対話
時間が出来たので投稿します〜(っ ॑꒳ ॑c)
【……な、何故。わ、私の咆哮が掻き消された……? そ、そんなこと今まで……】
あからさまな動揺に加え、先程までの口調もどこへやら。
竜の使う咆哮というのは二千年前でも驚異の一つとされ、魔王の誰かは分からぬが竜と魔王とが戦い、樹海が一つ消し飛んだという逸話があったほどだ。
――事が落ち着いたら聞いてみるというのも悪くないな。
俺も八千年という間に起こった事象の全てを知っているというわけではないし、認知していないことも多い。
まぁ、魔王たちも全て覚えているわけではないだろうから聞けたら聞けたでラッキーとでも思っておくとするか。
【貴殿は一体、何者……?】
未だに口調が変わったことに気づいてないのかそのままの口調でこちらに質問を投げてきた。
【悪い、驚かせてしまったみたいだな。それと、口調が変わっているぞ】
【……っ! も、申し訳ありません。つい、見栄を張っちゃったんです! だ、だからその……こ、殺さないで……ください!】
殺す気など毛頭ないのだが、どうやら怯えているようだな。
まぁ、フレンドリーに行くとしよう。
【怯えるな、というのは無理があるだろうが、まぁ落ち着いてくれ。とりあえず質問に答えるとしよう。俺は名をカイト・ルイークという名だ。お前らには『神殺し』という名の方が分かるか?】
『神殺し』――それは大戦時に俺につけられていた不名誉な通り名の一つだ。
無論、誰が呼び始めたかなど知らぬし興味もないが、俺が俺という存在をあの世界で知らしめるには丁度いいもので、強者と呼ばれる者たちには一般的に俺の名は『神殺し』となっていた。
【……『神殺し』って、確か竜王様が知り合いって言っていた幾千もの神を降した変わり者っていうあの……?】
不名誉オブ不名誉な伝わり方をしているが一応知ってはいるようだな。
しかし、竜王か。また随分と懐かしい者の名を聞いた。
竜王というのは竜属を統べる王――というわけではなく、竜族の中で特段力の強い個体の呼び名であり、初代竜王から現竜王までその血は繋がっているという話である。
今は何代の竜王だか知らないが、俺が知っていたのは第五十三代竜王だった。
竜というのは数千年は余裕で生きる長命種のため、俺の知っている竜王から変わっていない可能性もある。
【まぁ、その解釈で大体合っている。それで、お前はまだあの国に報復を考えているのか? 出来れば辞めて欲しいのだが……】
【むう、まぁ貴殿と話していて落ち着きましたし、もう攻撃はしませんがこちらとしては攻撃はしてほしくはないですね。それが約束して頂けるなら、今後はこの国に手出しするのは辞めましょう】
【まぁ、それならこの国の王に言っておこう。元より国王に用があった事だしな】
国を覆う結界を張るという話の時に一緒に言っておけばあの国王ならば了承してくれるだろう。わざわざ、国の滅亡を速めるようなことはしないだろうからな。
【それより、先程言っていたことを考えるとお前、里の出身だな?】
【えぇ、私は元々里の出身です。ですが、それがどうかしましたか?】
やはりか。さすらっている竜族では竜王の存在を知らない筈だ。
竜族には二種類の個体がおり、竜の里と一般的に呼ばれている場所に居を置く個体と里の発生ではなく自然発生した個体がいる。
この竜は元々は里の出身であり、なんらかの理由があって里を出てきたという感じだろう。
【なら少し竜王に対して伝言を頼みたい。『近々、神殺しが里に向かう』と言うことを伝えて欲しい】
すると、竜は納得の言っていない様子に眉を顰める。
【それは別にいいのですが、何故です? 行くのならそのときに言えばいいのではないのですか?】
【一応アポは取っておいた方がいいと思ったのと、これから言うことの対策を事前に伝えた方がいいと思ってな】
【その対策というのは? 過大評価するわけではありませんが竜族は大概のことではやられたりしませんよ?】
【その相手が神でもか?】
その言葉に竜はピクリと、反応を示す。
その反応は当たり前であり、大戦時に覇権を握っていたと言っても過言ではなかった竜族は邪神の出現によってその個体数を少なからず減らしていた。
どの種族にも言える事だが、その時点で神に対応し切れる種族はいなかったため、どの種族からも『神』という存在は恐れられていた。
【……まさか、神がまた出現したというのですか? たいぶ前に絶滅させたはずでは……?】
【そのはずだったんだがな。まぁ、細かい概要は今から話す】
◆
「えぇ! じゃあ、あの竜ってただ飛んでいただけだったんですか!?」
「まぁ、その通りだな」
俺は竜との会話を終え、事の顛末を話すとアヌは悲鳴にも聞こえるような声をあげた。
俺はあの竜――名をレーナというようだが――にあらかたの情報を話し、竜の里へ情報を伝達することを約束してくれた。
――まぁ、その際に持っている魔石を何個か所望されたが……。
元来、竜という種は宝石や魔石と言った魔力の籠った石や、鉱石類を収集する特徴のある種であり、情報の伝達役としての対価にしては安いので迷わず渡したが。
奴らが単純に魔力を含んだ物を収集することもあるが、基本的には魔石などに含まれる魔力を吸収するためらしい。
収集した魔石などを飲み込み、人間で言うところの消化器官にて魔石の溶解、魔力の抽出を行い、体内に魔力を浸透させ自身の力を強化するという他の生命にはありえない身体構造をしているらしい。
――まぁ、身近に似たようなことの出来る者を知っているからか、違和感などはないが。
脳裏に赤髪の少女の顔が浮かぶが、今は関係のないことだ。
「ルイドさんがいきなり飛んだと思ったら、竜と話し始めるし、追い払っちゃうしで驚きっぱなしですよ本当に」
「……ルイド、あなた……とってもすごい……!」
アヌが苦笑を洩らすと同時にゼネラはそう零し、こちらに視線を向けてくる。
こころなしか、その視線が輝いて見えるのは気のせいだろうか?
「ゼネラもすごいと思うよね! こんなすごい人見たことないよ!」
二人の視線から感じるものは羨望。
だが、その視線には慣れていた。何度もその視線を感じ、そのたびにその視線の裏には私欲があるのだと理解した。
俺自身を洗脳し、生物兵器を造ろうとするものや魔力を吸い上げ、魔力の供給炉にされそうになったこともあった。
その度に、裏切った者にはそれ相応の苦痛と絶望を与えてきた。
今は過ぎたことであるが、あの頃は多少やんちゃをしていた。
「この程度で凄いと言われるのは少し気恥ずかしいが、そう言ってもらえるとこちらとしても嬉しい」
変に警戒されぬように比較的自然の反応をすることがいいかもしれぬからな。
「……それより、今回の件で俺は報告に値する働きは出来ていたか?」
「ん、ああ、そうだな。それにそろそろ――」
とアヌが何か言い終える前に後方から馬の駆ける音が聞こえてきた。
駆けてきた馬はどうやら馬車のようで、見たところ装飾も豪華であり、どう見ても商人のものとは違う見た目だった。
そして、その中から出てきた人物に俺は見覚えがあった。
「貴公がルイド・イーグルか。話は聞かせてもらっている。遠慮せずに乗るといい」
その人物は白髪混じりの長身の男性――国王の執事であるレヴェルだった。
「……もう情報が行っているとは驚きだ。先程、奴との話を終えたばかりのはずだが?」
「実はあの後、団長たちがすぐに戻ってきて不思議なことにウルフの方はだいぶ弱っていて対処が楽だったと言っていたんだ」
――弱っていた、か。どうやら、罠がうまく作動したようだな。
俺は騎士団長に話を持ちかける前にウルフの向かって来ていた場所に先回りし、《雷電魔法》の第三八位階【紫電流動絲】という魔法を一度のみ発動するように張り巡らせていた。
もっと強い魔法を使っても良かったが、あまり強すぎると、ウルフをうっかり殺してしまいかねないため、低位階の魔法使用した。
――騎士団の奴らにはウルフの討伐という名の時間稼ぎと報告の役割があったが、こうも上手くいくとは何か仕組まれていないか疑いたくなるな。
だが、それは過去の話。今は、今やるべきことに専念するとしよう。
俺は被っている仮面を再度、深く押し込み簡単には取れぬようにした。
「それはよかったな。こちらとしても報告が早くなってありがたい限りだ」
俺は適当に相槌を打ち、王城へと向かう馬車に乗り込んだ。
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