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褒美

 何となく容姿の話をされるといたたまれないような感覚があったので、咳払いをして話の話題を変える。


「……コホン。そ、そう言えば2人とも、俺たちの試合が終わった後って結局どうなったんだ?」


「……んとね、カイトくんとお師匠様?の試合が始まった瞬間に、決着がついてように見えたんだけど、これに関してはリリカちゃんが《時空間魔法》の一種だって説明してくれて納得出来たんだよね。だけど――」


 ネネは少し言い淀んだが、やがて続きを話し始めた。


「――そのあと、カイトくんが意識不明の状態だったらしくて医務室に運ばれたんだけど、気づいたらカイトくんが居なくなってたって役員の人たち大騒ぎになっちゃってたんだよね」


「……先程のマスターのことを聞く限り、そこで最高神様が、虚実空間にマスターを連れて行ったのでしょう。あの空間は、マスターの創った空間ですのでこの世界より回復が速いと判断したのでしょう」


 確かにその通りだ。身体の回復に関しては虚実空間とこの世界では違いはないのだが、あの時、俺は【種族変換】の代償として昏睡状態に陥っていた筈だ。


 ――元々、この代償は覚悟の上で破壊神の能力を使い戦ったが、今でも無茶をしたと思う。


 その代償は、時間が経過すれば回復するのだが、下手をすれば数年という時間で眠ることになる。それを考えれば、俺の魔力によって創られた空間であり、時間の流れが速い虚実空間に連れて行ったことは最適解と言える。流石、師匠と言ったところだろう。


「……それで、試合の後のことはわかったが、何故ここにいたんだ?」


「えっと、実を言うとカイトくんがいなくなったって分かって直ぐ、リリカちゃんがカイトくんの行きそうな場所を探し周ってたんだけど……」


 そのことを聞き、少し胸が痛くなった。


「……リリカ、心配してくれるのはありがたいんだが、あまり無理はしないでくれよ?」


 リリカは、顔を真っ赤にし両手で顔を覆っていた。


「……だ、だって、また転生をなさった時みたいにいなくなってしまったら……嫌だったんです。それに私は、マスターの従者なんですよ?主人の姿が見えなかったら心配するに……決まってるじゃないですか……っ!」

 

 リリカは、涙を浮かべ俺の胸のあたりをポカポカと叩いてくる。


 ――むぅ、こう言うとき、何と声をかければいいんだ?


 乙女心というものは未だにわかっていない概念の一つであり、男である俺に理解するのはとても難しい。


 何と声をかければ良いのか分からず、懊悩していると自然と身体の方が動いていた。


「……ふあ……」


 俺は気がついた時には彼女の頭を撫でていた。


 彼女の顔は、さらに紅く染まっていたが同時にどこか安心した様子で、『はぅ……』と声をもらしていた。


「……お前が前にして欲しいと言っていたことをしてみたんだが……嫌だったか?」


「……い、いえ!マスター撫でてもらえてとても嬉しいです!あ、ありが――」


 ありがとうと言おうとしたリリカに、俺は口の前でバッテンマークを作り、その言葉を遮る。


「……今回、俺がお前たちに迷惑をかけたんだ。だから、『ありがとう』は無しだ。今は俺が感謝する方だ」


 撫でながらそう言うと、リリカは困惑したように頷いた。


「……え、あ……はい……マスターの御心のままに」


 そしてしばらくの間撫で続けたが、やがて我慢出来なくなったのか、リリカが俯いて言った。


「……マ、マスター、そろそろ……ネネさんも見ていることですし、その……は、恥ずかしいです」


「……ふむ、そうか」


 赤面している従者の様子を見ているのは大変楽しかったが、名残惜しくも手を離した。


 ネネの方に眼を向けると明らかに不満そうに眼を細め、じとーっとこちらを睨み、頬を膨らませている。


 紛れもなく不機嫌である。


「……あの、ネネ、何を怒っているんだ?」


「……」


 ネネは無言のまま黙っている。

 何やら、察して欲しいと言わんばかりの視線を向けられていてその視線がチクチクと刺さる。


 男と女では物事の感じ方が違うらしいが、感情の揺れ動きに関しても違うという。つまりネネは、何かしらの感情を抱いているのは分かるのだが……。


 ――先程のリリカにしたことに原因があったと考えると…………もしかして……!


「……ネネ、ちょっと頭を貸してくれるか?」


「え?あ、はい!」


 ネネは少し前に出てこちらに頭を向けてきてくれたので、優しく頭を撫でてやった。


「ネネもなでなで好きだっただろ?それとも他のものの方が良かったか?」


「……な、なでなでがいいです」


 ネネは抵抗することなく撫でられていた。


 良かった、先程怒っていたのは撫でてほしかったのだろう。

 自分から口にするのは少し恥ずかしいからな。


「――と、これでいいか?」


 俺はネネから手を離し、問いかける。


「恥ずかしいけど……やっぱりカイトくんに頭を撫でられるのは嬉しいなぁ」


「ハハ、それは良かった」


 どうやら、機嫌も直ったようだ。


 と考えていると、リリカが口を挟んでくる。


「……その、マスター、話が脱線してしまいましたが、ここに居た理由を話してもいいでしょうか?」


 ――あ、完全に忘れてた。


 ◆


 その後、ネネとリリカがここに居た理由を説明してもらった。


「――じゃあ、レウスがここで待機しろと言ったのか?」


 ネネとリリカは同時に首肯する。


「……そうですね。正直、探しに行きたかったのですが、最高神様からの言葉ですので何か考えがあってのことだと思いましたのでここで待っていました」


 リリカたちからの情報をざっくり纏めるとこういうことだ。


 俺が医務室に運ばれるが、師匠によって虚実空間に連れて行かれる。

 その後、ネネとリリカが俺がいなくなったことに気づき、俺の行きそうな場所探してギルドにいったときに、レウスからここで待つように言われたらしい。


 レウスと師匠は記憶や感情を同期しているからな。師匠がどのような行動をしているのかレウスからすれば、全て丸分かりだったわけだ。


「なるほど、そういうことだったのか」


「私もカイトくんのこと必死に探してたんだけど、レウスさんが宿で待っていた方が確実だって言うからここにいたんだよ」


「――2人とも、本当に今回は迷惑をかけたな。悪かっ――」


 『悪かった』と言おうとした時にネネとリリカは先程、俺がやった口の前にバッテンマークを作って言葉を遮る。


「理由も説明してもらったし、カイトくんが謝ることはないよ!それにさっき、なでなでもしてもらったし!」


「そうですよ!それにマスターには助けてもらったことの方が多いんです!私は感謝しても仕切れませんよ」


「ハハッ、そうか、これは参ったよ」


 俺は、両手を上げ降参の意を示し、笑いながら天を仰いだ。

これにて2章完結!と行きたいところなのですが、実は、この後に閑話をいくつか挟みたいと思っております(大体6話ほど)


カイト視点のお話は2章に関してはこの話で最後ですが、2章自体はもう少し続く予定です。


また、不定期ですが楽しみにしていただけるのでしたら幸いです♪


それではまた次回も楽しみに(๑╹ω╹๑ )

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