第3話
「…というわけなんだよ」
一通り経緯を話し終わる。が、当然兄貴は半信半疑だ…むしろ、信じようとしてくれるだけありがたい話なのだが。
『それなら、転生というか転移だな。しかしよくわからんな…お前が異世界にいるとしても、違いはせいぜい季節だとかのレベルなのか?こう、モンスターとか神様とかは?』
「いないみたい、基本はマジでそっくりなんだけど…」
庭に出て、辺りを見回す。季節が秋だという以外、元いた世界とやはり大差ないようだ。そうして頭をひねっていると、不意に背後から声を掛けられる。女性の声だった。
「あのー…」
「うぉわっ!す、すいません!」
のどの真下あたりから声が飛び出す。とっさに出たのが珍奇な叫び声と「すいません」なのがなんとも情けない話だが、ここが異世界なら俺は不法侵入者なのだ。とにかく下手に出るのはいい判断だ。そう心を切り替えて振り向くと、家人とみられる女性が立っていた。やはりというか警戒されている…このファーストコンタクト、失敗できない!覚悟を決め、口を開く。
「あっあの、俺カギを拾って…あの色が違くてそれで、あーいや俺っ、季丘 春美って言います!」
めちゃくちゃである。いつも理知的で落ち着いている兄貴がうらやましい。とにかく何から伝えればいいのか…うろたえる俺に声がかかった。
「もしかして妹のお友達ですか?」
妹?友達?少し戸惑う俺に対し、彼女は続ける。
「その制服、うちの高校のですよね?私、季丘 秋実の姉です」
「へ…スエオカ、アケミ?あーいや俺スエオカですけど、ちょっと拾ったカギがですね?」
「えーっと…妹のクラスメートとかで、拾ったカギを届けてくれた、わけではないんですか?」
「あーいや、クラスメートとかではなくて、拾ったカギはウチのやつだと思うんですけど、なんかちょっと違くて…」
「???」
スエオカ?ウチと一緒の苗字なのか?というか秋実って誰だ、知り合い?俺がさらに混乱していると、今度はスマホから声がする。
『あーすまん春美、ちょっといいか?そっちの状況を聞きたいんだが…』
「あっ兄貴!なんかこっちのひともスエオカっていうらしいんだけど!」
『わかったわかった、ちょっと確認なんだが、今お前は季節以外そっくりな世界にいて、目の前の人はスエオカって苗字なんだよな?…よし、少し彼女と話させてくれないか?あと確かお前、俺の名前もフルネームで登録してたよな。スマホをハンズフリーにして、通話画面を彼女に見えるようにしてくれ』
いわれたとおりに操作する。そして目の前の女性にスマホを向けながら一言。
「あの、俺たちほんと怪しいものじゃないんですけど、ちょっと兄貴が話をしたいって」
怪しさ満点である。が、スマホを見た彼女が目を丸くする。画面には通話相手…兄貴の名前が表示されていた。
「季丘 冬基…?あの、うちの親戚の方ですか?」
この反応で、彼女の苗字は漢字まで俺たちと同じだとわかる。ここで兄貴が彼女に話しかける。
『申し訳ありません、弟がご迷惑をおかけしているようで…ちょっと込み入った事情があるそうなので、少しお時間をいただけないでしょうか?そちらは立ち話で申し訳ないですが、そのまま玄関で話されている方がご安心いただけるかと思いますが…』
当然ながら俺は不審者だという前提である。とりあえず彼女もいいですよ、と応じてくれたため、現状をかいつまんで説明する。俺たちについて、拾ったカギについて、俺がここにいる経緯について…兄貴からも彼女、季丘 夏輝さんにいくつか質問をしていた。
『状況から察するに、弟が転移したのはいわゆる異世界ではなく、並行世界ということになるかと思います。私たちの世界とはほんの少しだけ…例えば私たちの性別とか、季節とかにズレがあるような。ただ私自身、玄関が並行世界につながっている様子を見たわけではないのですが…春美、何かお前が並行世界の住人だって証明できるものはないか?』
彼女もここまでの説明で、一応俺が空き巣の類ではなさそうだとは思ってくれているようであるが、並行世界の住人という点はまだ眉唾の様子で、疑念と好奇心の混ざり合った視線を投げかけてくる。
「えーと…スマホのカレンダーとか?多分4月のままだと思うんだけど」
『それだとアプリで簡単にいじれたりするからなぁ…他にはないのか?』
とっさには思いつかない。せめてヒントになるものはないかと、肩にかけたカバンを下ろし中を探ろうとする。そこで、彼女が声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
彼女は、驚いて動きを止めた俺の方に向かって手を伸ばし、俺のカバンについていた…真新しい、桜の花びらを摘み上げた。




