閑話 亜神の記憶《3》
待たせたなぁ!( ^ω^ )
〜下界・現実世界〜
「……ここが下界」
転移魔法が発動し、しっかりと下界へと向かうことができた。
一応、何があるか分からなかったので様々な魔法を展開していたが、周りの様子をみてそれら一式を解除した。
そこはどうやら山の中のようだった。
周りには樹が生えているが、神界に存在していた樹に比べ、含まれている魔力量が圧倒的に少なかった。
――本当に下界に来たんですね。
その実感が湧いて来て、嬉しさ半分と寂しさ半分の気持ちが入り混じり、なんとも複雑な心情だった。
「……まずは、ここにいる生命に接触してみましょうか」
私はその場から【身体強化】を使い脚をバネにして真上に跳躍した。
そして跳躍したことで空からどこに街があるのか視認することができた。
大体二十kmほど先のあたりに大きな街があることが分かり、地面に着地してから取り敢えず、見えた街を目指すことを決めて歩き始めた。
◆
その後少し歩き、ある魔物に遭遇した。
「……なんでしょうか?……狼…でいいですよね?」
眼の前に現れたのは一匹の狼だった。大きさはそこまで大きくなく、灰の毛に金の瞳というなんとも綺麗な見た目をした狼だった。
――可愛いですけど、初めてこの世界であった生命……油断は出来ませんね。
私は、腰に下げていた短剣を手に取り、構える。
構えられた短剣はまるで意思があるかのように光り輝いていた。
「ふふっ、そんなに嬉しかったのですか?最近使ってあげられてなかったですからね――〈ウィルアズ〉」
私が呼びかけると短剣はさらに輝きを増し、喜びを現していることが分かった。
破壊神霊装武具第三番〈ウィルアズ〉――それが私に破壊神ファルヴィスから与えられた《神霊武具》の名だった。
《神霊武具》は基本的にそのものに固有の意思があり、武具に認められない場合は使用者となることが出来ない。
下界にも使用者を選ぶ武具があるというが、母曰く『《神霊武具》はその中でも一二を争うほどに難しい』らしい。
――私も〈ウィルアズ〉を扱えるようになるのに膨大な時間を要しましたからね。
そんなことを考え、眼の前に佇んでいる魔物に〈ウィルアズ〉を構え、魔力を放つ。
その魔力に狼が一瞬、怯んだように見え、天に雄叫びをあげてこちらに向かって来た。
「ふふっ、可愛がってあげようかと思いましたが……」
――一閃
私は〈ウィルアズ〉を振り上げ、自身の魔力に加えて〈ウィルアズ〉自体が保有している魔力を放出し、魔力の斬撃を飛ばした。
轟音と共に、微かに狼の断末魔が聞こえ、斬撃を放った方向の地面が大きく抉られていた。
「……はぁ〜、優しく振ったつもりですが貴方、張り切り過ぎでは?」
私は未だに光り輝いている短剣はうんともすんとも言わないが、私は構わず話しかけ続けた。
この〈ウィルアズ〉は私が母から貰って肌身離さず持っていたものだ。
私のための武器として生み出された存在であり家族同然だったのだ。
私は亜神としての役目を与えられ、〈ウィルアズ〉は神霊武具としての役目を与えられた。
そう、ともに同じ神に創られた存在、ただ亜神となったか神霊武具となったか。それだけの違いなのだ。
「……と、おお、流石に集まって来ましたか」
そんな思い出話に浸っていると、周りを先程の狼が十匹ほど囲んでいた。
魔物は仲間の血肉に反応し、集まってくるらしいが、先程の狼は跡形もなく消し去ってしまったので、恐らく、先程の狼の雄叫びによるものだろう。
「まぁ、私と貴方なら出来ますよね?」
そう言った瞬間に狼たちが一斉に襲いかかってきた。
◆
「……これで最後でしょうか?」
襲ってきた狼たちを一掃し、背に狼の骸の山が出来ている。
先程のものとは違い、消しとばしたりはしていないので、血臭などでさらに魔物を呼び寄せてはこちらの身が持たないので、齧った程度だが母から学んでいた獣の解体方法を使い、血抜きだけしたのものが積み上がっている。
「あとはこれの解体ですか。はぁ〜、面倒くさい。まぁ、おやつが手に入ると思えばいいですかねぇ」
〈ウィルアズ〉とは別の解体用のナイフを懐から取り出し、解体を始めようととした時――
「――ッ」
私は思わず周りを見渡した。先程まで感じられなかった大きな魔力がこちらに近づいて来ていたからだ。
――魔物の大群?それにしては魔力が一点に集中していますよね?
そうなると考えられる一番の可能性は――
その瞬間、空気を震わせるけたたましい雄叫びが響き渡ると同時にベキベキと木々をなぎ倒してこちらに向かって来ている者の姿が見えた。
「――これは……っ」
それは一匹の赤龍だった。
地上を移動しているにも関わらず、とてつもなく大きく、見上げる形で赤龍の全体を見ることになった。
赤い鱗に加え、手には恐ろしく鋭い爪が生えており、頭からは一対の捻れた黒い角が日の光によって眩しく輝いていた。
まさに本で学んでいた赤龍そのものだった。
そして生まれて初めて感じた感覚、感情があった。
――この感情が恐怖。そしてこの感覚が死ですか。
眼の前に佇んでいるドラゴンを前にして死という概念などない神が死に恐怖しているのだ。
他の神が眼にすれば笑い物にしかならないだろう。だが、私は今たしかに死というものを感じている。
だが、感情とは裏腹に顔は笑っているのだと分かった。
――これは、早速お土産話にぴったりな話ですね。
恐怖によって震える手を気持ちでねじ伏せ、解体用のナイフを放り投げ〈ウィルアズ〉を手に取る。
息を吐き、精神を集中させ真っ直ぐ眼の前の敵を見据える。
「来なさい。私の《暴食》の糧にしてあげます!」
死を感じた相手に虚勢だと分かっていながらも私は声高らかにそう告げた。
◆
「――はぁっ、はぁ……」
私は息を切らし、木の陰に身を潜めていた。
身体の至る場所から出血し、地面には小さな血の水溜りが出来ていた。
――少し無理をし過ぎましたね。
〈ウィルアズ〉を使うことである程度は戦うことは出来たが、赤龍の鱗は硬く頑丈だった。そのため、致命的なダメージを与えられぬうちに体力が削られていった。
流石というべきか〈ウィルアズ〉は刃こぼれなどは起こしていなかったが、柄の部分が少し曲がってしまった。
そして、そのあとは一方的に攻撃を受けることになった。
おかげで左腕は持っていかれ、右脚の骨は折れ、赤龍の尻尾で飛ばされたときの衝撃で右眼が潰された。
正直、手脚の怪我に関してはどうということはない。ただ再生すればいいというだけだ。
問題は眼の方だ。
眼の再生には時間がかかる上に手脚以上に魔力と体力を使い、それだけの魔力も残っていない。
「……油断……しましたね、ゲホッ、ゲホッ」
咳をすると同時に血反吐も吐き出してしまった。
どうやら、内臓もいくつかやられたらしい。
――ハハ、この様で神界に逃げ帰ったら立つ瀬がありませんね。
神界へ帰るための帰還魔法も習得はしているが使えるほど魔力も残っていない。
取り敢えず、残っていた魔力で手脚を再生するが、思っていた通りというべきか眼の再生が出来るほどの魔力は残っていなかった。
「……とにかく、今は出来るだけ遠くに……」
息を殺し、その場を立ち上がろうとした瞬間――
ベキッ。
嫌な音がした。視線を横にずらすと直ぐそこにヤツはいた。
「――ッッッ!」
――逃げなきゃ!
脳が判断を下す前に身体が動いていた。
再生して間もない脚だったが、しっかり地を踏むことが出来た。が――
「……痛っ!」
木の根っ子に足を引っ掛け、盛大に転んだ。
膝を擦りむいた痛みに顔を顰めるがそんなことはどうでもいい、今は後ろに迫って来ている赤龍の対処が最優先だ。
「……!?ッ!な、なんですか?」
立ち上がろうとするが、脚が上がらなかった。足元を確認すると脚が木の隙間に挟まっている。
――こんなときに!
脚を引っ張り抜こうとするが、魔力も残ってない上に体力も限界に近い状態で木から脚を引き抜くことは出来なかった。
「ゴギャオオオオオォォォ!!!」
顔を上げるとそこには巨躯な肉体を持った赤龍が佇んでいた。
なんとか脚を引っ張り出そうと踠くが脱出出来そうにない。
そして、赤龍は私の様子をみて巨大な爪を振り下ろしてきた。
――母さま、姉さん、申し訳ありません!
最後の謝罪を心で叫び、眼を瞑るが、痛みはいつまで経っても襲って来なかった。
「……えっ?」
恐る恐る顔を上げるとそこには、先程まで破壊の限りを尽くしていた赤龍の首が切断された骸と今までいなかった一人の男が立っていた。
そして、こちらに気づいたのか私の近くに寄ってきた。
「……お前、大丈夫そう……には見えないな。取り敢えず、手当てしてやるからこっちに来い」
一瞬、何が起こったのか分からず呆然としてしまった。
すぐに正気に戻り、朧げな視界で言われた通り男の方に行こうとするが、脚は引っ掛かったままなので出来なかった。
「……脚が引っ掛かったか。仕方ないな」
男はゆらりと動き、気づいた時には脚が引っ掛かっていた木が退かされていた。
――い、今、いつの間に動いたんですか?
またも男の行動に驚いていると、男はため息を吐き、こちらを見てきた。
「……手当、しないのか?」
私はハッとして痛みの残る脚を抑えながら男の方に向かった。
だが、私は男にあることを伝えた。
「……あ、ありがとうございます。ですが私、眼を負傷してしまっていて……」
「見れば分かる。それも治せるから俺の前に座れ」
「……え?」
言われた通りに座ると何かの魔法を使われたようで魔力を感じることが出来たが、なんの魔法かは分からなかった。
気づいたときには脚の痛みは消え、右眼の視界は戻っており身体中の傷も癒えていた。
視界が戻ったことではっきりと男の容姿を見れた。
真っ黒な髪に同じく黒の眼をした年齢が……十六歳ほどだろうか。そのくらいの少年という言葉がしっかりくる男性が眼の前に立っていた。
――この人が、さっきの赤龍を……?
この人が只者ではないことは分かったが、取り敢えず命の恩人にお礼を言う。
「……た、助けて頂きありがとうございました。あの、なんとお礼をしたら良いか……」
「――礼には及ばぬ。それより、お前に聞きたいことがある。その質問に答えて欲しい」
「……は、はい」
正直、下界に降り立って四刻というほどの時間しかたっていない、その短時間ではこの世界のことを聞かれても分からないので困惑したが、彼が質問を口にするまで待った。
「……一つ聞きたい。何故、神の配下である亜神が下界に来ているんだ?」
私はその質問に更に困惑してしまった。
課題なども順調に終わり、九月までにもう一本くらいは投稿出来そうです〜。相変わらず更新スピードは亀さんですが、首をキリンにしてお待ち下さい(╹◡╹)
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