2 彼女が家庭的で尽くされる
依存の余丁
「これは一体・・・」
朝目を覚ましたら、部屋がえらく片付いていた。寝ぼけている頭をなんとか働かせて音がする台所に向かうと、そこには制服でエプロンを来た彼女・・・紗耶の姿があった。妙に板についているその姿に見とれていると紗耶は俺に気づいたように笑って言った。
「おはようございます、つっくん!」
「おはよう紗耶。掃除してくれたんだ」
「はい。つっくんは意外と物が少ないのに片付け下手ですね」
意外と辛辣な言葉に少しだけへこむと紗耶は慌てたように言った。
「で、でもつっくんが隠してそうなエッチなものは見てないですから」
「それ、フォローになってないけど・・・もしかしてそれって朝ごはん?」
「はい。有り合わせになりますが」
そうは言うけど、冷蔵庫にはあんまり物はなかったはずだ。それなのに用意されている朝ごはんはきちんとご飯と味噌汁、それに焼き鮭に納豆、玉子焼きとえらく豪華だった。ひょっとして・・・
「自宅から持ってきたの?」
「はい。流石にお米もなかったので」
「そう、大丈夫だったの?色々と」
昨日の連中のことや、両親のことを気にすると彼女は微笑んで言った。
「大丈夫です。だって、私にはつっくんがいてくれますから」
「そう言ってくれると嬉しいけど・・・」
なんとなくこの子が無理をしているような気がしたので言葉に迷うが止めた。流石に今何を言っても無駄だろう。それならやりたいようにやらせて見て本当にまずいなら止めようと思った。
「わかった。とりあえず学校もだけど家のことも決めないとね。本当に我が家に引っ越すことでいいんだよね?」
「はい。おばさんにも許可を貰いました。学校にも一応届けを出しますが大丈夫だと思います」
「まあ、そうか。とりあえず家賃を払ってある今月中には引っ越し作業をしようか。とは言ってもかなり近所だし重いものは俺がなんとか運ぼう。これでもそこそこ体力には自信があるんだ」
「助かります。でもつっくんもお仕事大変じゃないですか?」
そう気遣う紗耶に俺は少しだけ迷ってから笑って言った。
「有給休暇が貯まりに貯まってるし、今月の休みも3日ほど足りてないから大丈夫だよ。いざとなれば労基に報告するって言えば休みはもぎ取れるし」
まあ、社内評価は下がるだろうけど仕方ない。大切なことだし。それにまだ高校生の子供が大変な時に何も出来ないのは嫌だ。
「でも、紗耶は大丈夫なの?今さらだけど男と同居とか。彼氏がいたら悪いし」
「あ、大丈夫です。彼氏はいないですから。それにつっくんなら私信じてますから」
まあ、何かする勇気はないから大丈夫と言うなら大丈夫だろう。そんなことを思いながら俺と紗耶は朝ごはんを食べる。自宅でこうして皿を使って食べるのはいつ以来だろうと思いながら食べていると不意に紗耶が何かに気づいたように俺に手を伸ばしてきた。さらりといい香りがしてからそれを唖然としていると微笑んで言った。
「おべんと。ついてますよ」
そう言いながら俺の口元から取った米粒をペロリと食べる紗耶。やけに色っぽいが気のせいということにして済ませる。そんな風にして朝から一波乱あるのだった。