最高神
「僕の個人情報を勝手に僕の弟子に伝えるなんてどういうことだい?【個体名θ-df053】識別名『レウス』僕の5864体目の複製体よ」
明らかに表に怒りを出し、顔は笑っているが空間が軋み、震えていた。
誰もが見たら分かるだろう。激おこだ。
「アンタが教えてなかったのだろう?お弟子さんなら、自分ことくらい教えていいと思ったんでね。それにアンタは僕で、僕はアンタだ。同じもの同士で消し合ったらどうなるか一番分かってるのは、アンタだろう?」
そのことを聞き、師匠は『はあぁ…』と息を吐き怒りを鎮め、口を開いた。
「僕と君とでは、今の実力は同じだし、君を消して1番困るのは僕だ。そんな無駄なことはしないよ。ただ、例え僕の複製体だとしても僕のことを他言することは許可していない。少し『お仕置き』だ」
すると、師匠は天井から床に降りて来て複製体の前に立ち、指をおでこに置き、弾いた。いわば、デコピンだ。だが、指を弾いた瞬間に衝撃波が伝わる程の威力があった。だが、それを直に受けた複製体は平然としている。
「はい、これでお仕置きは終了だよ」
「まぁ、随分と物騒なデコピンだな。あの力をこの建物に打ってみろ、一瞬で崩壊するぞ。その上、この魔法は何だ?」
複製体の首の周りには何やら文字が浮かびあがり円環となって廻っており首輪のようだった。
「【命令呪縛円環】という魔法さ。一定の行動を呪いによって束縛し、行動を制限する魔法であり、【呪縛系統魔法】の中でも相当効果の高い魔法さ。そして、制限した行動は『僕に関する情報を漏洩すること』だ」
「なるほど、これを付けることが本命のお仕置きか。だが、【解呪魔法】ならば解けるんじゃないのか?」
「無理だね。この魔法は僕が創ったが、僕でもこの魔法を解呪することは出来ないからね。もし、僕がこの魔法をかけられたらどうしようも無いんだ。元々、解かせる気なんて無いからね」
そう言っているが、もし本当に魔法がかけられたとしたら、瞬時に解呪の魔法を創り出すことくらい、最高神の力なら造作もないことだろう。
最高神の権能は世界の創造主である創造神を生み出すことの出来る程強力なものだ。魔法の一つや二つ、刹那未満の間に創ることが出来るだろう。
とそんなことを考えながら、俺はある魔法を発動した。
「【命令呪縛円環】」
先程、師匠が使った魔法を俺は自分自身にかけた。
「ちょ、カイトくん何してんの!?」
ネネが後ろで叫んだが俺は落ち着いて、返す。
「大丈夫だ。しかし流石、師匠の魔法なだけはある。俺の知っている呪術の中でも強制力が段違いで、右手が全く言うこと聞かないな」
俺は魔法を試す為に右腕の動きを制限したのだが、複製体と同じように右腕に文字の円環現れ、指の1本も動かなくなり、文字通り使い物にならなくなっている。
【解呪魔法】を使って魔法を解こうとしているが、反発してきて全く歯が立たないな。
「【命令呪縛円環】は今日初めて他人に見せた魔法だったんだけどなぁ。こんなにあっさりとかつての弟子が使えちゃうと少し萎えるかも」
師匠はがっくりと肩を落とし、そうぼやいていた。
「いや、この魔法は相当難しいですよ。ですが、前に教えてもらった【極炎魔法】の【焦熱地獄】や【精神魔法】の【絡繰人形】などの魔法と同じくらい難易度です。ですが、解呪くらいならなんとかなるかと……っと」
俺は話している間に【命令呪縛円環】に有効な解呪魔法を創り、発動させると、パリンっと音を立てながら右腕を廻っていた円環が綺麗に霧散した。
俺は腕が動くか手を握ったり、開いたりして確かめたが、問題なく動いていた。
「まさか、初見で【命令呪縛円環】が破られるなんて。一体何をしたんだい?破られておいてアレだけどそんな簡単に魔法を解除出来るようには創って無いんだけどなぁ?」
「今、使った魔法は【命令呪縛円環】に有効な解呪魔法です。即興で創った割にはよく出来たと思いますが、どうでしょうか」
俺が問いかけると、再度肩を落とし答えてくれた。
「正直、凄いよ。【命令呪縛円環】は元々、永続的に呪いを続かせるために創った試作品だったから専用の解呪魔法は創らなかったんだけど、まさか弟子に先を越されるとは…嬉しいね」
そう師匠が呟いていると、後ろから師匠の複製体のレウスが俺に問いかけて来た。
「じゃあ、その解呪魔法の名前はどうするんだ?」
名前と言うのは、魔法名のことである。
魔法名は武器で言うところの銘に当たるもので魔法の発動にはなくてはならないものだ。
さっきは即興で創り上げたので魔法名を言っていなかったが、しっかりとした魔法にするので有れば、効果も安定するのだ。
「解呪を目的とした魔法だからな。【消呪円環】なんてどうだろうか?」
「【消呪円環】か、いいんじゃないか?術式を見る限り、それほど難しそうな魔法じゃないしね」
複製体……レウスは愉快そうに俺に言い、師匠の方に顔を向けた。
「ふと思ったんだが、エルメス。君は今回、僕に【命令呪縛円環】魔法をかけたが他の複製体がもし君に関係することを話そうとしたらどうするんだ?」
「単体なら何とかなるが、複数体だったとしたら最悪、概念もろとも消し飛ばすつもりだ」
「ハハッ、まさか自分で自分の首を絞めるのかい?」
「そうだな。全世界の複製体を滅ぼせば、僕は消える。けど、その度に再度創ればいいだけだ」
「君は僕たちに容赦しないのか?」
レウスは先程の笑った様子ではなく、冷酷な眼で見つめていた。
「悪いが、容赦をする気はない。だけど、君たちを滅ぼす訳にはいかないからね。概念の全く同じ存在を創り出すだけだ」
つまりは、自分の分身体を全世界に置くことで最高神という存在は、今存在していると言うことか。
「まぁ、そうは言うが俺と同じ複製体の奴らは1度もアンタに反抗したことはなかっただろう?何故だか分かるか?」
「ああ、そんな事してもお前たちに利益もメリットが無いからだろ?」
すると、レウスはクスっと笑い、愉快そうに口にする。
「僕たちの気持ちを理解してくれているのか、それはよかったよ」
「何で上から目線なのか分からないけど、まぁ今回はこれで退くとしよう。本来、ここに来たのは君へのお仕置きだからね」
「そうか。まぁ、君は本来……いや、何でも無いよ。また今度な」
「そうだね。君だけじゃなく他のみんなにもこのことは言っておくよ。またね」
レウスは、少し言葉を濁したがその意味は分からなかった。
そして、気づいたときには師匠はこの場から消えていた。
「結局、カイトくんがここに来た理由ってレウスさんがエルメスさんだって確かめることだったの?」
背後ろから可愛らしい声でネネが問いかけてきた。
実際、それだけだったのだが、それ以外のも幾つか師匠について分かったこともあったからな。来て、無駄だったと言うことはないだろう。
「あぁ、そうだ。違和感の謎を解いておきたかったからな」
「実際、バレないように『普通の人間』を装って生活してたんだがな。流石にあいつの弟子なだけはあるか」
「まぁ、レウス…いや、師匠と呼んだ方がいいか?」
すると、レウスはハハッと笑い、こう答えた。
「君の師匠はアイツだ。僕…いや俺はこのギルドのギルドマスターだ。それ以上でも以下でもない」
いつも通りのレウスの口調に戻し、姿も元のギルドマスターの姿に戻っていた。
「ま、これからも宜しく頼むぞ。カイト御一行たちよ」
「分かった。こちらからも宜しく頼むよ。ギルドマスター・レウス」
そして、俺たちは手を握り合い、笑い合った。




