3 先輩と後輩のフォローも社畜の勤め
社畜の日常
「じゃあ、つっくん。晩御飯作ってるか待ってますねー!」
そう言いながら見送ってくれた紗耶。いつもの笑顔にほっとしながら家を出る前に俺は思い出したように紗耶に家の鍵を渡していた。
「忘れないうちにこれを」
「あ・・・いいんですか?」
「うん。ないと不便だからね」
そう言うと紗耶は嬉しそうに微笑んで言った。
「大切にしますね!」
「うん。そうして」
そんな会話をしてから会社へと向かう。俺が住んでいる地域は田舎でも比較的都会に近いので一部の場所には店が集中している。が、その反面それ以外は車がないと不便なので俺は一応車を持っているが、会社へは歩きで通っている。
たまの休みに友人に会いに地元に戻ったりする時や、小説探しに遠くの本屋に行くときくらいしか使わないが、それでもあると便利なので車は持っている。
職場に着くと店の裏手にある従業員用の建物に入り、偉そうにふんぞり返る店長に挨拶をしてから準備をする。基本的にはスーツをきっちりと着ているので、あとは従業員用のインカムを付けてから、ブランド品用の鍵を首に下げる。
俺はこれでもブランド品や靴、時計、香水などを専門としている仕事をしている。まあ、とはいえそこまでブランド品とかに詳しくないが。人手が足りないので時には他の部門のヘルプやレジにも入るが主な仕事は笑顔で接客をしながら空いた時間に残ってる仕事を片付けることだ。
「あ、先輩。おはようございます」
ブランド品コーナーのレジに着くと後輩の水瀬がそう挨拶をしてくる。パートのおばさんにも挨拶をしてから俺は本日のシフトを確認してげんなりする。
「主任の奴。自分はきっちりと休みやがって・・・」
「あはは。みたいですね」
「水瀬もそろそろあがりの時間だろ?あとは任せて休める時に休めよ」
「ありがとうございます。でも今行くと店長に長々捕まりそうなので」
やることがないのか、従業員を捕まえては長々と小言を言う店長。人手不足の原因の一つにはそういう人間関係の劣悪差が作用していることは否定できないだろう。
そんな風に思いながら残業する後輩に早く帰れるように手伝いながら接客をしていると、パートの人が慌てたように言った。
「な、中島さん。お客様からクレームです」
「内容は?」
「修理に出した時計はいつになったら戻ってくるのかと。随分待ってるのにまだ来ないのはどういうことだとお怒りです」
その言葉に急いで修理の受け付けのファイルを調べてげんなりする。修理対応は上司で、時計は未だにメーカーに修理に送ってないようだった。こういう店舗で時計の修理を行うことには限度がある。基本的に店でやれるのは時計のバンドの調整と、安い時計の電池交換まで。まあ、その電池交換も店の機材ではあまり十分とは言えないので他の店舗に丸投げすることもあるが。
とりあえず上司の失敗のフォローのために俺はお客様に頭を下げて即日修理に行けるように手配をする。お客様の罵詈雑言を受けてメンタルを削りながらひとまず落ち着くと、今度は後輩が泣きそうな顔で言った。
「せ、先輩・・・」
「どうかしたのか?」
「柄の悪いお客様がこないだ買ったネックレスのことで文句があると・・・どうしたらいいですか?」
「わかった。俺が対応しよう」
そうしてヤクザみたいな強面のお客様に長々と文句を言われつつもなんとか穏便に事が運ぶようにする。まあ、そんな時間が俺の残業に繋がるが、俺しか対応できないのだから仕方ない。