第2話
話は少し前にさかのぼる。俺こと季丘 春美は、落とした家のカギを探して、もと来た道をたどっていた。基本激務の両親に残業気味の兄貴、ウチでは夕方のカギ開けはたいてい俺だ。
「お、あったあった」
思い当たる路地に差し掛かる。通学路を外れた道草ルートなのだが、今日はふらふらと遠回りをしてしまったのだ。案の定、遠目にカギらしきものが見えた。回り道さえしなければ、こんな面倒もなかっただろうに…なんで俺、この道通ろうとしたんだっけ?そんなことを考えながら、カギを拾い上げる。
「…ん?」
奇妙な違和感。それはカギそのものではなく、キーホルダーから発せられていた。
「こんな色だったかな?」
形は同じ、100均の安物だ。だが、俺が持っていたのはほのかな青色のはず…今手にしているそれは、薄い桃色だった。折りしも季節は春、ちょうど路地に舞っていた、桜の花びらに近いような…しかしカギは間違いなくウチのもの、辺りを見回しても他のカギが落ちているわけでもない。
(変色でもしてたか)
安物だしな、と深く考えることもなく、再び家路につく。もうすぐ自宅というところで、兄貴からの着信があった。部屋に忘れ物をしていってないか見てほしい、というオーダーだ。ちょうどいいので通話をしながらカギを開け、玄関をまたぐ。その瞬間までは、確かに何事もなかったはずなのに…
「…!?」
扉をくぐった俺を、軽いめまいと…強烈な違和感が襲う。カギを拾ったときと同じような…でもあれの比じゃない、一見騙されそうなほどそっくりだが、ここは俺の家じゃない!慌てて振り返った俺の目に飛び込んできたのは、紅葉し始めた庭の植木だった。