8.ギャラクシア 3
「星子はこの姿じゃ嫌かい?」
星子は頷いた。ディーアは少し考え込んで、ベッドの下から降りると星子の前へと立った。流石に怒ったのだろうかと心配になったが、次の瞬間ディーアからもくもくと白い煙が発生した。その煙が目や鼻や口に入ると、苦しさにきつく瞼を閉じて咳き込んだ。
何が起きたのだろう。様子を見るためにそっと瞳を開くと、目の前には見知らぬ銀髪の少年が立っていた。それも全裸で。その少年は真っ白な肌をしており、その瞳の色はどこの国の人とも知れぬ、星のような輝きを持って、まるで銀河に浮かぶ湖かのように透き通っていた。星子はこんな美しい少年を今まで見たことがなかった。
「ディーア……?」
「そうだよ。この姿なら構わないだろう、星子」
「う、うん。男の子の姿にもなれるんだ。というか、貴方男の子だったのね」
「どうやらあの格好じゃ目立つらしいからね。僕は気に入っているけど」
口調や声はディーアのままだった。元はあの気持ち悪い星型の生物だったと思うと何だか複雑な気持ちになる。それよりも、目の前の裸体に星子は目のやり場に困ってつい視線を逸らした。
「どうしたの?星子」
「な、何でもない。服着た方がいいわよ」顔が真っ赤になっているのではないかと、気まずかった。
「そうか、人間は異性の体を見ると興奮するという本能があったんだっけ。けど星子にはちゃんと見て貰わないと。本物に近いかどうか確認して欲しいんだ」
ディーアの淡々とした口振りに対して、星子は声を荒らげた。
「馬鹿じゃないの。貴方が服着るまで見ないから!」
なるべく視線が裸体へ向かぬように、不自然にベッドの方へと行き、うつ伏せに体を放り投げてシーツに沈んだ。
異性の体を見るのは初めてではない。しかし、この奇妙な出来事の連続で混乱しているさなかで、こういう体験をすると頭は冷静に働いてくれないようだ。生物は危険な事を体験すると、本能的に子孫を残そうという欲が強くなるというのを、あの人から聞いた事がある。
ディーアは星子の態度を見て、首を傾げると部屋の窓の方へと歩いていった。
「ねぇ星子」
「――何?服は着た?」星子は顔を上げ、ディーアへと顔を向ける。相変わらずさらけ出ている白い背中がそこにはあった。質問には答えずに、大きな窓を開いて吸い込まれそうな夜空の星を見て言った。
「流星群だよ。あの星の粉塵達はどこへ向かっているか知ってるかい?」
「分からない。けれどあの星達は宇宙のゴミだって、前に先生が言ってた」
――先生。と口にし、星子は一体誰の事だっただろうと考えた。しかし直ぐに溢れんばかりの宇宙に興味が湧くと、ベッドが降りてディーアの隣へ立ち、一緒にその夜空を眺めた。
「宇宙のゴミ?ああ、なんて退屈な想像をするんだ」そう言って、流れる星を指さし、
「あの星一つ一つをご覧。どれも違う形で違う輝きをしている。星達は、自分が持つ運命の中で懸命に生きるんだ。あの星達は今を爛々と生きている。そして僕達に語りかける。君達も僕達のように生きてご覧!ってね」
ディーアの言葉通り、星子は一つ一つの星を集中して見るように意識した。すると星達の輝きがまるで違って見えた。星達の声が星子の胸に語りかける。
――生きて、生きて、生きて。
その声は星達の囁きであった。それはもう死にもの狂いで夜空を駆け巡り、命を懸命に燃やす星達の、小さく、燦燦と降り注ぐ言葉の雨に、胸の奥がざわめき、急に幼い子供のように涙が零れた。
「聞こえ……た」
星子の涙に気づいて、ディーアは不思議そうな表情を浮かべた。
「星子、どうして泣いているの?」
「何だか急に寂しくなって。ディーア」
「何だい?」
「キス……って知ってる?」




