災厄の兆し
お久しぶりと言うほど期間空いてませんが、テストも無事終わったので三章の投稿です!楽しんで頂けると嬉しいです( ^ω^ )
〜ローズニア帝国〜
「……な、なんなんだ貴様らはっ!」
城の警備員をしている男が叫ぶ。
ガチガチと震えながら視線を上げるとそこに恐怖の対象がいた。
眼の前には一組の男女が立っていた。
一人はスラリと背が高く長身の男性。
茶の短髪と光の入っていない銀の瞳、その眼は何を見据えているのかが分からずとにかく不気味だった。
もう一人は男とは対照的に背が小さく、綺麗な赤いドレスを身に纏っており、眼は笑っておらず、不快感を覚える笑みを浮かべてた少女だった。
だが、男が恐怖しているのは男の眼や、少女の笑みではなく、その男女の姿と背後に積み重なっている肉塊だった。
その肉塊が何なのかは彼には容易に想像出来てしまった。そして自分がどうなるかということも。
「……おいおい、そんな怯えることねぇだろ?仲良くしようぜ」
「……き、貴様ら……い、一体何が目的……ガッ!」
怯える警備員の男が言い切る前に長身の男が首を鷲掴みにし、発言権を無理矢理奪い取り、そのまま警備員の男を壁にめり込ませる。
「……グアァっ!!」
「おっと、死ぬんじゃねぇぞ?死んだら情報が聞けなくなるからなぁ?ヒャハハハハ!」
「……じょ、情報……だと?貴様らに……渡す情報など……ない」
「……アア?」
その言葉に、銀眼の男は一瞬だけその眼に魔力を込められ、次の瞬間には警備員の頭から赤い花火が上がり、壁一面を真っ赤に染め上げた。
「……あーあ、何殺しちゃってんのよ。そいつからこの国のこと聞き出すんじゃなかったの?」
呆れたような声をあげたのは銀眼の男と一緒にいた不気味な笑顔の少女だった。
真っ赤なドレス――訂正、返り血で染まったドレスに身を包み、血の水溜りの上で平然としているその姿は、おぞましいという表現がぴったりな光景だった。
「……知ったことか、俺に指図するな。俺は、俺のやりたいことをやるだけだ。命令されるのは気に食わねぇんだよ、その考えはお前が相手でも変わりはしねぇ。ミンチになりたくねぇならすっこんでろ!ヒャハハハハッ!」
「……相変わらず狂ってるわね、アンタ。全く、結局アタシがコイツの記憶を視ることになるじゃない」
少女がそう愚痴をこぼし、先程頭から血の雨を降らせた男の前に立ち、淡く光を放つ魔法陣を展開させた。
「……ふ〜ん、この国、ローズニア帝国っていうのね。帝の名はアーズ=ルグド=ローズニア、長ったらしい名前ねぇ。まぁ、重要そうな情報はそれくらいかしら?コイツ自体捨て駒みたいな存在だろうし、大したことは知らないみたいね」
少女は男の死体に蹴りを入れ、さらに壁の奥にめり込ませて遊んでいる。
「……だったら、王族の奴らとかぶっ殺した方がいいじゃねぇのか?てかそっちの方が早えだろうが」
その言葉に少女が再度ため息を溢す。
「アンタ、アイツに言われたこと忘れたわけ?私たちはあくまで時間稼ぎと情報の奪取が目的なの。アイツの行動が完了するまで下手な動きは出来ないのよ!」
少女の言葉に銀眼の男は床に胡座を組み、頬杖をつく。
「チッ、わーったよ。待てばいいんだろ待てば!ハァー、クッソ、この身体は動きづれえし、暴れらんねえしでつまんねぇな!」
「アンタがそんな身体に憑いたのが悪いんでしょ?自業自得よバーカ」
「ッンだとクソチビ!テメェこそそんなクソチビの身体に憑いておいて動けねえんじゃねえか!?」
「アンタと一緒にしないでよ。私はしっかり小回りの効く軽い身体を選んだのよ。あと私はチビじゃねぇわよ!」
「チビはチビだろクソチビが!」
そんな子供のような言い合いを繰り広げている様子はなかなか見ていいて楽しい感じがあるが、両者の放っている魔力によって城の一室の壁は崩れ、床にはヒビが走っていた。
そして、そんな言い合いの様子に第三の声が虚空から響く。
『いやぁ、仲睦ましいことで何よりだよ』
「「誰が仲睦ましいだ(よ)っ!」」
突如、響いた声に男と少女が同時に咆哮を上げる。
その瞬間に一室の中に塵のようなものが風に乗って入ってきており、その大量の塵が人型を形成し、やがて一人の男の姿を作りあげた。
背は銀眼の男よりも頭一つ分小さく、お世辞にもガタイがいいとは言えない、ローブを羽織った細身の男が悠々と佇んでいた。
「やあ、二人とも。経過は良好かい?」
「ケッ、突っかかってきた虫を駆除しただけだ。テメェに協力した覚えなんぞねぇ」
「アンタこそ、そっちの用事は済んだの?それにしても随分と貧相な身体に憑いたわね、《支配者》?」
「君に言われたくないねぇ。《滅亡の化身・アハトン》?」
軽口でそう言葉を交わしているが、彼らの周りには莫大な魔力が渦巻いており、その莫大な魔力によって一定範囲内ではあるが時空が歪み、先程崩れた部屋が逆再生の如くみるみるうちに直っていく。
そして先程《支配者》と呼ばれた男が再度口を開く。
「――まぁ、君たちのおかげでこちらの目的も済んだよ。素直に礼を言おう、ありがとう、二人とも。そして、これで準備が揃った」
その言葉に《アハトン》と銀眼の男はピクリと反応を示した。
「……ほう」
銀眼の男が吐息を洩らし、続けて言葉を紡ぐ。
「てこたあ、テメェの言う『準備が揃った』てのはあの覇者どもの対処もしたってことだろうなぁ?」
その言葉に《支配者》は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
「――勿論、と言いたいところだが、奴らは対処が難しくてね。一番、下界に干渉してくるであろう〈天の覇者〉、奴の対処はしている」
「……っ!ちょっと、それってマズイんじゃないの!?」
《アハトン》が吠えるが、《支配者》は気にすることなく手の指をパキパキと鳴らし始めた。
「……問題としては残るが、俺たちの計画の弊害として残ることはあるまい。奴らは言ってしまえば監視カメラの映像を見ているだけの警備員だ。もし、俺たちの邪魔をしようとしてもそのための結界だ、たとえ創造神や破壊神であっても干渉は難しいさ」
そう一纏めに《支配者》が説明すると、妙に納得した様子で二人は首肯した。
「……そうならそうと言いなさいよね」
「……テメェの言い分には乗ってやる。だが、ヘマしたらただじゃおかねえぞ!」
二人の意見に《支配者》はニンマリとイヤな笑みを浮かべ、こう告げた。
「……ハハッ、では《滅亡の化身・アハトン》、《絶望の権化・アルジャス》両者、異論は無しということで。それじゃあ――」
そして《支配者》は両手を広げ、声高らかに言葉を紡いだ。
「――我らの死の祭りを始めよう!」
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