされた狭い空間に誰が何人いるかくらいならすぐに分かるさ」


 本来なら《秘匿術式》を展開しているセナは、いかなる探知にも引っかかることはなく感知することすら出来ないはずだが、それを当たり前のように否定した目の前の存在に思わず冷や汗を垂らす。


「相変わらずですね、貴方様は。どう策を講じたところで全て見透かされたように看破される……嫌気が刺します」


 瞬間、辺り一帯にけたたましい金属音が響く。


「……ッ!」


 時間を置き去りにするほどの速度で振われた漆黒の剣が、セナの右手には握られていたが驚愕の表情を浮かべたのは、セナの方だった。


 セナが驚愕表情を見せるのは必然。セナが振るった剣は生命が知覚し、防ぐという過程をすっ飛ばしたとしても間に合わぬほどの神速。防ぎようなどないはずなのだ。


 それなのに――。


「何故、そこまで分かるのですか?」


 剣を振るった相手であるエルメスは、焦りの表情など見せる間もなくその指の間に剣が収まり、止まっていた。


 しかも、その剣先を布で包み直接触れないようにして。


「どうして、この剣が《劫燄剣》だと分かったのですか?」


 セナが握っている黒剣の銘は《劫燄剣アザム》。触れた存在を概念までも焼き滅ぼす《理外の宝具》だった。


「……いやぁね。少し不穏な未来が一つ見えたものでね?」


「……っ!」


 ――まさか、未来視ですか。


 不確定であり、如何なる者にも予測できない未来。

 それを踏まえた上で、時間操作によっていくつかの可能性を覗き見、具現化されることで未来を現実にさせる未来視。


 ――そんなこと、権能を有した未来神にしか出来ない芸当のはず……!


 だが、それが本当であればセナの攻撃をあらかじめ予測出来たのも説明がつく。


 そして気づいた瞬間には額から冷や汗が垂れるのが分かり、心臓が早鐘を打つ。


 セナの首元をいつの間にか最高神に握られていた白い剣の刀身が捉えていた。


「ひっ……!」


 セナは小さく声を振るわせる。


「こう言ってはなんだけど、ここは手を引いてくれないかい? 主人の敵討ちというのは分かるけど、彼女はそのせいで君を失うことは望んでないんじゃないかな?」


「……貴方様にそれを決定する権利はございませんが、このままではそうなるのは時間の問題のようですね。一考に値する考えであることは認めましょう」


 その言葉を合図とするかのように、エルメスは剣を首元から離し、持っていた剣を地面に突き刺す。


 その行為にとある意味があることにセナは気づいていた。


「……っ」


 戦場、又は決闘の場で武器を地に置くというのはこれ以上の闘いを望まないことを意味するため、本当にエルメスは戦闘の意思はなかったのだろう。


 だが、相対するセナは未だに武器を置いていない。故にここから反撃することは出来るが、この場は既に眼の前の災厄によって支配されているも同義だ。


 何をどうしようと無駄であり、知覚不可能な不意打ちであってもかすり傷一つ負わせることも叶わないだろう。


「全く、素直に『助けてください』って言えないのかな? まぁ、この通り僕はこれ以上君と戯れることもないからね。ここら辺で帰らせてもらうことにするよ」


 エルメスは、突き刺した剣を引き抜くと触れている柄の部分から光の粒子のように変化し徐々に形が崩れていく。


 やがて、光の粒子は魔法陣を形作り、その中心にエルメスは手を置き魔法陣の術式に触れる。


「《乖離する天門(ヴェヌエパ)》ですか。《反絶羅瘴壁(ベルディ・ガーナ)》を無条件に通ることの出来る宝具。相変わらず、貴方様の使うその剣は理解出来そうにありません」


「あはは、そりゃあそうだよ。僕が創造した最初の存在だよ? それにこの()は際限無く権能を生み出し、如何なる者にも到達できない。面白いと思わないかい?」


「前から思ってましたが、貴方様の感性って所々バグってますよね?」


「…………」


 ()()()()()から告げられた冷ややかなツッコミに言葉を詰まらせるが、取り繕うと軽く咳払いをする。


「そんなことより、君は主人の元に帰った方がいいじゃないのかな?」


「そうさせていただきましょうかね。ここを護るという私の役目は終わったようですので」


 その言葉を合図としたかのように、セナの持っていた劫燄剣が霧散するかの如く消失する。


「それじゃ、他の子たちによろしく頼むよ。また来るからさ」


「……えぇ。叶うことならば二度と来ないでください」


 毒気付いた返答に、苦笑しながらエルメスはその姿を消した。

そろそろ今年が終わりますね〜( ˙꒳˙ )

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