剣術大会《3》
「さて、他の者の試合を見てみるとするか」
【遠方可視】の魔法を使い会場の様子を視界に映す。
戦っているのはBブロックの選手か。
戦闘中の選手らの記号に『B』の記載されていた。
『おおっと、リードス選手、先手に出た!』
司会者の声が会場に響く。
リードス?あぁ、確か両手剣の使い手だったか。確かに両手に長剣が握られている。
しかし、相手への攻撃の際に見せる隙が多いな。あれではすぐにやられてしまうだろう。
……だが、問題はこのリードスという選手ではなく、その相手選手だ。
相手の選手はフードを被っており、顔を見ることは出来ない。
だが、それ以前にこの者からは魔力を感じることさえ出来ない。
魔法は禁止されていると言っていたが、魔力を封印する封印魔法か、それとも……。
『おっと!リードス選手、剣を振るうがアリオス選手には通じない!』
フードを被っている選手はアリオスというのか。
何やら、話しているようだが、ここからでは聴こえぬな。
俺は【遠方聴覚】を使い、会場の会話に耳を傾ける。
「貴方、本気でやっていませんね?」
「…どうして本気ではないと?」
リードスが問いかけているが、アリオスは答えをはぐらかしているな。
「貴方は先ほどから、私の攻撃をいなすだけで攻撃をする様子がありません。到底、本気で試合をしている思えません」
「攻撃をしてもいいんだがね。僕は相手の行動をしっかり視てから攻撃をしようと思ってたんだよね」
「……貴方、自身の戦法を相手である私に教えるとは、よほど自身の実力に自信があるのですね?」
「あぁ、元から君程度の実力で僕が負けるとは思って無いからね」
その言葉でリードスの怒りは頂点に達した。
「貴方、後悔しても遅いですよ!!」
リードスは持っている剣を振り上げ、アリオスに突進していくが、アリオスは余裕かのように欠伸をしていた。
「ふあぁ、知ってるかい?後悔って物は――」
アリオスは、ほんの刹那の間だが剣が振るわれたように見えた。
「……はぁ?」
リードスが素っ頓狂な声をあげていた。
当たり前だろう。気づいたときには自身の剣が根本から折れていたのだから。
「――本当の強者はしないものなんだよ?」
一瞬の決着だった。見逃さぬように見ていたが、アリオスの攻撃の際の動きを捉えることが出来なかった。
……あの動き、見たことがある。そしてあのときの言葉……あぁ、そういうことか。
『リードス選手の武器の破壊を確認しました!勝者アリオス選手!』
司会者の声が会場に響き渡る。
言ってしまえば、この勝負は始まる前から勝敗は決まっていた。
当たり前だ。普通の人間が勝てる相手ではない、神を相手にしていたのだからな。
俺は、会場から退場していくアリオスの場所を追うために転移魔法を構築した。
◆
「ここら辺に向かっていると思うが……」
【空間探知】を使ってこの闘技場の内装は把握している。
――移動している魔力の内、こちらに向かってきているのは1つしかない。ここで待ち伏せしていれば――
「こちらに向かって来ると思ったかい?」
反射的に声のした方向に魔力を込めた回し蹴りを入れるが、声の主に当たった瞬間に止められていた。
「ハァー、ハァー!」
「そんな蹴らなくても良いじゃないか。初対面なんだしさ」
「初対面とは、随分と白々しいですね、師匠?」
ふふっと、薄い笑みを浮かべフードを取り去った。
そこには、金の髪に紅眼と翠眼のオッドアイを持った少年の素顔がさらけだされた。
「こんな児戯な結界では、流石に誤魔化せないか」
児戯とは、よく言うものだ。魔力の流れを感知されない結界を張り、技量を隠していたのか。
攻撃を反射する反魔法とは違い、魔力の流れを隠す結果を張ると言うことは簡単ではない。
反魔法は全身に纏わせれば、それで終わるのだが、結界は魔法と違い魔力そのものを壁として展開するもので、結界によって魔力を隠すには魔力を秘匿する必要があり、発動は困難を極める。
「師匠、こんな場所で何をしてるんですか?またファルヴィスたちに言われますよ?」
「あはは、まぁちょっと時間がないけど、次の仕事には間に合うと思うし、最悪、時を止めれば……」
最後の言葉にツッコミを入れたくなったが、俺は話を続けた。
「……それで?前に言ってきた言葉から察するに、俺とこの大会で闘いたいと言うことですか?」
「そうだね。仕事の息抜きに、って思って神界を抜け出して来たんだ。少しだけだけど修行をつけてあげた弟子の様子を見たくてね」
その言葉に俺は大きなため息をつき、フッと笑った。
「そうですか。それじゃあ会うのは決勝でしょうか?それまで、負けないで下さいよ?」
最高神である師匠が負けることは絶対にないことは分かっていたので若干、悪戯の念を含ませた笑みを向けた。
なんせ、師匠であれば『自身が勝つと言う未来を創り出すことも可能』なのだから。
「君も言う様になったじゃないか。僕が最高神だって分かっての物言いかな?」
「そうですよ。分かって言っているんです。今日こそ、勝ちを貰います」
師匠は俺の言葉にククッと笑みを零し、答えた。
「そうか、では楽しみにしているよ」
「ええ、それでは――」
俺と師匠は声を合わせて言葉紡ぐ。
『――続きは決勝で、良い勝負を』
ハイタッチをし、俺はその場を離れた。
◆
十数刻後
『さて、お待たせ致しました!これより剣術大会決勝戦、ルイド選手対アリオス選手の試合を開始します!』
『ウオオオオオオオオオォォォォ‼︎‼︎』
司会者の一言で、喧しい雄叫びが挙がる。
俺はその雄叫びを無視し、眼前の相手を見据え、呼びかける。
「……さて、師匠。約束通り来てくれましたね?」
「弟子との約束を違うほど無責任な僕じゃないよ?」
その瞬間、とてつも無い高密度の魔力が放出される。
そして放出された魔力は絶大であり、並の生物がこの場に立っていたら卒倒していることだろう。
「これは、いきなりですね」
俺は平然を装っているが、気を抜けばこの魔力の圧力に膝をつきそうになる。
修行のときにはこんな密度の魔力を見せたことは無かった。手加減されていたと言うことか。
「まぁ、最初に下準備をしようか【極範囲時間操作】」
その瞬間、俺と師匠以外の全ての時間が停止した。
生物、植物だけでなく雲の動きも止まっている。
ーー今の魔法、時間操作系統の魔法だろうが、聞いたことがないな。固有魔法か。効果を見た限り、【範囲内時間操作】の派生魔法のようだが……。
「さぁ、これで魔法を使ってもバレないね」
「……わざわざ、時間を止めてまでやることですか」
呆れの念が強く、肩を竦めたが、気持ちとは裏腹に本気で闘えると言うことが嬉しく、身体に力が入っていた。
「……では、始めましょうか」
仮面を投げ捨て、剣を構える。
「そうだね。君がどれだけ成長したのか見せてもらうよ」
師匠はフードを脱ぎ捨て、剣を弄ぶ。
次の瞬間には止まった時の中で、師と弟子の2人が激突した。




