閑話 聖なる夜《1》
クリスマスイブということで書いてみました〜!
二部構成になってしまいましたが……後編は、明日投稿出来ればいいなぁと思ってます!
一日で書いたので、変なところがあったりしたら申し訳ありません!
それでも楽しめるようでしたら、どうぞお楽しみください。
〜時間は多少遡る〜
それは唐突な出来事だった。
「……む、なんだ?」
いつも通りにウラルーク大森林にて魔物を少々倒して、街に帰って来たのだが、少しして違和感を感じていた。
チラチラと、眼の前に落ちてくる白い物体。
見ると周りにも空から落ちてきている白い物体が積もっている。
「……ネネ、リリカ、この白いものはなんだ?」
「え、カイトくん、コレ見たことないの?」
何やら、ネネが驚いた様子でこちらの顔を覗き込んでくる。
その様子を見ていたリリカは、ネネに落ち着くように促している。
「マスターが知らなくてもしょうがないかと思います。何せ、この雪というものはあの時代に降ることなどありませんでしたから」
雪……この白い物体のことか。
柔らかく、手に取ろうとするとすぐに消えてしまう。その様子に何処とない儚さを感じることができた。
「……リリカちゃん、カイトくんのいた時代って雪って降らなかったの?」
「ええ、一応、四季と呼ばれる自然変化はありましたが、魔力磁場が一定の場所が今のようにありふれてはいませんでしたので、天候が季節ごとに変わるということはほとんどありませんでした」
リリカが説明を入れてくれたが、四季というものは確かにあったが、そんなものを存分に感じている時間など、あの頃にはなかったのだ。
「……この雪? というものは寒い時期に降るものなのか?」
「そうだね。寒い時期になると、その年にもよるけど、雪が降ることがあるよ!」
確かに周りを見渡すと、確かに暖かそうな格好をしている者が多い。
それに、リリカとネネもダウンコートのような暖かそうな服を着ている。
俺は『不死鳥の衣』を羽織っているため寒くはないが、なるほど確かに寒い時期ではあるようだ。
雪という未知のものを観察していると、ネネが声を上げた。
「あ! そういえば、明日って《アイエン・リクシア》じゃなかったっけ?」
「……ああ、確かにそうですね。となると何か贈る物品を考えねばなりませんね」
またも知らない単語が出てきた。
《アイエン・リクシア》――単語から考えるとエルフ語だろうか?
アイエンという言葉は『聖なる』や『神聖な』と言った意味のある言葉であり、リクシアというのはたしか、エルフの女性を例える言葉のはずだ。
となると、《アイエン・リクシア》というのは『エルフの聖女』を表す言葉なのか?
「……《アイエン・リクシア》というのはどう言ったものなんだ?」
俺の質問に答えたのはネネだった。
「……えっと、元々はエルフさんたちの湖の水を浄化した女性の生誕を祝った祭典なんだけど、そのときに大切な人に贈りものをする風習があって、どうしようかなって言ってたんだ〜」
「……ふむ、贈りものか。ネネは誰に渡すのか決めているのか?」
「……ふえっ!? え、えっとそれは……」
「……マスター、女性にそういうことを訊ねるのはマナー違反ですよ? まぁ、私は既に決めていますが」
ふむ、そういうものか。
「……悪かった、これから気をつけるとしよう。だが、お前たちはその贈りものとやらを買ってはいないのだろう?」
「……う、そう言われるとそうですが……」
「……そ、そうだね。私もさっき思い出したんだし……」
「……なら丁度いい。個人で贈る物は別として、俺たち三人でそれぞれ自分以外の二人に対しての贈りものを贈るとしよう」
少し勝手な提案だが、パーティーの絆を深めるにはもってこいのイベントだ。
「……いいですね。了解です、ネネさんもよろしいでしょうか?」
「私もそれでいいよ〜! プレゼント交換会だね!」
二人も賛成のようだ。
「わかった。それじゃ、夕方にギルドの前に集合でいいか?」
「分かりました」
「うん! 二人とも喜びそうなのを持ってくるよ!」
「ほう、それは楽しみだ」
そうして、俺たちはそれぞれ買い物をするために別れた。
◆
「……とは言ったものの、何を買うべきか……」
一人になったところでそう呟きを溢した。
前に彼女たちに贈りものをしたことがあり、あのときのペンダントは二人とも気に入ってもらえているようで常に身につけている。
しかし、今回もペンダントという訳にもいかない。何か、実用性があり、尚且つ喜んで貰えそうなものはないか……。
だが、そもそも女性に何かを贈るという行為をしたことが殆ど皆無なので、どうしたらいいのか分からない。
「……男に贈るのなら、ある程度分かるのだがな……」
同性に贈るのなら、ある程度どう言ったものを贈るといいのかが分かるが異性となるとその難易度は格段にアップする。
「誰か、相談出来る相手がいるといいのだが……」
相談出来そうな相手を頭の中で思考していると、ある人物が思いついた。
そうだ、アイツなら力になってくれるかもしれない。
思い至ったが吉日、早速俺は、細い道に入り《転移魔法》の魔法陣を描き、とある場所に転移した。
◆
「……それで、妾のところに来たという訳か」
一通りの経緯を説明し、ため息を洩らすのは紅と黒を主軸にしたフリルのついたドレスを着こなしている少女――ファルヴィスだった。
ここは神々が仕事をしている部屋らしく、昔、何度か足を運んだことがあった。
「……すまない、どうにか助言をして欲しくてな」
「お主は、才能や能力は人一倍秀でているというのに、異性関係となると弱いのぉ」
「……う、うるさい。仕方ないだろうが」
「……ま、人それぞれ特手不得手があると言うものじゃ。責めるようなことはせんわ」
カラカラと笑い声をあげるファルヴィスだが、顎に手を当ててつぶやく。
「……じゃが、進物じゃろう? 本人に聞くことが一番だと思うのじゃが、それができないとなると、難しいのぉ」
「……リリカの好きなものとか分からないか?」
「……そうじゃな、リリカは基本的に可愛いものであれば何でも好きじゃぞ?」
むぅ、具体例が欲しかったのだが、そう上手くはいかないか。
俺が悩んでいると、ファルヴィスは言葉を溢す。
「……お主、そう難しく考える必要なんぞないのではないか?」
「何故だ? 渡したものが、嬉しくないものだったら嫌だろう?」
「そう難しく考えるな、と言っておるのじゃ。別に買わなくてはいけないなんて決まりなんぞないのじゃろう? なら、手製の道具でも作ってみたらどうじゃ?」
なるほど、そういう考えも出来るのか。
そう考えるといくつか案が思い浮かんできた。
「……なるほど、分かった。礼を言おう、ありがとうファルヴィス。おかげでいいものを贈れそうだ」
「……役に立てたのなら何よりじゃ」
ファルヴィスはひと段落したということで自身の仕事用の椅子に戻ろうとしたときに俺は引き止める。
「……そうだ、ファルヴィス。お前は何か欲しいものはあるか?」
「……っ、本人がいる前でそれを聞くのか。というか妾にも渡すのか?」
「当たり前だ、お前には世話になっているし、本人がいるから聞いたんだ。それで、何かあるか?」
そう言われ、ファルヴィスは少し悩んだような仕草を見せ、口を開いた。
「……ないの」
「……そうか。ないなら仕方がない」
俺はつまらぬことを聞いたと思い、踵を返そうとするが、ファルヴィスは言葉を続けた。
「……じゃが、聞きたいことが一つある。それに答えてくれれば妾はそれで十分じゃ」
「……ふむ、その聞きたいことは?」
若干の恥じらいのように顔を伏せ、先程より小さな声で、彼女は言った。
「……その、リリカは元気にしておるかの?」
その質問に俺は思わず笑ってしてしまった。
「な、何を笑っておるのじゃ!」
「……ああ、悪い。表情と質問の内容の差があったのでな。そうか、ならその質問には『凄く元気にしている』と答えよう」
彼女は彼女なりに頑張って日常を過ごしている。
それはもう、元気過ぎるくらいに。
「……そうか、くくっ、それが聞けただけで十分妾にとっては良い進物じゃよ」
慈愛の念が籠った言葉を紡ぐファルヴィス。
「……それはよかった。それと改めて礼を言おう、感謝する。ありがとう」
「もう、礼なんぞ言わんでよい。さっさと戻ってあの二人を喜ばせることじゃな」
「……ああ、そうさせてもらおう」
俺はファルヴィスに手を振り、《転移魔法》を発動した。
◆
ファルヴィスは気配が消えたことを確認すると、椅子に腰掛けた。
「……行ったか。彼奴は本当に初心じゃのう。よっぽど可笑しなものでなければ、恋心を抱く相手から贈られたものなど、何でも嬉しいに決まっておるじゃろうに。鈍い男じゃのう」
だが、その様子を見るというのもまた面白く、ファルヴィスは小さく笑いを溢した。
明日、後編を投稿する予定ですが、遅れてしまったら申し訳ありません!




