閑話 亜神の記憶《4》
な、なんとか9月までに間に合った……(^^;)
〜現実世界・数千年前〜
「……何故、神の配下である亜神が下界に来ているんだ?」
私はその質問に困惑してしまった。
目の前の人が只者ではないとわかっていたが、視ただけで種族が見破られた。
そのような術があるのかもしれないが、だとしたらそれは並大抵の術ではない。
「……」
私は何も答えられず、彼の質問の答えとなることを考えていた。
――『私が出てきた理由は下界に興味を持って母さまの眼を盗んでここに来たんです!』
なんて間抜けな理由で神界を飛び出し、赤龍に殺されかけたなんて言えるほど私の神経は太くなかった。というより、恥ずかしさで死ねると思った。
「……」
結局に良い言い訳が思いつかず、沈黙を貫いていると彼が口を開いた。
「……まぁ、言いたくないのならそれでいい。相応の理由があるのだろうな」
相応の理由――ただの家出ですが――であるということを理解してもらい、取り敢えず私は安堵した。
そして、あちらの質問に応えていないので厚かましいと思いながらも眼の前の彼に先程疑問に思ったことを質問として投げる。
「……あの、質問したいんですが、いいでしょうか?」
「ん?まぁ、俺の答えられる範囲のことだったら答えてやる」
先程倒した赤龍をグサグサと刺してブロック状にしている彼は一旦、手を止めてこちらに振り向いた。
「……貴方、なんで私が亜神だと分かったのですか?見た目だけで言えば下界の知的生命とあまり変わらないと思うのですが……」
「……ああ、なんだそんなことか。簡単だ、お前のいう知的生命というのがどこまでの種族を指すかは知らないが、それらとは違う、お前からは明らかに神特有の魔力が感じられた。そして言っては悪いが、俺の知っている神々とは魔力の大きさが小さかったというのが決め手だ」
「……貴方は、神に会ったことがあると?」
男は首肯する。
「……ああ、会ったことのある個体は少ないが世界の中枢を管理している創造神と破壊神には少なくともあっている」
「お母様とですか!?」
思わず声が出てしまった。
母は、外界との交流をあまりしないため神界でも存在は認知されているが実際に会ったことはないという者も多い。まして、下界といえば神の管轄ではあるが領域ではないため、下界に降りること自体が稀なのだ。
そして、今この男はその母に会ったことがあると言ったのだ。
――下界の存在が破壊神に会うことなどないと思っていましたが本当にこの人は何者なんでしょうか?
「……お前、ファルヴィスに縁のある神か?」
そう言われ、先程の自身の言葉が失言だということに気づいた。
――もしこの人を通じてお母様にも私がここにいるということがバレてしまうのでは?
そうなるとだいぶマズイ。いや、家にいないということでバレるのは時間の問題だが……。
ここまで来てそれは間抜けとしか言いようがない。
そんなことを考え、一人で懊悩していると男が私の前にやって来て私の目線に合わせてしゃがんでこちらを覗き込んでいた。
闇を編んだような黒い髪と瞳に白い肌、それでいてかなり整った顔をしており、思わず顔が赤くなりそうだった。
「……確かにファルヴィスに似ている魔力を持っているな」
「……え、あ、そうですか?」
彼の顔に思わず見惚れていると彼の言葉によって意識が現実に引き戻される。
顔をあまり見られたくないので髪を靡かせて髪に注意を引く。
――姉さんに男性の気を引くための仕草を教えられましたが、慣れませんね、これ。
注意を引くためとはいえ殿方の前で髪を弄るということに慣れていなかったためか眼の前の少年は髪に見向きもせず、私の顔をみていた。
そして、少年は立ち上がりこちらを見た。
「……俺はカイト、カイト・ルイークという。お前はなんという?」
「……わ、私はリリカ・ランディアと言います。お察しの通り、お母様……破壊神様の眷属の亜神をしています」
私も立ち上がり、言い直しをしながら自己紹介をする。
「……リリカか。良い名だな、ファルヴィスのセンスも良いな。それじゃあリリカ、もう二つだけ聞きたいことがある」
「は、はい」
カイトと名乗った少年は真剣な眼差しでこちらをみていた。
「……一つ目はリリカ、さっきの龍……赫緋龍というのだがアイツと戦ったのだろう、何故逃げた?」
その言葉を聞き、悪寒が走った。
この人には私の行動を見られていたのだろうか?
「……私の行動を見ていたのですか?」
するとカイトという少年は首を横に振った。
「……いや、血液らしきものが転々と地面に落ちていたからな。それを追ってきたらリリカがいたんだ」
――それで、自分の身を顧みずに私をあの龍から守ってくれたのですか。
そう思うと自身の弱さが身に染みて分かった。
「……私が逃げた理由は、私が弱かったからです。神界から出てきてから時間も経っていないのに右も左も分からず、自身の力を過信してあの赫緋龍に挑んで死にかけたんです……私に死という概念は存在しませんがね」
自身の弱さに皮肉を交えて説明する。
「……そうか。それで逃げたのか――」
そして、彼は何を思ったのか私の頭に手を乗せ撫で始めた。
「……は、はわわ……!」
いきなりのことで何が何だか分からず、変な声を出してしまった。
「一つ言っておく、お前は弱い。だが、決死の思いで満身創痍なるまで戦った。そして生きるために逃げた、それはお前が秘めている亜神としての『強さ』だ。挑んで逃げることは恥ではない。策を練って再度挑んで勝てれば、それは成長と呼べる。それが分かっているお前は誰よりも強いんだ。もっと自分に自信を持て」
「……私が、強い……ですか」
「あぁ、今は弱くとも成長すれば確実に強くなれる。そのために、聞きたいことの二つ目だ。その……俺と、一緒に旅をしてほしいんだ」
先程の凛々しい説得の後にこのしどろもどろさである。
不覚にもそのギャップにクスクスと笑ってしまった。
「……む、何を笑っている」
「……い、いえ、なんでもありません、それより、一緒に旅をするですか。その意見に私は異論はありません、私は貴方様に助けていただいた恩があります。それに私を強くしてくれるというのですから断る理由なんてありませんよ。この世界についても教えてほしいですし」
これは心からの言葉だった。
一応、敬語を使って話そうとしたが随分と使っていなかったため色々と不安な言葉だったが、少年はこの場で初めて笑みを見せた。
「……普通、こんな言葉を男がいきなり言ってきたら誘拐とか思われると思っていたが、案外素直にいうことを聞くんだな?」
「……今更になって貴方様が嘘を言うようには見えませんし、私を強くしてくれると言ったんです。殿方は二言を言わないのですよね?」
「……そうとは限らないが、まぁ強くすることは約束しよう。それじゃあ、俺の誘いにはイエスという答えでいいか?」
「……はい!宜しくお願いします、マスター!」
私がそう言うと私がマスターと呼んだカイトは困惑の顔をしていた。
「……な、なんだ?その呼び名は?」
「私を強くしてくれるということは、貴方様は私のお師匠様と言うことになりますので、目上の方には敬意を払えというお母様からの教えに則ってということでその呼び名です。迷惑だったでしょうか?」
すると、私のマスターは困惑ような顔をしたが、降参の意を示す両手を行動をした。
「……分かった、その呼び名でいい。ただ、その呼び名にするなら表向きの俺たちの関係は主と従者という方が良い。それでも構わないか?」
私の答えは決まっていた。
「……はい!それでは改めてこれから宜しくお願いしますマスター!」
「……ああ、宜しく頼むリリカ」
こうして私は下界でマスターとの生活が始まった。
◆
〜現実世界・現代〜
「……お〜い、リリカ、宿に戻るぞ〜!」
考えごとをしていた時にマスターに呼ばれ、ネネさんとマスターの立っている場所に向かう。
「珍しいな、何か考えごとか?」
「……あ、いえ、そうとも言えますが……」
「……もぉ〜、カイトくん、女の子の悩み事は無闇に聞いちゃいけないんだよ?」
横から最近仲良くなったマスターの友人であるネネさんが口を挟んでくる。
――ネネさん、正直、マスターのデリカシーのない発言は多いのでもっと言ってもらえると助かります!
そう、心の中で叫ぶとマスターは気まずそうな表情を浮かべた。
「……そうか。それはすまないことをした」
「……い、いえ、マスターが気にすることではありませんよ。反応に遅れた私が悪いんですから」
「……そうか、それじゃあ――」
すると、マスターは私の前に手を差し出してきた。
「……そろそろ帰るぞ。夕食の時間に間に合わなくなるぞ?」
私は、マスターの手を取ることを若干躊躇ったが、少しして諦め、大人しく手を取った。
仄かに顔が赤くなってしまったのは内緒の話だ。
その後、私と手を繋いでいない方の手でネネさんとも手を繋ぎ、私たちは静かに宿へと脚を運んでいった。
世界は色鮮やかで美しい。
私がマスターたちと会えたことも運命だと思っている。そしてこの笑い合いの出来るこの日常も。
叶うことならば、この時間がずっと――。
今回でリリカの過去編は終了です!長かった!
次回からまた別の閑話が始まりまして、それが終わってやっと3章といった感じです〜。
2章長っ!と作者自身思いましたが、楽しんで書けたのでよかったです!
そして、読んで下さっている読者の方々にも感謝申し上げます!ありがとうございます!(╹◡╹)
最後に、この作品がいいなぁと感じたら評価とブクマをポチポチっとしてくださるとこちらも作成意欲が爆上がりしますので何卒宜しくお願いします〜。それでは、また次回!(後書きも長い!)




