7. ギャラクシア 2
「来たか……」
と、王は静かに呟いた。続けて、「待っていたぞ」
どうやら王は星子の事を知っているようだった。
「あの、私……」
星子が喋ろうとすると、王はそっと掌をかざして止めた。
「何が何だか分からぬといった表情だな。順を追って説明をしよう」
「ゼウス様、彼女が死に星の力を授かりし者、リンカーでございます」ディーアが言った。
「ほう、それでそなたが死に星の精霊か」
「はい、そうでございます」
「よいか、これから言うことをよく耳に入れて欲しい。この世界はギャラクシア。この世界の動力源は全て宇宙の星々から発せられるエネルギーとなっている。そしてワシはこの世界の王、ゼウス」
ゼウスという名は確か、放課後の授業で聞いたことがある。全能の神とうたわれているこのゼウスは、惑星のひとつの名前にもなっているとあの人から聞いた。ゼウスは触り心地の良さそうな剛毛な白い髭を掌で撫ぜながら、続ける。
「この世界の均衡は今や崩れている。突然この地に、異形のもの、ホッリビスが現れたのだ。ホッリビスと闘えるのは極小数の選ばれし者しかおらぬ。奴らの邪悪は強すぎる故、普通の者では餌にされかねぬ。しかし、見知らぬ土地から現れし者ならば別だ。その者こそ選ばれし者。強き心をもつ者。そして強き者は星の力を借り、リンクする事が出来る。我々はリンカーを探していた。そこに、そなたが現れた」
「私が、リンカー……だけど、私は強い人間なんかじゃ」
聞けば聞くほどゼウスの言葉は信じられなかった。自分が強い精神を持っていたなら、あの時自殺などしなかっただろう。恐ろしく自信がなく、苦しいことは全て人のせいにし、すぐに逃げ出す自分のどこが強いというのだろう。
「我々はリンカーであるそなたに頼みがある」
「頼み?」
王ゼウスは、星子の両眼をしっかりと捉えて言った。
「この世界を救って欲しい。ギャラクシアで起きている変動を止めて欲しいのだ」
「私が、この世界を救う……。む、無理です」
「ゼウス様に逆らうのか!」横に立っていた兵隊の鎧が唸りを上げた。王は再び掌をかざす仕草をして、兵隊の動きを止めさせた。
「もちろん、直ぐに返事をくれとは言わぬ。一晩じっくりと考えるが良い」
「私、そんな力……無いから。弱いし、さっき敵を倒せたのも、たまたまだと思うし」
「弱さを認めるのもまた強き心よ。そなたの死に星はとても強力な力を持っている。いずれ、とてつもなき力を発揮することだろう」
ゼウスはそう言ってから、「もしも引き受けてくれるならば、そなたの望みを一つだけ叶えよう」
星子は考えた。望みを何でも叶えてくれると言われても、直ぐには何も思い浮かばなかった。元の世界に帰る?いや、元の世界に帰ったところで、何も意味が無い。どうせまた元の星子に戻るだけで、鬱蒼とした、退屈な日々を淡々と過ごすのを繰り返す、そんな世界に戻るだけだ。
「今日は疲れただろう。部屋や着替えは用意してある。体をゆっくり休めてくれ。何か欲しいものがあれば何なりと言って欲しい。今夜は星夜祭だ。窓の外から流星群が見えるだろう。――ディーア」
「はい、何でしょう?」
「その格好では少々目立つな。死に星だと言って歩いているようなものだぞ。街へ出る時は目立たぬ姿に変化しておけ。それから、彼女にもこの地に似合う服を一着拵えてやってくれ」
「は、承知致しました」
「それでは色良い返事を期待しているぞ」
星子とディーアは、兵士に従って客室へと案内された。観音開きの扉を開けると、気品溢れる豪華な広い部屋がそこにはあった。生まれてこの方、こんな所に泊まった事もなければ、泊まれるとも思っていなかった。だが、一点文句を言うとすれば、この不気味な生物と同じ部屋だという事だ。これでは、いくら部屋が綺麗だろうが、安心して眠る事など出来るわけがない。
「ねぇ、ディーア。どうしても一緒の部屋じゃないとダメなのかしら」
「当たり前だろう?死に星とリンカーはいつも近くに居なくてはならない。ホッリビスはどこから現れるか分からないんだから」ディーアは布団の上に乗ってぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「でも、その……気味が悪いわ」




