3. リンカー
目の前が真っ暗になり、全ての情報は遮断され自分自身が無になった。
――星子、星子。
誰かが自分の名を呼ぶ。懐かしいような、知らないような声だった。幼い少年の声。
――星子、目を覚まして。
視界は相変わらず暗闇なのに、その声だけははっきりと、確実に大きくなっていく。
――星子!!
「え……?」
目が覚めた。最初に目に入ったのは、最期に見た青空と同じだった。何だ、自分は結局死ねなかったのか。というより、そもそも全てが夢だったのかもしれない。どうしようもない無気力感が襲い、これ以上視界を動かすのが面倒だった。あの生き物が来るまでは。
「ようやく起きたんだね、星子」
名を呼ばれ、星子はかっと瞼を開く。自殺をしようとした後ろめたさから、まずは言い訳だけが思い浮かんだ。声のする方に視線を逸らすと、唇は自分勝手に開き、驚きのあまり息を一気に吸い込んだ。
「あなた、誰!?」
「あー、良かった。死んでいるのかと思ったよ」
「ていうか、何なの、宇宙人!?」生物的な防衛本能から、その生き物から離れようと上体を起こし、後ずさった。
その異形のものはどうやら意識を持っているらしく、流暢に言語を放つ。
「宇宙人?君こそ宇宙人だろう?ここは僕が住んでいる街さ」
「街……?」
星子はそう言われてようやく、辺りを見渡した。街と言われても自分が想像するような景色は一切見当たらず、ただ野原が広がっているだけだった。やはりここは夢か。それとも死後の世界なのか。勇気を振り絞り、目を細めて異形のものを見つめてみた。形からしてヒトデにも見えなくもない。口のようなものと目のようなものがついている。それから心臓が脈打つようにどくどくと身体が動いているし。
「私を、食べる気なの?」
「食べないよ。人間は不味いからね。僕に名前なんていらないけど、君が呼びやすいのなら名前を付けてみようか?そうだな……こんなのはどうかな。ディーア」
「ディーア?」
「うん、今から僕の名前はディーアだ」