閑話 神と神の談話《1》
本編から少し離れて、今回から神々のお話となります。
慣れない三人称視点で書いてみましたが拙い場所が多くあると思いますので温かい目読んでみてください〜(´∀`)
《冥界》
古ぼけた城内の壁にはコケだか、カビだかよく分からないものが生え、シミの滲んだ赤いカーペットの敷かれている暗い廊下にコツコツと軽い足音が響く。
廊下を通るだけで埃が舞い、いかに手入れが行き渡っていないかが分かる。
「……ンッだよ!なんの用でこんな汚ねぇところに呼びつけやがってあの野郎!」
悪態をつき、男が壁に蹴りを入れるとベキベキと鈍い音を立て、ヒビが入っていくが、次の瞬間には、まるで時間が巻き戻ったかのように壁のヒビが綺麗さっぱり消えていた。
「……チッ、あの野郎、俺より実力ある癖になんでこんな適当なんだ!あいつの生活能力ゴミ以下か!!屋敷ごと吹き飛ばすぞ!」
男が叫ぶが、返事を返す声は聞こえて来ない。
聞こえて来るのは、外でザバザバと降り注いでいる豪雨の音と外に住み着く怪物の声とも形容しがたい雄叫びだけだった。
「……チッ、さっさとあの野郎を探して帰るか」
男の首で怪しく翠に光るペンダントと羽織っている赤いローブを揺らしながら、男は再び、暗い廊下を歩き始めた。
◆
「おい!どこにいんだゴラァ!!」
男が喧騒じみた声を挙げながら、扉という扉に蹴りを入れていき、破壊していく。
だが、先程の壁と同様、破壊してからすぐに扉は元通りになっている。
その様子はさながらこの城が生きており、修復しているかのようである。
しかし、この仕組みは、単純であり簡単なのだ。
この城を作り上げたときに形を固定する結界を城全体に張り巡らせ、損傷があった場合は瞬時に固定された形に戻っているだけなのだ。
だが、それは仕組みであり、その仕組みを常時発動させているということはとてつもない技術が必要だ。
無論、男も馬鹿ではないためそのようなことをするのは気づいている。
だが、結界も魔壁と言われるものの一種であり、発動には魔力や霊力、神力などの力を使用しなければならない上に、結界というのは数千万年という膨大な時間でその術式を維持することが難しく、城などという広範囲に使われることも稀である。
だが、それだけならば、まだ許容出来る範囲なのである。事実、神の一柱であるこの男もそのくらいならば容易いのだ。
問題なのは――
「なんで、結界を六重にも張り巡らして平然としてられんのかだよ!!!」
そう、この城には結界は一つだけではなく合計で六つ貼られていた。
一つ目は城への侵入者を撹乱するための幻覚を見せる結界。
二つ目は一つ目の効果に付随するものであり、侵入者に対して攻撃を仕掛ける結界。
三つ目は先程の修復の結界。
四つ目は外にうじゃうじゃ湧いている怪物――冥界獣というらしい――を退けるための特殊な臭気を発生させる結界。
五つ目は他者の魔法の発動を阻害する結界。
そして六つ目が、結界の発動者の能力を底上げする自強化の結界。
これら六つの結界を同時展開させ、この城を守っているのがこの城の主であり、男の探している人物であった。
「おい!どこにいんだオルドレア!さっさと出て来い!」
大声を挙げ、呼びかけるとどう聞いても、寝起きと思われる城主の声が城内に響いてきた。
『…………ん、ふあぁ……ん?あぁ、ゼロニス、来てたのか。今、開けるよ』
寝ぼけた城主の声が響くと同時が城に大きく揺れ、先程、男――ゼロニスの歩いて来た埃だらけの廊下にはぽっかりと大穴が開き、地下へと螺旋階段が続いていた。
「……こんな仕掛けがあったのか。ったく、呼び出したくせに寝こけやがって!」
口から出た言葉とは裏腹にに隠し部屋という男心を擽る仕掛けに少し上機嫌でゼロニスは螺旋階段を降っていった。
◆
数百段の階段を降り切ると、灯籠によって妖しく照らされた石廊下がゼロニスの目の前に入って来た。
また、ここは手入れが行き届いているのか、埃などは落ちておらず、石壁に描かれた装飾のような紋様が結界を発動させるための回路であることにすぐに気づくことができた。
――ここが、この城の要の場ということか。
この場を隠すために城の中の部屋などには手を加えず、目立たなくしているのだとすると、あの穢さも頷けはするかもしれない。
――ただ、手入れがめんどくせぇだけって可能性が高いが……。
そんなどうでもいいことを考えていながら、ゼロニスは上の部屋にはなかった鋼鉄製の扉を蹴りで開け、ズケズケとこの場に呼びつけた張本人に顔を合わせる。
中にいたのは、ボサボサの黒髪を伸ばし、白衣のようなローブを身につけている不健康そうな一人の男だった。
「……ったく、なんでテメェは人を呼びつけておいて寝こけてやがんだアァ!?」
ゼロニスがまたも喧騒じみた声で、目の前の男――オルドレアを睨んだ。
「……いやぁ、悪い悪い。研究とか色々してたら眠くなってね……ゼロニス、悪いけどそこにあるコーヒーの瓶取ってくれるかい?どうにもまだ、目が覚めていないんだ」
「……チッ、なんで俺が……ほらよっ」
ゼロニスは溜息をこぼしながらも、横の棚に置かれていたコーヒー瓶をオルドレアに向けて乱雑に投げた。
「……っと、ありがと。君もいるかい?新しく作ったブレンドコーヒーなんだ」
「……チッ、仕方ねぇから貰ってやる」
「全く、素直じゃないなぁ。……はい、君の分。砂糖とかはそこら辺に並べてあるから好きに使ってくれ」
コポコポと慣れた手つきでコーヒーを二人分注いでいき、ゼロニスの前に差し出してから自身の後ろにある陳列棚に瓶をゆっくりと収めた。
――こいつ、変に親切だが、変に不器用なんだよな。
ゼロニスとオルドレアは旧知の仲であり、互いに昔からの性格を知っているため、気さくに話の出来る者同士である。
互いの性格は対照的と言っても過言ではない。
ゼロニスは多少荒くれ者であり、暴言も多いが、何処か子供っぽい感性を持っている。
対してオルドレアは、慎重に物事を考えられるが、研究など気になったことがあるとこの城に閉じ籠る悪癖があった。感性としてはゼロニスと比べれば大人と言えるだろうが、その性格ゆえ理解されることは少ない。
「んで?何の用で呼び出しやがったんだ?お前が、自分の城に俺を呼ぶなんて初めてじゃねぇか」
オルドレアから貰ったブレンドコーヒーをズズッと啜り、頬杖をつきながらゼロニスはゆったりと語りかける。
旧知の仲といえど、両者ともにそれぞれ管轄を持つ神々であり、管轄が違えば互いに情報秘匿のために干渉することなども殆ど無くなるわけで、自身の根城に他者を呼ぶということも異例に近いのだ。
「……そうだねぇ、話したいことが二つほどあるんだが、いいかい?」
「別に構わねぇが、なんかやべえことでもあったのかよ?」
「……やばいことといえば、そうだね。一つは本当にやばいこと、もう一つは驚くべきことだ」
突然、オルドレアの一言によって空気が変わる。
先程の朗らかな雰囲気とは打って変わり、真剣な眼差しでオルドレアがゼロニスを見据え、口を開き語り始めた。
「……まず、本当にやばいことだ。…………数日前、《破壊の始祖》と《創造の始祖》、この二つの権能が何者かに使われた」
その一言にゼロニスは盛大に吹き出した。
「ゴホッ!おい、お前正気で、んなこと言ってんのか!?」
「……冗談だったらもっとマシな冗談をいうさ。数日前、俺の冥界神としての権限で確認してたら、両方の封印が解かれていたから間違いないよ」
「《破壊の始祖》と《創造の始祖》というと最高神様が生み出したもんじゃねぇか!そんなもの使える奴がいるってことかよ!?」
「いるというよりいたんだ。実際、俺はその者のことを見てきた」
「何!?ど、どんな奴だったんだ!」
食い気味に身を乗り出し聞いてくるゼロニスにオルドレアはゆっくりと息を零し、一言一言に力を込めて言った。
「……小さな少年の様な姿をしていた。だが、問題はそこじゃなかった。その少年の様な何かは《破壊の始祖》と《創造の始祖》の力を除いたとしても、俺なんかが勝てるような相手じゃないってことがその場にいただけで分かったことだ。《破壊の始祖》と《創造の始祖》の権能を使える時点で分かっていたことだが、その時は尻尾を巻いて帰ったよ」
オルドレアは淡々と告げていたが、その内容は恐ろしさの塊の様だった。
オルドレアは構成概念の性質上、戦闘能力が然程ある訳ではないが、冥界の管理者として選ばれる程度には力や才能が認められている。
そんなオルドレアが逃げ帰ることしか出来なかった相手が存在することにゼロニスは恐怖と驚愕に顔を引き攣らせた。
「だけど俺が昨日、もう一度確認しに行ったときには《破壊の始祖》と《創造の始祖》のニつとも元の状態で再封印がなされていたんだ。んで、そこから俺はある仮説を立てた。それは……あの少年のような何かが天王神様ではないかという可能性だ」
「……はぁ!?」
ゼロニスが声を張り上げるが、そのことには気にせず、オルドレアはコーヒーを混ぜていたスプーンをゼロニスに向けて問いかける。
「……疑問に思うのかい?じゃあ、聞くがゼロニスって天王神様の姿って見たことあるかい?」
「……確かに無ぇな。てか、一つ思ったんだがお前、いつまで最高神様のこと『天王神』って呼んでんだよ?もう分かんねぇくらい昔に呼び名が変わったの覚えて無ぇのか」
「……?あれ、変わってたっけ?そういえばさっき、ゼロニスが最高神とかって言ってたな。誰のことかと思ったら天王神様のことか。ハハハっ、なんか変だと思ったんだ」
――こいつはどんだけの時間、城に引き籠ってたんだよ!
ゼロニスは内心叫びながら、溜息をこぼした。
昔も昔の大昔、現在、最高神と呼ばれている神々の王エルメスは、最初は最高神ではなく『天王神』と呼ばれていた。だが、いつの間にか天王神の名は薄れていき、神の頂点に君臨する存在として最高神の名が浸透していき、今に至る。
その理由を知るものも知ろうとするものもいないため、現在では神々の間では最高神と呼ぶのが一般的となっていた。
「……じゃあ、話を戻すがやはり俺は天王神様があの少年なんじゃないか?って思うんだ。そう考えると多くの点で合点がいく」
そうして、ゆったりとコーヒーを啜りながらオルドレアは合点のいく点を挙げていった。
お読みいただきありがとうございます〜!
この作品がいいと思ったり、続きが見たい!と思ったら、評価やブクマ、感想をしてくださると執筆のスピードが速くなるかもしれません!(^ω^)
それではまた次回お会いしましょう!




