第12話
俺はカギを手に、玄関の前に立っていた。先ほど秋実さんのカギで一度扉を閉めてある。あとは俺のカギを使えば、元の世界につながるゲートが開くはずだ。
「それじゃあ俺、いってきます…いやいってきますは変かもしれないけど、ともかくお世話になりました。ありがとうございました」
「ううんこちらこそ、短い間だったけど…ハル君に会えてよかった。ありがとう」
夏輝さんが、俺たちふたりを見やる。秋実さんとのことは話していないが、察するところはあるのだろう。俺は一礼をしてから、秋実さんに向き直った。
「秋実さんも…その、お元気で。元の世界に帰っても、俺は秋実さんのこと、応援してる」
「春美君」
彼女が俺の手を取った。
「…もしあなたに何かあったら、今度は私を呼んでね。絶対、絶対助けて見せるから!」
彼女の微笑みは、これから訪れる実り多い未来を感じさせるものだった。俺も微笑んで返し…呼吸を整えて、カギを回し、扉を開いた。
「春美君!」
呼びかけに振り向く。
「私、今日のこと…あなたのこと、忘れない。何があっても忘れないから!」
ここにきて、今にも泣きだしそうな…それでいて、喜びを隠しきれないような、そんな顔をしていた。まぁ…俺も、きっとそうなのだろう。
「俺も、俺も忘れないから…さようなら!もしかしたら、また、いつか!」
お互い手を振りあいながら俺は歩を進める…そうして扉をくぐった俺は、また軽いめまいを覚えた。それも一瞬で治まったが…再び庭に目を向けても、そのときにはもう、二人の姿はなかった。