だがしかし金田はまだ動かない!
最後まで読んでいただくと良いことがあります。いや、ほんとっす。
【第二話】『だがしかし金田はまだ動かない!』
3年B組 金田 一
『そこそこの高校へ入学し、そこそこの大学で四年間ジャーナリズムをそこそこ学び、わりと大手の週刊誌に入社。
宣伝広告料をもらえないと困るので積極的に社畜と化し、政府、大手企業、警察などの時の権力者達の思惑の絡み合った結果の提示されたものを代弁しながらレッツ情報操作。
常に張り切りすぎず肩の力を抜き、危険を冒さず心のうちにそっと自主規制。
特ダネよりも特オチを回避。
首都圏に話題を絞ったグルメ情報や激安ディスカウント情報。
また、下世話な人間トラブルとこれまた下世話な芸能ゴシップを中心に精力的に記事を製作していきたいと思います。
とくに不倫騒動は腐るほどしつこく記事にします。
熱愛報道はあまりしたくはありませんが仕事ならば頑張ります。
破局したときはもちろんしつこく記事にします。
上にも下にも愛想を蒔いて小器用にどんどん出世しつつ、俺にもかつては社会正義の実現という夢があったという殺し文句で30過ぎになってから大方美人で家庭的な嫁をゲットし(年下)子供は一人。
定年までうまくやりつつも、そこそこ安パイな揺すりネタをいくつか掴んで手元に置いておき、退社後にそれを元にいくつかの企業やお偉いさんを揺すり、その金で老後は単身ドバイ生活。
ちょっと理想が高くて恥ずかしいけれど。それが今のところのオレの夢です。』
今日までに提出の課題作文を俺は朝のホームルーム前の時点で書き終えた。
課題のテーマは『将来設計』だ。我ながらうまく書けた。
社会正義実現ってのはまあ、ジョークだ。それ以外は本当のほんと。は?嘘ついちゃ駄目だって?いや、政治家だってほら。国益のために働いてなかったりすんじゃん?
それに大人って漢字は大きいって書くけれど大人しくしてなさいっていうちゃんとした本来のメッセージがあるんだぜ?
俺は大人しくそこそこの私利私欲にまみれてぼちぼち私腹を肥やし、まずまずの日常を生きる。
非常に現実的将来願望と言えるだろう。
よし。やはりこれで完璧なはずだ。
課題作文をさっと机にしまい俺はそっと机にうつ伏せになる。
何をしているかっていうとこれもオレの夢の実現のために欠かせない日課。
記者を志す俺にとって早朝の情報収集は何よりも重要だ。新鮮な情報を聴き取るため俺は目を閉じ口を閉じ、耳に全神経を集中させているのだ。
つまり、俺が磨き上げた特殊能力の1つ『えしゅろん』を発動させているってわけだ。
発動条件はかなりシビア。誰にも邪魔させられてはならないってことがなによりも一番重要。そしてそれがなかなか難しい。
普通なら登校したての早朝の教室だ。誰もが話し相手を見つけては声をかけて話し込む。
それによって妨害されて情報収集が困難に陥ることとなるわけだが、しかし俺はあえて誰にも声をかけられないように設定を済ませてあるからそこんとこ問題なし。安心していい。
なによりこの安心できるという環境がこの能力の発動条件にとって必要なことなのだ。
説明しよう。『えしゅろん』英表記『Echelon』とは音声傍受システムである。教室内の全ての音声情報を入手できる史上最強の盗聴能力といっても過言ではないだろう。
全てを同時に傍受することも可能。聖徳太子よりキレキレだ。
それどころか研ぎ澄まされた俺の二つの耳は傍受することが非常に困難なひそひそ声が放つ微弱な音の揺れでさえ、、、、
「ねえ。あいつまた朝から寝たふりしてるしw」
「ぼっちあるあるwウケるw」
不要な情報は即刻破棄だ。
、、、。あいつら、これで計3回目な。ネタに困ったらとりあえず俺をディスるというのがヤツら界隈で定番化しつつあるようだがまあいい。絶対許さない。
ぼっちについてこのさい言わせてもらおう。他人に気を使わないぶん自らの能力向上に極振りできるのがぼっちのいいところの1つだ。
つまり個人能力値を特化させたいものは進んでぼっちになるべきだ。てか、仲間になろうという気持ちも捨ててしまえばもはや何を言われようが何をされようが精神攻撃も無効。
つまり毒耐性も常時無効化。ゆえに絶対防御。それに俺は自らこの環境を作り出しているわけだからちっとも構わないのだ。いつも暗くて話しかけづらい。それが俺。しかしそれは俺が意図的に行っているデフォルメなのである。
つまり俺は単なるぼっちではなく積極的ぼっちであり上昇志向のぼっちであり、つまり『でいだらぼっち』だ。階級は低いが神だ!
意味わからん。とにかくあいつらまじで許さねえ!声紋認識で誰だかわかってるからな!!お前らが仲違いしたら積極的に笑ってやる!!
とにかく検閲機能もハイスペックな俺。あんなもんは遮断。そして冷静になれ。俺。
傍受する会話の内容によって重要度が俺脳内でほぼ自動的にランク付けされ、さらにいくつかのキーワードにより索引が高速で行われる。俺次第だ。与えられた情報をだらだら聞くのが俺じゃない。つまりオレの場合は情報を掴みにいくタイプってわけ。
「おい聞いた?一昨日の夜も出たってよ。デッドマン。」
「うっそ。まじ?どこ?」
「新宿。一昨日はその辺り一帯で6人やられたって。つーかさあ。オレの塾の女がさあ。見かけたらしいんよ。マジで凄かったらしいよ?スタンガンの電流がバチバチ光ってて血飛沫も舞ってたってさ、それに、、、」
「それに?」
「狂ったように笑ってたんだって。デッドマン。その光景がマジでエグかったってよ。」
「やば。なんかほとんど毎週首都圏内のどこかしらに出現してんなあ。」
「な?俺ら子供でよかったよなあ。」
「いやあ。でも大人になって風俗いけなくなったらどうするよ?」
「それは君。非常に難しい問題だね。」
デッドマン。半年前から突如現れて首都圏のあらゆる風俗街に出没し、店を出入りする客や男の従業員を次々に血祭りにあげていくというネットでも密かに話題になっている謎の人物。
全身黒尽くめで黒マスク。改造スタンガンと催涙スプレーを所持し、常人以上の運動能力を持ち、プロテクター付きの拳と鉄板入りのブーツから放たれる打撃は骨をも砕くと言われている。
襲うのは決まって土曜の夜から日曜の明け方までの時間帯で、そして決まって風俗に関わる男だけが狙われている。
「土曜の夜に風俗に行くヤツはデッドマンに襲われる。」それが首都圏の常識となりつつある。
とにかく俺が関わることはない案件ではあるが俺の親父が多少気にかかる。あいつんちの親父デッドマンに襲われた、などと噂になろうものなら俺は多分いっそ俺を殺してくれと願うだろう。まあもう俺んちの親は離婚して親父別居してるし襲われても多分ばれないだろうとは思うけど俺の耳に入っただけでもやるせなくてむせび泣きそうだ。
「カミカゼ。今年中に仕掛けるって噂。」
「ソースは?」
「○○サイト。今ね。4隊に分けててね。それぞれ北海道と東北を『敷島』、関東と北陸を『大和』、中部と近畿を『朝日』、中国と四国と九州と沖縄を『山桜』って命名されたって。全国で計13人の代表が決まったとか。」
「13人?てかさあ。その『カミカゼ』とかいう謎の団体って学生だけって本当なの?」
「あくまで噂でしかないから今のところはなんとも。けど、先発で決行する人間が13人ってことだけはすでに決定されてるらしいよ。組織の正確な数も今のところ不明。けど数百人から数万人ほどの全国の学生によって組織されてるってのが噂。中には小学生もいるんだとか、、、」
「こわっ!うちの学校にもいるんじゃない?てか、、、その人たちってなにやらかすつもりなんだろうね?」
「どうだろう。『カミカゼ』とか『特攻』とかって言ってるくらいだから過激なこと仕出かしそうだよね。組織のリーダーは『zero』って名前だってことくらいしかまだわかってないしね。どうなるんだろうね。」
「ゼロ?」
「そう。zero。しかも、、、、それがまだ中学生だとか、、、。」
神風特別攻撃隊の名前を使っている時点で物騒きわまりないトンデモな噂だ。けどこれも、ここ最近になってけっこう頻繁にネットで持ち出される噂。
【我々、まだ繋がらざるものたる学生の精神がいかに強烈であっても、システムは強固であり強力である。もはや通常の手段で変革を行うことは不可能である。
我々が『特攻』を採用するのは我々、まだ繋がらざるものたる学生諸君の士気が高い今である。
我々の代で弱者を摂取する事を基本とした支配構造たるこの現存のシステムを終わらせるべきであり、そして状況は今なお悪化していく一方である。
現状を一刻も早く打破すべく我々『カミカゼ』なる組織は今、この場所、この時を、歴史上の最期の戦場とする決意である。
我々が『特攻』を行えば世論は一刻も早くシステムを止めろと煽るだろう。
この犠牲の歴史が日本を、また世界を再興することになるだろう。
もはや『特攻』以外にシステムへの有効な攻撃はない。】
このようなトンデモな怪文が数々の匿名展示版に出回ったのは去年の冬。俺が丁度、極度の妹ほしい病を患っていた頃のはずだ。無我夢中で書いた俺の妹とのトンデモ妄想少説は早くも黒歴史として抹消した。証拠はもう俺の脳内にしかない。けどマジで可愛いんだ俺の妹w
まあ特に際立って必要そうな情報もないので俺はそこで全体傍受をやめにして声紋を特定。重要度ナンバーワン。ミヨちゃんだ。
「いやあ。昨日の夜もこれがまたうっかりゲームに熱中しちゃって、すっかり深夜になっていたよ。まいったまいった。あはははwww」
はあ。ミヨちゃんの声って癒されんなあ。と、デレる俺。ちなみにミヨちゃんがハマっているゲームは『リーグオブレジェンド』いつか友達申請してパーティーを一緒に組むのが俺のささやかな夢。
IDさえゲットできればいつだってそれが可能なのだが、その最重要ワードがいくら待てども訪れない。しかし俺はリーグオブレジェンドの筆箱でアピールすることだって抜かりはないし、まだあわてる時間じゃないさ。俺はいつだってクールだ。
ホームルームの予鈴がなった。よし。
俺はそのタイミングに合わせてゆっくり。そう。丁度、先生が入ってくるタイミングに合わせるようにまるで今起きたかのように目をこすりながらノソノソと起き上がり、控えめな伸びをする。
「グッモーニン!少年少女よ!」
女教師。我が3年B組担任。紫原先生がドアを開けて入ってくる。
今日も我ながら完璧で自然なタイミングだ。
「課題作文はみんな書き終わったか?今日中に必ず提出すること!いいな!」
なんの問題もない、極めて日常的な出だしだった。
『水着は濡れても透けない下着だ!』
ブックマークしただけたら幸いです。きっといずれ良いことがあります。ほんとっす。
毎日午後11時ごろに更新予定。三月上旬には完結。革命が起こります。