閑話 亜神の記憶《2》
夏休みに入ったのでいつもより少し早めの投稿です!夏休み中に数話投稿出来たらいいのですが、課題などの都合で投稿がストップしてしまうこともありますのでご了承くださいm(_ _)m
「……ここの魔法回路をここに繋げて……」
あの後、《次元干渉転移魔法》を行使するための魔法陣の構成の書かれた本を見つけ、そこに記された情報を頼りに複雑な魔法陣を床に描いていくが、どうにも上手くいっているようには見えない。
本を見ながら描いているので魔法陣の大部分は出来ているのだが、細かく精密に記された魔法回路の繋げ方手間取っている。
本来ならば、回路そのものを頭の中で組み上げ、魔力によって魔法陣を描き、魔法行使をするのだが、回路自体が分かっていなければそれも出来ない。
そして、なんとか最後の回路を描き終えることが出来た。
「……ハァーッ!で、出来た!」
大きく息を吐き、歓喜に両腕を上げる。
こんなに集中したのはいつぶりだろうか?時間にして約二十分程だったが、丸三時間ほどその場所で魔法陣を描き続けたような錯覚を覚えるほどだ。
完成させた魔法陣に触れないように椅子に移動し、集中によって疲弊しきった身体を背もたれに預けた。
すると、不意に横から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あら、リリカ、ここにいたのですね」
ビクッと身体が跳ね、椅子から転げ落ちそうになるのを耐えながら、声のした方を見る。
そこに立っていたのは真紅の髪を肩まで伸ばし、深紅の瞳を持ち、優しい微笑を浮かべる一人の少女だった。
「……せ、セレス姉さんですか。脅かさないでくださいよ」
破壊神の最初の眷属として生み出された一番年上の姉、セレス。
眷属の中では魔力量が二番目に高く、高度な魔法技術を多く持っており、よく魔法の試し撃ちによって庭にクレーターを作っては、お母様から説教をされている。
誰にでも優しく接していて、面倒見もいいのだが、私生活は中々に杜撰で、片付けが苦手らしい。
前に姉さんの部屋にお邪魔したことがあったが……うん。思い出すのは辞めておこう。
「……あら、その様子だと、何か面白い魔法でも見つけたのかしら?」
そう言ってセレス姉さんは先程、私が描いた魔法陣を見つめ、何かに気づいたように頷いた。
「……この魔法陣……《転移魔法》の回路が使われてるわね。でも、それにしては複雑すぎる気もするし……」
「……姉さん、それは《次元干渉転移魔法》の魔法陣です」
すると、セレス姉さんは最初は眼を見開いていたが、次第にクスクスと笑い始めた。
「……《転移魔法》の中でも最高難易度じゃないの。一体、なんでこんなものを?」
――セレス姉さんになら話しても大丈夫ですよね?
そう思ったので、《転移魔法》を調べていた経緯を話した。
◆
「……ふぅん、下界ねぇ。また、面白いところに行こうと思ってるわね」
「姉さんは下界に行ったことがあるんですか?」
一通りのことを話し、帰ってきた答えがこれだった。
だが、私の質問に姉さんは首を振って答えた。
「……いいえ、聞いたことはあるけど私も行ったことはないわね」
「そう……ですか」
「……だから――」
私は少し、寂しそうな声をあげてしまったが、姉さんはいきなり私の頭を撫でてきた。
「……ひぇっ!」
「――ふふっ、私もこの魔法陣を作るの手伝ってあげるわ。可愛い妹の頼みですもの。そのかわり、そうねぇ……無事に下界に行けたらお土産話とお土産を頼もうかしら」
口元を手で隠しながら、変な声を挙げてしまった私をクスクスと笑い、そう提案してくれた。
私はパァッと笑顔を作り――
「ありがとうございます! 姉さん!」
そう言い、頭を下げた。
◆
「――ん〜、ねぇリリカ、そもそもなんだけど、この魔法陣を発動させるための魔力って足りているの?」
「……えっと、発動させたことがないので分かりませんが、恐らく足りないと思います。私の魔力量では半分強が限界かと……」
「……半分ねぇ、それじゃあリリカ。いまか描く魔法陣を発動させてみてくれる?」
そういうと姉さんは指先に魔力を灯し、床に《次元干渉転移魔法》とは別の小さな魔法陣を慣れた手つきで描いていく。
「……っと、これで完成ね。リリカ、この魔法陣に魔力を流してくれる?」
「――あ、はい!」
私は言われた通りに小さな魔法陣に魔力を流し込んでいくが、途中でその魔法陣の違和感に気付いた。
「……これって」
流し込んだ魔力が魔法陣を循環し、魔力を流すのを途中で辞めたにも関わらず、魔法陣は問題なく作動している。
「……気づいたかしら?この術式は『魔力循環術式』といって、そのままの意味で魔力を循環させて他の術式に組み込むことで魔法発動の補助をしてくれるの」
「……そんなものがあったんですね。じゃあこの術式を《次元干渉転移魔法》術式に組み込めば……!」
私は思い切って姉さんに顔を近づけて言うが姉さんは私の額にデコピンをしてくるがその後、クスクスと笑っていた。
「……こ〜ら、そんなに興奮しないの。術式を組み込んだってあくまでこの術式は補助的な役割しかないんだから、術式を使っても……そうね、八割といったところかしら?それ以上の魔力は私が補うから……あと問題と言えばどうやってお母様に気づかれず魔法を使うかだけど……」
「……姉さん、それなら良いものがありますよ!」
「……え?」
私の提案に姉は一瞬、素っ頓狂な声をあげるが、私は気にせず、指を鳴らし書斎内にある結界を張った。
「……あら、この結界って魔力を外部に出さないように秘匿するものかしら?」
私は内心で流石としか言えなかった。
結界の構造というのは非常に面倒であり、ただの空間を一定の範囲と定めるだけのものから今、私の使ったような範囲内に任意の効果をもたらすものもあるのだが、通常ここまで速く、張った結界の効力を見抜けるというのは私ではとても出来ない芸当だ。
――鑑定や観察眼に長けている姉さん特有の能力ですね。
やはり、眼の前の姉も私たちの母と同じく敵には回したくない相手だと再度確認出来た。
「そうです。これならお母様も余程のことがない限り気づけないはずです。これで発動させるテストも出来ますよね?」
「えぇ、そうね。それじゃあ――」
◆
魔法の発動の確認が終わり、術式の準備が整った。
「……いいリリカ?転移先の世界までは設定できるけど、転移先で何が起こってるかは分からないから魔法を発動させても気を抜かないようにね?」
そう姉からは注意された。
姉の言うことは最もだ。転移世界を設定したとしてもその場所までは指定出来ないので転移した先で戦闘が起こっていた場合、攻撃を受ける可能性があると言うことを言いたいのだ。
それ以外にも火山のマグマ溜まりや大海のど真ん中に転移することもあるのだ。そう言ったことを考慮して気をつけろと言うことだろう。
「分かっています。念のために身体の周りに防御結界を張って、《身体強化》で動けるようにもしてますから」
そう言うと姉は口角を上げてこう言った。
「それじゃあ、魔法を発動するからね。それと……帰って来た時の約束、忘れないでよ?」
「……はい! 分かっています!」
こうして、私はこの家に一時的な別れを告げ、下界へと旅立った。
◆
〜セレスside〜
妹が魔法陣から消え、転移したことを確認してから魔法陣を解き、踵を返し一つの本棚の前に立つ。
「……全く、覗き見なんて趣味が悪いとしか言いようがありませんよ、お母さま?」
そう言い、何もない空間に手を置くとたしかに何かを触っている感覚があり、よく触ると髪の毛の質感があった。何というか、触り心地が良かったのでその頭を撫で始める。
「……や、やめんか! 阿呆!」
撫でていると、部屋に声が響くのを聞いて不覚にも笑ってしまった。
声がした瞬間に空間が歪み、黒と紅の二色を主軸とした小さなドレスを纏った黒髪の少女が現れた。
「ふふっ、盗み聞きと覗き見のお返しです。それより、私とリリカのやりとり……見ていたのでしょう?お母さまは私たちをあまり外に出そうとしなかったのに何故止めなかったのです?」
私はそれが疑問で仕方なかった。真剣な眼差しで問いかけると何故か我らの母は笑いながら答えた。
「……クッ、ククク、お主、妾が何故お主らを外に出さなかったのか分からんのか?」
「分からないから聞いているのですが……何故笑っているのです?」
「いや、そんなことを聞かれるとは思っておらんかったからの。それで、お主らを外に出さなかった理由は簡単じゃ。親としてお主らに自分から巣立って欲しかったのじゃよ」
「……巣立って欲しかった……ですか?」
言葉の意味がよく分からず、私は首を傾げてしまった。
「……なに、巣立って欲しかったと言っても自分の意思で行動出来るようになって欲しかったと言ったところじゃ。子の意思に応えるのは親の責務じゃが、その意思を育てるのもまた親の役目ということじゃ」
「……えっと、では、わざわざ色んな場所に行こうとしても許可を取るように言ってたのはそのためですか?」
「勿論じゃ! 子の反抗期というのは親からすれば中々に嬉しいものがあるのじゃ」
私は頭を抱えたくなった。
この母親は家族や仲間といった者たちのためであれば自身の身を投じることさえも厭わない。
常人からみれば『狂人』という括りにされるであろう神なのだ。
また、破壊神という位のため世界の中枢を管理しているが、干渉することは殆どなく、世界が滅んだ場合に創り直すために等しく破壊するということしか言ってしまうとやることがない。
たまに神界の他の神々に今後の政策の予定などを伝えることもしているがすっぽかすことが大半だ。
それでいて、この性格である。側からみれば自由奔放な性格をしているが、実際は何を考えているのか分からない不思議な神だ。
――今の言動も親バカという言葉が一番似合いますね。
私はため息をつくが、母の言い分に嫌な感情を抱くことはなく、むしろ清々しいとも感じていた。
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