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剣術大会《2》

遅れたぜ(´;Д;`)すいません

「クソっ!何で動かねぇんだ!」


 俺の対戦相手の男が吠える。

 

 キィン、キィンと金属同士がぶつかり合い、何度も音を鳴らしている。


ーー何故と言われても、お前の剣撃の威力が弱すぎるからなのだが…。


 俺は今、剣術大会のDブロックの予選で戦闘をしているのだが、どうにも相手の剣の振り方や足の踏み込みが浅いように思える。


 一撃入れてしまえばそれで終わるのだが、それでは面白く無いので相手が振るっている攻撃を全て剣で防ぎ、こちらは手出しはしないようにしている。


 だが、相手もだんだんと苛立って来ているな。動きもしないでただ防いでいるだけでは試合もつまらないだろう。


「……ハァァ、ハァァ、テメェ、何で動かねぇんだ!真面目に試合する気あんのかぁ!」


 相手の吠えている姿に俺はつい笑ってしまった。


「ハハハッ、それは悪かった。そうだよな、防いでいるだけではつまらんからな。丁度いい、少し、仕掛けさせてもらうぞ!」


 俺は、その場から跳躍し、相手の背後を取った。


「んな、何処行きやがった!」


 ただ、背後をとっただけだと言うのに、俺の動きをまともに捉えられていないようではないか。


「何、ただ後ろを取っただけだ」


 そう言い、俺は天照の刃を相手の首の横に置く。


「……俺の負けだ。降参する」


 首の直ぐ横に置かれた天照を見ると、奴はあっさりと降参を認めた。


 なんだ、張り合いのない。もう少し楽しませてくれるのかと期待していたが、興ざめだな。


『オリザ選手の降参を確認!この勝負、ルイド選手の勝利です!』


 ルイドというのは俺が登録した時に考えた偽名だ。

 少々、まわりくどいやり方ではあるが、姿を変えているとはいえ、名前が一致していると怪しむ者も出てくるだろう。


 今後の行動の際に声をかけられるのは面倒だからな。


『それでは勝者は自身の待機部屋にお戻り下さい』


 司会者の指示に従って俺は待機部屋と呼ばれる闘技場の中に設備されている部屋へと向かった。



「……ここが待機部屋か?」


 簡単に作られている部屋のドアには、『Dブロック選手待機室』と言う木で出来たプレートがかかっている。


 ドアノブを回し、部屋の中の様子を確かめる。

 

 選手と思わしき人物が5、6人見受けられた。


「…あんたらもこの大会の選手なのか?」


 俺が問いかけると、選手の1人の男がこちらに近づいて来た。


「選手じゃなかったら誰だってんだぁ?テメェみてぇな新人はんな事も分かんねぇのかよ?」


 おう、随分と喧嘩ごしだな?まぁ、選手待機室と書いてあったんだからな選手で確定だろう。


「悪いな、お前の言う通り俺は新人だからな。この部屋にたどり着くのにも少しかかったんだ。そのくらいは教えてほしい」


「ハ、ハハッ!んじゃ、当然、新人狩りの存在も知らねぇだろ?」


……新人狩りか。そのもの自体は知らないが、響きからしてそのままの意味だろう。


「テメェも一回戦を突破したんだったらよ、少しはやるんだろ?ここで先輩が教育してやるよ仮面新人」


 すると、この男とは別の男が奥の椅子で吹き出していた。


「おいおい、モートン。気持ち悪い仮面着けてるからって仮面新人ってなんだよ!面白すぎるだろ!ギャハハ!」


 あぁ、なんか五月蝿いな。まとめて消し炭してやりたい気分だ。


 だが、こいつの実力がどのくらいかというのも気になっている事だ。


「まぁ、いいぞ?貴様如きの塵芥が俺にどれほど剣を当てられるのか見ものだしな」


 その言葉にブチっと何かが切れた音が響く。


 目の前の男――モートンと言ったか?――が俺の胸ぐらを掴んで来るが、俺は特に気にせず、モートンに問いかける。


「何だ?胸ぐらを掴んだくらいで何かが出来ると言うわけでもないだろう?それとも、これが新人狩りとか言うものか?」


 俺が、ワザと煽り嘲笑する。


 俺がこのように煽っているのは、勿論理由がある。ーー単純に腹が立ったこともあるが……。


 煽ったりする事で、相手を感情の中でも最も力を引き出すことの出来る『怒り』の状態を作ったのだ。


 ただ、剣を振り翳したところでそんな攻撃は棒切れに過ぎないからな。

 怒りの感情を引き出せば、少しはやるのではないかと考えたんだ。


「……テ、テメェ、いい度胸じゃねぇか‼︎この後の大会にも出せなくしてやるよ‼︎」


「ふん、上等だ。かかってこい‼︎」


 モートンは怒りに任せて抜剣するが、周りは特に止めようとはしていない。


……新人狩りというのは多くの人数がやっていることなのか?


 まぁ、そこまで気にすることではないだろう。

 モートンは剣を振るうが、剣筋も悪く威力も低い。


 「この程度では、実戦では役に立たないぞ?」


「……なっ…!」


 俺は、モートンの攻撃を躱し、()を振るった。


 モートンは自慢の剣が折られたことに驚いたのだろうか?驚愕の表情伺うことが出来る。


「お、お前、いつのまに剣を抜いたんだ!いや、そ、それだけじゃ説明がつかねぇ!剣が折れた…だと……?」


「何を驚いている。剣が折れることなんて、冒険者をやっていたりしたら日常茶飯事だと思うが…?それに、剣を抜いただと?俺は剣を抜くどころか、剣に触れてすらいないぞ」


「ハ、ハッタリも大概にしろ!」


 ハッタリじゃないんだがな。


「お前、『手剣』という技を聞いたことは無いか?」


「しゅ、手剣だと……?」


「ああ、そうだ。この技は便利な技だぞ。剣がなくても、手に魔力を纏わせ、高速で振り翳す事で剣撃のような力を生み出すことが出来る技だ」


 この技は、武器などが無いときでも即座に攻撃への対処が出来るようにと考えたものだ。一応、技として記述を残した書物があったはずだが、2000年も前のものだ。実物が残っているとは考えづらいな。


「ああ、それと…」


「な、何だ…!」


 俺が声をかけるとモートンは即座に後方へ後退りした。


 怯えさせるつもりはないんだがな。


 まぁ、剣を手で折られた相手ということで恐怖心を抱いたのかも知れないが。

 俺は、奴の持っていた剣を修復してやる。


「……ハァ?」


「剣が壊れては、大会に出れないだろ?ただ修復しただけだ」


 俺はそう言って踵を返そうとするが、後ろからの声によって、俺は動きを止めた。


「あ、あの、すいません」


「……何だ?」


 振り返るとそこには、先程のやりとりを見ていた1人が立っていた。

 俺が多少、眼に殺気を込めると『ヒッ』と声を上げた。


「す、すいません!新人の人だからって甘く見てたんっす!」


 なんだ?話が読めないが、何故こいつが謝っている?


「さっきの剣を折ったことか?だとしたら何故お前が謝っている」


「あ、あの、ここにいるのって全員知り合いでして、たまに新人狩りと称してからかったりしたりしていたんっす!」


「では、『狩り』とは言っているが本当に殺したりはしないということか?」


 俺のその言葉に男がポカンとしている。


 ん?違ったのか?だとすると、『新人狩り』とはなんなんだ?


「……え?いや、『新人狩り』って殺したりしませんからね?ただ、新人の気合いを確かめるだけで……」


「ふむ、度胸試しということか?」


「逆に他にどんな物を想像してたんすか?」


「そうだな。基本的な狩りを想像していた。集団で新人を殺したり、その(むくろ)(にえ)に使ったりするのかと考えていた」


 そう淡々と告げると、部屋の隅に固まって皆震えていた。


 そんなに怖いことを言ったか?


「まぁ、俺は別に気にしていないが、今後はそういうことは控えた方がいいだろう。他者に迷惑をかけることは良くないからな」


「……り、了解っす」


 これで、新人狩りの被害が減ってくれればいいが……。


「それじゃ、また闘技場でな」


 今度こそ、踵を返し、部屋を後にした。

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