獲物と師匠
俺は、森の中を疾走していた。
目標まで約32.5kmか‥‥‥到達まで約12秒くらいかな?
十分な時間だ。
俺は、自身の武器である『ヘカトンケイル』を引き抜き複数の魔法陣を展開した。
—— 少しは粘ってくれよ?この程度の魔法でやられてしまっていたら弱すぎるからな。
そう心の中で呟きながら目標に向かった。
ー12.3秒後ー
「さて、到着と。おお、予想より大きいな」
そう言っている俺の目の前には黒く巨大な竜が佇んでいた。
この種は、確か『黒淵竜』というものだった筈だ。
基本レベルは2000から3000だったのでLv2000台のリリカでは少し苦戦するかもしれないな。
「ギャアアアオオオオッッ!」
煩く、でかい咆哮をあげる黒淵竜。
—— 五月蝿いなぁ。耳が壊れるかと思ったぞ。
まぁ、気にする程のことじゃなかったので戦闘体勢に入ろうとした瞬間——
「ッッ!?」
竜がいきなりブレスを撃ってきた。寸前で避けることが出来たが、まともに食らったら腕の一本くらいは持っていかれたかもしれない。
「成る程、攻撃特化型の変異種か」
竜が本来、ブレスを撃つためにはチャージと呼ばれる、力を溜める為の時間がある。だが、この竜はそのチャージを短縮し、ブレスを撃つことが出来る。変異種と呼ばれる突然変異を起こし、進化した個体だろう。
不利のように感じるが、この類の種は一部が他種よりも発達するが、逆に他の部分が他種より劣るということが多い。
こいつの場合は力が他より発達したが、スピードが遅いのだろう。
不自然な魔力の流れを感じるからな。恐らく、脚の一部を攻撃すれば行動が鈍るだろう。
「グギャアアア!!」
真正面からこちらに突っ込んできたが、俺は余裕でかわし、竜の脚元に潜り込みヘカトンケイルを突き立てた。
ズバッ!
「グギャグアアア!!」
竜が聞いたことのない咆哮をあげ、暴れ始めた。
—— 動揺しているな。ここまできたら後は簡単だ。
俺は3種類の魔法を竜に放ち、その場から離脱し、竜の頭の辺りまで跳躍した。
「さて、これで終わりだ。なかなか、楽しかったぞ」
俺は、ヘカトンケイルで竜の首を一撃で断ち切った。
「いい感じの状態で倒すことが出来たな。これであれば、良い値打ちになるだろう」
俺は、首と胴体に分かれた黒淵竜の血を採取した後で本体をアイテムボックスに収納して2人の待っている場所に向かった。
◆
「お〜い。2人とも、鳥の駆除終わったぞ〜。 って、何やってるんだ?」
「あっ!お帰りなさい、マスター。今、ネネさんとお茶していたんです。いわゆる女子会というやつです」
「リリカちゃん凄いんだよ!色んな食材とか世界で美味しいって言われてる紅茶とかいっぱい知っているんだよ!」
目の前には、おそらく、リリカが用意したのであろうテラスにありそうなテーブルとイスに座って2人が優雅に紅茶を飲んでいた。
「この茶葉はさっきの茶葉とはまた違ったマイルドな感じで美味しいな〜」
「この茶葉はテウス草を乾燥させて長期間ゆっくり煮詰めることで飲みやすい味になっているんです」
テウス草か。確か前世の時代でも中々の高級茶葉として知られていたな。
「確か、テウス草はカルトン山脈の北部に小さな薬畑に咲いている珍しい薬草で、紅茶以外の用途として一部の病を治す為のポーションの材料として使われていたな」
「え!?マスター!どこでその知識を!?テウス草に紅茶以外の用途なんて聞いたことがありませんでした!ですが、そんな情報の載った文献なんてみたことが‥‥」
「ん?まぁ、知らないだろうな。ポーションの効果があると広めたのは俺だし、教えたのも辺境の村とか医療などの手が届かない場所にしか教えていない」
俺が教えたことによってその村なんかでは伝染病などでの死亡率が低くなったんだ。
懐かしい話だ。
「あはは、カイトくんは何でも知ってるね」
ネネが俺に笑って返す。
「いや、何でもは無い。俺だってこの世の全てを知っている訳では無いんだ。もし、そんなことを全て知っている者がいるとしたら、『師匠』くらいだよ」
師匠か。懐かしい人の名前が出てきたな。
「カイトくん、師匠って誰?」
「マスター、私も気になります」
そういえば、2人に師匠ことを話してなかったな。良い頃合いだ。2人に師匠のことを話してみるか。
「師匠は、俺がまだ1000歳くらいだったときに修行をつけてくれた人だよ」
「マスターが1000歳というと私と会う3000年前の話ですね」
「やっぱり、1000歳は普通じゃないね〜」
リリカは何やら考え、ネネは乾いた笑いをしていた。
「で、まぁ、その師匠が200年くらいの間、知識や体術を教えてくれたんだ。俺が色々知っているのも師匠のお陰なんだ」
「へぇ〜、カイトくんにとってそのお師匠様は大切な人なんだね」
「そうだ。だが、師匠は突然、居なくなってしまったんだ」
「それは、何か理由があったのですか?」
リリカが真剣な眼差しで質問してくる。
「分からない。だが、置き手紙があってな。『カイト、お前は十分に強くなった。これで私の修行は終わりだ。後の人生は自由に生きていくといい。私は、その様子をいつも見ているぞ』という内容が書かれていたんだ」
俺のことを見ていてくれるのは嬉しいのだが、何も言わずに出て行ってしまったのは、少し寂しかったな。
「因みにマスター、そのお師匠様の名前って分かりますか?」
「‥‥?何故だ?」
「いえ、名前が分かれば、知っている方がいるのではと思ったので」
「そうか。師匠の名前は確か‥‥」
「『エルメス』だったな」
「エルメスさんですか。私は聞いたことがありません。ネネさんはどうですか?」
「ごめんね。私も分からないや」
まあ、知っている訳がないよな。2人は師匠にあったこともないんだからな。
「ごめんな2人とも。変な話に付き合わせてしまって」
「いえ、私が聞いたことなので、マスターが気にすることありませんよ」
「そうだよ。私も聞いたんだから一緒だよ」
「そうか。じゃあ、今日はもう遅いからそろそろ帰るぞ」
そう言って俺が帰りの準備を始めていると、ネネが聞いてきた。
「そういえば、カイトくんが倒してきた『鳥』ってどんなのなの?」
ああ、そういや、帰ってきてから竜を2人に見せてなかったな。
俺はアイテムボックスを開き、黒淵竜を取り出した。
「これだな」
「あの〜、カイトくん。これのどこが鳥なの!?ドラゴンじゃん!伝説級の魔物だよ!?」
「ドラゴンは鳥だろ?まあ、こいつは中々に強い鳥だが」
「このドラゴンは黒淵竜ですかね」
どうやら、リリカは見ただけで何の種類かがわかったようだな。
「そうだ。この竜は黒淵竜といって、鱗はアダマンタイトよりも硬く、肉は柔らかい上に、上質な魔石を持っているからオススメな魔物だ」
「これをオススメなんて言えるのカイトくんぐらいだよ」
「まあ、マスターはこれが普通ですから」
2人とも肩を落としてため息を吐いていた。
そんなに変か?
「まあ、とりあえず、今日は帰るぞ〜」
「「はーい」」
2人の返事を聞き、俺たちは街へと戻っていった。
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