表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ええんやで ~そしてあなたへ、小さな祈り~

作者: みたよーき

 いきなりですが、自分は自分で書いた作品の中に、殊更に特別なメッセージや主義主張、イデオロギーなどを籠める事はしていないつもりです。

 だけど、ふと、「ええんやで」といった、気持ちというか、気分というか、そんな軽いものは意図せず反映されているのかも知れないな、なんてことを思ったのです(自分は関西の人間ではないので似非関西弁ですが、自分の中のニュアンスで「良いんですよ」と表現するよりもずっと気楽な感じというか、肩肘張らない感じというか、少なくとも自分の正直な“気分”としてはこう表現する方が相応しいと思えるので、敢えてこう表現しております)。

 例えば、百合的な作品では、女の子が女の子を好きになっても、ええんやで。

 例えば、『ナツの扉』では、他人から見たらさほど劇的では無い些細な切っ掛けでも、人は救われて、ええんやで。

 或いは、『魂魄流転』では、謀反に悪人がいなくたって、ええんやないの、と言った具合に。

 自分が「書きたい」と意識しているのは、大雑把に言えば“綺麗なもの”で、女の子同士の恋愛は勿論、邪気の無い感じ、例えば素直さだったり、そういったもののような気はします。まあ、邪気がないという意味では猫なんていうのもその範疇だったりするので、本当に大雑把な括りですが。

 ともあれ、そうやって意識して書こうとしたものの中に(自分の実力でそれらが実際に描けているかどうかはともかく)、ええんやで、という気分的なものを、あまり意識はしなくても、描こうとはしていたのではないかな、などと思ったわけです。

 ただやっぱり、自分としてはそういった、作品に“勝手に籠もったもの”も、読み手に伝わって欲しい、とは思わなかったりします。

 と、書くと語弊があるというか無駄な誤解を招くというか、それこそ“伝わらない”と思うので、ちょっと段落を変えて考えをまとめてみようかと思います。


 さて。人間は一人一人が自由意志を持っていて、それぞれに感じ方や考え方が違う。ということを、自分は、当たり前のこと、なんて思います。

 自由意志、なんて言うと大仰な印象ですが、哲学的な考察をしたいわけではなく、もっと単純に『みんなちがって、みんないい』という感じとして。

 まあ、その言葉も人によって感じ方や解釈が違うと思うのですが、自分としては、その解釈どれもが別に間違っているということは無いよ、というか、多様性大いに結構、というか、そんな受け取り方をしております。教科書的には不正解かも知れませんが。

 例えば、自分が正しいと思う意見を貫こうとする時、理知的に諭すのであればまだしも、感情的に押しつけようとするのは傲慢というか見苦しいというか、その先に生まれるのは理解よりも軋轢だと思えますし、そんな醜態をさらすのであれば、相手の意見も一つの意見として、受け入れないまでも認めた方がマシなのではないかな、なんて思ったり。

 別に、皆がそう考えれば世の中が良くなる、なんて主張をしたいわけでは無く、ただ自分の精神衛生上、その方が良いかなぁ、程度のことですが。

 勿論、認めると言っても、人間としての倫理とか道徳とか良識とか、そういったものから逸脱しない限り、ではあります。

 まあ、色々な社会の中では皆が皆それぞれに勝手をできるわけではないので、ある程度の意見や意思の集約も必要なのでしょうが、絶対的な何か、例えば“絶対的な正義”なんかを求めても、労多くして功少なしというか、よくある例えで言えば、有りもしない聖杯を探すようなもの、ではないかと思うのです。

 最大公約数を求めるにしても、他の約数も最大値じゃないから無意味という訳じゃないよね、というか(この辺り、もっと冴えた例えをビシッと提示できれば良いと思うんですけど、イマジネーションとかボキャブラリとか、色々足りない……)。

 とにかく、人それぞれの受け取り方があるのであれば、言葉を尽くしたところで誤解は生まれるし、自分の中のモノをできるだけ正確に描写する努力はすれど、それを全て意図したとおりに受け取ってもらおうというのを“目的”にはできないというか、したくないというか。

 だから、自分の小説に籠もったものがあったとして、そんな風に感じてくれたら良いな、くらいには思っても、それがそのまま届くとは最初から思っていないので、正確に伝われ、とは全く思わないということですね。

 楽しませてやろう、とか、驚かせてやろう、とか、或いは、何らかのメッセージを伝えたい、とか、そういった明確な目的をもって小説を書いている人からしたら、ただの“逃げ”に見えたりするのかも知れませんが、少なくとも自分は、そういう、敢えて悪く言えば“相手をコントロールしようとする意志や意図”は、小説を書くモチベーションにはできないようです。


 じゃあ、何で小説書いてるの? という感じですが、思えば最初の『生命のおとは、愛のうた』は、「小っ恥ずかしくなるような百合モノ見てえなぁ」という、自分のための動機でした(酔った勢いで書いた『あとがき』にもそんなことを書いたような気はしますが)。

 書き上げた後、公開するまでに葛藤が全くなかったわけではありませんが、例えレスポンスが作品や自分に対する罵詈雑言だったとしても、そこに自分の中にないボキャブラリが含まれているならむしろ儲けもの、くらいの、ある意味開き直りでもって、ちょっとしたリハーサルの後、えいやっと、公開することを決めたのでした。……まあ、結果的には、レビューや感想のような直接的なレスポンスは無かったので、批判なんて心配するだけ無駄だったんですけどね。

 ただ、その次に書いた短編の『百合の雫は赤い世界に落ちて』も、ただかわいいキャラがイチャイチャするだけの“百合”(それはそれで好きだけど)だけでは満足できなかった自分が自分のために書いたようなものだったのですが、この作品には思いがけず感想を頂けて、胸にじんわりと広がり染み渡るような嬉しさ、それと同時に、良い評価を感想として伝えてもらえて、どこかホッとしたような安心感があって、自分のしたことがただの自己満足だけで終わらなかったことが、そういった感情を呼び起こしたのかなぁ、なんて思ったりしました。そして、その経験は、それ以降も自分が執筆を続けている動機の内の一つになっているのだとも思います。

 でも、褒められたい、とか、評価されたい、というのが結果として付いてくるものではなく目的になってしまえば、やっぱり自分は小説を書くことはできなくなるような気がします。

 まあ、楽しんでもらえたら良いな、とか、何か前向きな気持ちになってもらえたら良いな、くらいのささやかな願いは持ちますが、逆に言えば、その程度の気持ちだけでもあれば、小説を書くことはできるということです。

 だから、もし「小説を書いてみたい」と思いながらも行動に移せずにいる人には、「難しく考えずにやってみても、ええんやで」と伝えたいです。

 文章を書くことは、それほど難しいことではありませんよ。物語という形にするのはそれより少し難しいですし、ちゃんと完結させるとなると更にもう少し難しいかも知れませんが。

(あ、急に関係ない話ですけど、これを書いている2019年10月現在、アニメ『銀河英雄伝説』の劇場上映がやってるみたいですね。いや、全然関係ないんですけど)

 とにかく、いきなり超大作とか一大巨編とかを書ききろう、なんて考えなければ、意外と「案ずるより産むが易し」ということを実感するんじゃないでしょうか。

 もし、そういうスケールの大きいものを書きたいと思いながら動けずにいる人でも、一エピソードを短編として書いてみるだけでも、得るものは有るんじゃないかと思ったりします。

 こうしてここに書いたことも、自分がやってみたからこそ感じたことですし、やってみさえすれば、きっとそれぞれに、その人なりの“気付き”が生まれるのではないか、そう思います。


 だらだらと自分の思いを書き綴ってきましたが、自分語りみたいなモノを長々と読まされても苦痛になるでしょうし、そろそろ結びましょう。

 まず、ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。

 この感謝の気持ちは、このエッセイに限らず、私の作品を読むのに貴重な時間を割いてくれた方に対していつも思うことで、この気持ちだけでも誤解無く伝わってくれると良いな、と思っています。

 このエッセイ自体に関しては、興味や無関心、肯定や否定、それぞれにそれぞれの感じ方はあると思うし、自分がそのどれもを「それでええんやで」と肯定したいことは先に書いたとおりです。

 もし、ここに記した言葉たちからは何も得るものが無いと感じた方も、そう感じた自分自身と向き合うことで、自分の内から僅かでも何かを得る切っ掛けになれば良いな、なんて思います。


 ちょっと気取った表現をするなら――。


 この文章を読んだ十人のうち九人、百人のうち九十九人が、このエッセイに路肩の小石程度の価値すら見出さなかったとしても。

 ただあなた一人にとって、ほんの僅かでも価値のあるものになって欲しいな。

 このエッセイは、そんな思いを乗せた、小さな祈り、なのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ