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とにかく金田は話が長い。そしてあかねはアレなヤツ。

最後まで読んで読んでいただくと良いことあります。いや、ほんとっす。

『うんそこ。そのあたりを構成してる原子の1つが俺の、ほら。このあたり、、なんだけどさ。


この原子の1つと昔、、、、そう。昔々の物語なんだ。それは今から約一億五千年ほど前くらい。まだ恐竜がいた時代さ。俺達のその原子はステゴザウルスの尻尾の先にある四本の角の1つの先端の一部を担ってたんだ。


結構自慢の角でね。4本あるうちでもとくに際立って長く太かったんだ。


群れの中でも群を抜いて長かった。2メートルはあるんじゃないかっていう長い長い角の末端でその2つの原子は隣同士だったんだ。二人はそれはそれは仲良くて本当に気があっていたらしい。


共通点も沢山あってね。4億年前には同じミジンコの前足と後ろ足だったこともあってその時は初めて陸に上がる瞬間を体験したこともあったんだ。

その瞬間ときたらまるで月面に初めて着陸した宇宙飛行士の気持ちくらい感動したらしい。

もっと以前には二人は隣同士の昆布の先端を担ってた時もあってね。波に揺られながら時々くすぐったく絡み合っていたこともあったんだ。


そんなだから二人はその時も本当に隣同士でいることを喜んでいたってわけ。

ステゴザウルスの群れ全体もおおむね仲良かったし、その辺り一体も植物が豊かでさ、日向ぼっこをしながらそういった昔話に花を咲かせたりじゃれあったり、二人は幸せな時間を過ごしてたんだ。


そこへ、あるときティラノサウルスが群れをなして襲撃してきた。


その頃にはその二人の原子が構成していたステゴザウルスはもうそれはそれは立派な成人のメスだったから子供もいてさ。子供たちを何とかして逃がそうとステゴザウルスの群れの中央に子供たちを集めさせて囲うようにして逃げるように大移動を行ったんだ。


すると逃げる途中に足をくじいたのか一匹のステゴザウルスの子供が群れから外れた。

その子供は俺達の、、、、いやつまりそのステゴザウルスの子供じゃなかったんだけどさ。


もちろん群れから外れかけた子供をティラノサウルスが狙うのは当然なわけで狙いを定めて徐々に詰め寄っていく一匹のティラノサウルスが見えた時にはその子供を助けに向かってたんだ。

多分それが母性ってヤツなんじゃないかな。


困ってる人を見たらほっとけないっていうのかな?そういうとこあったんだよね。そういうとこあんじゃん?ほら、俺、、達にも、、、、さ。とにかくその子供の前に立ちはだかってティラノサウルスと対峙したわけ。


それから振り返るように身体を思い切りひねって長い尻尾をティラノザウルスめがけて振りきった。すると長く太い自慢の角。つまり俺達の原子が構成していた角がティラノサウルスのちょうど喉仏の骨に刺さったんだ。


いやもう完璧ど真ん中にクリーンヒット。

ティラノサウルスはその場に崩れ落ちてその時には群れの中に子供は溶け込んでいった。

それを目にしてほっとした気持ちでステゴザウルスは離れた群れに追いつくようにまた駆けていったんだ。


しかし、その自慢だった長い角の先は折れてしまっていた。


それはちょうどある時は昆布として仲むつまじくじゃれあって、ある時は共に力を合わせ始めて陸に上がったミジンコとして感動を共有した、原子の二人の間から折れてしまっていたんだ。


分かつ瞬間二人は誓い合った。いずれどこかで。必ずまた逢えるから。そのときまた隣同士になれたなら。その出会いに乾杯して、それからまた一緒に語り合おうってさ。


それがつまり君の下唇の一部を今構成していて、そして、そのもう1つの原子が俺の上唇の一部を今、構成してるんだよ。


ねえ?この億年ぶりの再会を祝おう。さあ。乾杯だ。』


俺はそう言って、懐かしむようにもの欲しそうなミヨちゃんの唇に何度も何度も唇を交わした。何度も何度も、、、、何度も、、、


そこで2現目終了のチャイムが鳴った。


「はい。今日の授業は此処までだ。」


おっと。どうやら俺とミヨちゃんの素敵な妄想に浸っているうちに授業が終わったらしい。

俺はよだれを拭きつつも、早くこの素敵な話をミヨちゃんに聞かせたくて思わず熱い視線を送った。


「起立。気をつけ。礼。」


その妄想は完璧だった。これ以上に現実的かつロマンチックな話はないはずだ。


冷静と情熱の間の研ぎ澄まされた知性を感じさせる。

我ながら恐ろしいキラーフレーズだ。誰かに自慢したいくらいだ。

こういうときぼっちは辛い。しかし、真似される危険がある分慎重に事を進めるべきだろう。


俺は未来のいつかミヨちゃんにこれを語るため、心のうちにそっと自主規制をかけることにした。タイトルは『億光年の原子の記憶』だ。



さて。この休み時間をどう過ごそうか。

うっかり妄想に入り浸ってしまい、俺はこの休み時間の過ごし方を用意していなかった。


ぼっち生活は予備動作に時間をかける必要があるというのは常識だ。なにもやることがなくて戸惑う時間というのは極力なくす必要がある。

時間の無駄であるし何よりも、その時間が露になればなるほどダメージを負うのはこちらサイドである。


たとえば修学旅行。もし何の準備もなく修学旅行に突入しようものなら俺は多くの時間をただソワソワしながらうろたえる他なかっただろう。

だから考え抜いたあげく中2の修学旅行で司馬遼太郎の『竜馬がゆく』全8巻のうち6巻を持っていくという作戦を思いついた時は我ながら震えた。


いやぁ~、つい何日か前に読み始めちまったら止まらなくなってさ。気になってしょうがないから俺はもう修学旅行どころじゃねぇわ。


という完璧な作戦だった。


それによって俺は修学旅行中に奇跡の一音も発しないという快挙を果たしたことは記憶に新しい。いや。本当にあれおもしれえから。ほんと。


とにかくこういう咄嗟の状況にも即刻対応できるという点でもやはり小説は、ぼっちにとって優秀なアイテムだ。

俺は机の中からジョージ・オーウェルの『農園牧場』を取り出した。

ライトノベルでも取り出した日には「あっ。それ俺も読んだことあるw」などと声をかけてこられる心配もあるが、こういった小説であればそういった心配はない。


格式高く見せつつ声もかけられないし話題にすらならないし馬鹿にもされ難いという高等テクニックである。『1984』じゃないとこなんかも難い。


「あっ、、あの。ねえ。」


「ひえっ!?」

俺は驚いて10センチほど飛び上がった。


後ろを振り向くと幾分恥ずかしそうに頬を赤らめている女が突っ立っていた。


同じクラスの橙山とおやまあかねだ。

小学校の頃の知り合いの一人。中学に入ってからは一言も話していない。てか、中学に入学して初めて同じクラスとなった今の今まで、一度も話すこともなかった女だ。


ちきしょう。休み時間に声をかけられるという予期せぬ事態に思わず変な声が出ちまったじゃねえか。今までずっと静寂を貫いていた俺になんて一声を上げさせやがるんだこの女。前から来い、前から。後ろから声かけてくるんじゃねえよ。


「消しゴム、落ちてたけどこれ。違う?」


俺は首を振った。


「あの、、あのさ、、、」

なにやらもじもじと指を絡ませている。なんなんだ?勇気だした的な態度を出すんじゃねぇ。傷つくだろ!!


「な、なに?」


「いや、実は話したいことがあるんだけど、、、、。ここじゃちょっとまずいかなって、、、」

周りを気にしながらひそひそと声を潜める。だから傷つくっつーの!!


「今日すぐに家帰る?」


俺は予期せぬ発言に驚きながらも頷いた。

あかねは幾分ほっとしたような仕草で胸に手をあて、それから周りをキョロキョロして顔を俺のそばに寄せて、「あとで寄るね」とボソッと言った。


俺はそれにも頷いたような気もするし頷かなかった気もするし、とにかく動物農園の何ページか目の文字列の真ん中辺りに目を彷徨わせてその休み時間を何とか平静さを保ちつつ乗り越えた。


目も開いていたし鼓動もいつもよりざわざわしていて『えしゅろん』の性能は決して高いとは言いがたかったが教室内の生徒達は特にその様子を気にしている用でもなさそうだったから少しほっともしたが、トイレを済ませたかったけどもうそこから立ち上がることさえできなくなってしまっていた俺は次の授業の終わりに差し掛かった頃には尿意を我慢することに全力をあげて取り掛かる羽目になった。


つーかあいつ今さら俺に何の用だろうか?


俺はそのことが気になってその日一日はもう勉強どころではなくなっていた。


橙山あかね。

俺んちからそう離れていない距離に住んでいる。俺が知るこいつは小学校の4年の頃になってもまだ百人で富士山の上でおにぎりを食べる事を期待していたようなイタイ気な少女だ。


好き嫌いがあんまりなく、人も動物もみんなが幸せに今日も私の世界は回っているとか思っているようなトンデモ少女だったのはもう昔の話だが、中学になってからも見受けられる限りでは普通にいつも仲良く接してくれる子達がまわりにいて、そのグループでふんわり自然に集いつつ休憩時間やらを楽しげに過ごしたりしている。


それだけに関わらずあらゆるグループとの交流も自然とこなすことが出来るというコミュ力の高い女。


まあ俺には全然話しかけてこねえけどな。いや、別にそれでいいんだけど。

オサレっ子特有の垢抜けた感じの制服の着こなしとか、、童顔のくせにやたら豊満、、、てか豊満という言葉はバストと繋がる為に産まれるべくして産まれた言葉だとしか思えないのは俺がまだ中学生だからか?いや、まあ、あれだ。


ひけらかすでもなく自然と溢れてるとかそういう部分もけしからん。こいつはもう大人だ。そこだけ大人だ。大人しくないのに大人だ。なんなんだ!!ふざけんな!!俺オッパイ好きだ!!、、、とにかく、こいつは結論を言うとリア充だ。そんな女がなぜ今さら俺に話があるというのだ?


俺はどれだけ考えてみても、なにかしら昔のことで口止めされる以外の理由が見当たらなかった。


それもしょうがないことかもしれない。なんといっても『でいだらぼっち』である俺史で唯一、つるんだことのある俗物がB組になぜかオールパーティー揃ってしまっている。


ロイヤルストレートクラッシュだ!もしかしたらこいつも何かしらの危険をそこから察知したのかもわからない。やはり過去の口止めではなかろうか?


俗物のうちの一人。


青井京子あおい きょうこ

こいつは団地育ち特有のヤンキーだ。いや別に団地育ちが絶対にヤンキーってわけじゃなくってこいつそのものが強烈なアイコンになってその法則を押し上げている代表みたいなヤツだ。

だから悪いのはこいつだ。俺じゃない。


小6の初め頃までボクシングを倣っていて、一度みんなで応援にいったことがある。

全国大会出場目前の重要な試合でこいつはなんと、その試合を蹴飛ばした。


えーと。あれだ。文字通り蹴飛ばしたのだ。

試合の序盤から見て取れるほど京子はイライラし始めて、中盤に差し掛かった頃には思い切り足を振り上げて相手選手を蹴飛ばしてそれから掴みかかろうとしたところをレフリーに止められていた。


たしか「てめえこのやろう。スポーツしてんじゃねえよ馬鹿やろう!」と叫んでいたと思う。

いやいやいや。俺はそれ以外の言葉が出なかったはずだ。


その事件以来きっぱり京子はボクシングを止めたが、中学にあがってすぐにこいつが仕出かした事件はちょっとした伝説となっている。


中学は三つの小学校から集められていて、入学してすぐは誰しもがソワソワしながらも仲間集めや周りの空気を読むために神経を注ぐことに躍起になっていた。


俺はその時にはすでに『でいだらぼっち』たる神に目覚めつつあったので全くの無視を決め込む姿勢を崩すことなく、それどころか攻めの姿勢で伊藤計劃の『虐殺器官』と『ハーモニー』から円城塔との共著作『屍者の帝国』を机の中にセットしてそれを読み進めていた。


その時も京子が同じクラスではあったが、その頃にはもう俺は京子とは無縁の関係だった。


三、四日もすると堰を切ったように教室内が騒々しくなった。

すると、ここ何日かは大人しく学年全体の情報収集に忙しかったであろう、身長も高くガタイのいい隣の小学校から来た男がイキる様にクラスを仕切りだしていた。


自分が一番ガタイもよくタッパもあると理解したのだろう。安心したように威張りちらし、小ずるい顔をしたとりまきを従え、休み時間の教室の後ろを陣取って馴染みらしい、ひ弱そうな男を。さもよく馴れた手つきでイジメだしていた。


教室内にはいじめっ子大将の豚の見本みたいな鳴き声が響き渡り、餌を与えてもらったひな鳥みたいに、とりまきもそれにならってギャーギャー喚いていた。


わかりやすくていいな、などと思いつつも全く不愉快きわまりない状況に俺としても腹立たしさを感じずにはいられなかったが幾分、俺には余裕があった。


なぜならここには京子が存在してしまっているからだ。お気の毒様。とすら思った。


案の定、京子はやるべきたった一つの事をその瞬間に行使した。


「おい!」怒鳴り声を上げ、京子は椅子から立ち上がり、教室の後ろのそのガタイにいい男に歩み寄った。

俺もお気の毒様と思った反面、見届けてやりたくなりその様子を観戦した。


男は一瞬ひるみの表情をみせてから面白くないというような顔で京子を睨んで、次の瞬間には口を開きかけ何か言おうとしていたが京子は関係ない。

その口から気の聞いた台詞を期待するやつなんか確かにどこにもいない。


やつがブヒッと鳴くよりも早く、京子は「おまえうるせえ。」そう言い放ち、すぐに両拳を挙げ、前傾姿勢でトントントンと3つステップを踏んだ。

さっさと拳をあげればいいのにこの男。また性懲りもなく口を開こうとしていた。


みりゃわかんだろこの馬鹿!とでも言うように気を使ったであろう3つステップの次の一歩で一気に京子はそいつに詰め寄り、しゅっと短く息を切りながら顔面ど真ん中に左のジャブを一発。


男は自分の顔面に拳がヒットする瞬間にはまぶたをぎゅっと閉じていた。


さっと拳を引いて京子が二発目の拳を同じ場所に突き刺そうとしたところで、やっと男の拳が上がりかかっていた。しかもこいつときたらヒットする瞬間また目を閉じた。


二発目も命中、何もかもが終わったところで男の両手がようやく顔の前に到着。


後方にぐらつきながらヨタつく男の左足の辺りに京子は右足を踏み込ませ、無価値なその両手の横を抜けるように右の拳を振り切った。


その拳が顎を小気味よく打ち抜き、男の首がひしゃげて黒目の部分が急用でも思い出したかのように二つとも上まぶた裏側に一目散に消えてった瞬間、男はその場に似合う崩れ方をしてくれた。


俺も思わず拳を握った。


京子はそれで満足したように席に戻ってイヤホンを耳にあて音楽を聴いていた。


その事件は京子の小学校の頃の数々の武勇伝と共に瞬く間に広がり、それ以降、誰も京子に近づくものはいなくなった。


とにかくそういった女だ。口よりも先に手が出る女。っつーか足も出るし頭突きも飛ばす。

だからもし、近所にキックボクシングジムがあったならこいつの戦闘能力マジでどうなっていたんだろうかと思うとゾッとする。


でも、とにかくこいつのその事件によってあからさまなイジメがこの学校で起こらなくなったことは事実だ。そのことに関して俺はこいつを高く評価せざるを得ない。

理由は簡単だ。俺は一年の頃、事あるごとにその時いじめられていたヤツとペアだったからだ。


あやうく仲良くコンビであのガタイのいい男にイジメられていたであろう事は明白だ。


こいつはでもまあ、昔から美人ではある。けど美人なだけだけどな。なにせ表情がエグい。可愛げがないなんてレベルじゃない。目なんかあれ犯罪者の目だ。


元が美人なだけにあんな威圧的な顔を向けられたら結構なダメージを負うことになる。


この学校の生徒ならあれがヤツの通常の表情だと理解しているからなんとか耐えることも出来るが、もし俺が知り合いじゃなく街でヤツに出くわしてあの顔を向けられでもしようものなら「何であんたみたいなのが生きてるわけ?」って思われていると思って俺は4日ほど引きずったあげく、ベースマインドに深く刻まれるレベル。だから無駄だ。世間的に無駄な美人だ。


今日もあいつは2現の終わりにダルそうに登校してきて教室の一番後ろの窓際を広く独占した空間をじぶんの所定位置として、ずり落ちるんじゃねえかってくらいダラーっと椅子に座ってる。いつもの光景だ。それか、ぐでんぐでんに机に突っ伏してるか、鞄を置いたままどこやらともなく授業を抜け出してサボっているってのがこいつのライフスタイル。


とにかく触らぬ神に祟りなしがこの界隈の常識。


ほら。だから俺も神ってわけ。だってほら俺の事もみんな、、いや、いいや。


で、、、、と。あと、あれだ。これはマジでどうでも良いんだけど緑川シン。


テストは常に学年トップであり、今や生徒会長にして剣道部部長。あまつさえ、、いや。俺が認めたわけでもないっつーか俺のタイプじゃねえけど、まあ一定の女子からは顔がいいと好まれているヤツだ。


俺の音声傍受システムによる、ここ最近のヤツの話の話題としてはこんな感じだ。


「この前さ、緑川君の課題作文、除き見ちゃったんだ。緑川君00大学の法学部目指してるらしいよ?政治家になるって書いてあった。」


「え~!!すご!!さすが緑川君。ほんと賢いもんねえ~。緑川君がそういうこと言うと単なる予定って感じするよね」


「ね!!なんか奨学金のことまで書いててチョー具体的すぎてさ。あ~この人にもう何から何まで決めて欲しい!って思っちゃうよね!」


「わかる~wもう、されるがまま身をゆだ、、、、」


いや、マジでいらねえ情報だったわ。ふん。せいぜいヤツが政治家になったアカツキにはミイラ取りがミイラになるという黄金の法則を体現して欲しいと俺は願うばかりだ。どうか私利私欲の限りを尽くして汚職しまくってくれ!そして俺がそれをしつこく記事にしてやる!



とにかくこいつはこの学校の1つのブランドであり、こいつと一緒に活動できるという事は青春の1つのステイタス的な風潮がこの学校にあるのだけは間違いない。が、はっきり言って。


ぜってーつまんねえから。駄目駄目。面白さのない人間なんて息が詰まるだけだって。そりゃあ成長はできるかもしれんが、あれだから。もうほんと。なんか、何から何までお洒落で洗練されてて、、、あれだから、、、馬鹿なこととか、、ほら、、できなくなっちゃうからね?

、、、、、、、、、、、、、、、、、。おならとか、できないぜ?


とにかく。俺はコイツの政治家みたいなステレオタイプの笑顔が気にいらねえ!!死ね!!



、、、、、、で。最後の一人が赤木リカ。ちなみにこいつは現在不登校生徒。


二年の途中からほぼ学校に登校しなくなり3年に進級してからは今だ、一回も登校していない。


こいつは小学校3年の夏を目前にクラスに転校してきたヤツだ。


こいつんちは金持ち。家なんてちょっとした要塞みたいな面構えで親父は都内数店舗のスーパーの社長さん。朝方の家の前には黒塗りの車が止まっていて運転手兼執事が待ち構えていてその執事がマジで絵に書いたような白髪のお洒落ひげの執事。


それに玄関から出てきて車に乗り込むリカの親父も、どっから見ても社長ってくらい社長社長しててその朝の光景はなかなか見ものだ。


母親は見たことがない。こいつは昔から同級生でも必ず敬語を使うやつだった。

別にだからって失礼なことは言わないってわけじゃなくってそういう癖のようなもんなんだろう。お嬢様育ちだからかよくわからんが、でも1つだけ確かなことは結構小学生の頃は俺の事をよく慕ってくれていた。というか俺の舎弟に近いと言ってもいいはずだ。


小柄で手足も細くって仕草や動作は丁寧だったのだが、いつのまにやら結構エグイ事とかゲスい事とかをそのモーションでかますようになった。

シルバ○アファミリーに出てくるウサギだとかリスが微笑みながら「Suck my ass!」とか言い出すみたいな感じだ。

え?俺のせい?いやちげえ。こいつなりに色々ルサンチマンが溜まってたんだろ。

それか、持って生まれた先天性のなんかが開花しただけだ。


こいつは中学に入学してから授業中にいきなり奇声のような笑い声を上げたり周囲をドン引きさせたりで『やべぇヤツ』というレッテルを貼られている。

俺は1,2年の頃は同じクラスになったことがないからよく知らんが。とにかくこいつは3年になってから今のところ完全に不登校を決め込んでいる。


まあ実家は金持ちだし、それに、もともと頭はよかったほうだしそれなりにやってくんだろうと思ってる。


長くなったな。お疲れ。ちなみにもう分かっているとは思うが、紹介したこれらの男女は友達ではない。友達だった、というだけだ。いや。というか俺達の中で友達というワードは使われたことはないから事実はわからない。

なんか特別な関係なんじゃねーかとうっかり思ってしまった時期もあったというか、まあ妄想とか幻覚とかそういう類だ。事実、それを証明するように中学に入ってからは一度も話してない。


つまり友達ではない。


というわけで俺、そしてあかね。そして京子にシンにリカという小学生だったかつての俺が唯一つるんだことのあるメンバーが此処にきて全員同じB組に集結させられたというのは何かの陰謀や不吉な吉兆である気がしてならなかったが、3年になってからもう半年も経つ。なんの関わりあいもなくここまでやってこれた。そのことに俺としても安心していたところだ。


が、此処にきてのあかねからの接触。俺の平穏が揺るぎ始めているのではないか?見過ごすことのできない事案だ。対応を誤ることは1つとして許されない。心してかからねばなるまい。



×○×××



「いやあ。久しぶりだなあ。お母さん元気?」


あかねが俺の部屋の俺の椅子でくるくると回っている。入ってくるなり颯爽とそこを陣取るところが抜け目ない。というか遠慮ない。ぼっちにとってコミュ力はそのまま攻撃力であり、暴力だ。


「ああ。下で働いてる。」


俺はテーブルの前に座り込み、なんとはなしにテレビをつけた。てか、音が欲しい。ほんと。音量も上げちゃう。


「へえ。ここのコンビニ帰り道だからけっこう助かるんだよねえ。たまに帰りに肉まんとか買うんだぁ。あっ。でも、そういえばお母さんに会ったことないなあ。」


見ているこちら側の気分が悪くなるほど回転をデッドヒートさせながら、あっけらかんとあかねは喋る。



「まあ、平日の早朝メインで夕方からは大抵は家にいるし、会う機会ないんじゃね?今日はたまたま一人夕方からの欠勤でたって言ってたし。」


「そっかあ。ここがまだ本屋だった時がもう懐かしいね。そういえばお父さんにも会ってる?」


こいつは俺んちに幼い頃からよく来てたから俺の家庭事情をよく知っている。


「ああ。たまにな。いつもヘラヘラしてるよ。」


本当にその通り親父は、いつも会うたびにヘラヘラしてる。

親父は某週刊誌の記者だ。もちろん俺の将来にその影響が全くないわけじゃないが、親父はあれだ。ほぼ風俗ルポ専。

マジでこれだけは絶対誰にも知られたくない。とにかく親父こそがミイラ取りがミイラになる、を地で行く男だ。よって様々な浮気を繰り出したのは言うまでもない。


「そっかあ。元気そうだね。」


俺の母親は一階のコンビニ経営者だ。元は本屋だったのを改装してコンビニにしたのは俺が小学6年の夏頃。母親が親父と離婚して親父が追い出されたのはもっと前。えーと、俺が小3の頃だったかな。つーかこいつ。世間話、しに来たわけじゃないよな?


「で、なんなの?」


「え?いやあ、、、はは。」


そこであかねは回転を緩めながら照れたように頭を搔きつつ話を始める。


「なんかさあ。昔ほら。うちらってよく一緒にいたじゃん?それで、またこうしてみんなが同じクラスになるって、なんか凄いなあって思ってたんだよねぇ。でさあ。なんか、、、それもあって、あれやこれやも、、、あってさあ。昔のことなんかもよく思い出すんだよねえ。」


なんのことやらよくわからんが俺は警戒を強めることにした。


「ええっと、、、ほら!イッチーってどんなに強そうな人に絡まれてもずーっと勝ち気な顔を崩さないで生意気な口であーだこーだ言うキャラだったじゃん?」


でたよ。やっぱでたよ。昔とか懐かしむパターンのヤツだわ。つーかイッチーって呼ぶんじゃねえ。



「それでさ。結局やられちゃってもさ。『絶対ゆるさねえ』って言いながらずっと自分が正義だって疑わないまっすぐな目で睨んでさ。結局ボコボコにされてさ、洋服とか引っ張られてところどころ伸びきって砂だらけでぼろぼろで、鼻から血とか出たりとかしてもさ、私がそれ見て泣いちゃってもさ『泣いてんじゃねえ!』とか言っちゃって鼻からぼろぼろ垂れてる血を袖で拭き取ってさ『あいつらはいずれ俺をここで殺さなかった事を小便をちびって後悔することになる』なんて言って不敵に笑っちゃってさ。ねえ?『この宇宙に俺に関係ないことなんて1つもない』ってイッチーあの頃よく言ってたの、覚えてる?」


はて、俺はそんな事を言ったのだろうか?覚えてねえ。ただ、よく覚えている事もある。

結論から言おう。

1つ。話を聞きつけて京子とシンがすぐに来てくれると思っていた。

2つ。お前がいたからだ。一人ならとっくに俺は逃げているし、逃げ切れないと悟ったなら全身全霊の土下座を繰り出していたはずだ。


「若かっただけだ。」

そう。若かった。何とかしてもらえると思っていた。

それにあれだ。関係ないことなんてないってのは本当だ。ただあれだ。関係ないまま関係しているというか、見出せないままなにもかも関係してるっつーか、うまく関係できないもんも、あるよねえ~というか、関係したくないという関係があるというか、、、まああれだ。


覚えてる。あれは『プラネテス』の台詞のパクリだ。カッコイイから使っただけだ。うん。いや言葉自体はマジでホント。


「え~そうかな。そう、、、なのかな。ほら今の私って自己主張のないイエスマンって言うかさ、最近さあ。人付き合いしんどいなあって思う時もあるんだよねえ。大勢で遊んでるとさあ。たまにね、あんた今、目が死んでるよって言われるんだ。えー?そんなことないよーって、私も笑うんだけどさ。その人のこと、ちょっと気に入らないなって心の中では思ってたりもする時あるわけ。その時さ。確かにその人が私の中で死にかけてるなって思って、ちょっと笑えなくなる時もあるんだな。それで、私の中のソコのところがすっごく冷たくなるのね。」


なんだ?今。何が行われている?ここは俺の部屋で俺の空間のはずなのに何か別の空間が展開されつつあるぞ?あれ?これあれか?あれ的なヤツか?


「それが私の中で感じられるってことはさ。あれ?これって私が死んでるってこと?って思っちゃうわけ。よくわかんないけどさ。そんな感じなんだよね。私の一部、死んでる。ってさ。それでね。ああ。死んでるような気もするなぁ。って納得しちゃったんだよね。ソコのところがさ、冷たくなってて、動かないもん。そしたらね?過去に憧れてたものとかもさ。今じゃまったくなにも思わなくなっててさ。あれ?それって過去のワタシ死んでんのかなあって。、、、、そう思って、、、、そしたらさ、もう振り返るの、怖くなっちゃってたんだ。」


あかねは椅子を窓のほうに向けて、まるで青空に静かに独白するみたいだった。

俺は思ったよ。そういうの、自分の家でやってほしいよね。ってさ。ねえ?駄目?俺、駄目?


「本当に死ぬ時にさ。その時にさ。振り返ってみたら、もうすでに全部死んじゃってるんじゃないのかなーって。思うとさ。怖い。うん。怖いなあ。なんか怖すぎる。たまんない。

別に、今だってそこそこ楽しいんだよ?でもさ。心のそこから湧き上がるっていうようなそういう幸せじゃなくってさ。

お別れした後で、ハッピーー!!って叫んで駆け出すような、そういうのじゃなくってさ。続きの続きを、続けてるとか、、、、、。なんていうか。それとはちがくって。

毎日毎日、ちょっと無理矢理にでも搾り出したような幸せがあって、お別れした後に「ふうっ」て、少しため息が出るような。肩の力が抜けて、ちょっと疲れてくたびれたみたいな。うん。そういう風に、なんか、終わらせていくだけの一日っていうかさ。」


それから、ちらりとあかねは俺の顔を覗き込み、へへっと笑った。俺は、あ、あぁ。と、ヒキ笑いのような、承諾のような何かを産み出した。


「たまに風邪で一日休んだだけで次の日が憂鬱になるんだ。もうついていけないんじゃないかって思える時とかって、あってさ。友達も勉強も。

帰り道で先に別れた瞬間、みんなに悪口を言われていてもおかしくないように思えたり、好きな人が同じってだけで一瞬で消えてしまう関係のように思えたり、恋人を作ったらいらないような。高校に入学したら、いらないような。大人になったら忘れるような。

思い出してもぼんやりと顔しか浮かばないような。えへへ。なんかさあ。

私はもう限界なんだと思ったの。たまに。ごくたまにさ。どこかのヒューズが飛んで発狂しそうになるんだ。私って今、そういう風にみんなに簡単に忘れてもらうために関係しているみたいなんだなあって。今はさ。ひとまずみんなの中に間借りしてるけど、すぐにいなくなるからその時までの関係をさ。そのためにも、すぐ忘れてもらえるくらいの、そこそこ、、、、。こういうのが結局、気を使ってるっていうんだろうな。

気を使いあってさ。そういう優しさに溢れていて、だからみんなも優しくて優しくて。よくわかんなかった。えへへ。みんなが誰なのか、私が誰なのか、私達がどこにいるのか、、、もうほんと、よくわかんない。よくわからないほど私。この教室によく馴染んでて、それで、、、、。埋もれてる。」


俺は驚愕した。

なんでこいついきなり俺んち来てこんなシリアスワールドを展開できんの?え?俺、今。攻撃されてんの?精神汚染されてるよね?ちょっと大丈夫?これ、ちゃんとオチあるの?

ねえ?ねえ?大丈夫?答えを俺が用意してるとか思ってんの?ないよね?ちゃんと自分でケリつけるよね?大丈夫だよね?人んちの部屋散らかしたらちゃんと片付けられる子だよね?し、信じるよ?いいの?期待して黙って聞いてるよ?た、頼むぜ?



「それでもさ。それが、それこそが普通の中学生なんじゃないのかな。でもさ。あの頃のメンバーって、なんかみんな言いたいこと言ってるっていうかさ、言いたいこと言いながらも互いに補ったり助け合ったり行動に起こしたりっていうかさ、、なんだろな。なんか今になって、っていうか今だから、っていうか、とにかく。私、あの時のみんなとか私とか好きだったんだなっていうかさ、、、、、、。あの時。私は世界の真ん中にいた。そして私は私と関係していた。そう思うんだ。」


はい。きましたよ。これ。この展開、俺、知ってるよ?


現状に不満を持った人間が抱きがちな、あの頃の俺たち的なあれだろ?今があれだから過去に輝きを見出して逃避しちゃうやつだろ?


つまり、バックトゥーザ母ちゃんの腹の中病だ。


なんだよ!やめろよ!俺をそんなメロドラマ方向にいざなおうとするんじゃねえよ!なんだよお前!どこのメンマだよ!一人でラーメンに浸かってろよ!


あの花の名前なんて俺、別にいいよ知らなくて!いや、まあラストシーン咽び泣いたけど!



「私、最近ずっとそう思ってたんだ。だからあの頃のみんなでまたあの時の続きを、、いや続きじゃなくっても、みんなで集まってさ。仲良くできないかなあ。なんてさ。思ってたわけ。でもなんか、みんな近寄りがたいっていうかさ、、話しかけづらくってちょっと、、、それにもう。、、、、、、、、私。どうしたらいいか、、、わかんなくってさ、、、、。」


あかねはそう言いながら椅子から落っこちそうなほど深くうな垂れた。


まあ、それは激しく同意だ。

まず京子なんて、あれは野生の類の生き物だ。普通なら声をかけるどころか近づくなんて事を考えてはいけない。


常識的に考えて熊よりもでかい獣の腹の上に落っこちて「ぶおーぶをーぶをおおおー」と吼えられて「そう!あなたト○ロって言うのね!」なんて言って笑う、なんてことにはならない。


ひい!喰われる!!と思うのが常識的見解だ。

俺ぐらいキレキレの洞察力なら歯を見て草食獣ではなかろうかという推測ぐらいにはその一瞬で至るものの、あれだけの巨大な獣だ。猪の類でさえ危険なのだからすぐに距離をとるのが常考だろう。


とにかく、あの頃はそういった区別がつかなかった幼い故におきたミラクルな関係だったというだけだ。


それにシンにしたってまず無理だ。気安く話しかけられるようなオーラをあいつは放出していない。それどころか用がないなら話しかけるなよ?俺は無駄なことがなによりも嫌いだという殺気にも似たピリピリしたものをヤツは笑顔の裏で放出していて、それすら与えられてるものからしたら「ほんとそうっすよね!我々はゴミです!すいません!」と思わせるほどのスタイルを確立している。


リカにいたっては学校にすら来ていないから話にすらならない。


あ!つーかこの女。だから一番手っ取り早く気安く話しかけられる俺を選んだってことか!?ふざけやがって!!


「私、、、みんなの事つけてるんだ。」


「え?」今こいつ、なんて言った?


「ほら。声かけるのって勇気がいるけど、後をつけてるだけなら平気っていうかさ。」


そう言いながら顔を上げてあかねは、へへっと笑った。落ち込んでたけどもう大丈夫だよ!心配した?みたいに照れた笑いだ。

ああ。それならよかっ、、、、って、ん?待て。ちょっとこいつ今さらっとやばいこと言ってるよな?


「つけるってつまり、、、学校帰りとか?」


「それもあるけど。基本は休みの日とか、かな。」


口をすぼめて人差し指を当てながら思い巡らせている。うーんと、たしか昨日の夜は疲れて10時くらいには寝ちゃったかなあ?くらいの気安さだ。や、やべえ、、、こいつ。ストーカーか!?



「イッチーはさ。休みの日はほとんど一日中家から出ないし、家から出てきても近所の本屋さんで本買って帰るくらいだから正直、結構張り込みするのもしんどいんだよね。」


「わりい。」


へ?いや、なんで俺今謝った!?


「い、いつからだ?」


「逆にいつから監視されていないと錯覚していたの?」


背筋がゾクッとして俺は開いた口がふさがらないまま声も出せずヒクついた。


「なあんて。最近だよ。ほんと最近。3年生になってから。」


あかねは「そんな真剣にとらないでよぉ。」みたいな冗談顔、、いやいやいや3年になってからもう半年ほどたつのだが、、、、。


「それでね、、、。私さ、、、、知っちゃったん、、、だ。」


ここにきてあかねは、がくっと肩を落として俯く。こいつの行動の一つひとつがもはや怖い。


「な、なにが?」


ストーカーの快感について聞かされるのか?


てか、もう対応できない。


やべえ。こいつやべえヤツになってるよ!!知らない!こんな子うちの子じゃありません!!誰か助けて!!


「キョウちゃんさあ。デッドマンなんだよ。」


「はへ?」


俺は俺史二度目となる『思わず変な声が出ちまった!』を、まさかの同日に繰り出した。


「今日のところは一度お引取りしていただいて後日また改めましてお話お聞かせ願えますか?」と、なんとか言えた俺を今日は褒めてやりたいと思ってる。




『皿の素材は違えど皿は皿だ。だからほら。下着だ。』




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