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協定

「なんだ貴様! 賊の者か、陛下の御前(ごぜん)に無礼であるぞ!」


 アルフェレアの姿が映し出されると、国王の配下らしき人物が声をあげる。


『突然のことですまないが、(やつがれ)の名はアルフェレア=メジア=クレードル。《第六天魔王》の第一席の座に就かせてもらっている』


「《第六天魔王》アルフェレアだと……!」


「……は、え、なんでそんなヤバい奴がここに!?」


「ま、魔王がこの国を滅ぼしにきたのか!?」


 《第六天魔王》という言葉に周りの混乱は最高潮に達し、その場から逃げ出そうとする者もいたが、一声でその騒ぎは収まった。


「……静まれい、皆のもの。まずは魔王アルフェレアとやらの者のことを聴くとしよう」


 そして、分かりやすく国王は咳払いをすると視線を投影されたアルフェレアに向ける。


「して、何用かね? 魔族の王アルフェレア殿」


『先の貴公らの会談、拝聴した。カイ……ルイド殿に貴公の国に結界を張ることを依頼したのは(やつがれ)なのだ』


 俺の名を出そうとしたアルフェレアに若干の怒りの視線を向けると、慌てて直したようだが、先ほどまでの会話を盗み聞いていたのなら話を合わせてほしいものだ。


 まぁ、アルフェレアには偽名を使っていることは話していないので仕方ないと言えば仕方ないのだが、危うくバレるところだった。


 俺は冷や汗をかきながら、国王の次の言葉を待った。


「結界の構築じゃと? 何ゆえ、魔王である貴公が人族の国なんぞを守ろうとしておるのだ? まるで、我々を滅ぼしたくないように聞こえるが?」


『ふむ、その通りであるが、何か問題でもあるのか? (やつがれ)らは長きの歴史を独自に築いてきたが、他種族を滅ぼすような真似はしておらぬはずだが……?』


「国ごとの情勢は知らぬが、少なくとも俺の記憶では魔王たちが他国を攻め入ったということは記憶してないな」


 魔族は野蛮ということは大戦時にも言われていたが、本来は自国の防衛の時のみ戦力をその地に出していた。


 無駄な血を流したくないとリリアスから聞いていた。


 ――まぁ、魔界内でも内乱は起こっていたようで血を見ぬ日はなかったらしいが。


 あの地獄の日々に比べたらこの世界は平穏に満ちている。この美しい世界をたかだが複数体の神如きに滅ぼされてたまるものか。


「……むう、たしかに建国以来魔族はおろか他種族からの侵攻はなかったと、記憶している。すまなかった、我らの勝手な憶測でものを言ったこと深く詫びよう」


 そう言葉を紡ぎ、投影されているアルフェレアに向かって腰を折る国王。


 その姿に再度、会場はざわめくが国王今はそれどころではないと判断したのか今度は注意の言葉を発することはしない。


『ふむ、今代の人国の王は随分と聡明なようだな?』


 仮面の奥で笑みを浮かべるかのような声音で言いかける。

 その姿に何をしてくるのかやはりまだ警戒をしているのか、騎士団の数人は抜剣出来るように体制を整えている。


 ――たとえ、アルフェレアがこの場に干渉し何か動きを見せたとしても単なる鉄剣ではなんの役にも立たないというのに。


 まぁ、それでも国王を守ろうとするその姿勢は評価に値するが。


「アルフェレア、つまらぬ冗句(ジョーク)はよせ。協力関係を結ぼうという相手に警戒させてどうする?」


『ふむ、難しいものだな。緊張をほぐそうとしたのだが』


 魔王なりの冗談のつもりだったらしい。


 だが、先程の言い方だと敵意を見せているようにも捉えることも出来るため、余計な一言であった。緊張をほぐすどころか再度、警戒させてしまっては逆効果だ。


「今のは魔王なりの冗談らしい。警戒させてしまったようで悪かった」


 ここで人族と魔族の友好関係が結べなくては邪神(やつら)の思う壺になってしまうため、あまり無駄なやり取りはしない方がいいだろう。


「それはもう良い。それより、アルフェレア殿。貴公が先程言っていた結界について教えてもらおう」


『そうであるな。まず、邪神と呼ばれるこの世に降り立った災厄について話すとしよう」


 そして、魔王アルフェレアは数千年に渡る大戦と邪な神々との歴史を語り始めた。



「……邪神、それも数え切れぬほどの数がこの世界に顕現したというのか」


 国王は難しい顔を作る。


 当然と言えば当然だが、あの頃の時代状況を残した文書はそもそも数が少なかった上に二千年もの時間が経っているのだから、情報が手に入ったとしても断片的なものしかないだろう。


 神話として大戦というものがあったということは伝わっているようだが、邪神についての文言を記した文書はなかったようで、アルフェレアが話している途中、国王だけでなく、周りの者もざわついていた。


『その多くは、(やつがれ)らが殲滅したのだが、この時代になって未だ残党がいたとは……』


 アルフェレアのいうように残党がいたという可能性も考えられるが、あの時代に俺が転生をする前には既にほとんどの邪神は殲滅されていた上に、魔力を秘匿するということもする様子のなかったことから、顕現すればすぐにその存在がわかったので、この時代に新たに顕現したとも考えられる。


「それでは、先程ルイド殿が殺したと言った神というのはその邪神ということか」


「まぁ、そうだな。邪神(やつら)の研究のためにこの結晶を残していたんだ。それで、この結晶ならば、この国を丸ごと守護する結界を張れるのではないかと思ったのだ」


 結界を張るということしか指示されてないが、おそらくこの神髄玉を使うことを見込んでいたのだろう。


 本当に用意周到な男だ。


「……なるほど、ルイド殿を介して間接的にその邪神とやらから護るということを言いたいという訳か」


「あぁ、本来なら俺が事を片付けるはずだったのだが、邪神などに関してはあまり俺も理解しているとは言い難かったからな。アルフェレア、感謝する」


『礼を言われる道理はない。(やつがれ)は脅威が迫っている事を一刻も早く他国に伝える事を優先したまでだ』


 ――全く、素直ではないな。


 あのタイミングで丁度、通信を繋げたというわけではないだろうから、何処かのタイミングで隠蔽などを施した上で聞き耳を立てていたのだろう。


『それでは、ここで我々魔界との協定を結んで欲しいのだが、良いだろうか?』


「貴公らの活躍は我ら人類国家にも届いておる。共通の敵ともなる脅威がいるにも関わらず手を組まぬという手はないだろう。こちらこそよろしく頼む」


 そうして、二人の国王の間に大きな協定が結ばれた。

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