最終話
名残を惜しむように外を眺めていると、背後から声を掛けられる。
「…春美?」
「兄貴?」
振り返ると兄貴が立っていた。不安げな顔が、俺の帰還を確かめて安堵のそれへと変わっていく。
「春美!よかった無事だったか!いや無事っていうか、お前やっぱり並行世界にいたのか!?今急に出てこなかったか!?」
「あーまぁ、一応」
そう答えていると、玄関扉がひとりでに…いや、俺たちから見てひとりでに閉まった。これで世界は元通り…また、変わり映えのしない日常が始まる。
「心配したんだぞ、慌てて帰ったらカギは開けっぱでほんとにお前はいないし…な、並行世界はどうだった?あっちの俺とかお前はどんなだった!?」
「わ、わかってるよ兄貴、ちゃんと話すから!」
肩をつかみ、目を輝かせる兄貴をなだめる。ふと、兄貴の視線が下を向いた。
「おい春美、それ…」
兄貴に言われて気付く。俺のカバンには、色づいた木の葉が乗っていた。そういえばあの桜の花びらは、あっちに置いてきたままだった。
木の葉を手に取り、じっと見つめる…俺は、彼女を…『俺のひとつの可能性』を、助けることができたのだろうか?…去り際に見せた彼女の表情が、きっとその答えなのだと思う。
―――それは、とある穏やかな季節の日の…奇跡のような出来事だった。