精霊
俺たちが指定の教室に着くと既に十人ほどの生徒がワイワイと話を広げていた。
「……どことなくギルドを彷彿とさせる光景だな」
ギルドの雰囲気は嫌いではない。
冒険者同士が戦績や依頼などのことで盛り上がっているのが日常だ。
その様子は見ていて飽きることはない。
勿論、いざこざはあるがそういう場合は仲介役の職員が入るが、ここでは冒険者は生徒、職員は先生というわけだ。
やはり学園に入って正解だったな。
「……ふむ、自由席のようだな。ネネ、リリカ、何処か座りたい場所はあるか?」
「私はどこでも構いません。マスターの従者ですからマスターの近くにおります」
「私もカイトくんの近くがいいなぁ」
「……なら、後ろの方でもいいか?」
俺は空いていた後ろの方の席に座り、その両サイドにネネとリリカが座った。
席も決まったのであらかじめ貰った教本の内容でも確認しようとアイテムボックスから取り出そうとしたとき、前から声がかけられた。
「よう! お前が、水晶を壊したっていう凄いヤツか?」
話しかけてきたのは茶色がかった髪を持った童顔の少年だった。
「……そうだが、いきなりなんだ?」
「いやぁ、そんな凄えヤツがいるんなら会っておきたいって思ったからさ。声をかけたんだよ」
「……水晶を壊したのが俺だと分かったということはあのとき、お前も見ていたのか」
「んま、そういうことになるな。俺もこのクラスだからよ、仲良くやろうぜ?」
敵意は感じられない。
ただ単純に興味を向けてきたのか、それとも他の目的があって俺に接触してきたのか、今のところは分からないが放っておいても問題はないだろう。
――だがこの魔力、どこかで……。
「……お前、名はなんというんだ?」
「ああ、俺は――」
少年が名を言おうとしたその時に学園の鐘が鳴った。
「おっと、時間か。また話そうぜカイト?」
一瞬、名乗っていないのに名を当てられ、不思議に思ったが【思考受信】などの思考を読み取る魔法を使えば簡単だと気づいた。
「了解だ。時間があったらまた話すとしようかアムリス?」
俺も思考を読み取り、少年の名がアムリス・ルグネスタということが分かったので彼の名を呼ぶ。
アムリスは少し驚いた表情をした後、小さく笑いをこぼしていた。
◆
「……どうも、私がこのDクラスを担当することになったミリア・アルメニラだ。これから一年間よろしく頼む!」
そう言ってクラスに入ってきたのは腰まで伸びるサイドテールを揺らし、茶褐色の髪色をした長身の女性だ。
ふむ、普通の人にしては魔力を持っているようだが……何か魔力の流れに違和感を感じる。
何かの影響によって魔力が底上げされているようなそんな違和感が魔力から感じられた。
――呪いの類い、もしくは何者かによる加護、あるいは……。
「……マスター、あの方何か魔力がおかしくありませんか?」
想像を広げているとリリカがこちらにこっそり小声で話しかけてきた。
リリカは目線でミリアと言っていた教師のことを見ていた。
「ああ、俺もちょうど思っていたところだ。何か魔力の質を変えているものが憑いているがこれは――」
「……精霊じゃないかな? カイトくん」
憑いているものを考えようとした時に横から声をあげたのはネネだった。
「ネネ、あの教師に憑いているのが分かるのか?」
「うん、多分だけど……お母さんにずっと憑いてたのが精霊だったからそれで分かったのかな? それで、あの人に憑いてるのは炎の精霊かな? なんか周りに赤いオーラみたいなのが見えるね」
俺とリリカは眼を見開いていた。
まず、精霊が憑いていることを外部から判断することは困難だ。
精霊自体が魔力のようなものなので対象に憑依するというより魔力に寄生するような感じなので見ただけで精霊かどうかを判断するのは難しい。
それを瞬時に見極め、さらにその種類まで分かったとなるとそれはただ精霊に接してきて育つような技能ではなく、一種の才能だ。
もしかするとネネは《精霊魔法》を使えるのかもしれない。
だとすると、その力は戦闘においてかなり重要な存在となりうる。
《精霊魔法》は努力だけで習得できる代物ではなく生まれ持った才能も必要だ。精霊を使役し、使役できる精霊の力を行使することの出来る一種の魔法の極地だ。
俺も習得しようと試みたことがあったが、精霊に近い力を行使することは出来たが、使役することには至らなかったため断念した記憶がある。
「ネネ、他に精霊が見えたことってこれまであったか?」
「あの人以外だとするとお母さんしかいないかも。でも、精霊が見えたのって物心ついたときから見えてたから違和感を感じてなかったね」
「精霊は魔法を使う上では重要な存在だ。その力を使えるというのは心強いよ」
「そ、そうかな? えへへ、そう言われるとちょっと嬉しいかも」
ネネはやんわりと笑顔を作っていた。
ネネが《精霊魔法》を使える可能性があるのは予想外だった。
大気中に魔力が存在しているのも精霊のおかげでありその精霊を使役出来るということがどれほど戦闘を優位に立たせるか……。
「この講義が終わったらあの教師に聞いてみるのも悪くはないな」
「そうだね! 私に出来ることがあるならやってみたいもん」
「いい返事だ。だが、今は講義の方に集中しよう」
「うん!」
◆
「それじゃあ、次はみんなに軽い自己紹介でもしてもらおうかな」
講義……といってもこの学園の規則や大まかな内装の説明などが終わり、自己紹介の時間となっていた。
だが自己紹介といっても具体的に何を言えば良いのやらさっぱりわからない。
「自己紹介って何すんだ?」
「いきなり言われても……」
「……分かんないよな〜」
周りからも俺と同じような意見が飛び交っていた。
「あ、えっと、いきなり言われても分かんないよね。まぁ、簡単に自分の名前から得意な魔法とか剣術とかそういうのを言ってくれればいいから」
そう言われ、なんとなく概要は掴んだので順々に生徒が自己紹介をしていく。
ネネとリリカも紹介が終わり、残りの生徒が数人となっていた時に俺の名が呼ばれた。
俺は教卓の前に立ち、言葉を発する。
「俺はカイト、カイト・ルイークという。こんな姿をしているが男だ。大抵の魔法ならば使うことが出来るな。何か質問のある者はいるか?」
何やら、最後に質問をしてもらうことが自己紹介のやり方だそうで俺も質問のしたい者へ言いかけると、生徒の一人が手をあげていた。
「……ん、どんなことが聞きたい?」
手をあげていたのは男の生徒だった。
「大抵の魔法って言ってたが、具体的にどんな魔法が使えるんだ?」
「……そうだな。属性魔法に関しては百位階までを全て使うことが出来る。一応、それを超える魔法も使えるな。《治癒魔法》に関しても問題なく使えるぞ」
すると、何故か教室内は静まり返った。
――ふむ、何か変なことでも言ったか?
静まり返った理由を考えていると、ミリアがこちらに聞いてきた。
「……カイトくん、目立ちたいからと言って嘘はいけませんよ? 百位階なんてそんな…」
……なるほど、静まり返った原因はそれか。
この世界では五十位階以降の魔法は現実的でないとされている。
だからこそ、俺が嘘をついていると思われてしまったようだ。
だが、百位階まで使えることは事実なので回答を変える気などない。
「そうだな、百位階まで使えるというのは現実的ではないみたいだからな。なんなら、今見せてもいいぞ?」
その言葉に先程まで静まり返っていた教室がざわつき始めた。
ネネとリリカに眼を向けると何故か頭を抱えていたが、あまり気にすることではないだろう。
俺は《火炎魔法》百位階【滅究燐炎王火焔砲】の魔法陣を窓から空に向けて展開した。
そして魔法陣に体内の魔力を腕を介して流し込んでいき、術式を発動させて空へ放出した。
莫大な魔力によって作り出された炎球は広く蒼い空に吸い込まれていき、やがて……轟音と共に爆発した。
「これが属性魔法の最上位位階、百位階の魔法だ」
書くの疲れた……まだ若干スランプ引きずってるので次回の投稿は少し遅れるかもしれません(>人<;)




