決着
再度激突した瞬間に俺の纏っていた破壊の魔力が溢れ出し、闘技場の至る場所にヒビが入る。
だが、そんなことは気にせず、今は師匠との闘いを素直に楽しんでいた。
「ああああああああああああ!!!!!!」
俺は空間が軋むほどの咆哮を挙げ、破壊の魔力を増幅させた。
その場から音を置き去りにする速さで加速し、ヘカトンケイルを師匠の胸突き立てた。
「……がはっ!ふ、ハハハ!これだよ。この強さだ。神の領域に達した君の強さは僕を楽しませてくれる!」
「……そんなにベラベラと喋っていていいのですか?」
未だに師匠の胸部には破壊の魔力を宿したヘカトンケイルの刃が深々と突き刺さっている。
――破壊の力を持っていても内部から破壊の魔力を流し込まれているんだ。最高神の身体であったとしてもただで済むはずがない。
俺は更に追い討ちをかけるようにヘカトンケイルに仕込んでいた魔法を発動させる。
「【呪吸魔壊刻印】」
【呪吸魔壊刻印】、対象の魔力を際限なく吸収し続け、身体を蝕んで行く強力な呪術魔法だ。
破壊魔法に【固型腐蝕溶鏽】の効果を上乗せした融合魔法の1つであり、魔法構造を知っているのも俺だけの固有魔法だ。
――例え、【呪吸魔壊刻印】の効力を消したとしても呪術としての効力は残り、【固型腐蝕溶鏽】の身体を蝕む力は術を解かない限り永続し、その身には黒い刻印が刻まれる。
「……っ!これは、中々大胆な魔法だね。僕の魔力を吸い取っているのか」
【呪吸魔壊刻印】の効力で吸い取られた魔力は自動的に魔法を発動した術者の魔力となり、術者の力を底上げする。が――
「………くっ!」
身体中に激しい痛みが現れる。
――クソッ、やはりか。
内心で舌打ちをする。
【呪吸魔壊刻印】の作用によって吸収された魔力は自身の魔力となるが、その量が多過ぎる場合、それは自分の身に毒となる。
この魔法のデメリットは相手の魔力を吸い上げるのが、一定量ではなく割合であることだ。
この魔法は分間百万分の一の魔力を対象から吸い上げ、術者の魔力とする。だが、魔力を吸い上げている相手は最高神である師匠だ。魔力も俺の比じゃないほど持っているだろうし、今は《破壊の半身》と《創造の半身》によって能力を底上げしている。なので尚更魔力の吸収量は多くなる。
――流石に魔力を蓄えすぎたか…。
だが、蓄えたのであれば使えばいい。
瞬間的に魔法陣を4つ描き【終焉極炎龍】を放ち、ヘカトンケイルを師匠から引き抜き、後方へ跳躍した。
――さて、擦り傷程度負ってくれていればいいが。
いつのまにか【呪吸魔壊刻印】による魔力の吸収も無くなっている。
【呪吸魔壊刻印】は呪術系統の魔法だが、同時に破壊魔法の一面も兼ね備えているため、術式がそう簡単に消えることはないと思うのだが……。
「いやはや、ビックリしたよ。まさか、融合魔法を使ってくるとは。あれは、呪術魔法に破壊魔法を組み合わせたものかな?」
「……そうですが、破壊魔法の術式は破壊されにくいと教えたのは師匠ではなかったですか?」
「あはは、そうだよ?破壊に破壊の力を加えたところで相殺してしまい、結果的に壊すことは難しい、けどそんな常識が通用しないこともあるんだ。この《破壊の半身》ならね」
破壊魔法の術式を破壊するとは、あの《破壊の半身》と《創造の半身》って一体なんなんだ?
あの2つの身体からは神の力と違い、もっと禍々しく強大な力が渦巻いている。
――これが、最高神の力、神々の頂点。
「ハ、ハハハ!」
自然と笑みが溢れた。
絶望的状況であることは目に見えている。あの《破壊の半身》がある限り師匠に魔法攻撃が届くことはない。その上、例え物理攻撃で損傷を与えたとしても瞬間的に再生され、至近距離からの一撃を食らって詰む。
しかも、呪術による効果もない。
前に師匠から教わった【命令呪縛円環】による拘束も不可能ということだ。
だが、それでも俺は勝つつもりでいた。
転移魔法を使い、師匠の背後へ転移する。
師匠へ向けて【 方位爆炎刃】を数発放つが術式ごと破壊されてしまう。
だが、まぁそんなことは予想通りだ。《火炎魔法》ごときで師匠に負傷させられるとなんて思っていない。ただの時間稼ぎだ。
俺は、師匠の『頭上』から《終焉魔法》の【終焉極炎龍】を六門展開し、打ち込んだ。
時が止まっているため、粉塵も上がらないが、【終焉極炎龍】による爆炎が火柱となり、闘技場を埋め尽くし、数秒後に消え失せた。
「へぇ、やるじゃないか。実像分身を創ったのか。創造魔法の中でも中々難しいんだけどね」
【終焉極炎龍】の直撃を受けてケロッとして立ち上がった師匠に恐怖を覚え、冷や汗が伝う。
『あ……ぐ……』
師匠は分身体の首を掴み、《破壊の半身》によって破壊してしまう。
「……けど、この程度じゃあ、僕に傷はつけられないね。でも、僕に初めて防御結界を使わせたことは褒めていいかな」
師匠の手には魔法陣が出現しており、防御結界を展開している。
――普通、《終焉魔法》を防御結界ごときで防ぎ切ることなんて出来ないが。だが、この時間稼ぎで、本命の用意が出来た。
「師匠に褒められたのは、あまりない経験ですね。昔の修行の刻もあまり、褒めてくれなかったじゃないですか」
「あれ?そうだっけ?じゃあ、僕に勝てたらもっと褒めてあげるよ」
「そうですか。ではーー【魔導玻璃鎖】!」
先程、分身体を創ったときに同時に展開して置いた 玻璃の鎖による拘束魔法【魔導玻璃鎖】を発動させ、師匠の動きを止め、空中に固定する。
「……っ、この程度で僕の動きは止められないよ!」
《破壊の半身》により【魔導玻璃鎖】が破壊され、恐らく《創造の半身》によって作り出された巨大な炎槍が無数に降り注いだ。
俺はその炎槍を避けながら、ある場所に向かった。
「……っと、さて」
俺が向かった場所はここ――闘技場の中心だ。
――ここならば、この魔法の逃げ場はない!
地上に拳を叩きつけ、巨大な魔法陣を描き、俺の保有魔力の9割に加え、師匠から奪った魔力も合わせて描いた魔法陣に流し込んで行く。
「……この魔法……なるほど、これが君の最高の魔法か。いいよ、全力で来い!」
師匠の言葉を聞き、魔法を発動させる。
「【真核世滅】!!」
魔法陣から終滅の光が溢れ出し、世界をも破壊する力が広がっていき、視界を白く染めた。
そして、その結末を視ることなく、俺はその場に倒れこんだ。
◆ ◆ ◆
終滅の光が終結し、闘技場には一つの影が揺らめいていた。
「……フフッ、まさか、この世界の維持に使われている力を吸い上げて、この場に収束させて爆発させるなんて……お陰で腕が吹き飛んだじゃないか」
その場に立っていた最高神は腕を失っていたが次の瞬間には新たな腕を創り出していた。
「【種族変換】は魔力によって己の身体を作り替え、作り替えた種族の性質を手にすることが出来るけど、そんな力に代償は勿論ある。しかも、君は『破壊神』の力なんて使って限界まで戦ったんだ。死んでもおかしくはなかったんだよ?」
最高神は、ゆっくりと倒れている少年に触れ、回復魔法をかけた。
「修行をしたときにも無理はするなって言ったんだけどなぁ。まぁ、僕の影響かな?」
最高神は、ふぅ、と息を吐き出した。
「君は誇っていいと思うよ。この闘いでは負けてしまったけど、この勝負は君の勝ちだよ。そして、ありがとう」
止まった時のなか、その言葉が静かに闘技場に響いた。




